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ファッションで行動する非核平和宣言 日本/ 米国から核恫喝を受けた中国と、中東で核恫喝を学んだ北朝鮮

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今後10年以内に存亡の淵に立たされる日本 米国から核恫喝を受けた中国と、中東で核恫喝を学んだ北朝鮮
JBpress 2012.04.18(水) [国防] 森 清勇
 北朝鮮は4月13日、長距離弾道ミサイルに転用できる人工衛星の打ち上げを断行したものの失敗、わずか1分後には洋上に落下した。面子を失った北朝鮮の今後の対応に世界各国は懸念を表明している。この件と最近の中国の動向につき、少し振り返ってみよう。
 3月16日(2012年)、北朝鮮は長距離弾道ミサイルに転用できる人工衛星打ち上げの発射予告を行った。
  それに前後して、朝鮮中央放送(3月3日)は戦略ロケット司令部の存在を明かし、正恩氏が視察したことを伝え、産経新聞(3月17日付)は正恩氏が側近に「核の積極活用」を指示したと報道した。
  他方、人民日報(3月21日)は、日本が尖閣諸島周辺の離島に命名したことに対し、「中国の核心的利益を損なう振る舞い」と非難し、同諸島沖の巡視活動は「日本の実効支配を打破する目的」であると伝えた。
  牙をむき出しにしつつある中朝のこうした挑発的行為は、核ミサイルを背景にした恫喝で、日本は真剣に対処策を考究する必要がある。
 ■非核平和宣言都市は本当か
  米朝2国間協議で北朝鮮のウラン濃縮と長距離ミサイル発射実験のモラトリアムに関する合意(2月29日)が成立して間もなくの、モラトリアム違反とも取れる発射予告は日米に大きな動揺を与えている。今後は「米国も火の海を免れない」という意思表示ではないだろうか。
  累次の6カ国協議もそうであったが、北朝鮮との会談や合意は、同国の核・ミサイル開発に合法的な猶予期間を与えるようなものであった。今回の合意も北朝鮮の核開発に然程の影響を及ぼさないと見られている寧辺の核施設の査察であり、またミサイルの発射停止は米朝の実りある会談が行われている期間と限定していた。
  他方、中国は従来宇宙の軍事利用を制限するよう熱心に提案し、また核軍縮のため努力し全ての国との友好関係を望むと言明していた。しかし現実には、宇宙の軍事利用に邁進し衛星破壊実験を行い、核弾頭ミサイルでは多弾頭化や命中率の向上に努め、米中対決のような場合は核兵器の使用もいとわないと人民解放軍の要人が発言するようになった。
  中国がこれほど核にこだわるのは朝鮮戦争以来、少なくも3度は米国から核恫喝を受け沈黙せざるを得なかったからである。
  中国は有事の場合、相手の指揮・通信・監視等に関わる衛星を機能不全にすることを企図していることは明確で、米国東部に届くICBMや隠密に接近できる原子力潜水艦発射のSLBMを多数装備している。
  人口が半減することさえ許容する中国は何も失うものはないとしており、いざという時は核で米国を牽制し、日本を孤立させる心づもりであろう。日本を射程内に収める中距離弾道ミサイルは100基以上、台湾・尖閣諸島を射程に収める短距離弾道ミサイルを含めると1000基以上配備していると見られている。
 米中は相互に核目標の照準外しを行っているので、再照準には1週間くらいの期日が必要であると見られている。その間は米国の日本への核の傘も額面上は機能しないわけで、日本は丸裸ということになる。
  また、同盟国が核装備をしていて通常兵器で対処できないときは核兵器での対処も許されると解放軍高官が何度も明言している。しかも、国家の指導者たちは軍人の発言を譴責も否定もしていない。
  中国は平時から日本を核の目標に指定し核脅威を及ぼし続けているわけである。
