Quantcast
Channel: 午後のアダージォ
Viewing all articles
Browse latest Browse all 10100

財務官僚の意向はよく聞くが、民意を聞かない野田首相/G20で増税を公約/借金は国民に、資産は天下り先に

$
0
0

独仏首相のメンツと金融機関の思惑でギリシャ国民投票をつぶしたG20で国民に信も問わずに「増税」を公約した野田首相の「財務省べったり」  
現代ビジネス ニュースの深層 2011年11月07日(月)高橋洋一
■先週は20カ国・地域(G20)首脳会議で世界は揺れた。
 まずはギリシャ問題だ。ギリシャのパパンドレウ首相から、支援策の受け入れを国民投票で決めるという話がでてきたからだ。ギリシャのユーロ離脱にもつながるので、仏独指導者が必死に回避に動き、結局、国民投票の話は消えたようだ。
 仏独指導者は、せっかく決めた支援策を反故にされるのは、政治家のメンツとして譲れなかったのだろう。また、他にユーロ圏でギリシャの国民投票を批判したのは、主に金融機関だ。それは、もし国民投票の結果、ギリシャのユーロ離脱(ギリシャ通貨ドラクマの復活=独自の金融政策)になると、保有するギリシャ国債の値下がりはとても債務カット50%では済まないので、ギリシャがユーロにとどまったまま支援するほうが、金融機関として自らの利益になるからだ。
 ちなみに、金融機関以外のユーロ圏の人の本音を言えば、ギリシャがユーロ圏から出ていって財政支援をしないほうがいいだろう。
■国民投票は経済的にも理にかなっていた
 一方ギリシャにとっては、財政支援を受けつつ厳しい条件を飲むか、ユーロ離脱して厳しい経済環境を受け入れるかの選択になる。実は、ギリシャはこれまで200年間で100年以上のデフォルト(国家破綻)の経験がある。仮に後者のユーロ離脱となっても、これまでの為替の調整(=金融政策)で何とかいけるだろう。
 9月19日の本コラム(アジア金融危機と同じ過ちを繰り返すな。ギリシャ危機と増税の二重苦が直撃すれば、日本は先進国から脱落する http://gendai.ismedia.jp/articles/-/20045 )で明らかにしたように、経済理論的にいえば、ギリシャはユーロ圏にとどまってもうまく経済運営できないことがわかっている。これはマンデル教授の最適通貨圏の理論から、ギリシャ経済はユーロ経済と異質だからだ。
 であれば、今回ギリシャが無理にユーロ圏にとどまっても、再び問題になるのは確実だ。そうであれば、ユーロを離脱しドラクマを復活させ、独自の金融政策を活用し為替調整力を使うほうが、よりよい経済運営ができる。これは、英国、デンマーク、スウェーデンがEUにいながら、ユーロには加盟せずに、自前の金融政策によって、いい経済パフォーマンスを上げている大きな理由だ。
 この点で、国民投票は民主主義の観点からも経済の観点からも理にかなった方法だった。
 ギリシャの国民投票を押さえ込もうとしたのは、政治家のメンツとデフォルト確率5割以上のギリシャに対しユーロ圏にいるからという理由で安易に貸し込んだ金融機関が短期的な損得から政治的に圧力をかけていたからだ。そして、今回はその圧力が勝った。
 ギリシャ問題の長期的な抜本策となるユーロ離脱について、想定していないとか手続き規約がないとかいって否定しつつ、政治家が政治的思惑で、国民投票すら許さないのは、ちょっと怖い。
 ギリシャの将来はどうだろうか。ギリシャがユーロ各国の財政支援を得て今回の危機を乗り切ると、その一方で厳しい緊縮条件を受け入れなければいけない。ギリシャは、自分たちを「欧州人」とは思っていない。しかし、「欧州人」や国際機関から監視の名目で乗り込んでくる。そうしたストレスにどこまで耐えられるか。おおらかな「南欧人」の体質改善がはたしてどこまでできるだろうか。将来再びギリシャ問題は起こると思う。
