「(在沖縄米海兵隊のグアム移転について)移転には戦闘部隊も入り、沖縄の海兵隊の戦力が減る。いかに抑止力を維持するかを担保しなければならない」
【日本の論点PLUS】佐藤正久・自民党参院議員(産経ニュース2月7日付)
2月7日、自民党外交・国防合同部会で、日米両政府が在沖縄海兵隊のグアム移転を普天間基地の辺野古移設と分離して先行させるとする、在日米軍再編計画の見直しに合意したことについて、危機感を表明して
日米両政府は、2月8日、在日米軍再編計画の見直しについて合意に達したと発表した。そのポイントの第一は、2006年に日米合意した再編ロードマップ(行程表)で、沖縄の負担軽減のために、「(1)米軍普天間飛行場を2014年までに名護市辺野古に移転する(2)在沖縄海兵隊約8000人とその家族9000人はグアムに移転する(3)嘉手納基地以南の米軍基地6施設を返還する」という表現で、普天間移転と海兵隊のグアム移転をワンセットにしていたのを修正し、「普天間飛行場の辺野古移転は堅持しつつも、両者を分離してグアム移転を先行する」とした点にある。
第二のポイントは、海兵隊のグアム移転の規模を8000人から4700人に縮小し、残り3300人についてはオーストラリア、フィリピン、ハワイに、ローテーションを組んで一時駐留させるとしたことだ。ついては、米側から、岩国基地に対して1500名をとりあえず移転させたいとの打診があったことも明らかになった。
■米国議会でグアム移転費全面削除法が成立
ロードマップ見直しの背景には、昨年12月31日、普天間基地の移設問題が暗礁に乗り上げているのをうけて、オバマ大統領が、普天間移転とパッケージになっていた海兵隊のグアム移転に関する費用を、2012会計年度(2011年10月〜12年9月)から全額削除する法案に署名したことがある。同法を成立させた米議会の思惑は、2011会計年度で1兆4800億ドル(約123兆6000億円)、累計で200兆ドル(1京6000兆円)に達した米国の財政赤字をいくらかでも解消したいという点にあった。これに対し米政府は、日米同盟に悪影響を与えるとして同法の撤回を議会に働きかけていた。
しかし、天文学的な財政赤字を解消するには、国防予算の縮小が不可欠だ。米国の国防費は、2001年の9.11以降、急激に増加し、2001会計年度で3160億ドルだった国防予算は、2010会計年度には2倍強の6390億ドルに達した。そして今年1月6日、とうとうゲーツ国防長官は、2012会計年度から国防予算を、向こう5年間で1780億ドル(14兆2400億円、ちなみに日本の防衛関係費は2011年度で4兆6625億円)削減する方針を発表した。遅々として進まない普天間移転とパッケージだった海兵隊グアム移転の費用が俎上にのぼったのも、そうした財政状況が背景にあった。しかし結局は、オバマ大統領は国家予算の決定権を握る議会側に押し切られるかたちで、グアム移転費の全額削除法が成立した。
ちなみに同法では、海兵隊のアジア太平洋地域での再配置案を示さない限り、今後グアム移転関連の支出をいっさい認めないと記されている。このため米政府としては、海兵隊の再配置案を示す必要に迫られていた。
■中国の脅威と新国防戦略
ロードマップ見直しのもう一つの側面として、オバマ大統領が1月に発表した「新国防戦略」がある。世界の2カ所で起きた紛争に同時に対応するという、これまでのいわゆる二正面作戦をやめ、中国の進出を意識して、アジア太平洋地域に米軍戦力を重点配備する戦略に転換しようというものだ。
背景には、中国とイランが弾道ミサイルや巡航ミサイル、サイバー攻撃などで米軍の前方展開を阻止する「アクセス拒否」能力を飛躍的に向上させている事実がある。じっさい米国は、日本、韓国、インドほかアジア諸国と連携を強化する方針を示した。
とくに中国は、台湾海峡を牽制するミサイル配置を進めているほか、北海艦隊(司令部・青島)、東海艦隊(司令部・寧波)、南海艦隊(司令部・湛江)の3つの艦隊が競って海洋権益の拡大に乗り出し、いわゆる“第一列島線”内を内海化する動きを強めている。また、複数の原子力空母も建艦中だ。尖閣諸島や南沙諸島では、領土・領海問題をめぐるトラブルも多発している。こうした情勢を背景に、アジア諸国には中国の脅威に対抗できる米軍のプレゼンスに期待する声が近年ますます高まっているという現実がある。
新国防戦略=海兵隊の移転については、日本国内では好意的にうけとめる論調が多いが、いっぽうで日本がいままで以上に防衛協力を要請され、ときには米軍の肩代わりをすることもあり得るという側面があることも指摘されている。
その代表的な議論が、グアム移転を先行させた結果、在沖縄海兵隊の日本近海でのプレゼンスが弱まることへの懸念だ。米国の海兵隊はハワイに司令部を置く太平洋海兵隊の下に、米本土と日本にそれぞれ1個海兵機動展開部隊を配置しているが、このうち日本には沖縄に第3海兵師団とF/A−18などを装備する第1海兵航空団約1万8000人が展開している。このなかから8000人がグアム他に移転しても、まだ約1万人が沖縄に常駐する計算になる。