  こうした状況にもかからず、私が住む町の主だったところには「非核平和宣言都市○○市」という大きな標識が立てられている。このような宣言は、当市ばかりでなく日本のあちこちの市町村で行われている。
  「宣言」を裏付ける施設や市民に対する教育・訓練などが果たしてどれほど行われているだろうか、寡聞にして知らない。市内のどこを見回しても核シェルターなどはありそうもない。
  国民保護法に基づく市の計画もできていると仄聞するが、市民である我々に対する教育や訓練の呼びかけなどが行われた形跡はない。
 ■ファッションで行動する軽薄
  核問題は日本国家の存亡問題であるにもかかわらず、市民レベルの倫理観や米国の許諾云々として核装備の善悪や可否だけが論じられるだけで、日本の安全という観点から政治の場はおろか、国民の間でも真剣に議論されていない。
  中朝をはじめとする周辺諸国は軍事力を増大しているだけでなく、皇室を頂いて連綿と築き続けてきた日本の歴史と文化をなきものにしようと硬軟両様の工作で画策もしている。
  国内の分子をそそのかして、外国から与えられた戦後の疑似平和を守るべき至高のものと思い込ませ、日本文化を破壊する憲法を平和憲法という美名で死守させる、笑うに笑えない倒錯に落ち込ませている。平和憲法こそが周辺諸国の傍若無人の行動を許してきた元凶であるとそろそろ気づくべきである。
  田原総一朗氏は、60年安保闘争に参加した時のことを、『WILL』2011年12月号で自嘲気味に告白している。
  「私は毎日のようにデモに参加し、『安保反対! 岸首相は退陣せよ』と叫んでいたが、実は条約の中身など読んだことがなく、ただ当時のファッションで感情的に『安保反対』を唱えていただけだった。デモに参加した大半の人間が、岸安保は、実は“改善″であることを知らなかった」と。
  今日に至るも、護憲や集団的自衛権不行使を言い募る一群は、かつての田原氏同様に憲法が何をもたらしているかを考究することもなく、ファッション化しているのではないだろうか。
  ましてや、自分の生まれ故郷であり、自分を生かしているこの日本国家の崩壊をもたらしている、と考えてみることなど眼中にもないであろう。
 この憲法があるゆえに、自衛隊は軍隊になれず、専守防衛や非核三原則という非常識の制約で自分の国さえ守れない状態に雁字搦めにしている。日本人拉致にも、領域(領海・領土・領空)侵犯にもまともに対処できない情けない国家に成り下がっている実情を正面から見ようとしない。
  核兵器が国際政治でどのように作用しているかを考えると、核兵器反対! 非核平和宣言都市も願望だけのファッションでしかないことが分かる。しかし、核の拡散が進み、核使用の敷居が低下し続けている現実に目を向けるならば、もはやファッションとして見過ごすわけにはいかない。
  今や、中朝の核が現実政治において有無を言わせぬ形で、冒頭に述べたような言動となって日本の政治と国民の心に重くのしかかってきつつある。
  しかし、現在はMD(ミサイル防衛)としてイージス艦搭載スタンダードミサイル「SM-3」と陸上配備のペトリオットミサイルPAC-3があるだけである。
  おとりミサイルや多数同時発射で対処機能が飽和したり、迎撃回避装置を搭載した弾道ミサイルなどに対しては脆弱である。撃ち漏らしは許されないが、MDでは100%の撃墜は期待できないと見られる。
 ■政治には国民を諭す責任
  たとえ国民感情は反核であろうと、日本の安全がかかっている場合には独りよがりの倫理観で国家と国民を犠牲にさらすわけにはいかないと考えるのが政治である。国家が主権の最終的保有者であるというならば、国家と国家を形成する国民をあらゆる手段を用いて護り抜くことこそ至高至大の政治家の倫理であろう。
