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「広島 呉 LINE殺人事件」愛着障害―幼少期受けた虐待や育児放棄により自他を思いやる想像力が育まれず

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広島・呉「遊び友だち集団暴行殺害」加害少女に愛着障害―自分の感情・行動をコントロールできない...
 J-CASTニュース 2015/2/12 11:29
  一昨年(2013年)、広島県呉市で10代、20代の少年少女7人が仲間の16歳の少女を暴行し、死亡させるという残虐な事件が起きた。少年少女たちを事件に向かわせた要因は何か。裁判で指摘されたのが「愛着障害」という精神疾患だった。「愛着」とは一般に物や他者への親しみという意味で使われるが、医学的には親と子の間で結ばれる深い信頼関係のことを言う。しかし、幼少期に虐待や育児放棄などで「愛着」を形成できないと、自分のことを大事に思うことができなかったり、ほかの人を思いやったりする想像力がはぐくまれなかったりすることで、自分の感情や行動をコントロールできなくなる「愛着障害」が起きるという。
   国谷裕子キャスター「昨年12月に出されたデータによると、少年院にいる男子の2割、少女の4割が虐待された経験があります。この虐待が幼少期の子供たちの脳の発達や心のブレーキにどのような影響を及ぼすのか。そうした子供たちをどうやったら救えるのか。脳科学の分野で研究が進められています」
■幼児期の虐待・育児放棄で信頼関係欠如「自分がこんなになったのは母親のせいだ」
   呉の事件事件で一人の加害少女を担当した中田憲悟弁護士はこう話す。「逮捕当初、本当に粗暴な感じでしたし、母親は真面目に毎日のように面会に行くんですけど、娘である少女は拒否していました。『自分がこんなになったのは母親のせいだ』という対応を繰り返していたました」
   長年、少年院で少年少女たちと向き合ってきた桝屋次郎医師もこう言う。「非行少年の中に虐待を受けている子が多いというのは、いろんな調査で出てきています。間違いなく、虐待が非行とか犯罪にかかわるというのを見ていく視点は主流になりつつあります」
   愛着障害については、更生の現場でも戸惑うばかりだという。愛着障害の疑いのある子は医療少年院に送られ更生プログラムを受けることになるが、彼らは基本的な人間関係ができていないため担当者も苦慮している。
「職員にベタベタと甘えたり、逆に些細なことで牙をむいてきます。すごいエネルギーで爆発してくる子がいます。予測ができない中で教育していかなければならないという難しさがあります」(関東医療少年院の斎藤幸彦法務教官)
 「原因が虐待なのか、発達障害なのか単純には割り切れないですね。いろんな要素が絡んで、本人が複雑な症状を作り出しているといえると思います」(関東医療少年院の遠藤季哉医師)
■反社会行動抑制する前頭皮質の体積減少
   愛着障害について、いま脳科学の方面から究明が進められている。福井大学教授で医師の友田明美さんは、6年前、激しい虐待によって前頭皮質という部位の体積が減少する傾向があることを突き止めた。前頭皮質は感情や理性を司り、反社会的な行動を抑制する信号を発する場所で、体積の減少はその機能を低下させることにつながる。
   さらに、2年前からは線条体という部分にも着目している。ここは前頭皮質からの信号を受け、行動を起こしたり、逆に抑止したりすることに直接かかわる部位だ。虐待を受けた子たちは線条皮質が正常な反応を示さないことがわかってきた。「これがうまく働かないと、たとえば、良い行いをしたときに褒めても響かないし、悪い行いをしたときにフリーズしてしまうことがあり得ます」(友田医師)
   国谷「愛着障害の少年たちの心模様はどういうものですか」
   少年事件で精神鑑定を手掛けた岐阜大学医学部の高岡健准教授はこう解説する。「愛着障害は船と港の関係にたとえられます。港、すなわち親が安心できる場所であると、船である子供は海に向かって悠然と出ていくことができる。ところが港がうまく機能していないと、子供は『自分をわかってくれる大人なんかいない』という気持ちに陥りがちです。また、危険な目に合うことが多いため、常に警戒信号をピリピリと発進させていますから、小さい刺激でも過剰に反応してしまうということが起こりがちと考えられています」
   国谷「愛着を形成するまでに時間はどのくらい必要でしょうか」
   高岡准教授「時間は関係ありません。短くても大丈夫です。むしろ、子供の気持ちに対して必ず応えてあげること、『応答性』と言いますが、これが非常に大事です」
   国谷「何歳ぐらいまで大丈夫でしょうか」
   高岡准教授「あくまで目安ですが、3歳を過ぎると港から離れていきます。それが実情だと思います」
■親と子へのサポートで「愛着」再生
   虐待や不適切な教育を受けて「愛着」を築けなかった子をどうやって救っていくのか。「愛着」の最先端を見てみよう。前出の友田教授は新たな治験薬の開発を模索している。その一つが「オキシトシン」というホルモン。スキンシップなどで安心感を得られたときに分泌されるホルモンで、「人との信頼関係を得たときに醸成される」として注目されている。友田さんは2年前から試験的に投与している。「試行錯誤しながら、どういうタイミングで使うべきかなどを見極めている段階です」
   呉の事件を主導したとされる少女も、広島拘置所で「愛着」の再生を目指している。母親は「本当にごめんなさい」「ママの考えがおかしかった」など70通を超える手紙を書き続け、少女の記す文面が少しづつ変わってきているという。「私は今までママを傷つけることばかりしてきた。裁判所で背中を撫でてくれてありがとう。17年間生きてきて初めて直に伝わったママからの愛情なんじゃないかと思った」
   国谷「薬の効果はどう位置付けたらいいんでしょうか」
   高岡准教授「オキシトシンはまだ試験段階です。将来、仮に多少の効果があると仮定しても、それだけに頼るのは間違っていると思います。親と子供へのサポート、両方を並行していくことが大事かと考えています。親を孤立させない。子供には自信を回復させながら人間的なつながりを深めていくことですね」
   国谷「大人はどういったところに気を付けたらいいのでしょうか」
   高岡准教授「これまでと違ったタイプの大人がいるんだと気づいてもらうことが大事です。そのために、一方的に支持するのではなく、『共同行動』、つまり一緒に行動していくことが大切です」
   国谷「多くの子に接した中で、『愛着が戻ってきた』と思うのはどんな瞬間ですか」
   高岡准教授「自分のことを語りだしたとき、それも恥ずかしそうに語りだすとき、私たちが一番ホッとする瞬間です」
   悪ガキで片付けてしまうと、さらに重大な犯罪を犯す恐れが強いということだろう。 赤坂和郎
 *NHKクローズアップ現代(2015年2月9日放送「少年犯罪・加害者の心に何が~「愛着障害」)
 