民主党衆院議員で首相補佐官の長島昭久氏も、「米軍がアジア太平洋に戻る戦略が発表になり、もう一度大事な役割を果たすのが沖縄だ。何かあった時、米国人だけでなく、日本人も助けてくれる殴り込み部隊は、沖縄海兵隊だ」(読売新聞2月6日付)と、海兵隊の駐留を評価するが、今後もこのままの状態が続くかどうかはわからない。
当然のことながら、米軍の新戦略には、中国本土からの短距離弾道ミサイルや対艦弾道ミサイルの直接攻撃にさらされない地域に海兵隊を移動させるという狙いがある。とすれば将来的には日本本土から海兵隊がいなくなるという事態も予想される。今後はさておき、精鋭の海兵隊8000人が抜けるという現実の抑止力の空白をどう埋めるのか、冒頭の佐藤議員の発言は、そうした危機感を表明したものだ。
一部の報道では、日米両政府は、野田首相が4月に日米首脳会談で訪米するのを機に、日米防衛協力のための指針(ガイドライン)を再改定して、新しい日米安全保障共同宣言を打ち出す方向で調整に入ったと伝えている。内容は「対中海洋戦略」を念頭に、日米で情報・監視・偵察能力を高め、離島侵攻にも即応できる態勢の構築にあるという(産経新聞2月7日付)。その詳細はなお不明だが、在沖縄海兵隊が1万人体制に移行するのにともない、日本の防衛協力の強化が質量ともに問われるのは間違いない。
普天間移転と分離して海兵隊のグアム先行移転を決めた今回のロードマップの見直しは、いま日本国内にさまざまな議論を呼んでいる。なかでも高まっているのが、グアム先行移転は、米国が辺野古移設をあきらめた証拠であり、普天間の継続使用が今後も固定化しかねないという懸念である。その憶測を生んだのが、今回のロードマップ見直しの日米協議で、米側がこれまで辺野古移転を前提に、これまで要求してこなかった普天間飛行場の維持・補修費を要求したという報道だった。
これについて野田佳彦首相は、2月7日の参院予算委員会で報道を否定し、「固定化につながらないよう全力を尽くす」と弁明したが、自民党の石原伸晃幹事長が記者会見で「固定化につながる密約が日米両政府の中で繰り広げられているならば、その責任は民主党政権にある」(産経新聞2月8日付)と語るなど、野党側は真相を究明する構えだ。
沖縄県の仲井真知事は、グアム先行移転と嘉手納基地以南の5施設早期返還については歓迎するが、普天間飛行場の辺野古移転には反対という立場を崩していない。また、海兵隊1500人移転を打診された岩国市では、市長はじめ市民が絶対反対の声をあげている。ただ今回のロードマップ見直しは、基地問題とともに日米防衛協力のあり方そのものが問い直されているのだ、という本筋の議論を忘れてはならない。
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「行程表修正必要性認めた」=普天間移設切り離し−米有力議員
【ワシントン時事】米上院軍事委員会の有力者で、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)移設問題に精通しているジム・ウェッブ議員(民主)は8日、普天間移設と在沖縄米海兵隊のグアム移転の切り離しで日米両政府が合意したことについて、2006年に日米が合意した在日米軍再編のロードマップ(行程表)を修正する必要があることを認めた証左だとする声明を出した。
ウェッブ議員は声明で、地域の安定と強固な同盟を守るためには、「ロードマップは修正されなければならない」と強調。また、グアム移転費を凍結した国防権限法は海兵隊総司令官に太平洋の最適な米軍配置計画の議会提出を求めているが、これが行われていないことも指摘し、グアム移転計画を前進させる前に、同法が要求する条件を満たす必要があるとくぎを刺した。
同法は国防長官に対しても、海兵隊が提示する計画や独立委員会による太平洋の米軍の体制に関する研究報告を踏まえ、議会に見解を報告するよう義務付けている。(時事通信2012/02/09-11:15)
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クローズアップ2012:米軍再編見直し発表 「同盟深化」日米、思惑に相違も
◇米、財政難で基地予算カット 日、移転費負担軽減を要求
在日米軍再編ロードマップ(行程表)の見直しに関する8日の共同文書発表を受けて、日米両政府は在沖縄米海兵隊のグアム移転の規模や残る部隊の移転先などについて具体的な協議に入る。米国のアジア太平洋重視の戦略や財政事情を受けた新国防戦略に沿って協議は進む見通し。米国は日本との役割分担を進める構えで、日本は新たな資金的支援や基地負担を求められることを警戒している。一方、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設問題では、早期解決は事実上遠のき、固定化への懸念が強まっている。
