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「中国の正体」に気がつかない日本 米国の専門家が分析する中国軍拡の最終目標とは

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「中国の正体」に気がつかない日本 米国の専門家が分析する中国軍拡の最終目標とは
JBpress 2012.02.08(水)古森 義久
 米国の国政の場では、2012年となっても中国の軍事力増強が依然、重大な課題となったままである。いや、中国の軍拡が米国の安全保障や防衛に投射する重みは、これまで以上となった。今や熱気を増す大統領選挙の予備選でも、対中政策、特に中国の軍拡への対応策は各候補の間で主要な論争点ともなってきた。
 中国の軍拡は、わが日本にとっては多様な意味で米国にとってよりも、さらに切迫した課題である。日本の安全保障や領土保全に深刻な影を投げる懸念の対象だと言える。
 だが、日本では中国の軍拡が国政上の論題となることがない。一体なぜなのか。そんな現状のままでよいのか。
■中国はこの20年間、前年比で2桁増額の軍拡を続行
 私はこのほど『「中国の正体」を暴く』(小学館101新書)という書を世に出した。自著の単なる宣伝とも思われるリスクをあえて覚悟の上で、今回は、この書が問う諸点を提起したい。中国の史上前例のない大規模な軍事力の増強と膨張が、日本にとって明らかな脅威として拡大しているからである。今そこにある危機に対し、日本国内の注意を喚起したいからでもある。
 この書の副題は、「アメリカが威信をかける『赤い脅威研究』の現場から」。本書に付けられたキャッチコピーの一部から、概要が分かっていただけると思う。
「450発の核弾頭、空母、ステルス戦闘機、衛星破壊兵器、宇宙基地、サイバー攻撃・・・」
「増大するその脅威はかつてのソ連を凌ぐ!」
「今、アメリカが最も恐れる国」
「ワシントン発! 中国研究の先鋭たちを徹底取材」
「サイバー攻撃に関する限り米中戦争はもう始まりました」
 この書の主体は米国側の政府や議会、さらには官民の専門家たちが中国の軍拡をどう見るのかの報告である。
 中国が公式に発表する国防予算だけでも、ここ20年ほど一貫して前年比で2桁増の大幅な増額を果たしてきたことは周知の事実である。その上に公表されない領域での核兵器や弾道ミサイル、空母、潜水艦、駆逐艦、戦闘機などのハードウエアの増強がさらに顕著なのだ。
■中国の軍拡は米国や日本への明らかな挑戦
 中国の軍事の秘密の動向は米国でしか実態をつかめない部分が大きい。なにしろ唯一のスーパーパワーたる米国の情報収集力は全世界でも抜群なのである。日本が足元にも及ばないほどの諜報の能力をも有している。人工衛星や偵察機による偵察、ハイテク手段による軍事通信の傍受、あるいはサイバー手段による軍事情報の取得などの能力は米国ならでは、である。
 私は『「中国の正体」を暴く』で、米国の中国軍事研究の専門家たち少なくとも12人に詳細なインタビューをして、彼らの見解をまとめて発表した。
 その結果、浮かび上がった全体像としては、第1に、中国の大軍拡が疾走していく方向には、どう見ても米国が標的として位置づけられているという特徴が明白なのだ。
 第2には、中国の軍拡は日本や台湾に重大な影響を及ぼし、その背後に存在する米国のアジア政策とぶつかるだけでなく、米国主導の現行の国際秩序へのチャレンジとなってきたという特徴がさらに屹立する。
 つまり、中国の軍拡は米国や日本への明らかな挑戦なのである。米国の専門家たちの大多数は少なくともそう見ているのだ。
