小沢元代表、法廷:「先生の手わずらわせず」 大久保元秘書、自身の役割説明
資金管理団体「陸山会」の土地購入を巡り、政治資金規正法違反(虚偽記載)で強制起訴された民主党元代表、小沢一郎被告(69)の第6回公判が1日、東京地裁(大善文男裁判長)であり、前日に続いて証人出廷した元公設第1秘書の大久保隆規被告(50)=1審有罪、控訴中=に弁護側が反対尋問を行った。
東京の秘書のまとめ役だったという大久保元秘書は「小沢先生の手をわずらわせることなくすることが本分だと思っていた」と自身の役割を説明。「事務的なことを小沢さんに報告していたのか」との質問には「全くなかった。事務担当秘書が報告すれば済むことだった」と述べ、自身の関与を否定した。
西松建設の違法献金事件で逮捕された09年3月時点で既に会計責任者ではなかったが、供述調書に「陸山会の会計責任者」と記述されたことも問われた。大久保元秘書は「その時は忘れていた。交代を気にとめていなかった」と述べ、形式的な責任者だったことを強調した。【和田武士】毎日新聞 2011年12月1日 東京夕刊
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小沢一郎氏裁判 第6回公判
2011.12.1 産経ニュース
(10:00〜) 《弁護側反対尋問》証人:会計責任者だった、大久保隆規元秘書
弁護人「大久保さんの現在の職業は?」
証人「会社役員です」
〈中略〉
弁護人「その後、大久保さんは議員会館の責任者になっていますよね。いつですか」
証人「平成12年の6月とか7月だったと思います」
弁護人「小沢さんのところに来て半年ほどで、議員会館の事務所責任者になっていますね。どうしてですか」
証人「東京事務所の責任者の先輩と、サポートしていた先輩ら3人が選挙に出ましたので」
弁護人「残った人から大久保さんに決まったのはどうしてですか」
証人「私が年齢が上だったということと、事務所に入って浅かったですが、自身の地方政治の若干の経験を買われたと思います」
弁護人「秘書の取りまとめ役と議員会館の事務所責任者はイコールですか」
証人「(東京の事務所には議員会館の事務所のほかに)赤坂の個人事務所もありますが、(秘書は)どちらかに配属されます。(取りまとめ役の秘書は)議員会館はもちろん、赤坂の秘書を含めて、仕事上ではなく、人間関係をまとめているようなものです」
《大久保元秘書は、仕事の取りまとめはしていないことを強調する》
弁護人「では、取りまとめ役はどのような仕事がありますか」
証人「週末の(秘書の)休みを決めることや、年末年始、お盆の長期の各人の休みの取り方の調整がひとつあります。あとは、各地で選挙がある際、派遣する秘書の人選を決め、指示を出します」
弁護人「人事業務をまとめることですね」
証人「はい」
弁護人「(前任から)会計責任者の業務に関する引き継ぎはありましたか」
証人「それは特にありませんでした」
弁護人「会計責任者に就任して、業務内容に変化はありましたか」
証人「特別ありませんでした」
弁護人「では、陸山会の会計事務はだれが担当していましたか」
証人「(赤坂の)個人事務所で働いている秘書がおこなっていました」
弁護人「盛岡に異動後も会計責任者を続けておられますね。どうしてですか」
証人「特別、気にもとめていなかったと思います。(前任の)会計責任者は選挙に出馬し、事務所を離れられましたが、私は辞めたわけではない。あまり気にしなかったです」
弁護人「平成21年3月、いわゆる西松事件で、大久保さんは取り調べを受けていますね。平成21年3月6日付の調書では、大久保さんは、自身のことを『陸山会の会計責任者です』と説明しています。こう述べたのですか」
証人「はい」
弁護人「この時期、本当に会計責任者だったのですか」
証人「いいえ。その調書のときは忘れていましたが、(別の秘書に)代わっていたことを後で思いだしました」
弁護人「(会計責任者では)なくなっているのに、会計責任者と答えたのはどうしてですか」
証人「(代わっていたことも)気にもとめていないほどの認識しか(会計責任者には)なかった。うっかり忘れて対応してしまいました」
《弁護側はこの場のやり取りに大久保元秘書、小沢被告が関与していなかったことを強調していく構えだ》
弁護人「顔合わせには誰が出席していましたか」
証人「東京勤務の秘書です。集合して顔を合わせあいさつし、出かけていきます」
弁護人「時間はいかがですか」