  フランスのノーベル賞作家クロード・シモンは「市民の生命を守るために生命を犠牲にせねばならないときがあり、平和を守るために戦いが必要な時もある。国家の防衛なくして市民の生命の安全などありえず、国家をいかに有効に防衛するかを考えれば、核兵器は必要不可欠である」という論理を展開したと言われる。
  こうした考えをドゴールたちが共有できからこそ、今日のフランスがある。
  北朝鮮が2009年4月テポドン2を発射し、同年5月第2回目の核実験を行うと、韓国は北朝鮮による核攻撃の懸念が高まったとして直ちに次のことを決めた。
 (1)米国から核の傘の提供を明記した合意文書を取り付ける
 (2)国防計画を改定して北朝鮮の基地に対する先制攻撃を明示する
 (3)電磁波防護システム、早期警戒レーダ、レーザー誘導爆弾、特殊貫徹弾バンカーバスター、無人偵察機を導入する
  また、今回の北朝鮮の衛星発射予告に対処するため、韓国は米国とミサイルの射程延伸について協議した。
  日本は雨漏りを防ぐMDを配備するだけである。1200万人が在住する東京に長崎に投下されたのと同程度の原爆が投下されると、死者は約50万人、負傷者は300万〜500万人というシミュレーション結果がある(「産経新聞」2006.12.16、高田純・札幌医大教授)。
 東京以外の日本のどこに落下しようとも、壊滅的被害をこうむる。こうした事実が目前に展開されようとしているにもかからず、政治家は誰一人警鐘を鳴らそうとしない。
  北朝鮮が1998年にテポドンを打ち上げると、政府は情報収集衛星の運用を決定し、2003年に初号機が打ち上げられた。また、2004年には弾道ミサイル防衛システム(BMD)の整備を開始し、イージス艦発射SM-3と地上配備のPAC-3を配備した。
  1発でも撃ち漏らしができないのが核ミサイル対処の要訣である(平成24.4.5時点での迎撃率はSM-3に関して米海軍は22発(命中)/27発(発射)、海自3/4、PAC-3に関して空自2/2となっている)。日本では防衛費の削減が続いており、システムの整備も遅れ気味で、訓練にも支障をきたす心配がある。
  さらに、SM-3が敵ミサイルをミッドコースで打ち漏らした場合、PAC-3が落下コースであるターミナル段階で対処することになるが、残骸は内陸に落下する。
  核弾頭が誘爆すれば核爆弾が投下された状況と何ら変わらない。核兵器に対しては発射後の対処には根本的な疑問が残るので、抑止を追求すべきである。
 ■第4次中東戦争の教訓
 第4次中東戦争は核小国(イスラエル)と非核小国(エジプト・シリア)の対峙であり、大国(ソ連)の核の傘が小国(エジプト・シリア)には効かないことや、小国(イスラエル)の核が核大国(米ソ)を動かした例証でもあった(「ディフェンス」47号(2009年)所収、喜田邦彦論文「第4次中東戦争における『非核国vs核小国』の検証」)。
  エジプトとシリアはイスラエルに2正面作戦を仕かけ、同時にソ連の核の傘がイスラエルの戦略を制約するものと確信して開戦した。
  他方、イスラエルは不意を突かれて当初苦戦したが、シリアの首都ダマスカスを核制圧下に置くことでゴラン戦線を停戦状態にし、シナイ(エジプト)正面に戦力を集中できるようにした。
  キューバ危機で核の恐怖を実感した米ソは核を以って相手を露骨に恫喝する行動は取らなかったが、核の恐怖を同盟の小国に警告し、核戦争の責任を負わせることで停戦を強要するようにした。
  その過程で、小国といえども核兵器を持っていれば停戦条件などの作為において大国を動かすことができるが、非核国は核小国の動きを斟酌した大国の言うままにしか動けないという実態を示した。
  北朝鮮はこの戦争で「ミグ21」をエジプトに派遣し、その見返りにSCUDを持ち帰り今日の弾道ミサイルに発展させた。また小国の核といえども大国を恫喝し抑止力として機能することを学んだと言われる。