■自民党への国有地無償貸与がなぜいま問題なったのか
 一方、日本の野田佳彦総理も唖然とさせてくれた。まさかギリシャの国民投票を消しにかかる民主主義無視ともいえる欧州政治家パワーに触発されたのか、G20で「2010年代半ばまでに消費税の税率を段階的に引き上げる」との方針を表明した。
 G20の「成長と雇用のためにアクションプラン」での文章を見ると、「法案を来年度末(2012年3月末までに提出」とあり、あくまで「提出」という今の政府の既定路線を言っただけという「逃げ道」が一応残っている。
 いくら海外で叫び、提灯持ちのマスコミが国内向けに書いたとしても、なんの拘束力もない。普通の国際会議では、大きな争点がある国内問題については話をせず、方向性も示さない。ちなみに、G20の「成長と雇用のためにアクションプラン」では、米国、英国、フランス、イタリアなども個別の政策を述べているが、ほとんどはそれまでに各国で決まっていた話ばかりだ。
 しかも、野田総理は、自民、公明両党が消費税増税法案提出前の衆院解散を求めていることに対し、「法案が通った後、実施の前に信を問うやり方にしていきたい」と法案成立前の解散を否定した。
 なにげない同行記者とのやりとりだが、実は裏ではかなり激しいバトルが本丸財務省から仕掛けられている。消費税増税法案提出前の衆院解散を求めている自民党は、一部で増税の前に公務員宿舎などの売却を行えとも主張するだろう。
 公務員宿舎は売りたくないのが財務省の本音だ(10月3日と17日の本コラム参照)が、これまでは公務員宿舎に話が及ぶと、財務省は国会議員宿舎批判をマスコミにリークして対抗してきた。ところが、今回は、自民党への土地の無償貸与を持ち出してきたのだ。こうした情報は財務省しかわからず、なぜ今の時期に出てきたのか、それがポイントだ。
 国有地の売却などでお世話になってきたマスコミは、あらためて財務省に頭が上がらないばかりか、ここまでやるのかと財務省の本気度を再確認したと思う。案の定、自民党への土地の無償貸与の報道の後、民主党の消費税増税法案に対して、茂木敏充政調会長は「協力する」というなどの意見が自民党内からではじめた。
 民主主義からいえば、「法案が通った後、実施の前に信を問う」といっても、経済活動ではすでに消費税増税を織り込んでいるはずなので、実施直前に国民の信を問うても増税はやめられない。かといって、増税について何も準備しないで待てというのも酷い話だ。
■増税一直線なら日本が沈没する
 しかも、6月20日付け本コラム(「復興」「社会保障」「財政再建」の三段階増税を許すな 新聞が報じない増税反対に集まった 超党派議員211人 http://gendai.ismedia.jp/articles/-/9228 )で指摘したように、消費税増税法案を来年3月までの提出を急ぐのは、麻生政権下で財務省が仕掛けた平成21年度所得税等を改正する法律附則104条があるからだという。
 それには、「政府は、・・・平成二十年度を含む三年以内の景気回復に向けた集中的な取組により経済状況を好転させることを前提として、遅滞なく、かつ、段階的に消費税を含む税制の抜本的な改革を行うため、平成二十三年度までに必要な法制上の措置を講ずるものとする」と書かれている。「講ずるものとする」という表現は「・・・しなければならない」という義務でなく裁量の余地がある書き方だ。
 リーマンショック後に「蚊が刺した程度」といった与謝野馨氏が担当の財務相だった。その後、東日本大震災も起こった。とても「平成二十年度を含む三年以内の・・・経済状況の好転」とはいえない。法律附則104条にも反する話だ。そうした愚行を強行すれば、6月20日付け本コラムのように、増税一直線になって、日本経済が沈んでしまう。