 こうした特徴は私が本書で最初に紹介した米国防総省相対評価(ネットアセスメント)局の現職顧問、マイケル・ピルズベリー氏の次のような言葉にまず総括されていた。
 「中国がなぜ軍事力を増強するのか。いくつかの事実を見ると答えが自然に浮かび上がります」
 「まず現在、中国人民解放軍が開発を急ぐ対艦弾道ミサイル(ASBM)は明らかに米軍の原子力空母を標的にしています。この特定のミサイルが長距離で狙う艦艇というのは、米国しか保有していないのです」
 「中国は2007年1月に人工衛星を破壊するミサイルを発射し、見事に標的の破壊に成功しました。この種の標的も米軍以外にはありません。米軍が実際の軍事作戦で人工衛星の通信や偵察の機能に全面依存することを熟知しての動きでした」
■中国の軍拡の目標は台湾制圧の先にある
 中国の軍拡の最終目標については、従来、米国の専門家たちの間で意見が2つに分かれていた。
 第1はその究極目標が台湾有事にあるとする意見だった。中国は台湾を自国領土と完全に見なしており、その独立宣言などに対しては軍事力を使ってでも、阻止や抑止をすることを宣言している。中国はそうした有事のために台湾を侵攻し、占領できる軍事能力を保持しているという見方である。台湾有事以上には軍事的な野望はないという示唆がその背後にはあった。
 第2は、中国が台湾有事への準備を超えて、軍事能力を強化し、東アジア全体や西太平洋全域で米国の軍事プレゼンスを抑え、後退させるところまでに戦略目標を置いているのだ、という見解である。
 しかし私が2011年全体を費やして実行した一連のインタビューでは、米国の専門家たちの間では、すでに第2の見解が圧倒的となったことが明白だった。
 つまり中国は米国や米軍を主目標に位置づけて、台湾制圧を超えての遠大な目標に向けて軍事能力を強めている、という認識が米国でのほぼコンセンサスとなってきたのだ。
■日本に対する歴史的に特別な敵対意識
 では、中国の軍拡は日本にとって何を意味するのか。米国側の専門家たちが日本がらみで語ったことは注視に値する。
 ヘリテージ財団の首席中国研究員、ディーン・チェン氏は以下のような考察を述べた。
 「中国はもちろん日本を米国の同盟国として一体に位置づけ、警戒をしています。しかしそれだけではない点を認識しておく必要があります。私が会見した人民解放軍のある将軍は『私たちは米国とは和解や協調を達成できるかもしれないが、日本とはそうはいかない。日本は中国にとって、なお軍事的な脅威として残っていくだろう』ともらしました。日本に対しては歴史的に特別な敵対意識が存在するというのです」
 アメリカン・エンタープライズ・インスティテュート(AEI)の中国研究員で元国防総省中国部長のダン・ブルーメンソール氏も次のように語った。
 「中国には、日本に対して歴史上の記憶や怒り、そして修正主義の激しい意識が存在します。その意識は中国共産党のプロパガンダで強められ、煽られ、今や中国が軍事力でも日本より優位に立ち、日本を威嚇する能力を持つことによって是正されるべきだというのです」
 要するに、中国共産党には軍事面でも日本を圧倒しておくことが歴史的な目標だとするような伝統がある、というのである。
 だからこそ、現在の中国の軍拡は日本で真剣に認識され、論議されるべきだろう。だが現実には国政の主要課題には決して上がることがない。私はこの点での日本の危機に対しても、この書で警鐘を鳴らしたいのである。
・古森 義久 Yoshihisa Komori
