再稼働「5人組」仙谷氏ら
中日新聞 朝刊2面 2012年4月11日Wed.
関西電力大飯(おおい)原発の再稼働問題で、野田佳彦首相と関係三閣僚が頻繁に会合を開き、議論している。だが、再稼働問題は実質的には仙谷由人党政調会長代行が中心となる通称「五人組」が、水面下で議論を仕切っている。そして首相らの四者の協議は、それを追認するような形だ。まさに政府・与党、さらに財界、霞が関が一体となって「再稼働ありき」を進めようとしている構図が浮かび上がる。(城島建治、関口克己)
野田首相、藤村修官房長官、枝野幸男経済産業相、細野豪志原発事故担当相。この四人の協議が再稼働を決める。
だが四者協議の議論を先導し、事実上政権内をまとめる枠組みが、昨年秋、非公式に出来上がっている。
四者協議のメンバーでもある枝野、細野の両氏と、仙谷氏、古川元久国家戦略担当相、斎藤勁官房副長官の五人組。リーダー格は仙谷氏で「チーム仙谷」とも呼ばれている。
仙谷氏は国家戦略担当相、官房長官、党代表代行などの要職を歴任。枝野氏、古川氏も一員の前原誠司政調会長を支持するグループを束ねている。昨年八月の党代表選では決選投票で野田氏支持に回り、首相誕生の立役者となった。その政策力と政治的腕力には野田首相も一目置く。
仙谷氏は菅政権で官房長官、副長官としてエネルギー政策を担当し、官邸を去った後も仕切り役を続ける。野党時代から電力会社とのつながりがあり、霞が関や党内ににらみが利く仙谷氏が頼られ続けている格好だ。
野田首相と藤村氏は昨年末以来、消費税増税問題に忙殺されてきた。そのこともあり再稼働問題は長い間、五人に任されてきた。
五人の議論は人目につきにくいホテルなどが選ばれる。東京電力をどう再建するか。電力会社の地域独占体制をどう破るか。そして再稼働問題。政府の新成長戦略の旗振り役を担ってきた仙谷氏は、電力不足は経済成長の阻害要因になると考えている。早い再稼働を前提に議論を進めてきた。そして、一連の議論は党内でも、知る人は少数にとどまる。
■仙谷氏ら、4者協議お膳立て
五人が出す方向性を正式に認める形の四者協議も再稼働を前提として生まれた。
昨年七月。九州電力玄海原発2、3号機(佐賀県玄海町)の再稼働が政治日程に上っていた時だ。
当時の菅直人首相は閣内に根回しなく「新たなルールを作って、国民が納得できる判断が出るよう指示する」と表明。再稼働を考えていた他の閣僚と衝突した。当時の菅氏は、脱原発を進めて延命を図る野心もあり、衆院解散も頭をよぎっていた。
この時は当時官房長官だった枝野氏が、再稼働の決定は、首相だけでなく官房長官、経産相、原発相を含めた四人で決定することを提案。菅首相にのませた。つまり四者協議は脱原発に走る菅氏を止めるためにできた。再稼働のツールだった。
四者の協議は四月三日の初会合後、九日までに計四回、慌ただしく回数をこなしているが、各回の所要時間は平均約一時間。首相が枝野氏に求めた新しい安全基準も、関西電力に求めた安全対策の工程表も、指示を待っていたかのように次の会合までに提出されるなど、出来レースを思わせる展開が続いている。
■霞が関・財界同調
経団連の米倉弘昌会長ら財界首脳は「安定した電力供給がなければ、生産拠点の海外移転が加速する」などと、政府に圧力をかけ続けている。
そんな経済界の動きを、経産省は歓迎している。監督官庁として稼働する原発をゼロにしたくない。五月五日、北海道電力泊原発3号機が停止するまでに大飯原発が再稼働しなければ全国で五十四基ある原発は一基も動かなくなり「原発なしでも大丈夫」という機運が高まる。
その事態を避けたいという利害では財界と一致する。
経産省だけでなく財務省も後押ししている面がある。総合特別事業計画で、政府は今夏に一兆円規模の公的資金を投入する方針だが、再稼働しなければ、東電は安定経営ができず、さらに税金投入が必要になると想定しているからだ。財務省の勝栄二郎事務次官も野田首相に直接、再稼働を働きかけている。
オール財界、オール霞が関が、もともと再稼働をめざす政権を後ろから押している。
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◆大飯原発 机上の安全 再稼働のために政府と関電が示し合わせ “泥縄”基準/政治主導をはき違えた「拙速」 2012-04-10 | 地震/原発/政治
中日新聞《 核心 》 2012/4/10 Tue.
