◆小沢一郎裁判は本当に「どこかが狂っている」のか? 元検事・郷原信郎×元代議士・早川忠孝〈1〉 からの続き
■政治資金規正法に浮かび上がる問題点
亀松: 「小沢一郎元代表について」。非常に抽象的なテーマがここには出ていますが、もともとわれわれが用意していたのは、郷原さんがこの前の番組の時に、「別に自分は小沢さんを政治家として評価しているわけではなく、ひいきしているわけではない」と言ったことについて、早川さんがブログで「郷原さんは、どちらかというと、小沢弁護団の理論的主柱の1人のように見える」と。要はひいきしているんじゃないかという風にブログで書かれたということで、それを用意していたんですが、これは最初に(出てしまったので)・・・。
郷原: その点について一つ補充するとですね。
亀松: お願いします。
郷原: さっき、私が民主党から参議院議員選挙に出るように言われて、それは結果的に出なかったけど、という風に言われていますけど、これは重要な経過が抜けているんですね。私は去年の1月、2月の始めでしたか、石川さんたち秘書3人が起訴されて、それと同時に小沢さんが不起訴になりましたよね。その時に小沢さんが「公正・公平な検察捜査の結果と受け止めている」という発言をされた。あれを徹底的に朝日(新聞)の「私の視点」に書いて批判しました。そういうことを言ったら、要するに秘書が起訴されて、それが人身御供になって自分が不起訴になったという風にしか受け取られないじゃないかと。もともと秘書3人が逮捕された時に、民主党大会で民主主義に対する重大な脅威だとまで言い切ったんですよ。それを自分が不起訴になった途端に「公正・公平な検察の捜査の結果と受け止める」、そんなやり方、そんな考え方をしていたら誰も信用しないよという趣旨のことを書いたんですよ。
そしてその後、確かに参議院議員選挙で、ある民主党の主要な方から「出てくれ」という話はありました。その時に断った理由も、私は総務省の記者会見の場で質問を受けたんで明らかにしました。「検察の捜査の結果を公正・公平だなどと受け止めると。自分の秘書が起訴されているのに、そういうことを言う人は信用できない。だから私はそんな人が幹事長をやっている党から出られるわけないじゃないですか」と言ったわけですよ。そういう経過もあって、私は逆に小沢氏サイドからは「この人は小沢さん嫌いなんだ」という風に見られているそうですよ。
早川: なるほど。
郷原: 確かに、私が言ったことが、私が「サンデープロジェクト」(テレビ朝日)などで発言したことが、小沢弁護団とか、小沢さん側に非常に参考になったと言われるのはあります。それは何かというと、西松建設事件の大久保(隆規、小沢氏の元公設第一秘書)さんが逮捕された時の検察の逮捕事実、他人名義の寄付がどうのこうのという話です。要するに原資が西松建設から出ているのに、それを西松建設のOBが代表を務める政治団体からの寄付と記載したことが虚偽記入であるような逮捕事実だったのでそれはおかしいと。原資の問題というのは、基本的に政治資金収支報告書の寄付の記載とは関係ないということを、あの時はテレビでも明確に言ったんですよ。その考え方は小沢さんの側からは、これは当然のことだと思うんですけれども、明確に言ってもらって非常にありがたいという風に思われたと思います。でもそれは事実じゃないですか、そうじゃありません? それは何か違いますか。先ほど政治資金規正法については、立法にも携われたと仰っていましたよね。そういう前提でつくられていますね。
早川: 今言われた西松建設で、大久保被告を逮捕されたということで、一番その先頭を切って理論的な問題点の指摘をされました。あれが基本的には民主党の方々についての、支えになったんだろうということはもうその通りだと思います。
郷原: それは私が間違ったことを言って、不当に小沢さんの側を有利にしたというのであれば、それは何か言われても仕方がない。それはどうなんですか。
早川: それはないのですが、ただあの発言で民主党の人たちが、元検察官、弁護士、大学の先生という郷原さんを本当に頼りにされて、結果的にはいろんな人が郷原さんの意見を聞くようになったんだろう。あれがきっかけなんだろうと思います。
郷原: いや、だからそれが何か問題があるんですか。
早川: ありません。それは当然のことでいいんです。ただ理論的な支え、一番大事なポイントを指摘してきているのは、常に郷原さん。
郷原: あの頃、二階(俊博:衆院議員)さんのほうもいろんな捜査の対象になるならないという話がありましたよね。私はちょうどあの時期に、和歌山県にいろいろ公共調達の関係でお世話していたんですよ。自民党の県議団の人たちから講演に呼ばれたことがあったんです。その時に随分心配されていて、二階さんがやられるんじゃないかという風に言われていたんで、「いや、もし何かあったら、いつでも言ってください。同じような問題があるんで、私はそれが犯罪になるかどうかについては、いくらでもアドバイスしますよ」と、そういう風に言いました。そうしたら、すごくありがたがってもらいました。県議会議員のすごく重鎮の人が、和歌山で本当に心配されていて。私は別に民主党だろうが自民党だろうが、検察の不当な捜査の対象になったらそれは当然言いますよ。それは何も私は問題ないと思うんですけど。
早川: 問題ありません。これも弁護士として当然のことなんですが。郷原さんは弁護士として裁判所の法廷にこの5年間で出たことはあります?
