核燃サイクル、慎重論無視し推進
中日新聞2012年2月10日 朝刊
使用済み核燃料を再処理して核兵器に転用可能なプルトニウムを取り出す核燃料サイクル計画をめぐり、旧通商産業省(現経済産業省)と旧科学技術庁(現文部科学省)の幹部らが1991年、日本の核武装に対する国際社会の懸念や、膨大な費用がかかることなどを理由に慎重な姿勢を示していた。本紙が入手した内部資料から分かった。
当時は95年の高速増殖原型炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)ナトリウム漏れ事故前。政府が核燃料サイクルの研究開発を推進していた時期に、原子力政策の担当者が異論や疑問を抱えていたことになり、計画の無責任ぶりが浮かび上がった。
内部資料は原子力政策の重鎮で、科技庁原子力局長などを歴任した故・島村武久さんが85〜94年に開いた非公式の研究会議事録。当時、原子力に関わった政治家や現役官僚、経営者、学者らの証言を掲載している。文科省が2008年に編集し、一部の関係者に配布した。
91年夏の会合に出席した通産省資源エネルギー庁技術課長(当時)の谷口富裕さん(68)は、核燃サイクルを「全体的展望なり戦略に欠けていて、経済的に引き合わない」などと批判。米ソ冷戦の崩壊直後の国際情勢下で、プルトニウムの大量保有につながる再処理は「最近、各国が日本に(兵器転用への)警戒心を高めている中、(計画自体が)うまくいくわけがないのでは、という心配をしている」と話した。
91年6月の会合では、講師役を務めた科技庁核燃料課長(当時)の坂田東一さん(63)は、核燃サイクルの方向性を議論した政府の原子力委員会の専門部会を「リサイクルありき」と指摘。「(核燃サイクルの是非は)1回議論しかかったが、そこまで行くと収束できない」と、問題があることを知りながら、推進に回った事実を証言した。
一方、電力業界も94年夏の会合で旧日本原燃サービス(現日本原燃)の元社長豊田正敏さん(88)が「資源の乏しい国で(プルトニウムは)ぜひ使わなきゃいけないと言うが、1割2割のところしか節約できない」と、採算性を疑問視していた。
【核燃料サイクル】 通常の軽水炉原発で燃やしたウランの使用済み燃料からプルトニウムを取り出し、再利用する仕組み。政府、電力業界は「資源小国・日本の切り札」として期待するが、中核となる高速増殖炉は経済コストが高く、技術的な問題も多いことから主要先進国の米、英、仏、独が1990年代後半までに相次いで撤退している。福島第1原発事故を受け、日本でももんじゅを含めた核燃料サイクルの見直し論議が高まり、政府は今夏をめどに是非を判断する。
--------------------------------------------------------------------
「原発ムラ」暴走 核燃サイクル推進 費用19兆円 電気代へ
<核心>2012/02/10 Fri. 中日新聞朝刊3面
20年前の本格スタート当初から、政府や電力業界内で異論や疑問が出ていた核燃料サイクル。当事者が問題点に気づきながら、事なかれ主義で計画を進めた構図は「走り出したら止まらない」公共事業とまったく同じ。東京電力福島第1原発事故で政府はようやく見直し論議を始めたが、「原発ムラ」がもたらした、この間のツケは結局、国民が背負うことになる。(原発取材班・谷悠己)
■膨らむ国民負担
原子力政策を担当する省庁幹部らが核燃サイクルへの疑問を証言した1991年の故・島村武久さんの研究会。計画はその後も着々と進み、12年後の2003年には業界団体の電気事業連合会が再処理費用の試算を公表した。使用済み核燃料から取り出したプルトニウムとウランを混ぜる混合酸化物(MOX)燃料の加工費や高レベル廃棄物の処理などを含め19兆円。
この試算を基に中部電力や東京電力など電力各社は05年から必要額を電気料金に上乗せし、積み立てを始めた。中電によると、標準1世帯当たりの負担額は月額21円。しかし、電気料金の請求書に内訳として記載されておらず、ほとんどの消費者はその存在すら知らない。
93年に着工した青森県六ケ所村の再処理工場は技術的な不手際が続き、本格操業に入れない。専門家の間では「再処理費はさらに膨らむ可能性がある」との声は根強い。
19兆円の資産には研究段階の原型炉「もんじゅ」開発だけで1兆円の税金を投じた高速増殖炉の開発費が含まれておらず、国民負担は増す一方だ。
■原爆1000発分
六ケ所村の再処理工場の処理能力は茨城県東海村の再処理工場のほぼ4倍。年間800?の使用済み燃料から8?のプルトニウムを取り出せる。国際原子力機関(IAEA)によると、純度の高いプルトニウムなら8?で原爆1発の製造が可能。単純計算で、1千発の原爆が保有でき、国際社会から軍事転用を疑われかねない。