 さらに、民主党は、マニフェストで「公約」した歳入庁についてはほとんど前進していない。旧社保庁の日本年金機構は法人の把握が国税庁より著しく低く、10兆円程度の社会保険料の徴収漏れがあるとの試算もある。また国税庁では国民総背番号を持っておらず税務調査が不徹底で、5兆円程度の税の徴収漏れともいわれている。これから、歳入庁を作ると、15兆円程度の税・保険料の増収になる。
 これらの点を考えると、消費税増税法案提出前の衆院解散は民主主義の観点からも経済の観点からも理にかなった方法だ。
 理屈のない話を、官僚主導の下で民主党が強行しようとしている。官僚主導の下で民主党が強行しようとしているについて、財務官僚の意向はよく聞くが、民意を聞かないというのは、誰がみてもおかしい。
============================
借金は税金で国民に負担させ、資産は天下り先に温存ーー朝霞宿舎だけでない国有地売却を拒む「霞ヶ関の論理」ギリシャは500億ユーロの資産を売却  
現代ビジネス ニュースの深層 2011年10月10日(月)高橋洋一
 先週10月3日付けの本コラムで朝霞公務員宿舎問題をとりあげた。ほかの先進国は公務員宿舎などまず持っていない。それでも必要なら民間に売却して、それを借り上げるのが基本だろう。
 朝霞についていえば、埼玉県にある他の公務員宿舎を売却し、民間が建て直し、それを借りればいい。わざわざ朝霞の森を切ってまで新設することはない。しかも、事業仕分けの凍結という結果を曲げてまで行う必要はまったくない。
 野田政権の選択は、再凍結か被災者受入という条件で建設と書いたが、結局、3日の野田首相の判断は再凍結だった。再凍結より被災者受入で建設のほうがよかったと思うが、新設公務員宿舎に民間人が入るのを好まなかったのかもしれない。
■まったく進んでいない公務員宿舎の売却
 また、凍結とともに「都心3区の公務員宿舎は危機管理用を除いてすべて廃止。16カ所で売却」という方針も表明された。
 しかし、5年前の小泉政権下では、私が作成に深くかかわった「骨太2006」で、「今後10年間で国有資産の売却約12兆円」との方針を示し、公務員宿舎の売却収入は1兆円が見込まれていた。その時に公表された宿舎の「移転・再配置計画」では、都心3区の宿舎について、今回の野田政権の方向とほぼ同じものが出ていた。
 同計画では、2006年1月現在、都心3区(千代田、中央、港)には33宿舎(1782戸)あった。これを2010年3月には16ヵ所を売却し、17宿舎(1531戸)へ、2017年3月には12宿舎(1215戸)へ減らすとしていた。また、この12宿舎は危機管理用など移転困難なもととしている。
 5日の国会閉会中審査で、浅尾慶一郎議員(みんなの党)が、都心の公務員宿舎の廃止は骨太の方針2006と同じではないか、と質問したのに対して、安住財務相は、それは実現されなかった、だから私たちがやる、と強弁した。
 しかし16ヵ所を売却する達成期限は昨年3月末であり、民主党政権になってからの話である。政権にいるのだから、売却が未達成の理由を明らかにして、再度計画を作っていなければいけない。
  財務省が宿舎を売却しないのは、宿舎管理のための公務員がいるからだが、公務員宿舎は一般の民間に比べて安いので、その差額がヤミ手当になっていてやめられないという指摘もある。
■国有資産を売却し国債償還にあてればいい
 この公務員宿舎に限らず、国有財産など国の資産の売却はほとんど進んでいない。
 2006年7月に閣議決定された「基本方針2006」では、国有財産については10年間の売却収入の目安として12兆円を見込むとともに、2015年度末に国の資産規模対GDP比の半減を目指し、国の資産を140兆円規模で圧縮することとしていた。
