日本の大増税を阻止せよ、経済沈没を許すな 小沢一郎を「復興院」長に据えて復興のスピードアップを!
JBpress 2011.12.09(金)川嶋 諭
大増税に向けて着々と準備が進められている。まずは復興増税、そして増え続ける社会保障費を賄うための恒久増税という順番のようだが、果たして消費税を上げればどん底に見えるこの状況から日本経済は立ち直れるのだろうか。
■日本国債のXデーを早めた政府と政治家、金融機関
日本の国債利回りがギリシャやイタリアのように跳ね上がる日本国債のXデーが刻一刻と近づき、何とかしなければならないという財務省の思いは分かる。しかし、それが増税でいいのか。
最も安易な道として、当面は取り繕うことができるだろう。しかし、その代わりに日本経済は子供たち世代の大切な未来を失うことにならないのか。極めて心配である。
増税推進の旗を振る経団連と、その経団連とともに歩んできた大新聞は、増税実現のためにあの手この手で国民に増税やむなしの気持ちを植え付けようとしている。こうしたプロパガンダや新聞記事を私たちは注意して見なければならない。
小泉純一郎元首相による改革路線を振り出しに戻すどころか逆回転させて、国債のXデーを早めてしまった政府と行政の責任も重いが、デフレ経済下での手っ取り早い儲け先として国債を引き受けられるだけ引き受けて、将来の日本経済の成長を担う中小企業やベンチャーに対する投資を徹底的に怠ってきた金融機関もまた、そのお先棒を担いできた。
そして愚かな金融政策を続けることで超円高を長引かせ、製造業の空洞化を一気に進めて、期待できる税収先を国外に転居させてしまった。
■ついに立ち上がった日本の内需産業
こうした政策のツケが増税として国民に払わされるわけである。
増税では日本経済は立ち直らないから、増税を始めたあと改革に着手しようという方便だろうが、いままで何もしなかったどころかマイナスの政策や戦略しか取れなかった人たちに、改革が期待できるわけがない。
私たちは何もできない政治家や経団連、大新聞の方便をそろそろ見抜かないと、日本経済は本当に取り返しのつかないことになる。
実は、経済界の中にも増税に対して明確に反対を表明する団体が12月2日に立ち上がった。国民生活産業・消費者団体連合会、略して生団連という。食品や流通、小売など内需産業を中心とする団体である。
消費増税によって国内消費が落ち込めば死活問題となる企業の集まりである。
会長である清水信次・ライフコーポレーション会長兼CEO(最高経営責任者)は、この団体設立に当たり次のように話した。
■日本は関東大震災から増税なしで立ち直った
「日本経済のGDP(国内総生産)の約8割は、私たち国民生活産業が担っているのです。(日本経済をこれまで牽引してきた)輸出産業はいまや3割以下しかないのです。危機的な日本経済に直面して、私たちの意見を日本の政策担当者にしっかり伝える必要があります」
「今を去る88年前の大正12年9月1日に首都東京は関東大震災に見舞われ、死者・行方不明者14万人、被害総額は現在の価値にして約200兆円にも及びました。これは3月11日に東北地方を襲った東日本大震災の10倍とも言えるような大被害でした」
「それに日本の国力と言ったら、現在の日本とは比べものにならないほどちっぽけなものでした。しかし、当時の日本は素早く、果敢だった」
「震災後直ちに復興院を立ち上げ、復興院総裁の決断と手腕により次々と難問を解決、わずか6年で復興を遂げた。それに比べて今の日本はどうです。震災から9カ月が経過しているというのに、復興は遅々として進まない。政治家は何していると言いたい」
「そして何より大事なのは、関東大震災では一切の増税なしに復興を果たしたということです。それで東京や横浜を立派な近代都市に蘇らせた。全く増税なしに」
東日本大震災の復興にしてもまず増税ありきではなく、いろいろ打つ手があるはずだというわけである。震災復興もできない政府に日本経済の立て直しができるはずはない。恒久的な消費税増税は失政を糊塗するもの以外の何ものでもない。
清水会長のインタビューは近々にたっぷりお伝えする予定なので、今回は、生団連の理事として、また内需産業の代表である外食産業トップのゼンショーホールディングスの小川賢太郎会長に消費税増税について話をうかがったので、お伝えする。
問 消費税増税がいよいよタイムテーブルに乗ってきました。いまの政府を見ていると構造改革には全く戦略がないどころか興味もないように見えます。そんな政府に増税という日本経済にとって非常に重要な決断を任せていいのでしょうか。
小川 報道を見る限り、製造業を中心とした旧来の財界は消費税増税について「仕方ない」というスタンスに映ります。
しかし自動車も電気製品も、日本で生産するものは多くが国内市場に依存しているはずです。国内消費が冷え込めば、大型の消費財ほど強い影響を受ける。にもかかわらず製造業を中心とした財界が消費税導入に賛同するのは理解に苦しみます。
私はこのほど発足した国民生活に最も近い消費・サービス産業と消費者団体で構成される生団連(国民生活産業・消費者団体連合会)の理事に選ばれました。これを機会に消費経済の実態を無視した消費税増税に異を唱えたい。
■小沢一郎氏を復興院の院長に!