 喜田氏が導く結論は、長期的にはオバマ大統領が提案した核兵器廃絶に賛成するが、10分で朝鮮半島や中国から核ミサイルが飛んでくる現代は、これに対する備えの第一歩を踏み出すことが子孫に安全を保障する道であるというものである。
  そこで提案される備えはスイスやスウェーデンのように「核の潜在的保有」国になることである。完成品としての核兵器は保有しないが、核物質と爆発装置に分けて保管しておき、有事が近づけば組み立てるという方法である。
  非核三原則に背馳しないし、核拡散防止条約(NPT)も脱退しない。「自衛のために必要最小限の核は憲法の禁ずるものではない」(2006年、政府答弁)の解釈の下での曖昧戦略である。
  日本こそ、イスラエルやスイス・スウェーデンの知恵に学ぶべきではないだろうか。
 ■近づく最後の晩餐
  米国は自国に都合のいいように日本を利用していると、米国の著名な学者たちも冷静に見ている。また、2020年代には中国の軍事力が米国を超すとも見ている。その時、多大の人口を有し、核戦争が人口抑制の一助にもなると豪語する軍人を擁し、生きた人間さえ穴埋めにするような中国に、米ソのような相互抑止戦略が有効かどうかは不明である。
 サダム・フセインは核を持っているかのように振る舞いながら、持っていなかった現実によって無残な最期を遂げた。
  カダフィーは米国の援助を受けたいばかりに途中で核開発を放棄したことを恨んだに違いない。こうした経緯を他人事ではないとしっかり学んだはずの北朝鮮であり、一路核開発、それも米国を射程に収める核ミサイルの実現に邁進しているわけである。
  核の恫喝は暗黙裡ではある(いや公然と言った方がいいかもしれない)がすでに始まっており、万一投下された場合の甚大な被害を考えると、非核三原則や反核は日本人のセンチメントだなどと、牧歌的かつ唯我独尊的な議論をしている場合ではない。
  相手は核という大量破壊兵器を手にして、日米離反を画策して核の傘の無効化を図り、本気で日本抹殺を考えてくるからである。
  日本は人間の尊厳や人権に対する倫理観や条約遵守の義務感を強く持っている国である。そうした意識の発露が被害者でありながら「過ちは二度と繰り返しません」と書かせた原爆墓銘碑であり、また代替手段を十分検討することもなく対人地雷を全廃し、クラスター爆弾も破棄するという、国際社会における軍事の常識からは逸脱も甚だしい行動である。
  それ以前にも日本は理想主義を追い続けてきた。日本は信長によって世界一の鉄砲保有国になったにもかかわらず、秀吉の鉄砲狩りであっという間に全廃してしまった。
 軍事ではないが、国際連盟発足に当っては人種差別撤廃という前代未聞の提案さえ行い、その時は決議に至らなかったが、今日のオバマ大統領の出現に先鞭をつけたに等しい。どこまでも国民感情からくる理想主義の追求である。核兵器においてその思いは一段と強い。
  こうした理想の追求は高貴なことである。国家にもノーブレスオブリージュ(高貴なものの責務)があるならば、日本はパイオニアの資格十分である。しかし、それとて国家の独立と安全が保障された後でしか実現できないし、自ら奴隷に落ちるほど不条理なことはない。
  日本の運命を決定づける瞬間が近づいている。不確定要素を是認したリアリズムに立って、日本は戦略を練る必要がある。
 ■日本に見合った抑止策
  悪夢に歯止めをかけるためにも、非核三原則から「核を持ち込ませず」を外して、西欧のように日米一体化を図る必要がある。アーミテージ報告で、日米同盟は米英同盟を目指すべきであるとしていたことを思い出すべきである。
  そのためには、日本は集団的自衛権の行使を認め、米国には核の傘の保証を文書で確認し、核対処の共同訓練を行うことが不可欠であり、これが当面の危機に対して早急にやるべき第1段階である。