郷原: ありません。
早川: 弁護、刑事弁護はあります?
郷原: 私は具体的な刑事弁護は全くやっていません。
早川: されていませんよね。
郷原: はい。
早川: ですから多分、郷原さんの物の見方というのは、やっぱり調べる検察官の目というのが基本だろうと僕は思っています。
郷原: それはそうですよ。私の経験ですし。
早川: おそらく。ですから西松建設の事件について、あるいはその後の小沢秘書の石川さんの逮捕とか、そういったことについていろいろ発言されているのは、今の検察官、今の特捜の捜査の仕方が、自分が考えているのとは全く違うと、こういうことに原点があるんじゃないかと。
郷原: それは別にいろいろなやり方があって、Aというやり方をする人もあれば、Bというやり方をする人もある。その選択の問題であれば、私は別に文句は言わないですよ。そうじゃなくて、あまりにお粗末だから言っているわけじゃないですか。
早川: そうでしょう。
郷原: だって大久保さんの逮捕の時にみんな言ってたわけですよね。こんなものだけで終わったらとんでもないことになる。平沢勝栄(衆院議員)さんだって言っていましたよ。「これ、もしこれで終わったら、大変なことになるよ」って。あのサンプロ(サンデープロジェクト)の控室で言っていましたよ。
早川: なるほどね。
郷原: ところが、結局それで終わっちゃいましたね。でも何も大変なことにならなかったですよね。なぜなんですか。
早川: どうなんでしょうね。郷原さんの「検察捜査論」なんかで、戦略的捜査論で仰っているのは、政治資金規正法違反あるいは公職選挙法違反事件、そういうところには、その後ろに暗数がごまんとあるそうです。
郷原: そうです、そうです。
早川: 要するにたくさんの犯罪になってもおかしくない事件というのがあるんだけれども、検察の捜査能力、言ってみれば捜査資源を有効に活用するという観点から考えると、そんなにたくさんの金をかけたりできないだろうという中で、結果的には西松建設の事件が一つのきっかけになった。でもそのきっかけになった理由は、どうやらその公訴時効の問題が大きかったと。
郷原: それは言い訳ですよ、言い訳。だって政治資金規正法の問題は、処理上の問題というのは山ほどありますよ。先ほども言われたように、もし個別具体的なやり取り、金の出し入れを全部記載しないといけないということになったら、そういう解釈を取ったら、おそらくほとんどの政治家が政治資金規正法違反に問われると思うんですよ。そのぐらい考え方によってはいろんな違反が考えられます。しかし、それを意図的にこんな軽微なものでも、この政治家についてはやるぞという風に捜査機関が狙いを決めてやったら、それこそ不当な捜査への介入じゃないですか。だから、やはり悪質で重大性を持った違反に限定して摘発をしないと、政治家に対する捜査として公正とは言えない、これは当たり前だと思いますよ。法務省でももちろんそういう考え方を取っていますし。
早川: それは、基本的には長崎地検の次席検事をされた時に、自民党の長崎県連のパーティーを摘発をされた。結果的には業者に対して公共事業の受注額に応じて、献金・寄付を割り当てたということあたりが・・・。
郷原: そう大雑把な話じゃないんです。あれは県連が表の金・裏の金両方で公共工事、県発注の公共工事に応じた寄付を自民党の県連が受けていた。
早川: ということのようですね。
郷原: それの裏金だけで2000万、2800万ぐらいに上っていたという事件と、もう一つは1億5000万ぐらいの政治資金パーティー券の収入のうち7000万ぐらいを裏に隠して、これは自民党の幹部なんかも含めて、いろんな物を買ってあげたり、何百万という壺とか、いろんな物を買ってあげたり、お土産を渡したり、県連の幹部の飲み食いに使ったりというような、まさにその実態悪を伴っていた。そういう政治資金規正法違反があったから、われわれはそれを捜査の結果明らかにした。だからそれは十分に摘発にあたる違反の捜査だったという風に、われわれは自信を持っています。そういうような話だからなんですよ。