 産経新聞ワシントン駐在編集特別委員・論説委員。1963年慶應義塾大学経済学部卒業後、毎日新聞入社。72年から南ベトナムのサイゴン特派員。75年サイゴン支局長。76年ワシントン特派員。81年米国カーネギー財団国際平和研究所上級研究員。83年毎日新聞東京本社政治部編集委員。87年毎日新聞を退社して産経新聞に入社。ロンドン支 局長、ワシントン支局長、中国総局長などを経て、2001年から現職。2005年より杏林大学客員教授を兼務。『外交崩壊』『北京報道七00日』『アメリカが日本を捨てるとき』など著書多数。
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中国初の空母「ワリヤーグ」が訓練用にしか使えない理由2011-08-31 | 国際/中国
 中国初の空母「ワリヤーグ」が訓練用にしか使えない理由
阿部 純一 JBpress2011.08.31(水)
 8月10日、中国初の空母「ワリヤーグ」が試験航海を実施した。華々しいセレモニーもなく、また期待された中国海軍艦船としての「命名」もない地味な船出であった。
 中国のネットにタグボートから撮影されたと思われる写真が出ていたが、微速前進の慣らし航行といったところだった。そのわずか1週間後の8月18日、ワリヤーグが再び大連のドライドックに入ったところを見ると、まだフル稼働の状態にはなく、今後も慣らし航行とドック入りを繰り返すように見える。
 要するに、まだ訓練用にも使えない状態であり、海軍艦船として「就役」したとは言いがたいのだろう。まともに訓練用に使える状態になって初めて「就役」し、その段階になってから「命名」される段取りなのかもしれない。
 しかし、一般の人から見れば、たとえウクライナから買った中古のボロ船とはいえ、10年がかりで修復し、最新のレーダー設備や対空兵装も設置したのだから、実験・訓練用空母にとどめず正式空母として戦力化し運用しないのはもったいない、と思うかもしれない。
 満載排水量6万7000トンの巨艦は言うまでもなく中国海軍艦船としては最大であり、中古艦とはいえ、化粧直しで見た目は新造艦そのものである。その「ワリヤーグ」をなぜ中国海軍は実験・訓練用としたのか。
*搭載された船舶用ディーゼルエンジンの欠点
 その答えになりそうな説明が、米国の軍事安全保障サイト「グローバル・セキュリティー」にあった。
 「ワリヤーグ」がウクライナから中国に引き渡された時、エンジンは積載されていなかった。もともとの設計では、蒸気タービンエンジンを2基積載し、29ノットの最高速を出すはずだったが、そのエンジンそのものが積まれていなかったのだ。
 しかし、中国は蒸気タービンエンジンや、さらに進んだガスタービンエンジンを国産する能力がなく、結局、船舶用ディーゼルエンジンを積んだという。
 船舶用ディーゼルエンジンは燃費はいいが、蒸気タービンエンジンなどよりも容積が大きい上に出力(馬力)が出ない。そのため「ワリヤーグ」の最高速は19ノット(時速約35キロメートル)にとどまるという。
 米海軍の空母が30ノット(時速54キロメートル)以上の速力を持つのは、それで向かい風を作り、発進する艦載機に十分な揚力を与えるためである。それができない「ワリヤーグ」は、空母として致命的な欠陥を抱えているということになる。
 少ない揚力で艦載機を発艦させるには、艦載機を軽量にしなければならない。つまり、艦載機が携行する対空ミサイルや対艦ミサイルを最小限にしなければならず、場合によっては燃料も減らさなくてはならない。
 これでは、空母としての役割を十分に果たすことなどできないだろう。つまり、「ワリヤーグ」にできるのは、艦載機の離発着訓練程度に過ぎないのである。
*中国は空母を「旧ソ連的」に運用するのか?
