TPP反対派の急先鋒・中野剛志「メディアが報じないアメリカの本音。やはり日本は狙われている」
週プレニュース[2011年11月10日]
ついにTPPに参加することがほぼ決定的となった日本。報道の裏側、アメリカの真意などを反対派の中野氏が明かす
TPPについては、むちゃくちゃな話がメディアでそのまま流れています。先日(10月27日)、私が生出演したフジテレビの『とくダネ!』なんてヒドいもんでしたよ。
進行役のアナウンサーが、スタジオのモニターで内閣府が試算したTPP参加の経済効果を示したんですが、そこに映し出されたのは「GDP2.7兆円増加」という数字だけ。それを見たコメンテーターが「日本の年間GDPは約530兆円ですから、0・54%くらいの効果です」と解説しちゃったんです。
オマエら、ちょっと待て、と。2.7兆円という数字は10年間の累積だろ! 単年度で見ればTPPの経済効果なんてたったの2700億円。私は生放送で、なんで正確な数字を出さないんだ!とブチ切れましたよ。
ところが、その前に放送された『新報道2001』でもフジテレビは同じ“誤報”を飛ばしました。しかも、こちらは番組スタッフが収録前の段階で10年間の累積である事実を把握していたから、私には故意に隠したとしか思えないんです。視聴者を“TPP賛成”へと誘導したい大手マスコミの狙いが透けて見えますよ。
政府は政府で、TPPに参加することで「国を開く」などとトンチンカンなことを言う。日本の平均関税率は諸外国と比べても低いほうであり、その意味で国はすでに開かれているんです。なぜ、こんな自虐的な発言をしたのか意味不明。本当にこんな状態でTPPを進めてよいのでしょうか?
■「輸出2倍戦略」のためにアメリカはTPPを使う
今、世界はどうなっているのかというと、08年のリーマン・ショック以降、その構造は激変しました。かつての世界恐慌がそうでしたが、今のような世界的な大不況下では、各国とも生き残りのために手段を選ばず必死になります。各国は、日本にオイシイ話やキレイ事を並べながら、えげつない計略を次々と仕掛けてくる。特に住宅バブルの崩壊で国内経済がズタボロのオバマ政権は、経済回復と支持率稼ぎのためになりふり構わなくなっています。
そのアメリカが今、最大のターゲットにしているのが日本です。アメリカは「2014年までに輸出を2倍にする」ことを国是に掲げています。そのために利用しようとしているのがTPPです。アメリカはまず日本をTPPに誘い込み、思惑どおりに関税や非関税障壁を撤廃させる。もちろん関税撤廃には応じますが、同時にドル安(円高)に誘導して日本企業の輸出競争力を奪います。その上で、金融や農業などで日本の市場の収奪にかかる。これがアメリカの狙いです。
■日本が自ら進む“人食いワニ”の池
このまま日本がTPPに参加すると、国内のルールや仕組みをアメリカ企業に有利になるように改定させられる恐れがあります。そこで、昨年12月に合意に至った米韓FTA(自由貿易協定)が、韓国側から見て、いかに無惨な内容だったかをお話ししましょう。
韓国は、アメリカが韓国の自動車市場に参入しやすくなるよう、排ガス診断装置の装着や安全基準認証などの義務に関して、米国から輸入される自動車は免除するという“例外”をのまされました。
さらに韓国では、日本と同じく国内ニーズが高い小型車に優遇税制を設けていたが、これもアメリカの要求で大型車に有利な税制に変えさせられました。そしてFTAによる関税撤廃で急伸した韓国産自動車の輸出がアメリカの自動車産業を脅かすようなら“関税を復活する”という規定も加えられたのです。
手段を選ばないアメリカのこうした攻勢が、TPP交渉参加後は日本に及ぶことになります。自動車業界では、まず日本のエコカーが標的となるでしょう。米国車の多くは、現時点では日本政府が定めた低公害車の基準を満たしておらず、エコカー減税の対象外。これをアメリカに「参入障壁だ」と指摘されれば、韓国のように泣く泣く優遇税制を撤廃せざるを得なくなるでしょう。
また、TPPで最も懸念されるのは、投資家保護を目的とした「ISDS条項」。これは、例えば日本への参入を図ったアメリカの投資企業が、国家政策によってなんらかの被害を受けた場合に日本を訴えることができるというもの。訴える先は日本の裁判所ではなく、世界銀行傘下のICSID(国際投資紛争解決センター)という仲裁所です。ここでの審理は原則非公開で行なわれ、下された判定に不服があっても日本政府は控訴できません。
さらに怖いのが、審理の基準が投資家の損害だけに絞られる点。日本の政策が、国民の安全や健康、環境のためであったとしても、一切審理の材料にならないんです。もともとNAFTA(北米自由貿易協定)で入った条項ですが、これを使い、あちこちの国で訴訟を起こすアメリカを問題視する声は少なくないのです。そんな“人食いワニ”が潜んでいる池に日本政府は自ら飛び込もうとしているわけです。
残念ながら、野田首相のハラは固まっているようです。世論で反対が多くなろうが、国会議員の過半数が異論を唱えようが、もはや民主的にそれを食い止める術はありません。交渉参加の表明は政府の専権事項、野田首相が「参加する」と宣言すれば終わりなんです。
そして、いったん参加表明すれば、国際関係上、もう後戻りはできない。すべての国民が怒りをぶつけ地響きが鳴るような反対運動でも起きない限り、政府の“暴走”は止まりません。
(取材・文/興山英雄 撮影/山形健司)
■中野剛志(なかの・たけし)
1971年生まれ。東京大学卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に入省。現在は京都大学に准教授として出向中。著書に『TPP亡国論』(集英社新書)など。
