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「オウム松本智津夫死刑囚は完全に拘禁反応 治療に専念させ、事件解明を」加賀乙彦氏 医師として自信

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オウム公判終結:あの時…/6止 教祖自白なく真相闇に
 ◇精神科医として松本死刑囚に接見、加賀乙彦さん
 真相が何も分からないまま、松本智津夫(麻原彰晃)死刑囚には「死刑」という結果だけが出た。もっと時間をかけて彼から言質を引き出し、なぜ教養や技術のある精鋭たちが彼の手の内に入って、残酷な殺人事件に引き込まれたのか明らかにする必要があった。それが裁判所の使命なのだが、放棄してしまった。私はこの裁判が終結したとは思っていない。法律的には死刑が確定したが、松本死刑囚の裁判は中途半端に終わってしまい、裁判をしなかったのと同じだ。
 06年、弁護団の依頼で松本死刑囚に東京拘置所で接見した。許された時間は30分だけ。短時間では何も分からないと思うかもしれないが、私には自信があった。医師として、過去に何人もの死刑囚を拘置所で見ているが、松本死刑囚は完全に拘禁反応に陥っていた。何の反応も示さず、一言も発しない。一目で(意識が混濁した)混迷状態だと分かった。裁判を続けることはできないので、停止して治療に専念させるべきだと主張したが、裁判所は「正常」と判断した。
 拘禁反応は環境を変え時間をかけて治療すれば治る病気だ。かつて東京拘置所で彼と同じ症例を4例見たが、投薬などで治すことができた。治療すれば、首謀者である彼の発言を得られた可能性があっただけに残念だ。
 結局、松本死刑囚から何一つ事件についてきちんとした証言が得られないまま裁判は終結した。このまま死刑が執行されれば、真相は永久に闇に葬られてしまう。オウム事件の裁判ほど悲惨な裁判はないと思う。世界的にもまれな大事件を明らかにできないままでは、全世界に司法の弱点を示すことになる。
 なぜ松本死刑囚に多くの若者が引きつけられ、殺人行為までしてしまったのか。信者の手記など、文献をいくら読んでも私には分からない。教祖の自白がなければ、なぜ残酷なことをしたのか解明もされず、遺族も納得できないはずだ。
 「大勢を殺した人間は早く死刑にすべきだ」という国民的な空気にのって、裁判所もひたすら大急ぎで死刑に走ったように感じる。だが、真相が闇の中では「同じような事件を起こさせない」という一番大切な未来への対策が不可能になってしまう。再びオウム真理教のような集団が生まれ、次のサリン事件が起こる可能性も否定できない。形式的には裁判は終わったが、彼らを死に追いやるだけで、肝心な松本死刑囚が発言しないでいる今、あの事件は解決したと思えない。【聞き手・長野宏美】=おわり
 ◇かが・おとひこ
 精神科医として東京拘置所に勤務し、大勢の死刑囚の診察に携わる。上智大教授などを務め、79年から創作活動に専念。医師の経験を基にした作品も多く、死刑囚が刑を執行されるまでを描いた小説「宣告」や、死刑囚との往復書簡集「ある死刑囚との対話」など著書多数。06年に弁護団の依頼で松本智津夫死刑囚に接見し「正常な意識で裁判を遂行できない」と、公判停止と治療を訴えた。82歳。
毎日新聞 2011年11月27日 東京朝刊
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◆オウム裁判:13被告、死刑確定へ 執行可否、次の焦点
 <追跡>
 オウム真理教の一連の事件を巡る公判は21日、元幹部の遠藤誠一被告(51)に対する最高裁判決で終結し、教団元代表の松本智津夫(麻原彰晃)死刑囚(56)ら計13人の死刑判決が確定する。刑事訴訟法の規定に従い法務省は今後、死刑の執行を検討していくとみられるが、松本死刑囚側は精神障害があると主張する。果たして執行に至るのか。その可否が、時期とともに注目される。
 06年に死刑が確定した松本死刑囚は現在、東京拘置所の単独室に身を置く。関係者の話を総合すると、最近はほとんど言葉を発せず時折小声でなにかをつぶやく程度。日中はほぼ正座かあぐら姿で身動きしない。拘置所職員が食事を手伝うこともあったが、今は自分で食べている。家族が拘禁反応の治療が不十分として起こした訴訟の確定記録などによると、01年3月から失禁し、トイレを使ったのは07年に1度あるだけだという。逮捕時の長髪は短く切られ、ひげも落とした。
 風呂や運動を促せば反応がみられるが、家族らの面会には応じていない。関係当局の間では「いろんな見方はあるが、言葉の意味は理解できており、精神障害ではない」として、死刑執行を停止するケースには当たらないとの見解が一般的だ。