現時点ですら、プルトニウムはあり余っている。需要先のもんじゅは95年のナトリウム漏れ事故後も不手際が続き運転は停止したままだ。IAEAの公表値によると、日本が国内に保有するプルトニウムは再処理を委託した英仏からの変換分を含めて10?。核保有国の英仏米ロに次いで世界で5番目に多い。
■業界に「おごり」
そこで、プルトニウムを消費するため、政府、電力業界が苦し紛れに考えたのが通常の軽水炉原発でMOXを燃やすプルサーマルだ。島村さんは91年6月の会合で「最初から8百?ありきで出発して、需要が余る分はみんなプルサーマルにぶち込んで計算を合わした」と、政府の原子力委員会の無計画さを告発していた。
ずさんな計画は六ケ所村の再処理工場建設費も同じ。89年時点で7600億円だった建設費は今では2兆2千億円にまで膨らんだ。運営する日本原燃サービス社長だった豊田正敏さん(88)は「試算が高すぎると理解を得られないから低く見積もるように、と通産省から指導があった」と振り返る。
80年代に動力炉・核燃料開発事業団の理事だった中島健太郎さん(88)は「身の丈に合わない大工場を造ったところから核燃サイクルはおかしくなった」。核燃サイクルの議論に参加した元電事連幹部は「電力業界におごりがあった。もうやめるべきだ」と話している。
========================================
◆原発の「ごみ」行き場なく/「核半島」六ヶ所村再処理工場/東通原発/大間原発/核燃料 中間貯蔵施設2011-04-28 | 地震/原発
中日新聞【特報】2011/4/27Wed.
原発の「ごみ」行き場なく 使用済み核燃料の行方は 中間処理施設 建設中も
福島第1原発の事故では、発電を終えた核燃料が敷地内に置かれている危険性を知った。使用済み核燃料は青森県六ヶ所村の再処理工場の貯蔵施設で受け入れているが満杯に近く、各原発内の貯蔵プールなども余裕がなくなりつつある。一方、この燃料を再びエネルギー源として使う核燃料リサイクルは実現していない。同じ下北半島に建設中の中間貯蔵施設の現場を歩き、原子力政策の限度を考えた。(篠ケ瀬祐司、小国智裕)
まだ肌寒く、フキノトウが顔を出し始めた青森県むつ市関根。使用済み核燃料をいったん貯蔵する中間施設の建設現場付近からは、津軽海峡を挟んで、うっすらと北海道函館市が見える。
昨年8月に着工され、貯蔵建屋は基礎を終え床部分を造る段階だ。大震災で資材は被災地に優先されて本体工事は中断するが、来年7月の稼動開始目標は変わらない。
貯蔵能力は三千?。最終的に建屋はもう1棟造られ、最大で計五千?を貯蔵する予定だ。同施設を造るのは「リサイクル燃料貯蔵株式会社」で、東京電力と日本原子力発電が出資している。
・最長50年保管
使用済み核燃料は、まず発電所内のプールで冷やされる。それから六ヶ所村の再処理工場に送るまでの間、キャスクと呼ばれる金属製容器に入れて、空冷式のこの貯蔵建屋内に保管される。
「中間」とはいえ期間は最長50年間。再処理が滞り、使用済み核燃料がたまり続けたり永久貯蔵化したりしないか。
リサイクル燃料貯蔵社の江村公夫広報渉外部長は「年限や容量などは地元との約束だ」と、予定量や期間以上の貯蔵はないと断言する。
同施設から海まで5百?と近いが、周囲に防潮堤は見当たらない。江村氏は「東電の自社評価では、6、3?の津波発生可能性を想定。施設は海抜20?の場所にあり、防潮堤は必要ない。キャスクは(固定の台から)転落したり、水没したりしても耐えられる」と安全性を強調する。
・背景に交付金
施設はむつ市が誘致した。2000年6月の法改正で、原発敷地外でも使用済み核燃料を貯蔵できるようになった。5ヵ月後、当時の杉山粛(まさし)市長(故人)が東電に対し、市内に立地可能かの調査を依頼。OKが出ると杉山氏は03年の市議会で誘致を正式に表明した。
誘致の背景は、見込まれる巨額の交付金や固定資産税だ。市は破綻寸前で02年度の財政規模が約90億円に達し、累積赤字は約14億円。杉山氏は「財政確保を模索する中で、誘致する考えに至った」と議会で述べた。
財政的な効果はすぐ表れた。03年度に市に入った初期対策交付金は約9億7千万円。10年度決算では、原発関連で約22億3千万円の交付金を受けている。
市は09年にショッピングセンターを改修して現市庁舎に移った。費用総額約27億円のうち13億円以上が東電と日本原電の寄付だった。
下北半島は今、隣の東通村で東通原発、大間町で大間原発が1基ずつ建設中で「核半島」とも呼ばれている。誘致する背景はいずれも同じだ。
