終末期医療、胃ろう中止も 日本老年医学会
J−CASTニュース2012/1/29 14:58
日本老年医学会は高齢者の終末期医療とケアについて、胃に管で栄養を送る胃ろうなどの人工的な水分・栄養補給や人工呼吸器の装着は慎重に検討し、「治療の差し控えや中止も選択肢として考慮する」との見解をまとめ、2012年1月28日に明らかにした。終末期医療に対する基本的な考え方を示す「立場表明」の改訂版に盛り込んだ。表明の改訂は11年ぶり。
近年、口から食べられない高齢者に胃に管をつないで栄養を摂る胃ろうが普及しているが、欧米では一般的でなく、また認知症末期の寝たきり患者などにも広く装着されていることから、その是非が議論になっている。
改訂版では、高齢者の終末期における「最善の医療およびケア」を「必ずしも最新もしくは高度の医療やケアの技術すべてを注ぎこむことを意味するものではない」と明記した。
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『超高齢者医療の現場から』後藤文雄著〈中公新書・819円〉
超高齢社会。65歳以上が23%以上を占める未曽有の時代の底で、いま何が起きているのか。
「のどかな田園地帯」に広がる総合社会福祉施設。付設の病院長の筆は、医療や介護が必要であればあるほど必要な場から放逐され死んでいく超高齢者たち、家族や病院に働く人たちの苦悩、疲弊が生み出す修羅場の現実を浮き彫りにする。
たとえば家族の姿もない病室での孤独な死。死を間近の家族への連絡があぶり出したのは、介護放棄、老親の年金に依存する子世代の財産トラブル・・・。家族崩壊の歴史だった。
超高齢者は転びやすく身も心も衰えやすい。本書には「転倒→大腿骨骨折→入院手術→認知症、全介助状態へ→MRSA感染→肺炎→急性期病院からの放逐」という絵に描いたような心身の「負のスパイラル」が紹介される。いまや珍しいことではないのだろう。だが、それでは、超高齢者はどうしたらいいのか。介護殺人など在宅の悲劇があとを絶たない時代。老い病む末の安心を誰が保証してくれるのか。
著者は大学教授を経た専門家だが、本書は理詰めの専門書にはほど遠い。いま火を噴く、あるいは暴発寸前のマグマの様を示す超高齢者医療の現実の羅列。病院は社会の歪みごと引き寄せる磁場を思わせる。
疲労の末に病院に詰め寄る家族たち。応対に疲弊する医療関係者。男性による暴力、ことに介護や看護など女性の職種へのことばの暴力には「セクシャルハラスメント」が潜むと著者は言い切る。男性優位の歴史の残滓が極限の状況で露わになるのか。医師による暴言「ドクターハラスメント」も患者たちの知るところと著者は記す。
まさに末世。「時代の罪」を引き受け苦しむのはいつの世も名もない人びと、戦場なら最前線の兵士たち。医療、介護、社会の仕組みへの知恵を結集しなければならない限界にあるのだろう。 〈評者 向井承子 医療ジャーナリスト〉
■ごとう・ふみお
1941年生まれ。北里大教授などを経て、福島県社会福祉事業団参事兼福島県太陽の国病院長。著書に『痛みの治療』など。
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◆胃瘻(ろう)導入 日本老年医学会が指針試案 患者の「益」見極め「撤退」も2012-01-27
胃瘻導入 日本老年医学会が指針試案 患者の「益」見極め「撤退」も
中日新聞2012/01/24Tue.国立長寿医療研究センター鳥羽研二病院長に聞く
高齢者への胃ろうの是非が社会の関心を集める中、日本老年医学会の作業部会は、胃ろうなどの人工栄養の導入の判断について、医療・介護職向けの指針試案を作成した。本人の生き方、価値観をできる限り尊重して合意を得るという「意思決定の道筋」を示している。広く意見を集め、近く最終的な指針を発表する予定だ。同学会の理事で、まとめ役の1人、国立長寿医療研究センター(愛知県大府市)の鳥羽研二病院長に思いを聞いた。〈編集委員・安藤明夫〉
ーー日本老年医学会が指針策定に乗り出した経緯は。