  核の絶対的破壊力、通常兵器との非対称性を考えると、核には核で対処する以外にない。日本は米国の核の傘を期待しているが、米国の国益優先主義や数百万の死者さえ出ると見られる被害の甚大性等から、チキンレースの究極状況においては傘の提供を渋るに違いない。
  すなわち、第1段階を進める過程で、米国は日本にも核を持たせた方が得策である、一蓮托生を避ける方策であることを知るだろう。
  原爆で悲惨な状況を熟知する米国が、多大の自国民の犠牲を受け入れてでも他国を防衛する約束を果たすとは思えない。国民に責任を持つ大統領にすれば当然の選択であり、期待する日本が自国に対する無責任を露呈しているにほかならない。
  核の傘は抑止段階までは機能しても、更に進んだ段階では自国民保護が優先事項として生起する。同盟の限界でもあろう。
  そのためには、第1段階に並行して、米国を説得し了解の下で究極の準備を進める必要がある。日本人の性格として、いざという時には一朝にして従来の不可能が可能になるという希望的観測もあるが、こと核に関しては迅速な対応は難しい。
  従って、普段から自国防衛の最後の砦として、また国際社会における発言権の確保を意図して一段と踏み込んだ準備をしておく必要がある。これが第2段である。
 NPTでは国益に照らして脱退できる条項があるが、脱退しない前提で米国の傘が機能しない場合に備えた保険は必要であろう。
  中国は「平和のため」と言って軍拡をどんどん進め、北朝鮮は「人工衛星」と言って戦略核ミサイルまで造ってしまった。
  福沢諭吉は「智戦」を奨めたが、日本には兵器の一歩手前まで準備しておく狡知が必要と思う。スイスやスウェーデンですでに実現している方法で、日本の生存のためである。
  しかし、日本人的性格を斟酌すると、長期的には日本は非核を目指すべきである。これが第3段階である。日本の科学技術力を総動員して、MDに加えてレーザーや粒子ビームなど最新の高エネルギー技術と、ハヤブサで見せた遠隔目標評定技術を結集する兵器体系を作り上げるのである。
  目指すは非核SDIである。SDI(Strategic Defense Initiative)はレーガン大統領がソ連打倒のために目指した技術優位の「戦略防衛構想」である。日本の場合は非核を目指すNon-Nuclear SDIを追求することである。
 ■おわりに
  日本は道義を重んじる国である。オバマ大統領の前提付き核廃絶演説に、さも前提がなかったかのように飛びつくゆえんでもある。こうした日本の国民性を考えると、核装備国が核廃絶に向かうのを消極的に待つのではなく、積極的になくす方向を日本は探求すべきであろう。
  「花の春に先だつ者は残霜の傷ふ所となり、説の時に先だつ者は旧弊の厄する所となる。然りと雖も先だつ者あらずんば、後るる者何を以てか警起せんや」(佐久間象山著『省けん録』に寄せた勝海舟の序文)。
  荒唐無稽、非現実的、理想主義、世間知らず・・・、誰が何と言おうと、声を出さなければ先へは進まない。あえて、問題提起する次第である。
<筆者プロフィール>
森 清勇 Seiyu Mori星槎大学非常勤講師
 防衛大学校卒(6期、陸上)、京都大学大学院修士課程修了(核融合専攻)、米陸軍武器学校上級課程留学、陸幕調査部調査3班長、方面武器隊長(東北方面隊)、北海道地区補給処副処長、平成6年陸将補で退官。
 その後、(株)日本製鋼所顧問で10年間勤務、現在・星槎大学非常勤講師。
 また、平成22(2010)年3月までの5年間にわたり、全国防衛協会連合会事務局で機関紙「防衛協会会報」を編集(『会報紹介(リンク)』中の「ニュースの目」「この人に聞く」「内外の動き」「図書紹介」など執筆)。 著書:『外務省の大罪』(単著)、『「国を守る」とはどういうことか』(共著)