 刑訴法は判決確定日から6カ月以内に法相が死刑執行を命じなければならないと定めるが、共犯の被告の裁判や本人の再審請求の期間は6カ月に算入しないとしている。全被告の判決が確定することで「共犯者」というハードルは越えた。ただ、松本死刑囚は2回目となる再審請求審(昨年9月請求、今年5月に東京地裁が棄却)が東京高裁で続いている。他の死刑囚も再審請求の動きが目立つ。
 一方、政府は「6カ月規定」について「違反しても直ちに問題とはならない『訓示規定』にとどまる」との見解だ。00〜09年に執行された死刑囚の判決確定から執行までの平均期間は5年11カ月。
 執行命令は時の法相の姿勢次第という現実もある。執行を命じなかった法相も少なくない。民主党政権下での執行は1回、2人にとどまる。平岡秀夫法相は今月11日の閣議後会見で「個々の事案は、死刑が厳しい重大な罰であることを踏まえ慎重に判断する」と述べるにとどめた。
毎日新聞 2011年11月22日 東京朝刊
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<2006年の記事>
■弁護団が麻原鑑定書公開
 東京高裁からオウム真理教の麻原彰晃被告(50)=本名・松本智津夫、一審死刑判決=の精神鑑定の依頼を受けた精神科医が「訴訟能力あり」とする鑑定書を提出したことをめぐり、麻原被告の弁護団は二十一日、鑑定書の詳細を公開した。弁護側は鑑定結果に反発し、来月十五日までに反論書を高裁に提出する方針。
 鑑定書によると、麻原被告の拘禁反応は平成八年に行われた教団元幹部の井上嘉浩被告(36)=二審死刑判決、上告中=の証人尋問をきっかけに表れたが、「精神障害的要素はなく、最初から裁判上の利害の認知から発していた」という。
 麻原被告の現在の状態について「会話が通じることはほとんどない」としているが、入浴時に麻原被告が東京拘置所の職員の指示に従っていることに着目。「相互に意思疎通が生じている」と分析している。
 これらを踏まえ、「被告人がものを言う能力がないという根拠はどこにもなく、虚偽性、逃避願望が強い」と結論付けている。
 弁護団は二十日に鑑定書の全文を入手し、「(鑑定書を)公開することにより、弁護士が立ち会えずに行われた鑑定の不公正を是正したい」としている。麻原被告の弁護団は二人だったが、今月になって新たに三人が選任され、計五人になっている。=産経新聞2006年 2月21日16時21分更新
■裁判の遂行は不可能 加賀氏が松本被告と面会
 オウム真理教松本智津夫被告(50)=教祖名麻原彰晃、1審死刑=の弁護団の依頼で、精神科医で作家の加賀乙彦氏(本名・小木貞孝)が24日、東京拘置所で松本被告と面会し「外界に対する反応がみられない混迷状態で、裁判を遂行させることは不可能だ」と述べた。
 加賀氏は24日午後、約30分間にわたり弁護士とともに面会。松本被告は加賀氏の問い掛けに無反応で、足や胸を手でさすり続けていたという。弁護団の依頼で松本被告と面会した精神科医は6人目。 =共同通信2006年 2月24日20時56分更新
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  『悪魔のささやき』集英社新書
小学生殺人、放火、村上ファンドetc.…人はなぜ思わぬ悪事に手を染めてしまうのか!?
精神科医として、作家として日本人の心を見つめてきた著者による緊急提言! 人は意識と無意識の間の、ふわふわとした心理状態にあるときに、犯罪を犯したり、自殺をしようとしたり、扇動されて一斉に同じ行動に走ってしまったりする。その実行への後押しをするのが、「自分ではない者の意志」のような力、すなわち「悪魔のささやき」である―。精神科医、心理学者、そして作家として半世紀以上にわたり日本人の心を見つめてきた著者が、戦前の軍国主義、六〇年代の学園闘争、オウム真理教事件、世間を震撼させた殺人事件など数々の実例をもとに、その正体を分析。拝金主義に翻弄され、想像を超えた凶悪な犯罪が次々と起きる現代日本の危うい状況に、警鐘を鳴らす。
加賀乙彦(かが おとひこ)
 一九二九年、東京生まれ。本名・小木貞孝。東京大学医学部医学科卒業。東京拘置所医務技官を務めた後、精神医学および犯罪学研究のためフランス留学。
帰国後、東京医科歯科大学助教授、上智大学教授を歴任。日本芸術院会員。
『小説家が読むドストエフスキー』(集英社新書)の他、『フランドルの冬』『宣告』『湿原』『永遠の都』『雲の都(第一部 広場、第二部 時計台)』など著書多数。 
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『悪魔のささやき』『手毬』2006-08-25 | 読書


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