政府は九日夜、野田佳彦首相と関係三閣僚の協議で、関西電力が提出した大飯原発(福井県)で実施する中長期の安全対策の工程表を概ね了承した。関西電力は事故時の最前線となる免震施設の建設など重要な課題を期限を切って実施を約束した。だが、裏を返せば安全性を保障する設備ができる前に、再稼働を認めることになり、工程表というペーパーに依存した政治決断に危うさも見える。(原発取材班・大村歩、政治部・関口克己)
関電工程表
■実情
「免震施設などはもっと前倒しできないのか。できるまでの間は大丈夫なのか」
九日午前、枝野幸男経済産業相は、大臣室で工程表を説明した関電の八木誠社長に疑問を投げかけた。八木社長は「対応できます」と答えたが、実は疑わしい。
大飯原発に免震施設が完成するのは三〜四年後。それまでの間は、タービン建屋の中央制御室の隣にある広さ百平方メートルの会議室がその代替施設となる。耐震性があり、放射性物質を除去する装置も備える。
ところが、会議室から壁一枚隔てた向こうは原子炉建屋だ。東京電力福島第一原発事故では、中央制御室は高い放射線量で作業員は立ち入りできなくなった。同様の事故が起きれば、使えない可能性が高い。仮に使えてもスペースは五十人ほどしかなく、常時数百人を収容した福島第一の免震重要棟に比べはるかに狭い。
一方、工程表を審査した経産省原子力安全・保安院の対応にも疑問が出ている。保安院の森山善範原子力災害対策監は九日の記者会見で、保安院の審査とは「保安院が作った安全対策が、関西電力の工程表に記載されているかの確認だけ」と説明。実現時期や中身の審査は行わない、とした。
関西電力は二〇一五年度までに恒久的な非常用電源などを設置すると約束しても、それを誰もチェックしないという事態も起きかねない。
■日程
政府は、北海道電力泊原発3号機が五月五日に停止する日程をにらみ、国内の原発稼働がゼロになるのを避けようと強いこだわりをみせている。それは三日、野田首相と三閣僚の初協議が行われて以来の、拙速ともいえる日程の進め方からも明らかだ。
首相は初会合で「安全評価(ストレステスト)の一次評価の結果など、これまでに明らかになったすべての事実について徹底的に検証したい」と慎重に議論を進める方針を表明。枝野産業相に安全対策に関する新基準を提示するように求めた。だが、枝野産業相が新基準をまとめて提示したのはわずか二日後の五日の第二回会合。翌六日の第三回では、あっさり新基準が正式決定した。
六日には政府が関西電力に中長期的な安全対策をまとめた工程表を提出するよう指示。関電から回答が示されたのは土日をはさんだ月曜日の九日午前。指示される前から工程表の準備を進めていたと疑いたくなるような関電の対応だ。
ただ「再稼働 先にありき」の姿勢に対し、関電の筆頭株主である大阪市の橋下徹市長が「安全性をチェックした上で動かすという当たり前のプロセスをすっ飛ばしている。政権は持たない」とかみつくなど批判は増幅している。
こうした声を意識したのか、枝野経産相は九日の協議後の会見では「大変重要なことなので、安全性について念のために確認する」と繰り返し説明した。だが、一方で「基本的には安全は政治家が評価、判断するものではない」と矛盾するような発言も飛び出した。関電の報告に軒並みOKを出した以上、政府の「熟考」はポーズの域を出そうもない。
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