「アメリカの陰謀論」に明け暮れるTPP問題、企業統治が問われるオリンパス事件ーー世界の投資家に見捨てられ日本経済のさらなる転落が始まる
2011年11月11日(金)長谷川幸洋「ニュースの深層」
環太平洋連携協定(TPP)とオリンパス。これは一見、無関係のようだが、実は奥深いところで話がつながってくる。ともに日本経済に対して、じわじわと毒が回ってくるような打撃を与える可能性が高いのだ。
誤解しないでほしいが「TPPの締結が日本経済にマイナスになる」と言っているのではない。そうではなく、日本がTPP交渉に参加を表明したとしても、実は参加できないかもしれず、そうなると一層、日本経済に打撃になる。そこを指摘したいのである。
そう実感したのは、次のニュースが報じられたからだ。
*アメリカは「日本のTPP参加は迷惑」
〈米下院歳入委員会と上院財政委員会の幹部を務める超党派議員4人は8日、オバマ政権に対し、日本が今週環太平洋経済連携協定(TPP)交渉に参加する意向を表明した場合、議会との事前協議なく早急に決断することがないよう要請した。議員グループが米通商代表部(USTR)のロン・カーク代表に宛てて書簡を送った。それによると、議員らは「日本が交渉に参加すればTPP交渉に新たな次元と複雑性が加わることになる。このため(米政府に対し)いかなる決断も下す前に連邦議会その他の関係者に相談するよう強く求める」と要請した。その理由として、同書簡は「日本は長い間、国内市場を意味のある競争から保護してきた」と指摘し、米国は日本政府が本気で市場を開放し、米自由貿易協定(FTA)が求める高い水準を満たす用意があるのかを十分確認する必要があるとしている。〉(ロイター通信、11月8日配信)
これを読んで「やはりそうか」と思った。
というのは先日、BS朝日の『激論!クロスファイア』に出演し米国務省の元日本部長、ケビン・メアと同席した際、メアは司会の田原総一朗の質問に答えて、こう言っていたからだ。
「日本でTPP交渉参加の話が出たとき、ワシントンでは困っていた。というのは、日本が交渉に加わると、いろいろ条件を持ち出してくる。そうなると交渉の妨害になってしまうからです。私は『強い日本がアジア太平洋全体にとってもいいことだ』と主張して結局、日本を歓迎することになった」
一部で言われたように、米国は日本に対して交渉参加を押しつけたわけではない。それは違う。それどころかまったく逆に、ワシントンでは「日本の参加は迷惑」と考える意見が出ていたのだ。なぜなら、抵抗勢力である日本が加わると、交渉全体がスピードダウンしてしまうからだ。
先のロイター電はまさしく、そうした米国側の懸念を伝えている。これは超党派議員の動きだが、それを先取りするように、政府部内でも早くから日本の参加を懸念する意見が出ていた。メアはそれを抑えて、とりあえず日本を歓迎する方針でまとめていたのだ。
*アメリカはもはや日本を必要としていない現実
だが日本が正式に交渉参加を求めれば、米国では議会の姿勢が重要な鍵になってくる。オバマ政権が歓迎したとしても、議会が超党派で反対するとなると、乗り越えるのは高いハードルになるだろう。
もともと政府部内にあった慎重論が再び盛り返して「ここはしばらく日本の参加承認を先送りしよう」とならないとも限らない。
もしも、米国があれこれと注文やら質問を繰り返して、承認を引き延ばすようだと、一方でTPP交渉自体は進んでいくので、日本は「手を挙げてはみたが、無視される」という最悪の事態に陥ってしまう。
なぜ最悪かといえば、米国でさえも「もはや日本を必要としていない」という現実が赤裸々になってしまうからだ。
それでなくても、いまでは国際社会で「日米欧」という言葉は完全な死語になっている。そんな3極の時代はとっくに終わり、世界の重心は「米欧中」あるいは「米中」の2極に移っているのが現実である。
国民の生活水準を示す1人当たり国内総生産(GDP)でみても、日本は33,771ドル(2010年、推計)と先進国クラブである経済協力開発機構(OECD)諸国のうち、上から18番目に落ち込んでしまった。フランスやスペイン、イタリア並みである。かろうじて「先進国の一員」にとどまってはいるが、とてもトップクラスとはいえない。