 一定の政策目的のために保有している外為資金・年金寄託金等及び売却困難な道路・河川等の公共用財産はスリム化の対象としないが、政府資産については、真に必要な部分のみを厳選して保有するとされていた。
 国のバランスシートを見ると、資産647兆円、負債1019兆円(2010年3月末)。資産がたっぷりある。資産の中には、国有財産37兆円、公共用財産145兆円などの他、現金・有価証券111兆円、貸付金155兆円、年金寄託金121兆円、出資金58兆円と流動性の高い金融資産が多い。このうち年金寄託金は将来の年金のためにとっておくとしても、貸付金や出資金などは天下り先の特殊法人に流れているのだから、それを民営化すればいい。そうすれば、天下り法人の廃止と国の資産のスリム化が一気にできる。
 ところが、国の資産の売却はいっこうに進んでいない。下図(略 来栖)は、国の資産のうち金融資産の対GDP比をOECD統計でみたものだ。ほとんど金融資産残高対GDP比は減っていない。
公務員宿舎に限らず国の資産は民間に売却して有効活用することは、民間経済の活性化になるばかりではなく財政再建にもなる。
 国の資産の売却は資産サイドのスリム化になるが、国債償還に回せば負債サイドのスリム化にもなる。一般の企業がリストラの過程で資産と負債の両建てのスリム化が好ましいのと同様、政府でも好ましい。
■500億ユーロの資産を売却するギリシャ
 しかし、日本の資産対GDP比は世界の中でも高いほうだ。しばしば、財務省は、バランスシートの負債サイドの債務残高対GDP比が世界一になっているというが、資産サイドの対GDP比も世界有数の大きさだ。負債サイドだけを強調して、増税による財政再建の主張するのは、資産サイドの天下り先を温存して役人が美味しい思いをして、借金だけを国民の負担で返せといっているのだ。あまりに虫のいい話ではないか。
増税の前にやるべきことといえば、世界で定番メニューは、国有財産などの国の資産の売却だ。
 ギリシャの財政再建計画では国有資産売却(含む民営化)が盛り込まれている。2015年までに債務残高の15%になる500億ユーロの売却だ。その中には、国営郵便局、水道会社、電力とガスの民営化・株式売却もあり、使われていない空港、古いオリンピック会場、ギリシャが誇る美しい海沿いの土地など国有資産の売却もある。ギリシャでの国有資産の売却規模は、日本で考えると150兆円の売却に相当する。
 イタリアも同様に、債務残高の2.6%に相当する500億ユーロの国有財産売却がある。日本で考えると25兆円規模の売却だ。
 日本でも、財政再建というのであれば、なぜ国の資産の売却の話が出てこないのか。役人の天下り先の温存といわれても仕方ないだろう。
 国の資産の売却がこれまで進んでこなかったのは、民主党政権になって経済財政諮問会議が事実上休止したことも影響している。民主党は、国家戦略会議をスタートさせるようであるが、その際、経済財政諮問会議がこれまでやってきたことをレビューすべきだ。
 そうでないと、公務員宿舎問題のように、野田政権は財務省がかつて約束した二番煎じに満足してしまうことになる。特に、国の資産の売却は、増税の前に行うべきだ。
===========================
「霞が関の大魔王」勝栄二郎危険極まりなし/内閣に「大増税」へと舵を切らせている 2011-10-05 | 政治
 あっという間に、どじょう鍋にされたノダ 「霞が関の大魔王」勝栄二郎危険極まりなし 高橋洋一×長谷川幸洋
 現代ビジネス2011年10月05日(水)週刊現代  
■しっかり増税、とにかく増税