証人「何もなければすぐに出ていきます。短ければ1、2分のことも。ミーティングというものでもないので、長くても5分から10分くらいです」
弁護人「大久保さんにとって、小沢さんと直接話をする機会はほかになかったんですか」
証人「何かあれば打ち合わせしますが、それ以外にもお諮りすることがあれば先生の随行の人に連絡をつないでもらったり、先生が赤坂の個人事務所に入るとき、空き時間に訪ねたり。朝だけでもありません」
証人「スケジュールの確認です。議員会館担当の女性秘書がスケジュール表を持って『今日はこう』と先生に確認していただいたり、後日の予定について出欠の確認をとったり、というのがメーンです」
弁護人「陳情について、小沢さんに報告していましたか」
証人「いえ、私の裁量で判断していました。よほどのことであれば報告しなければならないが、例えば地元自治体の陳情であれば、『なるべく地元の要望に応えるように』と先生から言われていたので、それに基づいて自分なりに工夫していました」
弁護人「朝の集まりで、大久保さんが政治資金団体に関する事務的な事柄を報告することはありましたか」
証人「そのようなことは全くありませんでした」
弁護人「なぜですか」
証人「その担当ではないので。(会計)担当秘書の石川氏、池田氏が、先生が個人事務所に行った折にやれば済む、その程度の話です」
弁護人「当時、政治家の小沢先生は何に関心がありましたか」
証人「自由党と民主党の交流(合併問題)があり、“小泉劇場”も続いていて、何とか本当の改革を実現しなければと。大きな仕事に集中して取り組み、日本の時間の間に合ううちに大きな改革を成し遂げることを念じていた」
弁護人「収支報告書にはどの程度関心を払われるべきでしたか」
証人「私の認識では、担当(石川議員、池田元秘書)が間違えているわけがない、粛々と滞りなく作業が進んでいるんだろうな、と思っていました」
弁護人「4区画も取得した理由はなんですか」
証人「その広さがあれば、結婚した秘書だけでなく、独身用の寮もさらに建てられます。先々のことも考えました」
弁護人「秘書が増えるかもしれないという考えがあったんですか」
証人「個人的には、小沢先生を慕い政治を志してくる若者が、事務所を巣立って国会議員になれば、小沢先生を支えるようになる、と。“直系”が増えることが小沢先生の政治力を安定させる。さらに巣立っていく優秀な若者を増やしていければいい、と考えていました」
弁護人「小沢さんの秘書が自宅近くに住むメリットは?」
証人「『大きな家族』というか、バラバラに住むより、何かあればすぐ先生に会える、事務所全員が心をひとつにして、というのがいいな、と感じていました」
弁護人「(秘書らの)家族ぐるみということか」
証人「仕事のメリットではないが、私も夏休みなど、家族を小沢先生にご紹介、お会いしてもらい、記念写真を撮ったりしました。中堅どころ(の秘書)が結婚して子供が生まれ、先生に名前をつけてもらったり、記念写真を撮ってもらって、それを子供が宝物にするとか。とてもうれしいことですから」
弁護人「秘書寮について何か問題はありましたか」
証人「女性秘書2人で共同生活をしていましたので、プライバシーが確保されない。往々にして人間関係のあまりよくない者同士でも住まないといけないとなると生活しにくい」
弁護人「3つの秘書寮は1号邸、2号邸、3号邸と呼んでいた?」
証人「はい」
弁護人「小沢さんの奥様の所有する物件と知っていましたか」
証人「はい」
弁護人「陸山会が有料で借りて住んでいると認識していた?」
証人「わかりませんでした」
弁護人「どのように認識していましたか」
証人「奥様の建物を先生の活動のために使っていると思っていました」
弁護人「(平成16年ごろ)一般の人から小沢先生の秘書になりたいという申し出がありましたね」
証人「はい」
弁護人「申し出があった場合に、どうしましたか」
証人「私が秘書が必要であるか、適性があるかどうか、受け入れが可能であるかどうかを考えました」
弁護人「石川さんから『(世田谷区深沢の)売買契約を延期したい』と聞いたとき、どのように思いましたか」
証人「具体的なことをはっきり覚えているわけではありませんが、民主党代表選挙が来年あるとか、解散総選挙が近いとか、どちらかの選挙を想定していたと思っていました」
弁護人「石川さんをどのように評価していますか」
証人「私は地方議員の経験はありますし、多少の知識もあります。石川は先に入門して小沢先生の薫陶を受けていましたし、国政を目指していて国政にかかわる知識は私が全く太刀打ちできない。本当に勉強になるなと思っていましたし、その一面を評価していました」