 もちろん、「ワリヤーグ」はそれ以外にも問題点を抱えている。米ソ冷戦時代に計画されたソ連海軍の空母という出自がまず問題になる。
 旧ソ連では、空母はあくまで艦隊に防空戦力を提供するのが役割であった。米海軍空母の役割が「パワープロジェクション」(戦力の遠方投入)であり、対地攻撃がメインであるのと対照的である。
 米海軍の空母打撃群に随伴するイージス艦などの役割は、空母を守ることにある。一方、ソ連艦隊の空母は、共に行動する艦隊を守ることが本務とされた。だから空母自身にも対空ミサイル、対艦ミサイルなど攻撃兵器が満載されている。「ワリヤーグ」にもその傾向は顕著であり、まさに空母兼巡洋艦といった趣である。
 はたしてこれが中国海軍のニーズに合うのかどうか。それは中国海軍の空母運用思想にかかってくるが、おそらく中国はまだ明確な結論を得ていないのではないだろうか。
 大陸国家の海軍として、沿海における制海権を重視するなら、旧ソ連的な空母の運用も合理的な面がある。しかし、将来的に南シナ海における覇権確立を目指し、東南アジア諸国ににらみを利かせるとか、シーレーン防衛を考えてインド洋への展開などを視野に入れれば、旧ソ連的運用でいいのかどうかが問題になる。
*航続距離が短い空母艦載機「J-15」
 これに関連して問題になるのが空母艦載機だ。中国はウクライナから、ロシアが空母艦載機用に開発した「スホイ33」の試作機を入手し、模倣生産して「J-15」と名づけ、これを艦載機として運用しようとしている。
 ロシアはスホイ33を、保有する唯一の空母「アドミラル・クズネツォフ」で運用している。この空母は「ワリヤーグ」と同型艦であり、それだけ考えれば、中国もJ-15を艦載機として運用しようというのは合理的選択のように見える。
 しかし、空母の仕様上の制約から生まれたのがスホイ33である。それをコピーした中国のJ-15も同様なことが言えるのだが、空母の運用思想とも関連して、艦隊の防空戦力に位置づけられる戦闘機なので長い航続距離は必要とされていない。
 また米海軍空母のようなスチームカタパルト(高圧水蒸気の力を利用して搭載機を加速させ射出する機械)を持たないため、スキージャンプ式の艦首で艦載機の自力発艦能力が求められた結果、燃料積載量を減らして自重を軽くする設計となった。
 結果として、スホイ33の航続距離は約2900キロメートルと、ベースになった「スホイ27」の約4000キロメートルよりも大分短くなっている。
 これは米海軍艦載機「F/A-18E/F スーパーホーネット」の約3700キロメートルと比べても短い。作戦行動半径となると、 F/A-18でも1000キロメートルあるかないかとされているから、中国のJ-15はせいぜい600キロメートル程度であろう。なお、ミサイル等の積載能力もF/A-18の方が大きいのは言うまでもない。
 おそらく中国は、空母「ワリヤーグ」の問題点、艦載機J-15の問題点をすでに十分自覚しているのだろう。だからこそ、「ワリヤーグ」を実験・訓練用空母に位置づけたのだ。
 すでに新聞等で報道されているとおり、中国は純国産となる空母を上海で建造中である。おそらく船体の完成までにあと3〜4年を要するだろう。それまでの間に、高出力を確保できる蒸気タービンエンジンあるいはガスタービンエンジンを調達しなければならないが、すでに中国はウクライナとの間で交渉を開始しているとの報道もある。
 国産空母が完成するまで、中国海軍は「ワリヤーグ」を使い、空母を運用する上での様々な実験や訓練を行い、そのデータをもとに国産空母にフィードバックし、中国海軍のニーズに合った空母に仕立て上げる算段なのだろう。空母艦載機にしても、J-15より軽量の「J-10」戦闘機の艦載機バージョンの開発なども行われるに違いない。
*海軍の軍拡は自らの首を絞めることに
 こうして検討してみると、中国が空母を実戦で運用するようになるためには、まだ相当の年月がかかるだろうことは容易に想像がつく。
 2011年7月末、中国人民解放軍のシンクタンクである軍事科学院の論客として知られる羅援少将は、インドや日本の動向を踏まえ「中国の権利や海洋権益を効果的に守るためには、中国の空母の数は3隻未満であってはならないと思う」と発言している。