早川: それが大体6カ月ぐらいで事件の捜査をおやりになったのですね。だから、あの段階では極めて効率的に成果を挙げることができた。だけど郷原さんがお書きになっていることからすると、全国でも同じようなことがあるだろうと言われてましたね。
郷原: 同じようなことじゃないですよ。同じようなことじゃなくて、もっと軽微なものも含めれば、政治資金規正法違反というのはあるはずだということです。
早川: そうですね。広島でもそうだった。長崎でもそうだった。ご自分が一番そういうことには詳しいんだと。
郷原: むしろ政治資金規正法の枠組みをお作りになったのであれば、私は総務省の顧問として政治資金の担当課長といろいろ話しました。その時彼らといつも言っているのは、本来は政治資金規正法の実務について、いきなり捜査機関に違反の摘発を委ねるんじゃなくて、やはり専門機関を作って、何が悪質なもので、何が刑事罰に値するものなのかということについても、その専門機関が一次的な判断をする。そして最終的に「これは悪質、重大だ」というものが、犯罪捜査の対象になるという枠組みを作らないと、捜査機関が不当に政治に介入することになる。諸外国では基本的にそういう枠組みを作っていますよね。もちろんご存知ですね。
早川: まさにその辺なんです。私自身が政治資金規正法の改正作業に従事している段階で、それこそ総務省あるいは衆議院の法制局、あるいは多分法務省等も関与しているんでしょう。議員が立法します。ところが議員の立法というのは実にずさんというか、公正を・・・。
郷原: いや、だから弁護士の早川さんなどがもっとしっかり、そういう枠組みを諸外国の立法でも参考にして、制度論も参考にしてやってもらわないと困るじゃないですか。
早川: 本当です。だから形式的に言うと構成要件に該当することがたくさんあるような、そういう立法になっていることに、結局議員立法の限界があり、現在の政治資金規正法はうっかりすると、どんなものでも摘発の対象になりますよということが、私は前々から指摘していることなんです。
■ニコニコ生放送は小沢氏に批判的な人を呼ばない!?
亀松: また話がすごい熱く、なかなか次に進めない感じなので・・・次のテーマに進みたいんですが。今のお話のきっかけが、郷原さんが小沢さんをひいきしてるんじゃないかというところから広がっていったんですが、それについて早川さんがブログに書かれた時に、同時に、実はニコニコ生放送のことについても言及していらっしゃいます。「ニコニコ放送というのは小沢氏の単独インタビューなどを好んで報道するようで、私のように批判的に小沢氏の一連の行動を見ている人間にはお呼びがかからないが、郷原氏の所論はどうにも決めつけが過ぎる」と。
つまり、小沢さんを批判している人にはお呼びがかからないというようなことを書かれているんですが、これについて反論というか説明をさせていただくと、必ずしも小沢さんに対して批判的な人たちに声をかけていないわけではなくて、例えばよくテレビにも出てこられる元検事の若狭(勝:弁護士)さんなんかは、実際にオファーをしたこともあるんですが、なかなか出てくれないというのが現状でありまして。どうしても今、何となく小沢さんはネットの方に出て、新聞テレビを敵視するみたいな構図に見えてしまっているのもあるかも知れないんですが、われわれとしてはそういう意図でやっているわけでは全然ないです。自民党の議員の方はいろんな番組でたくさん出ていらっしゃるので、ぜひまた別の機会に、こういう対立するようなものがあったら出ていただければと思います。
早川: ありがとうございます。私は小沢さんがこのニコニコさんを非常に大事にしている。あるいは上杉(隆:フリージャーナリスト)さんという方も、ニコニコで自分のいろんなことを発信されているということがありますので、そういう意味ではニコニコというのは、「小沢さんニコニコ」なのかなと思いましたけども。私を呼んでいただいたということはそうじゃないという風に思います。結果的に小沢さんが出演された時は当然小沢さんに出演料をお払いになっているでしょうから。
亀松: いえいえいえ。
早川: そういうことはないんですか?