弁護人「昨日は石川さんに事務的仕事を任せていると言っていたが、上司と部下(の関係)とは違うのですか」
証人「上司、部下ではない。同志というか、お互いに事務所の仕事を頑張って、小沢先生に大きな仕事をしてもらいたいと思っていました」
弁護人「(平成16年の)収支報告書について、昨日は宣誓書に署名、捺印するのが『うっすらとわかっていた』と発言したのはどういうことか」
証人「明確に宣誓書があって、会計責任者が署名、捺印するというのが全くわからなかった。署名、捺印するところがあるんだろうなとは思っていました」
弁護人「西松事件の際に、平成21年3月6日の検察官調書では宣誓書について『自分で署名、押印したのは間違いない』とありますが、覚えていますか」
証人「はい」
弁護人「しかし21年3月15日の検察官調書では『代書してもらったこともあったかもしれない』となっています。なぜですか」
証人「3月に任意の事情聴取のために出頭したら、ほどなく逮捕されてしまった。この先いったいどんなことになるのだろうと考え、この事件を広げたくないと。自分のところだけで終わらせたいと。会計責任者らしく振る舞うようにした」
弁護人「最初の逮捕はいつですか」
証人「平成21年3月3日のことでした」
弁護人「どのような事件で逮捕されましたか」
証人「いわゆる西松事件です」
弁護人「逮捕したのは東京地検特捜部ですか」
証人「はい」
弁護人「どんな事件ですか」
証人「西松建設から政治献金を受けたのに、記載をしなかったという罪に問われました」
弁護人「西松建設から受けたとされたものはどこから受けたものですか」
証人「新政治問題研究会と未来産業研究会という政治団体からいただいたご寄付でしたが、それが西松建設からの献金という疑いを受けました」
弁護人「大久保さんは、自分が捜査対象だと予測していましたか」
証人「何のものか分からないから行って聞いてみようという軽い気持ちでした」
弁護人「逮捕され、どう感じましたか」
証人「何のことか、どうして逮捕されるのか、憤りを感じました」
弁護人「否認しましたか」
証人「否認しました」
弁護人「当時の小沢さんの役職は何でしたか」
証人「民主党の代表でした」
弁護人「当時の政治情勢はいかがでしたか」
証人「民主党の代表として、いよいよ政権交代が現実となる期待感と、当時の政権への不信感が高まっていました。コツコツやっていけば、いずれ政権交代が実現し、小沢先生の政治改革が実現するのを楽しみにしておりました」
弁護人「このタイミングでの逮捕はどう思いましたか」
証人「謀略だと思いました」
証人「その時に、そういった罪で逮捕されたのは、あなただけでしたか」
弁護人「同じようなことをしている議員もいるということでしたが、私だけ逮捕されました」
《東京拘置所の独居房で》
弁護人「どういう様子でしたか」
証人「畳が3枚あって、奥に板の間1枚、トイレと簡単な洗面所コーナーがありました」
弁護人「入ってみてどうでしたか」
証人「トイレと手洗いが狭い空間にあって、息苦しい感じを覚えました。トイレと一緒に生活や就寝することは日常にはないことなので、気持ちの上で慣れるのがしんどかったです」
弁護人「食事は?」
証人「独居房の中でしました」
弁護人「どういう気持ちでしたか」
証人「情けない。外の景色も見えない。非常に抑圧された気持ちで、早く外に出たいと毎日思っていました」 《5月26日に保釈された》
弁護人「どんな気持ちでしたか」
証人「たぶん外に出たら出たで大変だろうと想像したが、それでも太陽の下で暮らせるのでホッとしました」
弁護人「陸山会事件について呼び出しを受けたのはいつですか」
証人「12月に裁判が始まって、裁判に集中していたときです。年の瀬も迫ってきたときに事情聴取の話が来ました。裁判で手いっぱいだったのですぐ応じなくて(翌年の)1月になってから応じました」
弁護人「この事件が、いずれこのような裁判になるとは思っていましたか」
証人「いわゆる期ずれの問題と報道でもあったので、最悪でも略式起訴、選挙管理委員会に訂正を求められるくらいで、まったく逮捕や事件になるとは思いませんでした」
弁護人「例えば、本件の土地について、あなたが見つけてきたなどの話を(検事に)したのですか」
証人「なぜ(土地が)必要だったのかなど、私がかかわった部分の話をしました」
弁護人「収支報告書の記載については、どうでしたか」
証人「(収支報告書の記載については)実はまったく分かっていませんでした」
