共通番号制 消えぬ不安 情報流出、悪用は 米国「なりすまし犯罪」増
中日新聞 《 特 報 》2012/3/22 Thu.
野田政権が導入を急ぐ共通番号(マイナンバー)制度。国民全員に番号を割り振り、政府が所得や病歴などの個人情報をひも付けし、行政機関などで利用する制度だ。政府は正確な所得の把握などのメリットを強調。震災時の活用もうたう。しかし、震災時に本当に役立つのか。情報漏えいや番号の悪用などの不安も依然、消えていない。(小坂井文彦、小栗康之)
「国民にではなく、国家に知る権利を認め、国民と国家の立場を逆転させる法案だ」。衆院第二議員会館で今月6日、開かれた共通番号制に反対する集会。約60人を前に日本体育大の清水雅彦准教授(憲法学)は、こう指摘した。
自治体情報政策研究所(大阪府松原市)の黒田充代表は「良かれとシステムを築いても、ファシスト(独裁者)が現れたらとんでもないことになる」と訴えた。
政府が今国会に提出した共通番号制を導入するための「個人識別番号法案」では、2015年1月からの利用開始を目指す。所得把握の精度を高めることで、低所得者に所得税を払い戻したり、給付金を支給したりする「給付付き税額控除」の導入にもつなげるとする。写真付きの個人カードが発行され、身分証にも使えるという触れ込みだ。
■きめ細かな社会保障?
だが、きめ細かな社会保障給付には疑問符が付く。医療、介護、保育などの自己負担額を合算して、所得に応じた負担額を決める「総合合算制度」の導入も検討されている。しかし、集会では医療関係者からは「医療サービスを少なくし、医療給付を抑制する方向にしか進まないのでは。弱者に厳しくなる可能性がある」と危惧する声が上がった。
法案には、個人情報を保護するために、行政組織などを監視する第三者機関の設置や情報漏えいに対する罰則も盛り込まれたが、それだけでは、不安感はなくならない。
市民団体「プライバシー・インターナショナル・ジャパン(PIJ)」代表で白鴎大学大学院の石村耕治教授は「将来、共通番号を記したカードの携帯が義務付けられ、検問の警察官が(全ての個人情報を)読み取り機で確認する時代が来るかもしれない」と危ぶむ。
石村教授によると、共通番号に似た社会保障番号が身分照会に使われている米国では、「なりすまし」犯罪が増えているという。石村教授が調査した米連邦議会下院歳入委員会の報告では、07年前後になりすましの被害者が年間1千万人、被害総額は500億ドル(約4兆600億円)に達したという。
多いのはクレジットカードの不正取得で、災害支援金の詐取や、自宅を担保にしたローンが組まれて他人に借金をされた人も。犯罪者に番号を使われて、やってもいない犯罪で知らないうちに有罪判決を受けた人もいるという。米国農務省がホームページに約2万8千人分の番号を掲載し、誰でも閲覧できる状態になっていたこともあった。
■正確な所得 把握無理?
所得の正確な把握は、共通番号だけでは困難だ。国内に約8億口あるとされる銀行口座について名寄せをする必要がある。事業所得や海外資産、商取引などをすべて把握するには限界があることは、政府側も認めている。
集会に参加した福島瑞穂社民党党首は「マッチング(複数のデータを突き合わせて照合すること)をしないから安全と言っていたのに、いつの間にかマッチングをするから便利だに変わった。共通番号で税や資産の把握はできない。メリットはほとんどないのに、情報が流出する危険だけがある」と語った。
問題は情報漏えいの危険性ばかりではない。政府が説明するような「給付や負担の公平性を確保する社会的基盤」を整備できたとして、本当に導入コストがそれに見合うのかどうか。
政府の説明によれば、導入コストは5千億円。内訳は、年金関連などに3,200億円▽情報管理組織の発足に700億円▽ICカードの開発・配布に800億円▽専用ウェブサイト開発に300億円▽個人情報の漏えいを防ぐ「個人番号情報保護委員会」の設置に10億円−。これに加えて、年間約350億円の運用費がかかる。
政府内では、共通番号の機能を将来的に拡大させる可能性も指摘されており、そうなれば、予算はこれにとどまらない。これだけの巨額が本当に必要なのか政府側の明確な説明はない。
「もはや、右肩上がりの成長が期待できない時代だ。それにもかかわらず、費用対効果が見合わない以上、共通番号制度の導入には反対だ」。日弁連・情報問題対策委員長の清水勉弁護士はこう力説する。
所得把握の精度が高まることに、5千億円以上のカネをかけることに意味があるのか。
消費税率を1%上げれば、約2兆円の税収が見込まれる。その約4分の1を使ってまで、カネが必要なこの時期にマイナンバーを導入する必然性は説明しにくい。
■被災者支援 役に立つ?
政府の番号制度創設推進本部などは、災害時の活用も強調している。
災害時の本人確認や要援護者リストの作成に有用とする。
しかし、清水弁護士は、「救援手段として共通番号は不可欠ではない」とこれを一蹴する。東日本大震災についてみると、支援が不十分だった理由は、そもそも役所の建物が崩壊したり、ライフラインが甚大な被害を受けたりしたことによるもので、共通番号で解決できることではないという。
「支援に共通番号は不要。かえって、なりすましの危険がある」と指摘。被災直後の被災者に必要なのは、食品や衣類などで、個人識別をする必要はない。「共通番号を登録した銀行口座で、通帳がなくても預金引き出しが可能」という説明もあるが、「氏名、生年月日、暗証番号で足りる」と反論した。
前出の石村教授はこう指摘した。「国家が人権を管理する法案だ。名称を『私の背番号法案』にすべきだ」
*強調(太字・着色)は来栖
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許すな 野田政権が導入を急ぐ共通番号(マイナンバー)制度/「国民」にではなく、「国家」に知る権利
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