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中日春秋
2011年11月8日
ライオンとロバが、共同で狩りをした話がイソップにある。終わって、獲物を三つに分けた後、ライオンが独特の分配法を表明する▼「一つ目は百獣の王たるわしがもらう。二つ目は平等なパートナーとして、わしが取る。さて三つ目だが、もしお前が逃げていかないなら、ひどい目に遭うぞ!」。つまり、獲物は全部ライオンのもの…▼恐らくは、「不当に大きな取り分」を指す英語の成句、<ライオンズ・シェア>の由来でもある。民主党内にも強硬な反対論がある中、野田首相が近々、環太平洋連携協定(TPP)への参加表明の意向だと聞いて、ふと思い出した次第▼協定の中身は無論だが、大いに不安があるのは、わが政府の「交渉力」だ。原則、関税撤廃の協定であっても「例外を設けることは可能」などと政府は言うが、これまで大抵の要求をのまされてきた米国相手に、本当にその“取り分”をへつるような、したたかな交渉ができるのか▼実際、例えば米軍普天間飛行場移設問題では、時の首相があれほど「国外・県外」を主張し、世論も望んだのに、官僚はそっぽを向き、政府は肝心の米国と交渉らしい交渉さえできなかったではないか▼自分より強い者と共同でことを行うのは考えもの、というのがイソップのご高説。確かに、協定が成ってみたら米国の<ライオンズ・シェア>だった…ではたまらぬ。
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◆風雲TPP〈中〉民主党内、半数が慎重派 集約へ鹿野氏キーマン/小沢氏「米国と誰が交渉できるんだ」2011-10-26 | 政治(経済/社会保障/TPP)
風雲TPP:/中 民主党内、半数が慎重派 集約へ鹿野氏キーマン
「拙速に議論を進めないでほしい」。民主党内を揺るがす環太平洋パートナーシップ協定(TPP)交渉への参加問題。「TPPを慎重に考える会」会長の山田正彦前農相は25日昼、前原誠司政調会長を国会内の事務所に訪ね、詰め寄った。
会談は約40分間。山田氏は11月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議で野田佳彦首相が交渉参加を表明するのを見送るよう求めた。だが、前原氏は「先送りは簡単ではない。首相はAPECまでのつもりだ」と反論、平行線に終わった。山田氏は会談後、「党内は完全に二分されている。無理をすればどうなるか」と記者団に不満を示した。
民主党は経済連携プロジェクトチーム(PT)で11月2日までに意見集約を図る方針だが、議論は今月14日の第1回総会から荒れた。PT役員の大半が推進派だったことや総会の位置づけに批判が続出。鉢呂吉雄座長は「慎重派の役員を増やす。取りまとめ案は役員会で作るが、総会でしっかり決める」と譲歩せざるを得なかった。
推進派が慎重派に配慮せざるを得ないのは、TPPの国会による承認を見据えれば、民主党内が分裂するような事態は避けなければならないからだ。交渉不参加の表明を求める署名簿には党所属国会議員の約半数にあたる200人(25日現在)がサインした。山田氏は「党内の半分は慎重論」と主張する。
党支持率が低迷する中、選挙基盤の弱い若手や地方出身議員にとってTPP反対論が強い農業や医療関係の団体の組織票は貴重だ。推進派は「反対派は自分の選挙のために大声で反対することしか考えない。政権与党としての責任を果たそうとしない」と苦り切る。
前原氏ら推進派はTPPが国益に沿わない場合は撤退する「条件付き参加」を落としどころとして探るが、同じ推進派でも玄葉光一郎外相が「(離脱は)簡単な話じゃない。論理的にはあり得るが、どういう国益を損なうかよく考えなければならない」と述べるなど足並みは乱れている。
慎重派も一枚岩ではない。小沢一郎元代表に近い中堅・若手の衆院議員グループ「一新会」は25日、国会内で会合を開き、会として統一行動を取らないことを決めた。昨年10月、菅直人首相(当時)がTPP参加検討を表明した際には強硬に反対する姿勢を示したが、小沢元代表にも近い輿石東幹事長はTPP議論をまとめる側。グループ内には慎重派が多いが、野田政権と決定的な対立になるのを避けたとみられる。小沢元代表に最近面会した側近議員によると、元代表は「TPPはやらざるを得ないが、米国と誰が交渉できるんだ」と述べ、政府の交渉力に危惧の念を示したという。
「議論をどうまとめるのか見えない」(PT幹部)中、推進派は鹿野道彦農相に期待を寄せる。官邸関係者は「鹿野さんが懸念しているのはTPPが党を二分すること。反対ではない。党を二分する事態は避けられると鹿野さんが踏めば、TPPは行ける」と語る。慎重派には民主党代表選で鹿野氏を支持した議員が多く、「『鹿野氏が言うなら仕方ない』と思ってもらうしかない」(推進派議員)との戦略だ。
鹿野グループは民主党代表選の決選投票で野田首相に投じた。鹿野氏は野田首相誕生のキーマンでもある。首相と鹿野氏のコンビはどう決着をつけるのか。残された時間は少ない。
毎日新聞 2011年10月26日 東京朝刊
◆TPP交渉参加への対立が激しさを増す中、不都合な情報を小出しにする政府の姑息なやり方2011-11-09 | 政治(経済/社会保障/TPP)
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TPP 中野剛志「メディアが報じないアメリカの本音」/ライオンズ・シェア/小沢一郎氏 政府の交渉力に危惧
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