そんな中で「TPPに入りたくても入れない日本」の姿が浮き彫りになると、世界は今度こそ「日本は終わった。これからアジアは中国だ」と受け止めるだろう。
世界情勢を先取りする産業である金融分野では、とっくの昔に中国が焦点になっていた。外資系金融機関は中国市場をにらんで香港やシンガポールに相次いで拠点を移し、いまでは事実上、東京市場は香港やシンガポール、上海の周辺市場(peripheral market)扱いされている。
そんな認識が金融に限らず、ごく普通になっていくのは間違いない。
野田佳彦首相は当初、11月10日午後に予定していた記者会見を11日に延期した。交渉参加を表明する意向と報じられていたが、いざとなったら迷いが出たのかもしれない。「1日、ゆっくり考える」のだそうだ。ここへきて「参加しない」と言い出すなら、野田という政治家の地金がそれまでだったという話になる。
あるいは野田がTPP参加を表明したとしても、本当に交渉に加われるかどうかの正念場は、まさにこれからなのだ。
*粉飾決算はオリンパスだけなのか
オリンパスの事件が象徴的なのは、内部告発したのが英国人社長だったという点である。しかも米英の主要紙が報じ、捜査当局が動き出してから、押っ取り刀で駆けつけるように日本の新聞や当局が動き始めた。
日本の金融庁や証券取引等監視委員会、捜査当局がどたばたと動き始めたのも、英国人社長が動かぬ証拠を米英の当局に突き付けたからだとみれば、まさに「外圧によって事件が暴露された」といえる。
ここでは「企業統治に無関心な日本」の姿が浮き彫りになっている。
はたして、こうした粉飾決算はオリンパスだけなのか。それとも、もっと他に多くの企業も似たような粉飾をしているのではないか。欧米で日本企業に対する疑問がわき起こるのは当然だ。
TPP参加をめぐって「米国の押しつけに屈してはならない」とか言っているうちに、米国政府が日本を棚上げしてしまう。あるいは世界の企業やファンドが「怪しげな日本」への投資を手控えるようになれば、どうなるか。答えはあきらかだろう。さらなる日本経済の転落が始まるのだ。(文中敬称略)
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◆「オリンパス」/損失を隠し、前任者の体面を汚さないようにするのが義務?/不正直は恥ずべきことだ2011-11-11 | 社会(経済)
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◆「霞が関の大魔王」勝栄二郎危険極まりなし/内閣に「大増税」へと舵を切らせている 2011-10-05 | 政治
あっという間に、どじょう鍋にされたノダ 「霞が関の大魔王」勝栄二郎危険極まりなし 高橋洋一×長谷川幸洋
現代ビジネス2011年10月05日(水)週刊現代
■しっかり増税、とにかく増税
長谷川 野田佳彦政権の布陣を見ると、見事な増税シフトですね。そして、この増税一直線政権のプロデューサー兼シナリオライターが財務省の勝栄二郎事務次官であることは、衆目の一致するところです。
高橋 要するに「陰の総理大臣」ということね(笑)。
長谷川 そこで今日は「勝栄二郎」を徹底的に解剖していこうと思うんですが、その前提として、野田政権の人事について触れておきたい。これはもう明らかな党重視ですね。政策決定の鍵を握る政調会長に前原誠司前外相を起用し、仙谷由人元官房長官を政調会長代行に据えた。さらに財務省OBの藤井裕久元財務相を党税調会長にした。
野田政権は政策決定の前さばき段階で党がかなり重要な役割を果たすようにしたわけですが、これは民主党の中に反増税派ないし増税慎重派がいるから。それを押さえ込んで増税を実現するために、こんな重厚な布陣になったわけですね。
高橋 通常の政策決定プロセスは、まず政府で案を作り、それを党で揉んで、それから国会へ提出する。どこにいちばん力点を置くかというと、国会のねじれがなければ、政府か党のどちらかです。