再処理工場各原発内プール 容量はほぼ満杯
・「福島の事故後 不安に」青森・むつ市民
中間貯蔵施設をむつ市民はどうみているか。
会社員男性(56)は「地元には特別な産業がない。誘致でカネを引っ張ってくるのは苦渋の選択では」と、誘致に理解を示す。年配の男性も「息子が東北電力の東通原発で働いている。ここらでは自衛隊か原発関連の仕事しか働き口がない」と、施設の建設はやむを得ないとの立場だ。
福島の事故後に考えが変わったという住民もいる。ある商店主は「実は中間貯蔵とはどんなものかよく知らなかった。福島の事故をみて不安になった」と漏らす。
誘致・建設に反対してきた「核の中間貯蔵施設はいらない! 下北の会」の野坂庸子代表は「施設の核燃料を50年後にどうするかについて、事業者は『40年目までに協議する』と言っている。それは子どもたちにツケを回すことではないか」と不信感を募らせている。
原発の使用済み核燃料の行方はどうなっているのか。ウラン燃料は3〜4年燃やした後に、使用済み核燃料が残る。その燃え残りのウランや新たに生成されたプルトニウムを再処理し、燃料として原発で再利用するのが「核燃料サイクル」。輸入に頼るウランを有効利用できる上に、核の「ごみ」を大幅に減らせるというメリットがある。
その拠点が日本原燃の再処理工場だ。使用済み核燃料は3年かけて百度以下に冷まして、剪断や溶解、精製してプルトニウムを取り出す。それをウランと混ぜて「MOX燃料」に加工し、既存の原発で燃やすのがプルサーマル発電だ。現在は海外で製造されたMOX燃料が使われている。
ところが、この再処理工場はいまだに稼動していない。1997年の運転開始予定だったが、相次ぐトラブルから延期され、現在は12年10月の運転開始を目指す。
原発54基から出る使用済み核燃料は、使用前のウランの重さで年間約1千?。再処理工場の貯蔵施設受け入れ容量は3千?なのに対し、既に約2827トンが運び込まれて満杯に近い。
日本原燃は「試験工程の組み直しなども考えながら進めていく必要があるかもしれないが、現時点では、予定通り竣工へ向けて取り組んでいきたい」と説明する。
再処理工場が稼動しても処理能力は8百?で、2百?程度が毎年残ってしまう。一方、各原発の総貯蔵量は昨年9月現在で約1万3千5百20トンに及ぶ。福島第1原発の場合、共用プールや各原子炉建屋の容量2千百トンに対し、千8百20トンが入れられていた。
貯蔵能力使用率を見ると、東電の原発を上位に、その他もあと数年で容量を超えてしまう。貯蔵場所がなければ、ウラン燃料を取り換える事ができず原発は稼動できなくなる恐れもある。
問題はこれだけではない。再処理した後に残る核分裂生成物など高レベル放射能廃棄物の最終処分についてはめどさえ立っていない。液体は特殊なガラスで固め、ステンレス容器に封じ込めて30〜50年かけて冷やした後、地下約3百?の深さに埋める。だが、最終処分場の建設場所はまったく決まっていない。
フランスや英国に再処理を依頼してきたが、今や自国内処理が原則。最終処分場が必要なことは原発の稼動当初から分かりながらも見切り発車した。原発が「トイレのないマンション」といわれるゆえんだ。原発の是非については、安全性はもちろんだが、最終処分問題も国民的議論を行うときが来ている。
--------------------------
◆鹿児島・川内 九州電力は「原発の影響はない」と言うが/温排水による海水温上昇/塩素の垂れ流し/磯焼け2011-05-22 | 地震/原発
....................
◆原子力村・産官学の利益集団/原発=どうして「地球に優しいクリーンエネルギー」の主役に化けたのだろう2011-04-27
◆佐藤栄佐久氏記者会見「すべては、原発推進というお国のため/必要だから必要なんだという理屈」2011-04-23
◆チェルノブイリの8倍酷い福島 こんなに長期間に亘って放射性物質が外に出続けるのは人類史上例がない2011-04-25
◆「原発に近い地域の子供たちをいかにして放射性物質から守るか」小出裕章京都大学原子炉実験所助教2011-04-23
◆水爆『ブラボー』/「死の灰を無力化する技術はなく〜子どもたちに被曝を強いる政府」小出裕章2011-04-23
========================================
◆小沢一郎が語った「原発/衆愚の中からは衆愚しか/マスコミは日本人の悪いところの典型」 〈悪党?〉2011-09-19 | 政治/検察/裁判/小沢一郎/メディア
--------------------------------------------