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イランから見れば、米国が3万発を超える核爆弾を持ちながら、他国の核を認めないのは理不尽だろう 2012-02-03 | 政治〈領土/防衛/安全保障〉 
 原油の大動脈「ホルムズ海峡」封鎖はあるか?世界を引き裂くイラン核疑惑の帰趨
Diamond online 2012年2月2日 山田厚史 [ジャーナリスト 元朝日新聞編集委員]
 ユーロ分裂の危機を抱える欧州の隣で、「イランの核開発疑惑」が世界秩序を根底から揺さぶっている。背景にイスラエルとパレスチナの対立があり、底流には大国による核独占体制の瓦解、キリスト教国による世界支配の終焉という歴史的な潮流がある。
 イランも米国も戦争は望んではいないが、互いに手詰まりで、解決の糸口は見えない。切り札のように言われるのが「イスラエルによるイラン核施設への空爆」だが、強行すれば、ホルムズ海峡に機雷がバラ撒かれることを覚悟しなければならない。力による解決は、世界を深刻な危機に突き落とす。
 原油の輸送が途絶え、日本経済は想定外の混乱に曝されるだろう。遠くにあるイランは、「深刻な事態」とされても実感が伴わない。考えたくもない話だが、われわれの暮らしを直撃するリスクを秘めている。
■「米国の都合」優先がもたらす矛盾
 昨年9月、イラン南部のブシェールで100万kWの原発が運転を始めた。中東のイスラム国で初めての商業運転だ。イラン政府はさらに2基をここに増設する。「核の平和利用」とされているが、米国などは「核の濃縮を進めようとしている」という疑惑の眼差しを注いでいる。
 原発で核燃料を燃やせばプルトニウムが出来る。原爆の原料だ。狭い日本に54基もの原発を立地しプルトニウムを作り続けている裏には、いつでも核兵器を造れるという潜在的核保有という力を維持する狙いがあった、とも言われている。被爆国の日本は「核兵器開発」を否定し、他国も納得していた。
 イランが「核兵器への転用は考えていない」と言っても、日本と同列に見る国はないだろう。米国の核の傘にある日本と違い、イスラエルと対峙するイランには「核武装」が軍事・外交に直結する事情がある。
 核が手が届かないハイテク技術でなくなったことが事態を複雑にした。広島・長崎で米国が原爆を使ってから、紛争を抱える国家は核兵器に頼るようになった。ソ連、英国、フランスが後を追い、途上国だった中国までも核を持つようになった。そこで始まったのが「核拡散防止条約(NPT)」による抑制だった。 「大国の核保有」を既得権にし、新興国の保有を認めないこの条約は、インド・パキスタンによって有名無実化した。
 米国は経済発展著しいインド市場への野心と、アフガニスタンを押さえる要衝としてのパキスタンへの配慮から、両国の核武装を黙認した。現状の核保有体制は「米国の都合」が優先することが明確になった。親米国の核は許されるが、反米国の核は許されない。こうした色分けが米国と関係がこじれた国家に、「なにがなんでも核を」という衝動を呼び起こした。北朝鮮もイランもこの文脈から「核保有国」になろうとしている。
 イランから見れば「好戦的」に映る米国が3万発を超える核爆弾を持ちながら、他国の核を認めないのは理不尽だろう。核保有が確実視されるイスラエルが、査察も制裁も受けていない不平等な現実がある。パレスチナ国家が現実味を帯び一触即発の中東情勢で、イスラエルに対抗する核開発は、イランにとって避けて通れない課題になっている。
 国際原子力機関(IAEA)によるイランの査察が近く始まるが、イランは表向きはともかくとして協力はしないだろう。イランから見ればIAEAは大国の核独占体制を補完する機関で米国の手先である。米国もIAEAでイランを止められるとは考えていない。
