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[ 川崎 中1殺害事件 今、少年たちに何が ] LINE…欠かせないツール 少年事件の“温床”

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 産経ニュース 2015.2.28 13:38更新
【中1殺害 今、少年たちに何が(上)】悲痛「お願いだから、リーダーにやられたって言わないで」 暴力で18歳に支配され…
 川崎市川崎区の中学1年、上村(うえむら)遼太さん(13)殺害事件から1週間となる27日、捜査本部が置かれる同区の神奈川県警川崎署。午前8時45分ごろ、1台のタクシーが到着した。茶髪にピアス、マスク姿でうつむきながら、弁護士の男性とともにタクシーを降り、署に入っていったのが殺人容疑で逮捕された少年グループリーダー格の少年(18)だった。
 「何も言いたくありません」。少年は供述を拒み、ともに逮捕された17歳の2少年も「近くにいただけ」「殺した覚えもない」と容疑を否認しているという。
 リーダー格の少年は、不登校の生徒ら10人前後でグループを構成。「暴力で年下の少年を支配していた」(地元少年)という。
 地元では、中学時代から同級生らに度々暴力を振るうなど、素行の悪さで有名だった。知人らによると、酒を飲んでいる姿も目撃されており、「酔うと暴力がエスカレートし、何をするか分からないやつ」と知人らは口をそろえる。
 棒やエアガンを常に持ち歩いていたといい、「集団の中に入り込んで、突然振り回すこともあった」(知人)。地元では、関わりを避ける生徒らが多かった。
■「行くなと脅されている。学校に行きたい」
 上村さんもリーダー格の少年から度重なる暴力を受けていたとみられる。
 上村さんは1月ごろ、左目に殴られたようなあざをつけ、顔を腫らしていたことがあった。
 知人男性が上村さんに理由を聞くと「階段から転んだ」と説明。不審に思い、問い詰めると真相を打ち明け「本当にお願いだから、○○君(リーダー格の少年)にやられたって言わないでね」と話した。この話を聞いた知人女性(18)は「怖さとかばう気持ちがあったのだろう。最後まで人を信じる子だから」と振り返る。
 暴力は事件直前にエスカレートしたようだ。上村さんは無料通信アプリ「LINE(ライン)」で友人に「グループから万引するよう指示された。断ったら殴られた」。そして、こう続けた。「グループから抜けると言ったら暴力も激しくなった。もう限界だ。殺されるかもしれない」
 当初、上村さんは少年ら年上グループを遊び仲間と思っていたようだ。しかし、実態は違っていた。
 今年に入り、学校に行かなくなった。その理由について「(グループから)行くなと脅されている。学校に行きたい」と友人に話していた。グループからの不登校の「命令」。少年らは部活動や学校など社会との接点も断たせ、自分らに従うことだけを強要したとみられる。
 「上村さんはグループの中で弱い立場、いじめられている立場だった」。捜査幹部はグループ内のいじめとみている。しかし、上村さんの友人らはもっと深刻に受け止めている。「まるで奴隷のようだった」
■「イスラム国」真似た可能性、指摘も
 平成26年の刑法犯少年の摘発数は4万8361人で11年連続で減少した。しかし、26年7月の長崎・佐世保の同級生殺害や25年6月の広島・呉の高等専修学校生殺害など質の悪さが目立つ。それらと比較しても今回の事件は、年少者を対象にした上、殺害方法の残忍さや証拠隠滅を図った可能性の点で悪質さは際立つ。
 上村さんは首を複数カ所刺され、全裸で河川敷に放置されていた。結束バンドが付近から発見され、ひざにはあざがあった。上村さんに抵抗の痕はなかった。
 「イスラム国の人質殺害映像をまねてひざまずかせ首を切った可能性もある」と捜査関係者は指摘する。
 20日午前2時ごろの死亡推定時刻の1時間後には近くの公園トイレでぼやがあり、焼けた上村さんの靴底がみつかった。上村さんのスマートフォンを操作し、LINEで生存を装う偽装工作をした可能性もある。
 「もともと純粋な性格に悪い友人関係があたっちゃったんだろうね。早く気づいて抜けさせてあげられたらよかったのに…」。知人女性はため息を漏らした。