弁護人「検事にその話はしましたか」
証人「何回もしました」
弁護人「それについて、検事はどんな様子でしたか」
証人「困ったような表情をしていました」
弁護人「あなたはそれをどう理解しました」
証人「整合性が取れない調書を作ることになるので困ったという印象です」
弁護人「調書はこの日は作られたのですか」
証人「何らかのものは作らねばならないというので作成されました」
弁護人「内容は?」
証人「『(収支報告書の記載について)見逃したとしか言いようがありません』という表現になっているかと思います」
弁護人「どうしてこういう内容の調書が作られたのですか」
証人「取り調べの最後の方になり、いよいよ調書を作成せねばならない段階になっておもむろに『見落としたとしか言いようがない』。これでどうだ、と話をされて…。そういう表現であれば、実際のところと(検察側の作成した調書との)間を取るような表現になると思い、それであれば何とか自分の裁判にもつじつまがあわせられるのではと思い提案に乗りました」
弁護人「その時点で逮捕は予測していましたか」
証人「まったく。これで自分はこのことから解放されたと思っていました」
弁護人「なぜ?」
証人「土地を探すということから先は、本当に知らないと繰り返し述べていたので、まさか逮捕にまで至るとは夢にも思いませんでした」
《陸山会事件で大久保元秘書が逮捕された平成22年1月16日前後》
弁護人「この日は、どういうタイミングなのですか」
証人「私の(西松建設事件の)裁判が、1月13日か14日にありました。それで検察側の証人として西松建設の担当部長が出廷され、やりとりの中で本当のことを話してくれました。検察にとっては大きく不利な証言でした。部長の勇気、正義を感じ入り、小躍りしながら新幹線に乗って自宅のある釜石市に戻りました」
証人「ところが、家内が電話に出ないと思うと、裁判の後に私の自宅が家宅捜索されていたのです。何ということが起きているんだとびっくりしました。その日は家に戻れず、知人の家に泊まりました」
証人「14日だったか、15日夜だったか、電話で私の逮捕状が出て特捜部が私の身柄確保に向かったと。衝撃的なことが起きたと。裁判でいい話が出たと思ったら、今度はこうかよと。強い憤りを感じました」
弁護人「(検察関係者と)東京に移動する間はどんな様子でしたか」
証人「自宅に大勢のマスコミが集まり、駅のホームなど長い間ずいぶんカメラに追いかけられました。何ともいえないやるせない気持ちでいっぱいでした。別の事件で、潜伏先から東京に連行される映像が流れることありますが、自分もそういうふうに映っているのかなと」
《再逮捕後の取り調べ》
弁護人「否認しました?」
証人「はい。(取り調べた)検事には『私には分からない』と話しました」
弁護人「(逮捕直後の)検事の取り調べは1月21日午前までですが、取り調べの検事が変わるというような話はありましたか」
証人「(検事が変わる)前日か前々日あたりからほのめかされたと思います。特捜部の見立てがあり、それに沿った形で取り調べを受けます。石川氏も池田氏も逮捕されていたので、私は真実を話しました」
証人「検事の取り調べとは相いれないので、平行線のまま何日も過ごしました。すると、『もっと怖い検事がくるかもしれない』と話されました」
(13:30〜)
弁護人「検事から『もっと怖い検事が来る』といわれ、どう思いましたか」
証人「『なぜ検事が交代しなくてはいけないのか』と思いました」
弁護人「なぜか検事に尋ねましたか」
証人「はい。調書が全くできあがっていないからと言われました。私は真実を話すと気持ちを切り替えていたので。どなたが来ても真実は変わらないので不思議な気持ちになりました」
弁護人「検事さんが交代したのはいつですか」
証人「(平成22年1月)21日の午前中です」
弁護人「新しく来た検事は誰ですか」
証人「前田検事さんでした」
弁護人「東京拘置所の取調室で初めて会いましたね」
証人「はい、そうです」
弁護人「前田元検事とどんなことを話しましたか」
証人「『あなた事件をどうしたい』と聞かれました」
弁護人「取り調べが前田元検事に変わったことをどう思いましたか」
証人「大阪から来たことで何かあると感じた。『何が何でも立件するぞ』という意識を感じた」
弁護人「色んな事件を担当している人をみてどう思いましたか」
証人「大阪のキャップがわざわざ担当しているので『何かやられる』というのを強く感じた。ホリエモンを逮捕したのは捜査に非協力的だったと話したり、逆らうと何をされるかわからない恐怖を感じた」