■強攻策に出たオバマ大統領の事情
 対イラン経済制裁はそんな事情から始まった。イラン経済の背骨である原油を国際市場から閉め出す。「兵糧責め」である。制裁は他国に呼びかけて包囲網を広げるものだが、今回のやり方は次のようなもので極めて強引だ。
 イランの石油収入はイラン中央銀行が管理している。したがってイラン中央銀行と取引のある銀行は米国内での営業を認めない。自国の銀行が米国内で営業したければ、イランとの原油取引を停止せよ――。
「イラン貿易のファイナンスをすれば、イラン中央銀行に口座を持つのは当たり前です。経済がグローバル化しているのにイランと取引のある銀行は米国から閉め出す、と言っているのに等しい」と、メガバンクの担当者は呆れる。WTOが定める公正な市場参入を歪めるような制裁だが、米国が言えば通ってしまうのが今の世界秩序だ。
 無茶を承知で強攻策に出たオバマ政権には切迫した事情がある。大統領選挙の年だからだ。経済の苦境で支持率が低下したオバマにとって、ユダヤ人票の動向は当落を左右する重みを持っている。米国のユダヤ系市民は約600万人といわれ、人口の3%にも満たないが、新聞社・放送局などメディアや金融や不動産などを手がける富裕層に確固たる地位を占めている。結束力を誇る全米ユダヤ協会の推薦は集票と資金に直結する。共和党で有力視される右派のギングリッチ候補がイスラエル支持を鮮明にしているだけに、オバマも親イスラエルを押し出さざるを得なくなった。
 政界を仕切るイスラエルロビーにとって、選挙の年は政策を前進させる好機だ。民主党政権は伝統的にイスラエルと近く、4年前の大統領選挙でユダヤ票はオバマの当選に貢献した。
 イランの核開発阻止はイスラエルの死活問題だけに、オバマも引きずり込まれ、イラン・米国の双方にとって「落としどころ」が見えない危険なゲームにはまってしまった。
■イスラエルによる空爆はあるか?
 そこで言われるのが「イスラエルによる空爆」だ。イスラエルは81年にイラクの原子力発電所を空爆し原子炉を破壊した。イラン・イラク戦争の最中で、イラクはどこから攻撃されたかさえ掴めなかったが、イスラエルが「隣国の核武装を阻止するため」と作戦を公表した。2007年にはシリアが建設中の原子炉を空爆。イスラエルの身勝手な軍事行動は国際的非難を浴びたが、米国が擁護し国連も非難決議だけで、制裁など実効ある措置は取られていない。
 今回も手詰まりを打開するのが「イスラエルの単独攻撃」なのか。それが出来るなら、これまでのように原発が稼働する前に攻撃していたはずだ。パレスチナ問題が国際的に注目され、「軍事的強者」であるイスラエルの振る舞いに、世界が冷ややかな目を向けるようになった今、イラクやシリアでやった離れ業はイラン相手に通用するだろうか。イランは「ペルシャ湾の入り口ホルムズ海峡封鎖」という世界を混乱に巻き込む作戦をほのめかし、イスラエルの武力行使を牽制している。
 イランとオマーンに挟まれたホルムズ海峡は幅30km。遠浅の海でタンカーが往き来できるのは、真ん中を掘った幅2〜3kmの航路だけだ。ここに機雷をバラ撒けば原油の大動脈が閉塞される。中東に90%近い原油を依存している日本にとって他人事ではない。原発事故で火力に依存する日本の発電に深刻な影響が出る。価格は跳ね上がるだけでなく、世界は原油の取り合いになり必要量の確保さえ危うくなる。
 イランが原発を稼働しただけで、世界危機の瀬戸際になりかねない軍事行動に出ることは、米国やイスラエルにとっても好ましいことではない。事態は相手の出方を見ながら、膠着状態が続くのでははないか。
■海の時代から陸の時代へ
 辛いのはイランだろう。禁輸や銀行取引の停止で物資の流入が細り、通貨は急落、インフレが起きている。