亀松: はい。基本的に政治家に出ていただく時はそういう(出演料を払わない)形です。
早川: ああそうですか。なるほどね。ちょっとそれは問題が若干ありますよね。政治家が例えば無料で出演し、あるいは自分の宣伝をして、あるいは場合によっては応援をする、支援するということになったら、これは若干、宣伝に使ったということになっちゃいますので。
亀松: そこは別に特に小沢さんだけを特別扱いしているわけでは全くなくて、逆に何て言うんですか、利益供与というかそういう形になっても好ましくないので。あくまでそれは報道という形で公平に全ての・・・。
早川: なるほど。そこら辺はぜひ気を付けていただいた方がいいと思います。
郷原: そういうことであれば、ちょっと早川さんにも気をつけていただきたいのが、私の事を決めつけが過ぎると言われるのであれば、ここに書かれているように、「第三者では通常入手し難い、小沢氏側のさまざまな資料にも目を通されているようだ」ということを何の根拠もなく言われるのは、ちょっと決めつけが過ぎるんじゃないかと思うんですけど。
早川: なるほど。
郷原: 何も私は資料なんか見てませんよ。
早川: 例えば検察弁護側の冒頭陳述書なんかはお読みになるんですか?
郷原: そうですね。冒頭陳述見ますよ。当然。
早川: 見ますよね。どこから入手されるんですか。
郷原: マスコミですよ、当然じゃないですか。
早川: マスコミをご覧になる。だから資料がわれわれみたいに全く部外者には入手出来ない。
郷原: 冒頭陳述ぐらいはその場に行けば聞けるわけですから。別に小沢さんからもらわなくたっていいです。
早川: ただ、そうは言っても結果的には郷原さんのところに相談に来られる方も当然・・・。
郷原: 個別に相談に来やしないですよ。先ほども言ったように、私が行っている民主党の勉強会の場でお話をしたことが参考にされているかも知れませんけれども。別に何も具体的な、個別的な資料に目を通したわけでも何でもない。あくまで私は一般論として言っているだけですよ。しかも・・・。
早川: そうなると結局手持ちの資料があまりないままに、それぞれ発言をしているということになっちゃいますからね。
郷原: 資料なんかいらないんです。例えばさっきの寄付の名義人。寄付の名義人というのは、それは寄付の行為をした人間なのか、それとも原資を出した人間なのか、これは政治資金規正法上は、寄付の行為をした人間が寄付の名義人なんだという当たり前の解釈ですよね。私が言っているのは、それを公の場で言っただけの事であって、別にそんな資料に目を通さないと分からないことなんか一つもないですよ。少なくとも小沢さん側からの、そんなに個別的な事件の中身についての資料なんか一切見てません。
それを「目を通されているようだ」という風に書いてあって「こういう背景があることが分かると、郷原氏が極力中立公正な第三者に立って、冷静かつ客観的に小沢裁判を論評しているのだと言われても、直ちには納得し難い」って、何で納得し難いのかさっぱり分からないですね。「分かるぞ」って言われるけれども、何にも分かってもらっても困るわけですよ。何にもそんな事実がないのに。何の論拠も根拠もなく・・・ということじゃないかと思うんですけど。決めつけるということの意味が全然分からないんです。
早川: どういう風に見えるかという見方を一応ご説明をしただけの話ですから。結果的には例えば西松建設のいわゆる政治団体を迂回しての献金と。これは第三者の名義を使っての迂回献金は違法だというのが政治資金規正法に書いてあるわけですよね。
郷原: いや、書いてないですよ。迂回献金が違法ってどこに書いてあります?
早川: いや、それは書いてありますよ。
郷原: 書いてませんよ。迂回献金ってどこの条文に書いてあります?
早川: 第三者、匿名寄付。そういったことが・・・。
郷原: 他人名義の寄付です。それは他人名義の寄付というのは、寄付者というもの自体を偽った場合ですよ。寄付者、寄付行為者自体を偽った場合。
早川: だから、そこで寄付行為者を偽っているか否かという法律問題の解釈は、最終的には裁判所が認定をする事実です。
郷原: 迂回献金じゃありません。迂回献金は検察が何回かやろうとしたけど、あれは現行法上は違法とは言えないんです。だから、あれで自民党助かったじゃないですか。あの日歯連の事件(2004年の日本歯科医師連盟をめぐる汚職・横領、政界への闇献金などが発覚した事件)の時もそうじゃないですか。
早川: だから日歯連の事件とか何とか、いろんな事件があってどこまで立件をするのかということについて、私も衆議院参議院の法務委員会で答弁者、改正法についての提案者ですから質疑をしました。ですから、こういう大変な法律が条文としてあるんだということに気が付きました。
郷原: 何の条文ですか?