弁護人「取り調べで何か他にどんなことを言われましたか」
証人「『会計責任者のあなたが話を認めないと、小沢先生がどうなるか分からないよ』といわれた。指示に従って協力しないとと思った」
弁護人「大久保さんは身に覚えのないことで勾留されたのですね」
証人「はい」
弁護人「なのに小沢さんが大丈夫となぜ思わなかった」
証人「ホリエモンもこうできるという話もされたし検事総長の指示で(取り調べに)来ていると言っているので、(検察上層部と)繋がっているのではと思った。そのような危機感を強く感じた」
弁護人「(前田元検事は)弁護人について何か説明しましたか」
証人「ヤメ検なので弁護士としての交渉は一切できない。弁護士として信頼するとあなたに不利になっていくというような発言もありました」
弁護人「取り調べのときは検察事務官を同席してましたか」
証人「だいたい2人でした」
弁護人「事務官はいつ戻るのですか」
証人「調べが終わるとき、署名、捺印するときに呼ばれていました」
証人「それまでは検察官が話して、それを事務官が打つやり方でした。前田検事さんになってからは、自身のノートパソコンを持ち込み、自分で打ち込んでいきました」
弁護人「打ち込み画面は見えましたか」
証人「全く見えません」
弁護人「印象に残っていることはありますか」
証人「体も大きめの方で、ノートパソコンは比較的小さくて、窮屈そうな指先で打ち込んでいました。身ぶりをつけながら『ここで大久保さん登場!』とか言っていた。何かやっているな、と思いました」
弁護人「前田検事が自分を『作家みたい』とも話していたんですか」
証人「『まるで作家みたい』あるいは『作家の時間』と。うまく書けたときは、雑談で著作の話をしていたこともあって、『司馬遼太郎みたいなもんだ』と言っていました」
弁護人「その間、どう思っていましたか」
証人「調書がどうできあがるのかな、と。手持ちぶさたなので、深沢(寮)のレイアウトを書いてください、などといわれたり。前田検事は作成に没頭していて、こちらから話しかけたりできないようにするためだったのかな」
弁護人「23日、『私の報告・了承があったから収支報告書が作成された』という内容の調書に署名していますね」
証人「小沢先生への聴取が23日にありました。『その前に意思表示しないと家宅捜索、小沢先生自身への逮捕に広がっていく、あなたの決断一つだ』という話が(前田検事から)ありました」
弁護人「署名に応じたのは何時ころですか」
証人「朝に弁護士の接見があり、私は応じる、と弁護士に一方的に伝えた。先生の聴取は夕方、夜だったようなので、時間的に判断して午前中に応じました」
証人「前田検事は『(小沢さんが)われわれを欺こうとしている』『小沢さんはどうなるかわからんよ』と。せめて自分が聴取に応じていくことで事件の広がりを食い止めなければ、という気持ちを強めました」
弁護人「小沢さんは事件と関係ないから大丈夫、とは思わなかったんですか」
証人「何が事件なのか。西松建設事件でもうちだけ、私だけやられた。何かの陰謀なのか、立件された。検察に何をされるかわからない、どんなことをされてもおかしくない、という思いを強めました」
弁護人「23日、弁護士の接見はどのくらいの時間でしたか」
証人「20分とか30分とか、短い時間でした」
弁護人「やり取りは」
証人「先生方はよく考えて本当のことを言い続けなければ、とその時に限らず励ましてくれました。しかし、そうは言っても中(取り調べ)の状況は外の先生には分からないし、細かく説明もできない。検事とのやり取りが圧倒的に多く、私はすでに“マインドコントロール”されているところもありました。弁護士の先生方の話だけ聞いて立ち向かっていけるのか。(弁護士を)信用しないというか、そうなっていました」
弁護人「当時の精神状態はどうでしたか」
証人「1度目の逮捕でも約3カ月勾留(こうりゅう)生活を送りました。頑張ることで3回、4回と逮捕されるのも嫌だった。(検察が)やりたい放題やるんだから、やらせてやれ、という気持ち。弁護士がなんと言おうと調書に応じることが小沢先生を守り、日本政治を守ることになる、という気負った感情がありました」
弁護人「弁護士には落ち着いて話ができましたか」
証人「精神的なストレスもあり、『(石川・池田両元秘書への事情聴取について)中ではもっと話が進んでいる』と思わず興奮気味に話しました」
弁護人「調書に署名・押印することについては伝えましたか」