長谷川 野田佳彦政権の布陣を見ると、見事な増税シフトですね。そして、この増税一直線政権のプロデューサー兼シナリオライターが財務省の勝栄二郎事務次官であることは、衆目の一致するところです。
高橋 要するに「陰の総理大臣」ということね(笑)。
長谷川 そこで今日は「勝栄二郎」を徹底的に解剖していこうと思うんですが、その前提として、野田政権の人事について触れておきたい。これはもう明らかな党重視ですね。政策決定の鍵を握る政調会長に前原誠司前外相を起用し、仙谷由人元官房長官を政調会長代行に据えた。さらに財務省OBの藤井裕久元財務相を党税調会長にした。
 野田政権は政策決定の前さばき段階で党がかなり重要な役割を果たすようにしたわけですが、これは民主党の中に反増税派ないし増税慎重派がいるから。それを押さえ込んで増税を実現するために、こんな重厚な布陣になったわけですね。
高橋 通常の政策決定プロセスは、まず政府で案を作り、それを党で揉んで、それから国会へ提出する。どこにいちばん力点を置くかというと、国会のねじれがなければ、政府か党のどちらかです。
 では今回はどうかというと、国会はねじれているけど、自民党はもともと増税賛成。だから、政府段階では財務省にとっての理想的な増税メニューを打ち上げておいて、党である程度レベルダウンするけれども、国会では自民党を巻き込んで、しっかり増税。こういう筋書きがもう決まっている。つまり、党レベルでの反増税圧力をどれだけ弱められるかがポイントなんです。だから布陣は党高政低。政府としては、目いっぱい高い球を投げるだけだから、財務官僚がやればすむことなんですよ。
長谷川 党重視にした分、閣僚人事は軽くなった。その代表が、財政のことをよく知らない安住淳財務相と、旧大蔵省OBの「過去官僚」古川元久国家戦略相。この2人は財務省が完璧にコントロールできる。そこで、もうひとつのポイントが勝次官による財務省人事になるわけです。
高橋 そう。内閣は軽量だけど、そこに送り込んだ財務官僚は重量級なんです。なにしろ勝さんは、官房副長官(事務)を取ろうとした。結果的に国交省の竹歳誠事務次官に落ち着きましたが、当初は前財務次官の丹呉泰健さん(読売新聞グループ本社監査役)の起用を本気で考えていた。
長谷川 丹呉副長官だと、あまりに財務省支配がミエミエだからねえ。でも、旧建設省出身の竹歳氏は、建設公共担当の主計官も経験した勝次官とはツーカーの仲で、一心同体みたいなものでしょう。
高橋 というより頭が上がらない。予算でお世話になった勝さんの意向通りに動くと思います。それから、主計局総務課長から局次長になったばかりの太田充氏を総理秘書官として官邸に送り込んだ。彼は保守本流である主計のトップランナー。正真正銘の重量級です。
 もう一つ驚くのは、蓮舫行政刷新担当相の秘書官に財務省課長の中堅クラスが行っていること。本来なら課長補佐の最終段階くらいの年次が就くポストですけど、そこに'88年入省組の吉井浩氏を送り込んでいる。
長谷川 蓮舫大臣の担当する行革とか公務員制度改革は官僚にとって重要なポイントだから、しっかり押さえておきたいという狙いですね。それに彼女は民主党のスター的存在で発信力もあるし、注目度も高い。
高橋 実は勝さんが彼女の秘書官に吉井氏を送り出したのは前回の大臣時代。その後、首相補佐官に格下げされても「補佐官補」という肩書でずっと密着させてきた。勝さんは蓮舫さんの利用価値を読んで、きっちりマークしてたわけ。
長谷川 '88年組と言えば、古川国家戦略相の同期。しかも、この期には自見庄三郎金融担当相秘書官の井藤英樹氏もいる。
高橋 古川国家戦略相は閣僚兼秘書官みたいなものだから(笑)、この「同期秘書官トリオ」は強力ですよ。財務省に入省すると一般的な省庁研修のほかに、3週間ぐらい寝食を共にする省独自の長期合宿を行う。ここで同期の結束が非常に深まり、よその役所とまったく異なる人的ネットワークになるんですね。