早川: 多分、日歯連の事件の関係でさまざまな・・・。
郷原: いや、条文は別にないんですよ。要するに基本的に収入というのはこういうものでということが定義のところに書いてありますよね、政治資金収支報告書。その収入の定義からすると、寄付というものは、例えば具体的にお金を渡したとか、振込を行ったという外形的な行為者を寄付者と言うとしか解釈出来ない。これがもう政治資金規正法の最もベースな解釈じゃないですか。
早川: 郷原さんはそういう法律の解釈をします。ですけど最終的にはやっぱり裁判所が判断をし・・・。
郷原: それは・・・総務省の地方の選管(選挙管理委員会)にいらしたんじゃないですか。そこも否定されるんですか?
早川: それから最終的には最高裁が判断をするという、法律事項については立場によって何が有権解釈かといこと事については、決定しづらいところがあります。
郷原: じゃあどう書いたらいいんですか。今のですね、例えばAさんがBさんからお金をもらって、Cさんに寄付をしたという時に、Cさんは実はBさんがお金を出していることを知っていた。持って来たのはAさん、お金はBさんが出しているという時に、どっちと書いたらいいんですか。寄付者はAですか? Bですか?
早川: その判断はやっぱり、その時々で変わるんだと思うんですけども・・・。
郷原: その時々に変わったんじゃ、収支報告書の記載のしようがないじゃないですか。
早川: だから現場では会計士さんもですね・・・。
郷原: 会計士さん、分からないです。
早川: 分からない。書き方がまるっきり分からないです。
郷原: 会計士さんに相談したって全然ダメですよ。政治資金規正法の考え方の問題ですから。
早川: ところが総務省も分からないんです。自分が作った法じゃないから。
郷原: 総務省はいろいろ法務省との間で気を遣って、公然とは言いませんけども、これはもう実質的には明らかですよ。
■小沢強制起訴は、検察の暴走なのか
亀松: すいません。かなり話が専門的にちょっとなってきましたので。一般の人たちのために分かりやすい論点ということで「今回の事件は検察の暴走なのか」。これは秘書の大久保さんが逮捕された直後に、郷原さんが日経ビジネスオンラインの記事で「ガダルカナル化している検察」というようなコラムを書かれていまして、それをまた早川さんが引用するような形で批判をされている。このガダルカナルというのは有名な(太平洋)戦争の、日本軍が突き進んでしまったもの(戦い)ですけれども、それを比喩としていわゆる検察が暴走しているのではないかということを郷原さんは仰られていて、それに対して早川さんは「そうではないんじゃないか」と仰られているということで。この論点についてお話いただければと思います。
早川: 検察の暴走とか何とかということは、検察の内部にいた人でないと判断はしづらいことだと思います。というのは、何らかの違法行為について違法行為の疑いを持って捜査をし、その捜査の成果が上がらなかったので、次にほかのことをやったと。でもそれが行き過ぎたから、もうそれ以上やってはいけないところで引き返すべきだったのが、組織の決定として引き返せなかったと。こういう風な中身がお分かりの人は「暴走」と言うでしょう。ですけども一般的にわれわれは西松建設について、大久保さんが逮捕されたという事実しか、その時点では分かりかねます。結局、その時点においての検挙された被疑事実というのは何か、それに伴って必要な証拠が出されているかどうか、これだけを判断をして暴走かどうかを考えざるを得ないわけです。
中におられる人は「もうここからは暴走だ」と仰るかも知れません。それから、もしこの大久保氏は起訴されなければ、その逮捕が結局は逮捕すべきじゃなかったということになるかも知れません。ですけども結果的に起訴されました。無罪になれば、ひょっとしてこの逮捕起訴が間違っていたということになるかも分かりません。ですけども既に有罪判決、執行猶予付きの禁固刑判決が出ているということは、裁判所の一つの判断としては、そこまでの判断が出るような証拠があり、それに伴っての捜査が行われたということですから、これは敗戦撤退戦のガダルカナルじゃなくて、検察はよく仕事をしてきたという証拠になってしまうと思うんです。
郷原: 検察の起訴は、一切間違いはないんですか。
早川: いや、あります。それは間違いはあります。
郷原: それじゃ間違いがあるという指摘は、裁判所しか出来ないんですか。
早川: いや、ある程度判断資料が整えば、それは間違いを・・・。