では今回はどうかというと、国会はねじれているけど、自民党はもともと増税賛成。だから、政府段階では財務省にとっての理想的な増税メニューを打ち上げておいて、党である程度レベルダウンするけれども、国会では自民党を巻き込んで、しっかり増税。こういう筋書きがもう決まっている。つまり、党レベルでの反増税圧力をどれだけ弱められるかがポイントなんです。だから布陣は党高政低。政府としては、目いっぱい高い球を投げるだけだから、財務官僚がやればすむことなんですよ。
長谷川 党重視にした分、閣僚人事は軽くなった。その代表が、財政のことをよく知らない安住淳財務相と、旧大蔵省OBの「過去官僚」古川元久国家戦略相。この2人は財務省が完璧にコントロールできる。そこで、もうひとつのポイントが勝次官による財務省人事になるわけです。
高橋 そう。内閣は軽量だけど、そこに送り込んだ財務官僚は重量級なんです。なにしろ勝さんは、官房副長官(事務)を取ろうとした。結果的に国交省の竹歳誠事務次官に落ち着きましたが、当初は前財務次官の丹呉泰健さん(読売新聞グループ本社監査役)の起用を本気で考えていた。
長谷川 丹呉副長官だと、あまりに財務省支配がミエミエだからねえ。でも、旧建設省出身の竹歳氏は、建設公共担当の主計官も経験した勝次官とはツーカーの仲で、一心同体みたいなものでしょう。
高橋 というより頭が上がらない。予算でお世話になった勝さんの意向通りに動くと思います。それから、主計局総務課長から局次長になったばかりの太田充氏を総理秘書官として官邸に送り込んだ。彼は保守本流である主計のトップランナー。正真正銘の重量級です。
もう一つ驚くのは、蓮舫行政刷新担当相の秘書官に財務省課長の中堅クラスが行っていること。本来なら課長補佐の最終段階くらいの年次が就くポストですけど、そこに'88年入省組の吉井浩氏を送り込んでいる。
長谷川 蓮舫大臣の担当する行革とか公務員制度改革は官僚にとって重要なポイントだから、しっかり押さえておきたいという狙いですね。それに彼女は民主党のスター的存在で発信力もあるし、注目度も高い。
高橋 実は勝さんが彼女の秘書官に吉井氏を送り出したのは前回の大臣時代。その後、首相補佐官に格下げされても「補佐官補」という肩書でずっと密着させてきた。勝さんは蓮舫さんの利用価値を読んで、きっちりマークしてたわけ。
長谷川 '88年組と言えば、古川国家戦略相の同期。しかも、この期には自見庄三郎金融担当相秘書官の井藤英樹氏もいる。
高橋 古川国家戦略相は閣僚兼秘書官みたいなものだから(笑)、この「同期秘書官トリオ」は強力ですよ。財務省に入省すると一般的な省庁研修のほかに、3週間ぐらい寝食を共にする省独自の長期合宿を行う。ここで同期の結束が非常に深まり、よその役所とまったく異なる人的ネットワークになるんですね。
長谷川 なかなか見事だねえ、このあたりの勝次官の人事は。
■人呼んで「パー・ペット内閣」
高橋 さらに言えば、藤村修官房長官秘書官には'89年組で主計畑のエース候補・宇波弘貴氏をつけた。初入閣で官邸のことなど右も左もわからない官房長官は、秘書官の言いなりになるしかないでしょう。それに宇波氏は、安住財務相の秘書官になった小宮義之氏の同期。ここの連携も完璧です。
長谷川 加えて、内閣府政務官に就任した民主党の大串博志代議士も入省同期の財務省OBだ。
高橋 '83年組の太田首相秘書官を筆頭に、閣僚にこれだけの数の秘書官をはり付けておけば、財務省で内閣を切り盛りできますよ。はっきり言って、大臣なんか誰でもいい。口の悪い永田町の住人が言っていましたが、「野田パペット(操り人形)内閣」ならぬ「パー・ペット内閣」と呼ばれているそうです。
長谷川 財務省に飼われる愚かな閣僚たちか(笑)。
高橋 財務省風味のどじょう鍋と言う人もいる(笑)。
長谷川 財務省の本省人事も見ておきたい。意外だったのは、「10年に一人の大物」と呼ばれた斎藤次郎元大蔵次官の娘婿である稲垣光隆氏が主計局筆頭局次長から財務総合政策研究所長へ外されたこと。ここは、局長になれなかった人の上がりポスト。彼は'80年組のエースだったのに・・・・・・。
高橋 これも勝さんの深謀遠慮だと思います。斎藤さんは現在、日本郵政社長。今後、郵政株売却が増税額圧縮の材料として浮上する可能性がある。その際に、斎藤大先輩に遠慮なく増税路線を貫くには、娘婿が邪魔になるという計算でしょう。つまり、いくら優秀でも省益にそぐわなければ斬り捨てるという冷徹な判断をした。