長谷川 なかなか見事だねえ、このあたりの勝次官の人事は。
■人呼んで「パー・ペット内閣」
高橋 さらに言えば、藤村修官房長官秘書官には'89年組で主計畑のエース候補・宇波弘貴氏をつけた。初入閣で官邸のことなど右も左もわからない官房長官は、秘書官の言いなりになるしかないでしょう。それに宇波氏は、安住財務相の秘書官になった小宮義之氏の同期。ここの連携も完璧です。
長谷川 加えて、内閣府政務官に就任した民主党の大串博志代議士も入省同期の財務省OBだ。
高橋 '83年組の太田首相秘書官を筆頭に、閣僚にこれだけの数の秘書官をはり付けておけば、財務省で内閣を切り盛りできますよ。はっきり言って、大臣なんか誰でもいい。口の悪い永田町の住人が言っていましたが、「野田パペット(操り人形)内閣」ならぬ「パー・ペット内閣」と呼ばれているそうです。
長谷川 財務省に飼われる愚かな閣僚たちか(笑)。
高橋 財務省風味のどじょう鍋と言う人もいる(笑)。
長谷川 財務省の本省人事も見ておきたい。意外だったのは、「10年に一人の大物」と呼ばれた斎藤次郎元大蔵次官の娘婿である稲垣光隆氏が主計局筆頭局次長から財務総合政策研究所長へ外されたこと。ここは、局長になれなかった人の上がりポスト。彼は'80年組のエースだったのに・・・・・・。
高橋 これも勝さんの深謀遠慮だと思います。斎藤さんは現在、日本郵政社長。今後、郵政株売却が増税額圧縮の材料として浮上する可能性がある。その際に、斎藤大先輩に遠慮なく増税路線を貫くには、娘婿が邪魔になるという計算でしょう。つまり、いくら優秀でも省益にそぐわなければ斬り捨てるという冷徹な判断をした。
長谷川 なるほど。その一方で、同期の佐藤慎一氏を官邸の内閣審議官から呼び戻して省内司令塔の総括審議官に据えた。主税局の主要課長を歴任した税制のトップランナーをこのポジションに起用した意図は明白ですね。
高橋 それに、省内トップエリートの登竜門である文書課長だった星野次彦氏を主税局審議官にしたし、主計の花形である公共担当主計官をしていた井上裕之氏を主税局税制一課長に起用した。これらの人事は完璧な増税シフトですよ。もうまるで、増税大魔王(笑)。
■マスコミの懐柔も得意です
長谷川 さて、その大魔王の経歴を見ると、'95年から'96年にかけて為替資金課長を務めていますね。ところが、実際は為替資金とは無関係の仕事をしていた。当時、橋本龍太郎政権の行政改革で大蔵省については財政と金融の分離が叫ばれていて、実は大蔵省抵抗部隊の裏司令塔が勝課長だった。「あの人は手ごわかった」と当時、官邸で行革を担当していた人物から聞いています。
 ちなみに為替資金課長になる前に内閣官房長官秘書官をやり、為替資金課長のあと主計局の企画担当主計官や文書課長といった、ど真ん中のエリート街道を歩んでいる。財務省の文書課長というのは、書類を扱うわけじゃなくて、要するに国会担当。予算委員会では必ず部屋の隅にいて、大臣にこういうメモを入れろとか、こう答弁させろとか、そういう指示を出す司令官ですね。
高橋 勝栄二郎という人は人心掌握がうまいんです。私の役人時代のことですが、5年も後輩で直接の部下でもない私のところに突然電話をかけてくる。ボソボソした声で「すまないけど、今度の日曜日に会えないかな」とか「ちょっと君の力を借りたくてね」とか言うわけですよ。で、指定された都内のホテルへ出向いていくと、省内の若手が何人か集まって自由闊達に議論していて、勝さんがじっと聞いている。そしてしばらくすると、その時の議論が省の政策として打ち出されたりする。若手にとっては、これが嬉しい。