郷原: だって出さないじゃないですか。検察は資料は自分で抱え込んで外には出さない。じゃあ、どうやって批判をするのか。私は内部資料を見たわけではないけども、少なくとも外形的に見た時に先ほど申し上げた解釈、まず政治資金規正法の解釈からして、それはダミーというところに持って行かざるを得ないんだろうけども、ダミー性というのは非常に微妙だったと思います。それは西松建設の内部調査報告書を見ても、何か給料とかボーナスを上乗せして、その部分を実質的に会社から出していたんだと。それがその政治資金の寄付に回っていたんだということを検察は主張していましたけども、西松建設の内部調査の報告書だと、決してそういう関係になってませんよ。どれだけのお金を出すかというのはあくまで任意です。西松建設の内部調査報告書というのも貴重な資料じゃないですか。そういったことも含めてダミー性にも問題がある。しかも政治資金収支報告書の解釈上の問題がある。これを指摘するのは当たり前じゃないですか。私はだから暴走だと言っているんです。
早川: そこを暴走と決めつけるのか、問題があるという風に問題点を指摘するのか、この表現方法の問題もあると思います。
郷原: もう一つ「暴走」と言ったのは、誰しも世の中のコメンテーター・識者がですね「これだけのものであれば絶対、総選挙が近い時期に野党の第一党の党首の秘書を逮捕しないだろう」って皆、口をそろえて言ったわけですよ。「こんなもので、これだけで逮捕するわけないじゃないか」と言ったわけです。おそらく早川さんの周りでも、そういうことを言われた人はいたはずです、平沢勝栄さんだってそうですから。それを実際には、それだけで済ませてしまった。結局、ほかにもっといい犯罪があるはずだということで一生懸命捜査した事実があることは間違いないですよ。たくさんの応援検事を動員して、東北地方のゼネコン担当者とか談合屋、あの人たちを次から次から調べて、ずいぶん昔の高橋(嘉信:元衆院議員)さんが秘書の時代のことまで調べた。そんなことまでやったけども、結局何も出てこなかった。出てくるわけがないということは、私は最初からサンプロ(サンデープロジェクト)に出始めた時から言ってました。出てくる当てもないものを、小さな事実でつかまえて、何とかしてもう少しいい犯罪を引っ張り出そうということで、無理に無理を重ねて、結局何も出来なかった。こういうのを典型的な暴走と言うんじゃないんですか。
早川: 今の検察の中で、どの程度の証拠収集を、どの位の時間をかけて、何人ぐらいでやったのかということについては、私は分かりません。分からないけれども、政治資金規正法違反あるいは公職選挙法違反という非常に茫漠とした闇の世界について、端緒をどこで取るかということが、結果的には政治資金規正法違反ということで、政治と金の流れ、政治資金の流れを透明化しなきゃいけない、そこで出たわけです。
郷原: だからその端緒はいいですよ。その後にもう少し処罰価値のある、ちゃんとした事件に持って行けるという見通しがあったから捕まえたのだろうと誰しも思ったわけですよ。
早川: 誰しも思った人もいるんでしょうけども、でも・・・。
郷原: では早川さんは思われなかったんですね。あれだけの事実で、あれだけのたった2800万円の他人名義の寄付で、野党第一党の党首秘書を捕まえることも全然おかしくない、違和感は何もなかったんですね?
早川: これはあくまで報道で知るだけですけども、われわれは政治献金をお願いするとしても請求書は出しません。割り当てで請求書を出したり、あるいは選挙の手伝いを割り当たせることもないと思います。
郷原: 請求書の話もその当時マスコミが報道している話ですよね。しかも請求書を出す出さないということが、具体的にどういう事実関係のもとで請求書を出していたかということが、その時点ではまだ分からないじゃないですか。それは事件の評価とは直接関係ないですよ。
早川: それは結局、政治家のあるべき姿がそこに垣間見えるからです。というのは、政治資金規正法の改正で、かつては個人の政治団体に対して企業の政治献金が許されていました。それが政治資金規正法をどんどん改正して強化をしたということの中で、政党あるいは政党支部に対しての企業、企業団体の献金しか認めないということにしました。結果的にはその法律改正を受けて、言ってみればその法律の網をくぐるための一つの施策、手段として。
郷原: だからそれは一つの考え方ですよ。それは・・・。
早川: その大きな流れを考えると、それは大きな問題。
郷原: 最初から2800万円の逮捕事実しかなかったのが――2800万円しかなかったのは、そういう政党支部の部分を除外してたんですよね。ところが最後あまりに金額が少ないから、政党支部に対する西松建設の団体からの寄付も一緒にして3500万円にした。結局もうとにかく苦し紛れで起訴に至ったという経過は、どう考えても明らかですよ。
早川: どう考えても明らかかどうかについては、私は必ずしもそう思わないので。あくまでもこれは判決をしっかりと見守るしかないだろうなと思っています。
郷原: 特捜部に極めて甘い裁判所というものを前提にしたら、特捜部の暴走というのはないということになりますね。
早川: どうなんでしょう。本当に特捜部に甘い裁判所というのはあるんですか。
郷原: 甘いです。甘いです。極めて甘いです。
早川: どういうことで甘い、なんですか。
郷原: 刑事事件の弁護、特捜事件の弁護をなされたことあります?