長谷川 なるほど。その一方で、同期の佐藤慎一氏を官邸の内閣審議官から呼び戻して省内司令塔の総括審議官に据えた。主税局の主要課長を歴任した税制のトップランナーをこのポジションに起用した意図は明白ですね。
高橋 それに、省内トップエリートの登竜門である文書課長だった星野次彦氏を主税局審議官にしたし、主計の花形である公共担当主計官をしていた井上裕之氏を主税局税制一課長に起用した。これらの人事は完璧な増税シフトですよ。もうまるで、増税大魔王(笑)。
■マスコミの懐柔も得意です
長谷川 さて、その大魔王の経歴を見ると、'95年から'96年にかけて為替資金課長を務めていますね。ところが、実際は為替資金とは無関係の仕事をしていた。当時、橋本龍太郎政権の行政改革で大蔵省については財政と金融の分離が叫ばれていて、実は大蔵省抵抗部隊の裏司令塔が勝課長だった。「あの人は手ごわかった」と当時、官邸で行革を担当していた人物から聞いています。
ちなみに為替資金課長になる前に内閣官房長官秘書官をやり、為替資金課長のあと主計局の企画担当主計官や文書課長といった、ど真ん中のエリート街道を歩んでいる。財務省の文書課長というのは、書類を扱うわけじゃなくて、要するに国会担当。予算委員会では必ず部屋の隅にいて、大臣にこういうメモを入れろとか、こう答弁させろとか、そういう指示を出す司令官ですね。
高橋 勝栄二郎という人は人心掌握がうまいんです。私の役人時代のことですが、5年も後輩で直接の部下でもない私のところに突然電話をかけてくる。ボソボソした声で「すまないけど、今度の日曜日に会えないかな」とか「ちょっと君の力を借りたくてね」とか言うわけですよ。で、指定された都内のホテルへ出向いていくと、省内の若手が何人か集まって自由闊達に議論していて、勝さんがじっと聞いている。そしてしばらくすると、その時の議論が省の政策として打ち出されたりする。若手にとっては、これが嬉しい。
長谷川 腰が低くて、他人に対して居丈高な姿勢をまったく見せないでしょう。私も安倍晋三政権時代に政府税制調査会の委員をしていて、舞台裏の会合で何度も勝さんに会いましたが、彼は総括審議官で超多忙な頃だったのに、絶対に遅刻しなかった。そして末席に座って、誰に対しても丁重に接する。
高橋 彼はしゃべり言葉が丁寧で、ゆっくりしているんですね。それで政治家やマスコミの記者にウケがいい。それと、こう言ってはアレですが、頭がキレすぎない(笑)。
長谷川 なかにはマスコミに居丈高になる官僚もいるけど、勝さんはまったく正反対。女性記者との会合も積極的にセットしていたみたいですよ。
高橋 ただね、言葉遣いが丁寧なのは、彼がドイツ育ちの帰国子女で、日本語が少し不自由だからなんです。発音も少しヘンで、電話でボソボソと「勝です」と言われると、「カツドン」に聞こえる(笑)。逆に書き言葉は、勉強して覚えたおかげか、妙に格調高い。
結局、日本語が得意じゃないから、あまりしゃべらない。ときどきしか話さないから、自然と言葉に重みが出る。そういうタイプですね。
長谷川 先ほどから見てきたように、人事もうまい。
高橋 そう。論功行賞も考えていて、日曜日の会合などに出たら、ご褒美があるんですよ。上の人のお供で海外に同行することなんです。次官OBや天下ったエライ人はヒマでよく海外に行く。その際に必ずお付きの者をつけるんですが、勝さんは日曜日に呼び出した若手をうまくセットするんです。海外出張のお供で2週間も一緒にいれば、そのOBの覚えがめでたくなる。それは出世にも少なからず影響するから、結構なご褒美なんですね。出張同行の指名を受けた側も、ああ、これは勝さんのご褒美だなと分かります。こういうやり方が非常に心憎い。
長谷川 それで省内に勝ファンが増えていくわけか。
ところで、内閣も省内も完璧なまでの増税シフトを構築した勝さんには、「剛腕・斎藤次郎の再来」という評価もある。剛腕・勝栄二郎は果たして、このまま増税路線を突っ走るのかどうか。