私たちは2001年に、人の老化や死と向かい合う老人医療は、生命倫理を重視した全人医療であるべきだという「立場表明」をしました。当時は、胃ろうなどの人工栄養は、まだ盛んではなかったのですが、今や日本は米国をしのぐ「胃ろう大国」。設置している高齢者は40万人以上ともいわれます。社会の関心が高まり、臨床現場の迷い・悩み・も多い中、時代の変遷に応じて、踏み込める部分は踏み込もうと考えました。厚生労働省の委託事業として、実情を調査し、試案をまとめました。
ーー実情調査で、どんな問題が浮き彫りになりましたか。
胃ろう以外の選択肢が示されず、医師に云われるまま承認せざるを得ない場合が多いです。十分に理解しないまま承諾し、後になって悔やんでいる家族がたくさんいます。その一方で、胃ろうで延命できたことを感謝している家族がいることも忘れてはいけません。
ーー試案では、患者本人、家族とのコミュニケーションの大切さや、「真に本人の益になる道を見極めること」を強調し、中途での「撤退」という選択肢も示していますね。
本人の益を見極めるのは、難しい問題です。認知症の終末期だと、本人が事前に「延命治療はしないでくれ」と希望していても、症状の進行とともに「痛い、苦しい」と訴えるようになるし、家族は何かしてあげたくなります。ただ、胃ろうを設置して2年、3年後の平均像は、一般に寝たきりで、感情も失われ、寝返りさえ打てない状態になって生かされている。「胃ろうアパート」と呼ばれるビジネスも広がっています。そんな現状を考えると、ある時期に、家族との合意の上で「撤退」の判断をしてもいいと思うのです。
ーー胃ろうを取り外す行為に法的な問題はないのでしょうか?
試案策定に携わった法律家は「胃ろうにするかしないかを最初に決めるのも、継続するかどうかを途中で決めるのも法律的にはまったく同じ」という見解でした。ただ、医療現場では撤退に対する不安が強いですから、法曹界も見解を出していただけるとありがたいです。
ーー導入の判断をする際、「何もしない」という選択肢に、医療者や家族のためらいは?
「何もしない」と言っても、苦痛を取り除く水分補給など必要なケアはもちろん行います。終末期で、食べられない状態になったら、必要最小限の水などの補給にとどめ、死に至る最期の道筋は自然なものにしていくということです。
ただ、どの時点で終末期なのか、専門医以外には判断が難しい場合もあります。また、胃ろうを設置した後、丁寧なリハビリを続けることによって再び食べられるようになる場合もあります。今後は継続的なケアについても光を当てていくべきです。
試案は、いただいた意見を基に文言を整理し、老年社会学会、老年看護学会を含む日本老年学会の合同委員会の承認を得て、指針を発表します。
■本人や家族の思いを尊重
日本老年医学会の作業部会は、老年医学、死世学、看護学などの研究者で構成。指針試案は、人工栄養の導入について▽医療・介護における意思決定プロセス▽いのちについてどう考えるか▽意思決定プロセスにおける留意点ーの3つについて考えを述べている。
意思決定のプロセスは「患者本人・家族とのコミュニケーションを通して、共に納得できる合意形成を目指す」として、医療側の都合を優先しないように戒める。本人の判断能力が損なわれている場合も、できる限り気持ちを尊重し、家族の思いや事情を考慮するように定めている。
「いのち」についての方は、個別の価値観の違いを踏まえた上で▽死に至る最期の段階は、医療の介入を最小限にする▽延命がQOL(生活の質)の向上につながらない場合は、本人ができるだけ楽に過ごせることを目指すーが基本姿勢。
留意点としては「延命治療をしない」という選択肢を含めて、公平に比較検討すること、「本人の人生にとっての益」を継続的に評価し、撤退(中止ないし減量)を検討すること、などを挙げている。
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終末期医療 胃ろう中止も 日本老年医学会/『超高齢者医療の現場から』後藤文雄著
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