証人「これ以上、3人以上逮捕者を広げないため、会計責任者として認めるようにしたい、と言いました」
弁護人「弁護士からは、石川さん、池田さんの聴取の状況についても伝えられていたんですよね」
証人「石川氏、池田氏がこう言っているという先生方の話は、どうも遅れているな、と感じました。ほとんど状況を知らないんじゃないか。石川氏、池田氏は、実際には弁護士に聴取状況の本当のことを話していないんじゃないか、と。全く当てにならないと思うようになりました」
弁護人「なぜ石川さん、池田さんを信じられなくなったんですか」
証人「私も受けていた圧力を想像しました。何しろ2週間、ずっと検事と過ごしている。マインドコントロールの中に入るというか、検事の話を信用するようになりました」
弁護人「『潮目を変える』という言葉を使いましたか」
証人「確かに私は港町出身ですが、船乗りではありません。前田検事が私の身上経歴について読み込むうちに思いついたのではないでしょうか」
弁護人「(事実が)ないにもかかわらず作られたんですか」
証人「前田検事さんがご自身で調書を作って、だいたいできたところで印刷をして、『これでどうだ』と聞いきた」
証人「『(石川、池田両元秘書が取り調べで)本当にこんなこと言ってるんですか』と聞いても、『大久保さん、本当にこう言ってるんだから』といわれた」
証人「石川氏や池田氏が厳しい取り調べをされたらいやだなと思って、石川氏がそういっているならいいかと(調書に署名した)」
弁護人「疑いを持たなかったのですか」
証人「きっとそうなっているんだろうと、前田さんからのお話を受け入れました」
弁護人「どう思いましたか」
証人「さすが大物検事だと思いました。実力があるからこういうことも通るんだなと思いました」
《検察官役の指定弁護士の質問》
《指定弁護士は、土地購入の目的など、これまでの大久保元秘書の証言について再度確認した》
指定弁護士「昨日と今日のお話ですと、秘書寮を建設するのは、秘書の人数を増やす予定だったということですか」
証人「はい。私自身の気持ちにありました」
指定弁護士「(小沢)被告の秘書を増やすのはあなたの仕事ですか」
証人「東京の取りまとめ役だったので有能な人材が入門を希望していれば、会って(採用するのが)、私の裁量だと思っていました」
指定弁護士「先ほど、収支報告書をFAXで受け取るのは無理だと説明していましたが…」
証人「はい。実際にやりとりした記憶はまったくありません」
指定弁護士「裁判に至るまで収支報告書を見たことはないのですか」
証人「見たことはありません」
指定弁護士「裁判ではありますか」
証人「裁判ではあります」
指定弁護士「収支報告書の場合は表紙があり、2枚目に表があります。見ましたか」
証人「よく注意してみたことはありませんでした」
指定弁護士「1枚だけ送ってもらうこともできたのではないですか。送ってもらったことはありませんか」
証人「まったくありません」
指定弁護士「認めないと大変なことになると言われたとのことですが、どういう可能性があると思いましたか」
証人「議員会館(の事務所)や先生の家の家宅捜索にも発展していくのかと危惧しました」
指定弁護士「あなたは危険を避けるために認めたのですか」
証人「はい、そうです」
指定弁護士「1月23日に調書を作成したというわけですが、23日の夜に前田(元)検事は小沢さんの記者会見の様子を見ていて、あなたに何かいいましたか」
証人「はい」
指定弁護士「前田(元)検事は『小沢さんは嘘つきだ』といっていた?」
証人「そのような印象でした」
指定弁護士「これではもっと捜査をするということになりますが、どういうことを話されたか覚えていますか」
証人「『この先どうなるのかなあ』と、状況が悪くなっていくような印象の言葉を話されたと思います」
指定弁護士「あなた自身が認めることで事件を広がらぬようにしようと思ったといっていましたが、小沢さんにまで事件が広がるなら認める意味はなくなったのではないですか」
証人「むしろ私が認めなければ、いっそう悪くなると感じました」
指定弁護士「あなたは陸山会の年ごとの収支の状況を、(元秘書の)石川(知裕衆院議員議員=1審有罪、控訴中)氏や池田(光智元秘書=同)氏から報告を受けていましたか」
証人「受けていません」
指定弁護士「まったく?」
証人「まったく受けていませんでした」
指定弁護士「冒頭陳述で、あなたの弁護人があなた自身の公判で、石川氏から年ごとの概括的な報告を受けていたと指摘しているが、そうではないのですか」
証人「覚えていません」