「日米同盟深化の大きな前進だ。今回の見直しはむしろ(米軍の)抑止力向上につながる可能性もある」。玄葉光一郎外相は8日夜、外務省での記者会見で、米軍再編見直しの意義を強調した。
アジア太平洋地域に海兵隊をどう配置するかは、オバマ政権の「アジア太平洋重視」の柱の一つだった。急速に軍拡・近代化を進める中国の海・空軍への対処を念頭に置いたもので、中国から攻撃を受けた場合、反撃できる能力をどう確保するかを検討。結論として、グアム、沖縄、ハワイの3カ所に海兵隊の航空部隊と戦闘部隊からなる機動展開部隊を分散させる構想が浮上した。
なかでもグアムは沖縄に代わり、その中枢機能を担う拠点となる想定だ。米側が在沖縄海兵隊のグアム移転と普天間飛行場の移設を切り離す方針に転じたのは、普天間移設で進展が期待できない状況で、グアムの米軍拠点化が頓挫する事態をどうしても避けたかったという事情が大きい。
日米両政府は今後、数カ月間かけ、在沖縄海兵隊のグアム移転規模縮小やそれに伴う駐留拠点の分散案を詰める。ただ、日本の資金面の支援継続などに期待を寄せる米側に対し、日本側には財政負担への警戒感が強いなど思惑の違いものぞく。
グアム移転経費は、日米の協定で、普天間移設とセットになっているのを前提に日本政府が融資も含めて60・9億ドル負担することになっている。しかし沖縄からグアムに移転する海兵隊の規模は、06年ロードマップの約8000人から約4700人に縮小される見通しで、日本政府内からは「人数が減れば当然、負担額も維持することにはならない」(防衛省幹部)と負担減を求める声が上がる。これに対して、財政赤字削減のため基地整備事業費の削減努力を迫られている米側は、協定の上限に近い額を日本側が拠出するよう協力を求める可能性が高い。
米国が構想する海兵隊のローテーションも火種になりそうだ。グアム移転の規模縮小に伴い、ローテーションさせる拠点の候補地としてオーストラリア、フィリピン、ハワイなどに加え、米軍岩国基地(山口県岩国市)を米側が日本側に打診したことが判明。地元は「これ以上の負担増は認められない」(二井関成県知事)と猛反発し、早くも壁に突き当たった。米側がローテーション費用の負担を求める可能性もある。
また、海兵隊のグアム移転と切り離された普天間飛行場の移設が進まずに固定化すれば、同飛行場を継続使用することになる米側から補修費負担を求める声が出るのは確実だ。日本は81〜95年に隊舎や管理棟などの整備に計約244億円を投入したが、米国と普天間返還で合意した96年以降は大型整備をやめたこともあり、「滑走路や施設はボロボロ」(自衛隊幹部)とされる。移設実現の見通しが立たないなか、米国は「移設が遅れれば既存施設へのインフラ投資が必要になってくる」(ウィラード米太平洋軍司令官)と圧力を強めている。【朝日弘行、ワシントン古本陽荘】
◇沖縄説得、展望なく
米国の事情に端を発した再編見直しだが、日本政府は、在沖縄米海兵隊のグアム移転や米軍嘉手納基地(同県嘉手納町など)より南の米軍施設返還を普天間移設とのパッケージから切り離して先行して負担軽減を実現させ、仲井真弘多知事らの理解を得る戦略に転じた。
「パッケージで進めていくやり方は圧力をかけるようなやり方だ。今のままでは膠着状況を打開するのは難しいと判断した」。玄葉光一郎外相は8日夜の記者会見で、方針転換の背景を説明した。さらにパッケージ切り離しについて「知事はじめ地元から要望をいただいてきた」と繰り返し、沖縄の要望に応えて信頼関係の構築を目指す姿勢を強調した。
しかし、パッケージの切り離しで「沖縄への説得材料を失った」(政府関係者)のも事実だ。負担軽減の先行が実現すれば沖縄側に歓迎されるのは確実だが、それが辺野古移設に向けた理解につながる見通しはまったく立たない。
沖縄県議会の玉城義和副議長(同県名護市選出)は辺野古移設を堅持する政府の姿勢について「相変わらず現実を直視していない」と批判。基地負担軽減の先行で移設に向けた環境整備をしようという政府の姿勢について「沖縄のために汗をかいているとの格好をつけるためだけかもしれない。一番怖いのは『こんなに頑張ったが、沖縄が反対したからダメだった』として普天間固定化を沖縄のせいにすることだ」と、警戒感を募らせる。
政府も「切り離しという点だけは要望に応えられたが、辺野古移設の困難さは何ら変わっていない」(外務省幹部)との認識だ。このため、移設に向けた公有水面埋め立て許可を仲井真知事に申請する時期について、米議会対策との関係で設定していた6月ごろから先送りし、時間をかけて沖縄を説得する構えだ。【西田進一郎、井本義親】毎日新聞 2012年2月9日 東京朝刊
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