早川: ありません。
郷原: 私は少なくとも特捜事件の捜査に関わったことと、具体的なその特捜事件の弁護に関わった人からたくさん話を聞いてます。
早川: 私は特捜部の事件で有罪判決を受けた人の話はたくさん聞きました。
郷原: 皆納得してますか? 検察の捜査に対して、そして有罪判決に対して皆納得してますか?
早川: いや、皆さん納得していません。
郷原: そうですよね。納得していませんよね。
早川: そういうことです。
■「政治家としての責任」と「被告人としての権利」
亀松: また話はすごい盛り上がっているんですけれども、実は今回の番組は1時間という予定で、もうその1時間があっという間に過ぎてしまうということで、本当に少しだけ延長して番組を閉めたいなと思います。ユーザーの皆さんからの質問を二つ、こちらで読み上げて、お答えいただきたいと思います。
まず一つ目、これは早川さんにお答えいただきたいんですが、福岡県の男性からです。マスコミの報道で「小沢氏は土地購入の4億円について、どうやって稼いだお金なのか説明しないといけないという話を何度か聞いたことがありますが、それはあくまで政治家として有権者に説明した方がいいということであって、法的に裁判所で説明しなければいけないことではないような気がします。小沢氏は裁判でその土地購入に使った4億円をどうやって稼いだのか、その原資について説明しなければいけないのでしょうか?」という質問が来ています。
早川: これは弁護の方針の一つとしてどう考えるかですけども、結果的には、外形的に出処不明だとこういう風に批判されている。それについてずっと黙秘するということになると、裁判上「この人は本当のことを言っていない」と「説明をしていない」という評価になる可能性があるので、これは裁判上はやはり説明した方が得です。説明出来るのであれば、間違いなしに。そういう意味では説明しない方でいいと言っているのは、僕は間違いだろうと思います。それから当然、政治家としては、自分で一般の国民の皆さんから疑念を持たれていることについては、国会の場で本来的に説明を十分すべきであって、それを途中で断ち切ったり、自分の納得出来ないような質問は一切受け付けないのは良くないことだと思います。
亀松: はい、分かりました。
郷原: いや、その4億円が何かいかがわしいお金であるということを、検察が何らかの形で、推認でも何でもいいですよ、どんな薄い証拠でもいいですけども、実証しているのであれば、それを反証しないと説明しないと不利な推定を受けますよというなら分かりますよ。何にも検察はその原資について立証していませんよ。それなのに弁護側がその原資を明らかにしないと裁判上不利になるんですか。
早川: それはおそらくは小沢秘書裁判の判決結果というのが、かなり影響してくるだろうと思うんですね。そこで、その水谷建設からの5000万の件が・・・。
郷原: ちょっと待って下さいよ。
早川: (結果が)既に出ているということからすると、これは当然反論をしておいた方がいいと思います。
郷原: 違う事件を持ち出さないで下さいよ。だって小沢裁判では、水谷建設の裏金なんか全然立証の対象になってませんよ。なんで秘書3人の事件で、全く関連性のない水谷裏金の認定が行われたからといって、それが小沢氏の裁判で、小沢氏に不利に扱われるんですか。そんなこと許されるんですか。
早川: いや、そうじゃなくて出処不明な、説明が不能な、要するに合理的な説明が出来ないお金があったとこう言われるわけです。
郷原: だからそれに対して何かいかがわしいお金だという立証は、この小沢さんの裁判では何もされてないじゃないですか。
早川: これは、これからです。
郷原: え?
早川: これからです。
郷原: 冒頭陳述に何か書いてありますか。小沢さんの冒頭陳述に何か書いてありますか?