指定弁護士「冒頭陳述書を出すときにご覧になられなかった?」
証人「よく読んでいません」
指定弁護士「確認した上でその表現を書いたわけではない?」
証人「要するにほとんど報告を受けていないということです」
指定弁護士「私は『まったく報告を受けていないのか』と聞いたのです」
証人「今はほとんどと訂正しましたが、当時から私はまったくという認識で、報告を受けていなかったと判断しました」
指定弁護士「平成21年3月6日、自分が報告書の内容をチェックするということを認めたといっていました。虚偽の記載であることを調書の上では認めていたのですね」
証人「はい」
指定弁護士「なぜ、うその調書を署名・押印したのですか」
証人「自分だけで事件を終えたかったからです」
指定弁護士「あなたが起訴された後、小沢さんは民主党代表の座を追われたのですね」
証人「追われたというか、高度な政治的判断です。そういう陰謀が動いている」
指定弁護士「陰謀に口実を与えたのは、あなたの起訴ではなかったのですか」
証人「事件そのものが陰謀なのです」
指定弁護士「取り調べで、16年の収支報告書に虚偽記載があることを認めましたね」
証人「どの部分の話しなのか…。全文を記憶しているわけではないので」
指定弁護士「小沢先生からの4億円を未記載だったことや、不動産のことについてです」
証人「私は西松建設をめぐる裁判が始まり、そちらに集中していた時期でした。混乱もしていたので、早く取り調べを終わらせ、自分の裁判に集中したかった。記憶を呼び起こさないで、適当に対応してしまった」
《大久保元秘書が再び逮捕された直前に作成された1月5日の調書》
指定弁護士「あなたが収支報告書をチェックして見落としたという趣旨の話(供述)が出てきますね」
証人「はい」
指定弁護士「水谷建設からの献金と小沢氏の共謀について認めましたか」
証人「(それは)認めていません」
指定弁護士「前田検事の(威圧があったとされる)取り調べで、どうして認めないで済んだのですか」
証人「…」
指定弁護士「片方(虚偽記載)を認め、もう片方(水谷建設からの献金と小沢氏の関与)を認めなかった理由は?」
証人「一切を認めると大変なことになると思いました。これ以上、影響の広がりを避けたいと判断しました」
証人「さっきからいわれていますが、それらのことは今回の裁判で何ら争いの事実になっていない。これ以上の答えは差し控えさせてもらいます!」
指定弁護士「この裁判の争点を学習してきたのですか」
証人「学習と言うほどでは。どういう内容かは弁護人から聞いています」
指定弁護士「陸山会は平成15年に仙台と盛岡でも物件を購入していますが、なぜこの時期に購入したのですか」
証人「盛岡は岩手県北。自民党の基盤でした。何としても民主党の国会議員を誕生させたいということで活動の拠点として必要でした。仙台についても、小沢氏の支援団体のスペースが必要になったのです」
指定弁護士「本件土地購入にあたり(秘書寮の)1、2号邸にあなた方、男性秘書が住んで、女性秘書が3号邸に住んでいた。ただ、女性は人間関係に問題があり、男性は結婚話があった。だから(秘書寮の用地として)購入したということですね」
証人「はい」
指定弁護士「男性4人はずっと秘書をされる予定だったのですか」
証人「いつまでかは個人個人の考えです」
指定弁護士「主たる目的は(国会議員などに当選して)自立することですよね」
証人「そういう方が多くいらっしゃいます」
指定弁護士「そうでない方は、どういう方がいますか」
証人「地元で勤務をしている秘書などです」
指定弁護士「ああ、(岩手県)水沢(市の事務所)ね。東京で勤務している人はどうですか」
証人「そういう(政治家)志望を持っていると思います」
指定弁護士「男性秘書4人のうち現在も残っている方はいますか」
証人「1人います」
指定弁護士「女性秘書が住んでいて人間関係に問題があった。男性秘書には結婚話があった。ただ、それだけで政治団体が4億円の物件を購入するのは費用に合わないのではないのですか」
証人「当時はそういう考え方はなかった」
指定弁護士「女性についてはワンルームマンションを借りようとかは考えませんでしたか」
証人「その当時はそう思いませんでした」
指定弁護士「陸山会で購入した不動産を将来的にどうしようと考えていたのですか」
証人「将来は考えていませんでした」
指定弁護士「3億5千万円で購入した土地も将来的には考えていない」
証人「はい。私が(秘書の)束ね役をやっているときは、そういう認識はなかった」