問 東日本大震災の復興ももたもたしていてなかなか進まない中、いよいよ増税ということになると、日本経済はどうなってしまうんだろうという気がします。
小川 東日本大震災の復興については、一気呵成にやり抜く必要があると思いますよ。関東大震災に対峙した先達に倣うなら、復興庁などではなく「復興院」を置くべきでしょう。
そしてそこに大物政治家を配し、すべての国・地方自治体を貫く権限を集約させる。必要とあらば、法整備をスピーディーに行い、迅速な対応を進めるべきです。
大物政治家については、例えばこれは私の個人的見解ですが、東北出身の小沢一郎氏が適任ではないかと思う。小沢氏については訴訟などもあり異論も多いかもしれないが、いま日本は「有事」であり、ここは国家経営的・大局的観点から人材の活用を図るべきです。
問 復興院は生団連の清水信次会長もおっしゃっていました。しかし、院長に小沢一郎さんというのは実に面白いアイデアですね。企業でも政治でも人事がすべてを決めると言っていいでしょうから東北は復興を超えて大いに発展するかもしれない。
小川 一方、当たり前のことですが、増税すれば国民の手取り収入は減ります。その分、消費支出は確実に減るわけです。仮に月に20万円消費支出する家庭なら、1万円の増税で21万円払うことになりますよね。
しかしその家庭が20万円しか払えないとなると、増税分だけ消費が減る。これが増税の経済学です。これはすぐ実体経済に効いてきますよ。
税金は国が有効に使うから経済は回ると言われるけれども、いま議論されている消費税増税分については遠い先の社会保障費に充当されるという。これがいつどのように経済に波及してくるのかはよく分かりません。
一方、増税で消費マインドはすぐに冷えてしまいます。GDPの7割以上を構成する国内消費は打撃を受け、景気は減速する。消費税が導入された時にも、橋本龍太郎内閣で3%から5%に増税された時にも見られた現象です。
1997年に515兆円でピークをつけた日本のGDPは翌98年から2003年にかけて25兆円も減りました。我々はすでに2度も失敗を経験しているんですよ。
問 それでも日本の消費税率は低い。欧州諸国を見よ、という声がありますね。増税論者の多くが拠り所にしているようですが。
小川 かつて消費税率の問題になると必ず欧州の税率が取り沙汰されました。欧州連合(EU)では消費税率(いわゆるVAT標準税率)が15%以上と定められており、平均は20%弱。
主要国ではドイツが19%、フランスが19.6%、そしてイタリアが20%、ギリシャが23%です。これだけの高税率でありながらイタリアもギリシャも財政が破綻した。消費税が5%だろうが20%だろうが財政健全化とは関係ないということでしょう。
■ドイツは東西統一の復興経済が続く特異状態
ドイツではうまくいっていた、という反論もあるかもしれません。しかしドイツについてはこの20年間、特異な状態でした。東西合併後は「復興経済」だったのです。
復興経済は必ず成長します。そこでは必ず投資が行われるから。投資すれば生産力が高まる。しかも、旧東ドイツの労働者の賃金は安い。
そうやって輸出競争力を高めたドイツはユーロ圏の拡大とともに広がった自由貿易地域の市場でこの世の春を謳歌しました。
そういう例外的なケースを我が国に当てはめることはできないと思います。
少なくとも我が国のように消費経済がGDPの大部分を占める先進国では、国民生活を豊かにするための根幹は消費をいかに活性化させるかにかかっているのです。