長谷川 腰が低くて、他人に対して居丈高な姿勢をまったく見せないでしょう。私も安倍晋三政権時代に政府税制調査会の委員をしていて、舞台裏の会合で何度も勝さんに会いましたが、彼は総括審議官で超多忙な頃だったのに、絶対に遅刻しなかった。そして末席に座って、誰に対しても丁重に接する。
高橋 彼はしゃべり言葉が丁寧で、ゆっくりしているんですね。それで政治家やマスコミの記者にウケがいい。それと、こう言ってはアレですが、頭がキレすぎない(笑)。
長谷川 なかにはマスコミに居丈高になる官僚もいるけど、勝さんはまったく正反対。女性記者との会合も積極的にセットしていたみたいですよ。
高橋 ただね、言葉遣いが丁寧なのは、彼がドイツ育ちの帰国子女で、日本語が少し不自由だからなんです。発音も少しヘンで、電話でボソボソと「勝です」と言われると、「カツドン」に聞こえる(笑)。逆に書き言葉は、勉強して覚えたおかげか、妙に格調高い。
 結局、日本語が得意じゃないから、あまりしゃべらない。ときどきしか話さないから、自然と言葉に重みが出る。そういうタイプですね。
長谷川 先ほどから見てきたように、人事もうまい。
高橋 そう。論功行賞も考えていて、日曜日の会合などに出たら、ご褒美があるんですよ。上の人のお供で海外に同行することなんです。次官OBや天下ったエライ人はヒマでよく海外に行く。その際に必ずお付きの者をつけるんですが、勝さんは日曜日に呼び出した若手をうまくセットするんです。海外出張のお供で2週間も一緒にいれば、そのOBの覚えがめでたくなる。それは出世にも少なからず影響するから、結構なご褒美なんですね。出張同行の指名を受けた側も、ああ、これは勝さんのご褒美だなと分かります。こういうやり方が非常に心憎い。
長谷川 それで省内に勝ファンが増えていくわけか。
 ところで、内閣も省内も完璧なまでの増税シフトを構築した勝さんには、「剛腕・斎藤次郎の再来」という評価もある。剛腕・勝栄二郎は果たして、このまま増税路線を突っ走るのかどうか。
高橋 野田総理の代表質問への答弁に、その答えがありますよ。野党から「消費税増税の前に国民の信を問うべし」と問われ、総理は「実施の前に信を問います」と答えている。国民もマスコミも、納得しているようですけど、これは間違いなく財務省が仕掛けた罠です。
「増税前に信を問う」というのは、普通は増税の是非を総選挙で問うという意味ですよね。ところが「実施の前」だと、増税法案が成立して増税を行う前に選挙をするという意味になる。つまり、いま予定されている通りに来年の通常国会には消費税増税法案を出して可決成立させる。その後のしかるべき時期に信を問うことになるけど、そこで与党が勝とうが負けようが、法案が通っている以上、消費税は粛々と引き上げることになる。これが勝財務省のシナリオです。
■今度のジローはしたたかすぎ
長谷川 実施前に凍結法案を出して、増税を止める手もあるけど。
高橋 無理、無理。実施直前に総選挙を設定すれば、凍結法案を出す余裕はない。そういうスケジュール管理は、財務省のお手のものです。そのために優秀な人材を秘書官に送り出しているわけだし。それに、「ここで凍結すれば、経済が大混乱します」と政治家を脅すことだって平気でやる。
長谷川 確かに、橋本政権で消費税率を3%から5%に上げたときも、景気悪化が懸念されたのに、スケジュール通りに実施された。
高橋 そう、その挙げ句にデフレが深刻化して、税収まで減っていった。バカじゃないのって話。
長谷川 ただ、剛腕・斎藤次郎は細川護熙政権のときに、与党最大の実力者だった小沢一郎氏(当時・新進党幹事長)と組んで国民福祉税構想を打ち出して、頓挫した。しかも、その後の政権交代で与党に復帰した自民党に睨まれ、長く天下り先にも恵まれなかった。「二匹目のジロウ」も、やりすぎると同じ轍を踏む危険があるんじゃないの?