 羅援少将が空母運用にどの程度の知識を持っているのかは分からないが、空母3隻態勢は空母運用の最低条件だとされる。1隻が作戦任務に就き、1隻が訓練、1隻が補修でローテーションを組めば、常時1隻は活動できるからである。
 中国が最初の国産空母を完成させ、就役させるのは2015年頃だろうと米国防総省は予測している。2隻目の国産空母が建造されれば、「ワリヤーグ」と合わせてとりあえず3隻にはなる。
 空母は単体では行動せず、機動部隊を編成するから、護衛の駆逐艦や潜水艦、補給艦なども必要になる。結果として、中国海軍は大軍拡路線を目指すことにならざるを得なくなる。それを財政的に賄えたとしても、中国の軍拡に対する周辺諸国の警戒感はこれまで以上のレベルになり、中国が置かれる国際環境が厳しいものになるのは必定である。
 「ワリヤーグ」が最初の試験航海に出た直後の8月13日、米海軍は南シナ海で活動中の空母「ジョージ・ワシントン」にベトナムの軍・政府関係者を招待し、米空母の威容と威力を誇示した。南シナ海の領有権をめぐり、中国とベトナム、フィリピンとの緊張が高まる中でのこの米軍のデモンストレーションの狙いが中国を牽制することにあるのは明らかであり、米国と中国との「力の差」が歴然としていることを見せつけるものであった。
 中国海軍が東シナ海や南シナ海で領有権をめぐり、強気に出れば出るほど、周辺諸国は米国に接近していくことになる。ベトナムがその好例と言える。
 中国は「ワリヤーグ」を持ったことで、逆に米国との軍事的なレベルの違いを思い知らされることになる。それが中国を協調的な方向に導くのか、あるいは米国に対してより対抗的になるのか。
 96年の台湾海峡危機などの経緯を考えれば、おそらく後者の道をたどるのだろうが、それは中国の将来を危うくする道でもあることを、中国の指導者は自覚しなければならない。
<筆者プロフィール>
阿部 純一 Junichi Abe
 霞山会 主席研究員、事務局次長。1952年埼玉県生まれ。上智大学外国語学部卒、同大学院国際関係論専攻博士前期課程修了。シカゴ大学、北京大学留学を経て、2006年から現職。専門は中国軍事・外交、東アジア安全保障。著書に『中国軍の本当の実力』(ビジネス社)『中国と東アジアの安全保障』(明徳出版)など。
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旧ソ連から買った中国の空母「ワリヤーグ」/有事の戦闘では弱いが、平時に発揮される中国空母配備の効果2011-07-14 | 国際/中国
 「中国にどんどん空母を配備してほしい」 米国防大教授の発言の真意とは
 JBpress 2011.07.14(Thu)古森 義久
 中国の航空母艦がいよいよ公式に登場する見通しが強くなった。旧ソ連のウクライナから買った空母「ワリヤーグ」である。
 長い期間、大連港で改修に改修を重ね、その作業がついに終わり、この夏にも中国海軍の主要艦艇として配備に就くことが確実だというのだ。そういう趣旨の情報が各方面から流れ出した。米軍当局もその展望を明確にしている。
 この中国初の航空母艦の登場は、日本や米国の安全保障にとって何を意味するのだろうか。控えめに見ても、排水量6万7000トン、全長305メートルという巨大な中国空母の配備は、長年西太平洋で制海権を握ってきた米国海軍への正面からの挑戦として映る。
 中国側はこのワリヤーグを「施琅」と名づけた。清朝時代に台湾を制圧した水軍の将の名前である。この命名自体、台湾の安全保障に責任を持つ姿勢を取る米国との対決姿勢を思わせる。
 同時に、その米軍の抑止力に国家の安全を委ねてきた日本に対しても、中国初の空母の登場は深刻な影響を及ぼすことが予測される。

米国防大学教授が「中国には空母をどんどん建造し、配備してほしい」
 だが面白いことに、この中国空母の動きに細心の注意を払う米国の専門家たちの間には意外な楽観論が存在する。
 米軍の太平洋統合軍のロバート・ウィラード司令官は「中国空母の軍事的なインパクトには懸念は感じていない」と述べた。純粋な軍事面だけから見れば、中国空母は恐れるに足りない、という宣言だと言えよう。