 ◎上記事の著作権は[J-CASTニュース]に帰属します
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クローズアップ現代 No.3613 2015年2月9日(月)放送
少年犯罪・加害者の心に何が ~「愛着障害」と子供たち~
16歳の少女が通信アプリ・ラインでつながった同世代の少年少女に殺害された「広島強盗殺人事件」。去年秋、主犯格の少女に1審判決が下された。残忍な犯行に酌量余地はないものの、幼少期の「愛着不形成」の影響が大きいことなどが加味され、求刑より減刑となり、注目された。いま、幼少期に周囲との信頼関係が育まれない「愛着不形成」に関する研究が進んでいる。脳の特定部位が萎縮を起こす、自己の行動抑制ができなくなるなど、「精神症状」や犯罪行動につながるメカニズムを解き明かそうというのだ。さらに愛着形成に失敗した少年たちの更正や回復をどうするかの研究も始まっている。福井大学病院では、愛着形成と関わりの深いホルモンを投与することで、脳へ働きかけ、治療につなげようという取り組みが行われている。一度生じた「愛着不形成」の克服には時間がかかる。広島の強盗殺人の主犯格の少女も、母親との手紙のやりとりなどを通じて、親子関係修復への第一歩を踏み出そうとしている。子どもたちの「愛着形成」を、社会全体で支えていく仕組みを考える。

 ◎上記事の著作権は[クローズアップ現代 No.3613 ]に帰属します
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