    *    *
 離島から転校してきた、あどけなさの残る13歳の少年はなぜ命を奪われなければならなかったのか。凄惨(せいさん)な事件の真相はどこにあるのか。そして、少年たちの間で今、何が起きているのか。緊急リポートする。
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2015.3.1 09:00更新
【中1殺害 今、少年たちに何が(中)】出会いはゲーセン、深夜に呼び出し「おもちゃにされていた」
 中学1年の上村(うえむら)遼太さん(13)が遺体で見つかった川崎市の多摩川河川敷には、寄せ書きをしたバスケットボールが何個も並ぶ。雨で文字が消えないように傘が差されたものもある。「もっと遊んでいたかったよ」。上村さんも同じ気持ちだったに違いない。
■ムードメーカー
 青く澄んだ海が取り囲む島根県・隠岐諸島の離島、西ノ島町で上村さんは短かった少年期の大半を、友人と自然の中で目いっぱい遊んで過ごした。
 「みんなに好かれるムードメーカーだった。今度はいつ帰ってくるかな、と楽しみだったのに」。町立西ノ島小学校の金築康治(かねつきやすはる)校長(54)は振り返る。
 上村さんは5歳の頃に西ノ島町に移住。家庭の事情で、小学6年の1学期を終えて川崎市に戻った。島の人気者が、川崎でも人気者になるのに時間はかからなかった。
 「ウエリョー」「カミソン」。いろんな愛称で親しまれた。「カミソンはテンションが高くて誰からも好かれていた」と同級生の男子生徒(13)。昨夏、夏祭りに行った折に上村さんにサングラスをかけて写真を撮ろうとすると、「恥ずかしいよ」と照れるうぶな一面もあった。
 中学に入ると大好きなバスケットボール部に入り、放課後も公園でバスケに興じた。身長の低さも生かした技術で、上級生もとりこにした。水飲み場にいるだけで、上村さんの周りには人だかりができた。
■無理難題を強要
 やがて、上村さんに変化が生じる。親しくなったバスケ部の中学3年の男子生徒(15)と昨秋ごろ、ゲームセンターに行くようになる。そして男子生徒の紹介で、バスケとは関係のない別の中学の上級生とも遊ぶようになっていく。
 そのゲームセンターに出入りしていたのがこの上級生の友人で、上村さんを殺害した容疑で逮捕されたリーダー格の少年(18)だった。
 冬ごろに知り合い、当初こそ仲良くゲームをしたりしていたが、間もなく「万引してこい」「けんかしろ」などと無理難題の命令が始まったという。断る上村さんを殴ったり蹴ったりする日々が続いたともいわれる。上村さんも同行するのを嫌がったのだろう。少年らが深夜、自宅前にまで押しかけて、上村さんを呼び出す姿が頻繁に目撃されるようになる。冬休み明けからは、不登校が始まった。
 同級生の男子生徒(13)は言う。「上村君は不良になる人じゃない。みんなの人気者だった。不良グループに入ったのでなく、グループのおもちゃにされていたんだ。俺たちの中では、最後まで明るく楽しいやつだった」
 1月には、上村さんが青く目をはらした姿が目撃される。上村さんはあざを隠すように白いマスクをしていたという。暴行がエスカレートしたのか。2月には、教諭や友人に「そろそろ学校に行こうかな」と漏らすようになった。
 だが、上村さんは20日、登校を果たす前に遺体で見つかった。捜査幹部は言う。「どうにかしてあげられなかったかな。かわいそうだよ」
■大人が気付くしか
 子供が発するSOSへの対処の遅れは、何度も悲劇を招いてきた。東京都江戸川区で平成22年1月、両親の虐待で男児(7)が死亡した事件でも、学校や家族が異変に気付きながら男児の死を防げなかった。
 そして今回。悲劇はなぜ繰り返されるのか。教育評論家の石井昌浩氏は「子供の世間は狭い。上村さんも、その友人らも、少年らの恐怖に支配されており、大人に訴えることはできなかっただろう。大人の側が気付いてなんとかするしかなかった」と分析する。
 市教委によると、上村さんは昨年の夏休み以降に部活を休むようになり、1月8日からは完全に不登校になった。担任は、5回にわたって家庭訪問し、電話を約30回かけた。母親はほとんど電話に出なかったという。
 石井氏は「親、学校、地元が3本柱。校内のことは校内で済ませるという考えは通用しない。児童相談所や警察の担当者と具体的な形で協議する仕組みが必要だ」と訴える。