問 そもそも消費税はフランスが最初に導入するに当たって、海外からの観光客から税金を取ろうという発想だったと聞いています。人口6000万人の国に年間8000万人も世界から観光客が来る。彼らから税金を取って国を富まそうと。
しかし、日本は1億2700万人の人口があるのにピークでも海外からの観光客はせいぜい1000万人をちょっと超えただけ。原発の事故で今年もこれからも大幅な観光客の減少が見込まれるから、そもそもの消費税の考え方からしても増税はあり得ない話ですね。
小川さんのような団塊世代が現役からどんどん去っているいま、ただでさえ国内消費に関しては大きなマイナス要因なのに、さらに消費を冷やそうというのですから性質が悪い。
小川 税収という観点から言っても、最も確実なのは国民の所得を増やして個人所得税収を増やし、企業の利益を増やして企業税収を増やすことです。調整インフレも含め、GDPを成長させれば税収は伸びる。
消費が高まり、所得が増え、投資熱が高まるというポジティブな流れになれば、給与所得からの税収と企業からの税収は増えていく。雇用も増える。そういう中でポジティブなバランスができる。
これに対して、消費税率を上げればネガティブバランスになってしまいます。個人の実質手取りを減らした分で国家の実入りを増やそうとすれば、実質GDPは減少し、企業の利益も減る。
■10兆円の増税は7兆円以上の税収減につながる
日本経済は国内依存度が高いから、国内消費が減退すれば必ず企業の利益は減少します。今や日本のGDPの76%は消費生活産業(第3次産業)が担っているんですよ。消費税増税は、即、全国民に手取り収入の減少をもたらし、消費支出は減り、GDPは減少します。
ここで、限界消費性向を80%と仮定しましょう。
そうすると経済学の教科書によれば乗数効果は4倍となり、10兆円の増税は結局40兆円のGDPの減少をもたらすことになります。実際には恐らくそれ以上になると思います。実に9%のマイナス成長要因になるんです。
ここ5年間で言えば、国と地方を合わせた税収はほぼGDPの18%程度でした。日本のGDPは2010年、名目で480兆円ですから、ここからマイナス9%成長となると、この増税のもたらす税収減は実に7兆円以上になるのです。国も目先の税収に騙されてはならない。
問 いまから9%もGDPが減ったら、大変なことです。家も自動車も売れなくなる。失業者が町にあふれることになりそうです。
小川 増税についてはアナウンス効果もあります。増税が粛々と準備されていると聞いて、すでに国民の消費には黄色信号が点灯しています。
財務バランスを改善させるために消費税率を上げるはずが、かえってバランスを悪化させることになりかねません。欧州もそれで苦しんでいるんです。実際に失業者が増え、消費税が重く、国家財政が破綻した国がいくつもある。
我々はもうそろそろ「オーベー(欧米)」の尻を追いかける発想を脱すべきではないでしょうか。「オー」も「ベー」も満身創痍なのです。これからの日本のモデルにはなりません。
先人に学び、我々独自の知恵で、豊かで活力ある日本を創るべきです。
<筆者プロフィール>
川嶋 諭 Satoshi Kawashima
早稲田大学理工学部卒、同大学院修了。日経マグロウヒル社(現日経BP社)入社。1988年に「日経ビジネス」に異動後20年間在籍した。副編集長、米シリコンバレー支局長、編集部長、日経ビジネスオンライン編集長、発行人を務めた後、2008年に日本ビジネスプレス設立。
↧
日本の大増税を阻止せよ、経済沈没を許すな 小沢一郎を「復興院」長に据えて復興のスピードアップを
↧