高橋 斎藤さんの場合は剛腕ゆえに根回しをあまりしなかった。そのため、ときの官房長官(武村正義氏)から「待った」をかけられたんです。つまり、総理の女房役である官房長官にすら声をかけていなかった。そして、その官房長官秘書官だったのが、若き日の勝栄二郎ですよ。
長谷川 なるほど。斎藤大先輩の失敗を間近で見ていたからこそ、官邸にも省内にも人材を張り巡らせ、用意周到に増税への布石を打っている。勝栄二郎は、「配慮の行き届いた斎藤次郎」ということか。
高橋 もう一つ忘れてはならないのが、メディアを使った国民の洗脳です。
長谷川 財務官僚にすり寄る「ポチ記者」問題ね。財務省が政府を実質的に動かしていることは、ちょっと深く取材をすればわかる。財務官僚を敵に回せばネタが取れなくなるから、記者たちは自ら官僚にすり寄っていくんです。その結果、新聞紙面には連日のように、所得税、法人税、相続税に環境税とあらゆる増税ネタが報じられることになる。財務省は「高めのつりダマ」を投げて、新聞記事になれば御の字。そのうちに国民はだんだんマヒしてきて、増税やむなしの空気ができあがる。これがいま起こっている現実ですよ。
高橋 人間って、与えられた情報でしかモノを考えられませんからね。本当は増税だけじゃなく、税外収入の道もあるのに、そっちには目がいかなくなる。まさに洗脳です。
長谷川 それがメディアを使った財務省の大衆戦略ですよ。そして、そんな財務省を動かしているのが、勝栄二郎である、と。
高橋 やっぱり霞が関の大魔王だ。
「週刊現代」2011年10月7日号より
<プロフィール>
 たかはし・よういち/1955年生まれ。'80年旧大蔵省入省。内閣参事官時代に「霞が関埋蔵金」を暴露し、脚光を浴びる。'10年より嘉悦大学教授。『この経済政策が日本を殺す』『官愚の国』など著書多数
 はせがわ・ゆきひろ/1953年生まれ。東京新聞論説副主幹。財政制度等審議会臨時委員、政府税制調査会委員などを歴任。官僚が政治を操る実態を描いた『日本国の正体』で'09年度山本七平賞を受賞
===================================
事業仕分けで凍結が決まった公務員宿舎建設 野田首相「現地視察し、私が判断したい」2011-09-30 | 政治
財務省の天皇 勝栄二郎事務次官と香川俊介官房長には逆らえない/野田政権は直勝内閣/メディア工作部隊2011-10-02 | 政治
  財務官僚たちの影響下にあるのは民主党政権だけではない。彼らは政・官・司・財・報に幅広く支配の手を伸ばしている
「増税」「宿舎建設」官僚のやりたい放題を許していいのか/勝栄二郎は小沢一郎を抑えつけ、好き放題やった2011-09-29 | 政治 
小沢一郎を落ち目と見切った登石裁判長/財務省首領 勝栄二郎が、内閣に「大増税」へと舵を切らせている2011-09-30 | 政治/検察/メディア/小沢一郎 
===========================
演者(首相)の後ろに財務官僚/勝栄二郎が、内閣に「大増税」へと舵を切らせている/国家戦略会議2011-11-06 | 政治
◆前篇[公務員制度改革はかくて骨抜きにされた われらは敵だらけの中でいかに戦ったか/古賀茂明vs高橋洋一2011-07-22 | 政治]
かくて民主党政権は官僚の手に落ちた このままでは安易な増税路線に突き進む/古賀茂明vs高橋洋一(後篇)2011-07-29 | 政治


Viewing all articles
Browse latest Browse all 10100

Trending Articles