 もっと大胆な反応は、米国防大学のバーナード・コール教授の「中国はぜひとも航空母艦を多数、建造してほしい」という言明だった。中国海軍研究の権威であるコール教授は、最近発表した論文でこんなアピールをして注視をあびた。ワシントンで今、熱を高める中国軍事研究の論議の一端である。
 米国側ではすでに中国が今後本格的に空母群を配備していくという認識が定着している。米国議会調査局の「中国の海軍近代化」という報告書も、中国がすでに国産の空母の建造にも着手して、これから10年間に最大限6隻の配備を意図すると明記している。
 そんな中で米海軍士官を30年も務め、太平洋で駆逐艦の艦長だった経歴を持つコール教授が、中国には空母をどんどん建造し、配備してほしいと述べたのである。
 コール教授に直接にその理由を問うと、なるほどと思わされる答えが返ってきた。
 「中国の航空母艦、特にワリヤーグはいかに改修されても、有事には米軍の攻撃に弱いからです。絶好のカモとさえ言える容易な標的となります。
 中国海軍はまず空母を支える輸送船や給油艦が不足している。ワリヤーグ自体、米軍の空母が持つような防御や攻撃の能力を有していない。中国側がそんな空母を多数、造れば、他の艦艇や兵器に回る資源が減るため、海軍力の増強全体としては脅威を減らすことになります。
 だから私はなかばユーモアを交え、『どうぞ、多数の空母の建設を』とあえて誇張した指摘をしたのです」
 米国民間の軍事研究家デービッド・アックス氏は、ワリヤーグを「ポテンキン空母」とまで評した。ポテンキンというのは、東西冷戦中に旧ソ連がつくった村の名前である。ソ連の暮らしがいかに裕福かを、西側にアピールする狙いがあった。ポテンキン村は中身が空疎だったが、外観だけいかにも強固に見えるプロパガンダ集落だった。中国の初の空母も、ポテンキン村に似た、いわば張り子のトラだというのである。

有事の戦闘では米軍や自衛隊の攻撃にかなわない?
 コール教授をはじめ米側の専門家たちが指摘するワリヤーグの弱点というのは、おおまかにまとめれば次のようである。
・艦載機の「殲(J)15」は米軍機に比べ、飛行距離、搭載武器、センサーなどが決定的に遅れている。
・米軍空母が搭載しているE2のようなレーダー機やEAのような敵レーダー妨害機がまったく存在しない。
・米軍空母には必ずつきそう護衛の駆逐艦や巡洋艦が不足している。
・米軍空母に必ず先行する護衛の攻撃型潜水艦が中国海軍には極めて少なく、また存在しても空母との通信機能が未発達のままである。
・ワリヤーグのウクライナ製エンジンは欠陥が多いことが立証されている(ロシア海軍がワリヤーグと同型の空母「クズネツォフ」のエンジンの故障に再三、悩まされた)
 このような弱点により、ワリヤーグは大改修を経てもなお、有事の戦闘では米軍や日本の海上自衛隊の艦艇による攻撃に極めて弱いというのである。だからこそコール教授が中国に対し、このような空母ならいくらでも建造してほしい、と呼びかけるわけだ。 

平時に発揮される中国の空母配備の効果
 その一方で、有事には弱い中国空母も、平時にはまた別個の威力を発揮することを強調する向きも米国には少なくない。
 その一例として、ワシントンの大手研究機関「AEI」の中国専門家ダン・ブルーメンソール氏が次のような見解を明らかにした。同氏はブッシュ前政権下の国防総省中国部長で、現在は米国議会の政策諮問機関「米中経済安保調査委員会」の委員をも務める。
 「米国や日本が有事の際にワリヤーグのような中国空母に対処し、撃破することは、物理的に難しいことではありません。
 ただし、空母を攻撃して無力化するには、特定の戦力を特定の位置に配備しておかねばなりません。そのためには事前に戦略的、政治的な意思が必要となりますが、その実行はそう簡単ではない。
 また、空母は平時には一般国民へのパワーと威信の誇示に絶大な効果を発揮し得ます。だから、空母が中国の海洋戦略全体に寄与する力は重視せざるを得ません」
 中国の空母が登場すれば、アジア地域の諸国のなかには、中国のパワーが飛躍的に強まり、従来の米中軍事バランスまでが変わったと思い込み、中国側に傾く国も出かねないという意味だと言えよう。
 日本も中国空母のそうした平時の威圧効果に影響されないよう冷静な対応を保つことが必要だろう。

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