高橋 野田総理の代表質問への答弁に、その答えがありますよ。野党から「消費税増税の前に国民の信を問うべし」と問われ、総理は「実施の前に信を問います」と答えている。国民もマスコミも、納得しているようですけど、これは間違いなく財務省が仕掛けた罠です。
「増税前に信を問う」というのは、普通は増税の是非を総選挙で問うという意味ですよね。ところが「実施の前」だと、増税法案が成立して増税を行う前に選挙をするという意味になる。つまり、いま予定されている通りに来年の通常国会には消費税増税法案を出して可決成立させる。その後のしかるべき時期に信を問うことになるけど、そこで与党が勝とうが負けようが、法案が通っている以上、消費税は粛々と引き上げることになる。これが勝財務省のシナリオです。
■今度のジローはしたたかすぎ
長谷川 実施前に凍結法案を出して、増税を止める手もあるけど。
高橋 無理、無理。実施直前に総選挙を設定すれば、凍結法案を出す余裕はない。そういうスケジュール管理は、財務省のお手のものです。そのために優秀な人材を秘書官に送り出しているわけだし。それに、「ここで凍結すれば、経済が大混乱します」と政治家を脅すことだって平気でやる。
長谷川 確かに、橋本政権で消費税率を3%から5%に上げたときも、景気悪化が懸念されたのに、スケジュール通りに実施された。
高橋 そう、その挙げ句にデフレが深刻化して、税収まで減っていった。バカじゃないのって話。
長谷川 ただ、剛腕・斎藤次郎は細川護熙政権のときに、与党最大の実力者だった小沢一郎氏(当時・新進党幹事長)と組んで国民福祉税構想を打ち出して、頓挫した。しかも、その後の政権交代で与党に復帰した自民党に睨まれ、長く天下り先にも恵まれなかった。「二匹目のジロウ」も、やりすぎると同じ轍を踏む危険があるんじゃないの?
高橋 斎藤さんの場合は剛腕ゆえに根回しをあまりしなかった。そのため、ときの官房長官(武村正義氏)から「待った」をかけられたんです。つまり、総理の女房役である官房長官にすら声をかけていなかった。そして、その官房長官秘書官だったのが、若き日の勝栄二郎ですよ。
長谷川 なるほど。斎藤大先輩の失敗を間近で見ていたからこそ、官邸にも省内にも人材を張り巡らせ、用意周到に増税への布石を打っている。勝栄二郎は、「配慮の行き届いた斎藤次郎」ということか。
高橋 もう一つ忘れてはならないのが、メディアを使った国民の洗脳です。
長谷川 財務官僚にすり寄る「ポチ記者」問題ね。財務省が政府を実質的に動かしていることは、ちょっと深く取材をすればわかる。財務官僚を敵に回せばネタが取れなくなるから、記者たちは自ら官僚にすり寄っていくんです。その結果、新聞紙面には連日のように、所得税、法人税、相続税に環境税とあらゆる増税ネタが報じられることになる。財務省は「高めのつりダマ」を投げて、新聞記事になれば御の字。そのうちに国民はだんだんマヒしてきて、増税やむなしの空気ができあがる。これがいま起こっている現実ですよ。
高橋 人間って、与えられた情報でしかモノを考えられませんからね。本当は増税だけじゃなく、税外収入の道もあるのに、そっちには目がいかなくなる。まさに洗脳です。
長谷川 それがメディアを使った財務省の大衆戦略ですよ。そして、そんな財務省を動かしているのが、勝栄二郎である、と。
高橋 やっぱり霞が関の大魔王だ。
「週刊現代」2011年10月7日号より
<プロフィール>
たかはし・よういち/1955年生まれ。'80年旧大蔵省入省。内閣参事官時代に「霞が関埋蔵金」を暴露し、脚光を浴びる。'10年より嘉悦大学教授。『この経済政策が日本を殺す』『官愚の国』など著書多数
はせがわ・ゆきひろ/1953年生まれ。東京新聞論説副主幹。財政制度等審議会臨時委員、政府税制調査会委員などを歴任。官僚が政治を操る実態を描いた『日本国の正体』で'09年度山本七平賞を受賞
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TPP・オリンパス/世界は今度こそ「日本は終わった。これからアジアは中国だ」と受け止めるだろう
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