 「悩みを抱えた子はまだいる。今後も気付けなければ、遼太の死は無駄になってしまう」。西ノ島小の金築校長の言葉は重い。
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2015.3.2 08:16更新
【中1殺害 今、少年たちに何が(下)】「LINE返事遅い」と殴り続け 大人に見えぬSNS交友、把握困難
 「生意気だ」。1月中旬の未明の住宅街。殺人容疑で逮捕されたリーダー格の少年(18)は、中学1年の上村遼太さんを正座させ、約10分間、殴り続けた。その場にいた10人近くのうち1人が止めて終わったが、上村さんの頬は腫れ上がり、顔立ちが変わるほどだった。目の周りには痛々しいあざが残った。
■欠かせないツール
 暴行の理由は、無料通信アプリ「LINE(ライン)」の返事が遅かったという些細(ささい)なことだった。上村さんはこのころから「グループを抜けたい」と思うようになる。
 事件に関係する少年たちの主な連絡手段は、LINEだった。一方で上村さんがSOSを発していたのもLINEだ。殺害される数日前、「殺されるかもしれない」と同級生の女子生徒にメッセージを送っていた。「無料通話もあり、LINEは少年、少女に欠かせないツールとなっている」と捜査幹部。3少年の逮捕の決め手の一つになったのもLINEの通信記録だった。
 今回の事件では、短文投稿サイト「ツイッター」の投稿も問題となった。事件発覚の数日後には、《見つけたらすぐ連絡ください》と記載された顔写真付きの投稿が出回った。投稿は根拠もなく「犯人」として複数の人物を名指し。さまざまなサイトに転載され、まるで既成事実であるかのように流れた。
■少年事件の“温床”
 最近の少年事件の多くに、ネットのツールが関わっている。
 平成25年6月に広島県呉市で高等専修学校の女子生徒=当時(16)=が殺害された事件では、LINE上での口論をきっかけに、無職少女ら7人が元同級生の女子生徒を乗用車に監禁し、現金を強奪して殺害した。20年10月には、約3カ月前に同級生から「プロフ」と呼ばれるサイトに悪口を書かれた、さいたま市立中学3年の女子生徒=同(14)=が自殺した。
 警視庁の26年の調査では、高校生の82・9%、中学生の約半数がスマートフォンを所有。ツイッターやLINEなどソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)は中高生にとって身近なものになっている。
 こうしたツールによる人間関係は、「友達の友達」や、設定によっては全く知らない人物にまで広がる。
 少年問題に詳しい立命館大大学院の野田正人教授は「昔は目の前の子供をしっかりと見ておけば行動範囲や人間関係が認識できたが、ネットの普及で交友関係の把握が難しくなったのは事実」と指摘する。
 大人の知らないところで、子供たちはいつの間にか、ネット上で交友関係を広げているのだ。
■心の本質理解重要
 いじめや過度の依存など、少年のネット利用についてはさまざまな切り口で分析され、その都度、情報モラル教育の必要性が指摘されてきた。
 文部科学省は30年度以降に教科化される小中学校の道徳の学習指導要領について、「情報モラル」の指導を「留意する」から「充実する」とした改定案を2月4日に公表。教師や保護者自身がネットの知識を学ぶことや、「学校裏サイト」などネット情報を定期的に収集すること、子供と携帯利用のルール作りをすることなども呼びかけている。
 少年犯罪で問題となるネットの利用。ネット社会にどう向き合うべきなのか。
 野田教授は「ネット世界の方法論を追求するだけではいたちごっこで、対策として不十分」と注文を付けた上で、指摘した。
 「一番大切なのはトラブルに遭っている子供たちの心をつかめているかどうかだ。心の本質を理解できていないのに行動を監視するのは無理がある。様子がおかしいと周りの大人が気付くこと、子供の方から打ち明けてくれるだけの信頼関係を持つことの重要性は、結局昔から変わらない」

 ◎上記事の著作権は[産経新聞]に帰属します
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