亀松: すいません。もう一つ質問がありますので、それを読み上げたいと思います。山形県の男性からです。今度は郷原さんにお答えいただきたいと思うのですが。「仮に小沢さんを有罪にするだけの証拠にならないとしても、一国民の立場から見て、4億円の原資や、4億円を分けて入金したこと、それから4億円を担保に4億円を借り入れたことなど、不自然なことが多いのではないかと思います。それは裁判では解明されないとしても、国会の証人喚問で説明すべきではないでしょうか?」というのが郷原さんに対しての質問です。
郷原: 4億円の出処を明らかにすべきだということを政治家に対して責任として言われるのは、別にそれはいろんな意見があっていいと思います。ですから裁判の結果が4億円のお金については、特に法的には問題はなかったけども、それは別途、政治家として国会の場で明らかにしろということになって証人喚問が行われるというのは、これは別におかしなことじゃないと思います。
ただ、それが同時に行われると、片方で小沢さんの4億円の虚偽記入の裁判が進んでいる最中に、その裁判では黙秘権を行使できる小沢さんが、国会の場では証人尋問に対して黙秘権を行使するというのは非常に嫌な悪い印象を持たれる部分がありますよね。それが被告人として刑事公判に立たされている政治家の権利侵害として問題があるんじゃないかということを私は言ってます。その問題が残るだけだと思うんです。別に証人尋問をやっちゃいかんと言っている訳じゃないですよ。ただ被告人の権利というのはきちんと保証しないといけないんじゃないかということを言っているだけです。
早川: 私はむしろ国会で早めに説明された方が、納得出来るほどに説明していただければ良かったなと思います。
郷原: それは本人のやり方の問題として、それは十分あり得ます。
早川: あり得ますよね。
郷原: 私は「サンデープロジェクト」に出ている頃も、小沢さんは早くこんなゴタゴタ言われる前に、検察がゴチャゴチャ入ってくる前に、説明した方がいいんじゃないかということは散々言っていましたよ。
早川: そうなんです。言うべきです。
郷原: だから、逆にそれを理由にして捜索機関が入ってきて不利な扱いを受けるぐらいだったら、早く説明しちゃえばいいんじゃないかということは言っていました。だからといって今説明しないと、刑事裁判で不利になるぞという考え方はおかしいですよ。
早川: 実際ずっと黙秘を続けている場合、捜査する検察官の立場では「おかしい」という風に普通思っちゃうんじゃないですか。
郷原: それはいろんな場合がありますよ。
早川: いろいろな場合がありますね。
郷原: 例えば自分の自宅で拳銃が見つかった。「それ、どうしたんだ」と聞かれて全部黙秘。そしたら何も言わなければ有罪になってもしょうがないじゃないですか。それをどれだけ疑いについて立証が出来ているかによって、黙秘がどういう意味を持つのかということは違ってくる、当たり前じゃないですか。
早川: そう。全くその通りです。
郷原: 小沢さんの場合、どうなのかということはまた別の問題ですよ。
早川: まだ別問題ですね。
亀松: すみません。本当に時間が無くなってまいりました。ここで(ニコニコ生放送)観ている視聴者、ユーザーの皆さんにアンケートを取ってみたいと思います。大変盛り上がった緊急対談なんですけれども。アンケートの質問を出してもらえますか。質問は「もう一度、郷原氏と早川氏の対談を見たいですか?」です。アンケートのシステム、すぐ結果が出ますので・・・はい、では結果お願いします。「観たい」39%、「いいえ」61%と、「いいえ」が多くなってしまいました。
では、本当に時間がもう無くなってしまったので、議論が尽きないというか、何回も僕がゴングを入れなければいけないような展開で、非常に熱く語っていただいて良かったんじゃないかなと思っています。最後に感想をお聞きしたいんですが、まず早川さんから。このニコニコ自体が初めてだったと思うんですが、いかがでしたでしょうか。
早川: やはりこういうものは、それぞれの立場を明確にしてしっかりと意見交換をすべきであると思います。そういう意味では、このニコニコ生放送で取り上げていただいたことを感謝しております。ありがとうございます。
亀松: そうですか、ありがとうございます。郷原さんお願いします。
郷原: やはりちょっと議論すべきところをもう少し明確にしないとですね。議論がどんどんずれていってしまって(笑)、視聴者の方には少し混乱をさせてしまったような、少し途中で退屈をさせてしまったのかもしれませんね。もうちょっと論点を明確にした方がいいのかもしれないですね。
亀松: 分かりました。その論点の整理等は司会の問題だったりしたのかもしれないと思いますが、また次回機会があればこのような対談、特にはっきりと主張が食い違っている人がこういう形で一緒に本当にひざを付き合せるような形でお話するという対談、それ自体がすごい貴重だと思いますので、また機会をつくりたいと僕は思っております。司会はちょっと「空気」になっておりましたが、それは出来るだけお話を熱く語っていただくということですので。そんな言い訳もして、この番組を終了したいと思います。では、どうもありがとうございました。
郷原・早川: ありがとうございました。
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問題は、法学者のみならず右翼・保守陣営と称される人々・メディアまでもが、小沢氏糾弾という、右翼が最も嫌うはずの人民裁判に熱狂していることであり、左右両陣営の熱狂に後押しされて、裁判所が法をねじ曲げ、人民裁判所と化しつつあることだ。 . . . 本文を読む