指定弁護士「一般的に政党が寄付をしたり資金を支出した場合、法に触れて罰せられることはご存じですよね」
証人「はい」
指定弁護士「陸山会で全く会計を知らなくていいと思ったというのは本当ですか」
証人「担当の秘書がいましたので、そちらでやればいいと」
《ここで弁護団から裁判長に異議申し立て》
弁護人「反対尋問の再尋問の範囲を超えている。主尋問でも繰り返している」
裁判長「すでに出ていることもあるので簡潔に。異議は棄却します」
裁判官「平成11年に住み込みで秘書になってから会計の仕事をやったことはありますか」
証人「ありませんでした」
裁判官「12年に会計責任者を担当したときにはどうしましたか」
証人「まとめ役ということでしたので」
裁判官「昨日から今日まであなたは『与えられた職務を頑張りたい』と言っているが、会計責任者についてはどうなのか」
証人「議員会館の仕事を頑張るということで、会計責任者を含めてということではない」
裁判官「1月23日に調書に応じる前の、前田検事の言動を思い出せますか」
証人「『小沢先生が事情聴取される前に認めないと、われわれの捜査の手が広がっていくと思う』という、そのようなニュアンスでした。その中に、議員会館事務所の家宅捜索の話もありました」
裁判官「そういうあなたの解釈ですか? それとも前田検事の発言ですか」
証人「『議員会館の家宅捜索』という言葉はありました」
裁判官「逆に、認めれば捜査が広がらない、という話はありましたか」
証人「前田検事は『あなたは事件をどうしたい』というところから聞いてきたので、認めれば広がらないという印象を持ちました」
裁判官「約束ではない?」
証人「明確にしあってはいません」
裁判官「あなたが忖度した部分もありますか」
証人「はい、そう思います」
裁判官「細かく正確に覚えていないこともあって、『ニュアンス』『趣旨』という言葉になるんですかね」
証人「はい、そうです」
裁判官「会計責任者は法律で定められ、当然やるべき手続きがあることは漠然とは認識していたと思いますが…。違反があれば処罰の可能性もわかっていたはずですよね。前任や、他の事務所の会計責任者から聞くこともなかったのはどうしてですか」
証人「私は東京の取りまとめ役で、会計責任者職は象徴的な存在と思っていた。実務はスタッフがやっているもので、処理に問題があるとは思いませんでした」
裁判官「収支報告書の宣誓書について、内容も確認せず署名・押印を他人に任せていますが」
証人「他人ではなく、実務に任せていました」
裁判官「そのことを(小沢)被告人は認識していましたか」
証人「わかりません」
裁判官「被告人に尋ねられたこともありませんか」
証人「なかったと思います」
裁判官「決済を遅らせることについて、(元秘書で会計実務を担当していた)石川(衆院議員=1審有罪、控訴中)さんから相談を受けたということだが、石川さんは小沢被告人にも相談をしたと話していましたか」
証人「聞いていません」
裁判官「尋ねなかったですか」
証人「何かあれば、石川氏がやっているかもしれないし、やっていないかもしれない。私は、石川氏から(登記を遅らせる提案を不動産仲介会社に)申し入れてほしいということだったので、取り次ぎました」
裁判官「土地購入はあなたから出た話ですよね」
証人「土地購入そのものは」
裁判官「契約内容を変えることについて、被告人が了解しているかは気になりませんでしたか」
証人「そのへんまでの思いはありませんでした」
裁判長「結局登記がいつ済んだのか、認識はありましたか」
証人「そこまでありませんでした。(石川議員から)問題なく終了した、と聞いていたので、気にも止めませんでした」
裁判官「秘書寮を建てる目的で土地を探したんですよね。登記の時期に関心はありませんでしたか」
証人「寮をすぐに建設する、という逼迫した状況ではありませんでした」
裁判官「検察が言う石川さんの話は信用できるということだったんですね」
証人「大物(前田検事)が私の担当についた。彼の力を信じた方がいいだろうと思いました」
裁判官「信じた方がいいという判断?実際に信じたんですか」
証人「信じるしかないと思いました」 《終了》
◆小沢一郎氏裁判 第5回公判/「政治資金規正法を皆さん勘違い」=安田弁護士2011-11-30
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小沢一郎氏裁判 第6回公判/弁護側反対尋問
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