 イラン中央銀行は1月25日、5年ものの預金金利を年16%を21%に引き上げた。物価上昇は年率20%とされている。庶民は音をあげ、政府も物価を上回る預金金利にしなければならなかった。だが高金利は国内経済を冷やし生産活動を萎縮させる。インフレは政権への不満を募らせる。
 インフレ率20%は公式発表だ。食料品など生活必需品はそれよりも高いだろう。不自由な政治体制への不満と結びつく可能性もあるだろう。強引に見えるイラン制裁で米国が狙っているのは「テヘランの春」である。経済を締め上げて庶民の不満を体制転換に結びつける。リビアでカダフィ政権を倒した手法である。
「CIAと革命防衛隊の暗闘が始まった」という声も聞く。民衆の蜂起を演出するCIAの手先と、親米分子を摘発するイラン革命防衛隊がテヘランや地方都市で動き出した、というのだ。
 ジャスミン革命に席巻された「アラブの春」とイランは独裁・非民主という制度は共通しているが大きな違いがある。「政権の腐敗」だ。アラブ国家にありがちな世俗的なイスラム政権と一線を画すイランの原理主義的宗教支配は、確かに息苦しさはあるが、民衆の生活を包み込む強さを持っている。都市を離れればその影響力は決して小さくはない。
 中国・ロシア・途上国の支援もイランにとって心強い。米欧の制裁は海路でイランへの物資を締め上げるだろうが、陸でつながる中国やロシアからの輸送路が拡大するだろう。エコノミストである内閣府参与の水野和夫氏は、「近代は欧米が覇権を握る海の時代だったが、これが終わり、いま陸の時代が始まろうとしている」という。
 近代の総決算である第2次世界大戦後の世界はキリスト教、核兵器、ドルという通貨の三点セットが基軸となった。G7の時代が去り、G20が世界秩序に関与する今、キリスト教国の核と通貨の支配がほころびている。
 大西洋から太平洋に軸を移して延命しようとする海の時代が、ユーラシア大陸を中心とする陸の時代に取って代わるのか。
 未来はまだ見えないが、ユーラシアの真ん中にあるイランが引き裂く世界の混乱から、次のヒントが見えてくるかも知れない。
*山田厚史やまだ あつし/1971年朝日新聞入社。青森・千葉支局員を経て経済記者。大蔵省、外務省、自動車業界、金融証券業界など担当。ロンドン特派員として東欧の市場経済化、EC市場統合などを取材、93年から編集委員。ハーバード大学ニーマンフェロー。朝日新聞特別編集委員(経済担当)として大蔵行政や金融業界の体質を問う記事を執筆。2000年からバンコク特派員。2012年からフリージャーナリスト。CS放送「朝日ニュースター」で、「パックインジャーナル」のコメンテーターなど務める。
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原発保有国の語られざる本音/多くの国は本音の部分では核兵器を持ちたいと思っているようであり2011-05-10 | 政治〈領土/防衛/安全保障〉
 知らないのは日本人だけ? 世界の原発保有国の語られざる本音
JB PRESS 2011.05.10(Tue)川島博之〈東京大学大学院農学生命科学研究科准教授〉
 4月の最終週に、ドバイ経由でエチオピアに出張した。出張ではホテルのロビーなどで外国人と何気ない会話を交わすことも多いのだが、今回出会った人々は、私が日本人と分かると、異口同音に「FUKUSHIMA」について聞いてきた。世界の人々が原発事故に関心を寄せているのだ。福島は広島、長崎と共に、広く世界に知られた地名になってしまった。
 日本はこれからも原子力発電を続けるべきであろうか。それとも、原発は取り止めるべきなのだろうか。
 報道各社による直近の世論調査では、賛否はほぼ拮抗している。多くの人が、地震が多い日本で原子力発電を行うことはリスクが伴うが、便利な生活を送るためには仕方がないと考えているのだろう。
 現在は、原発から漏れている放射性物質の封じ込めや津波で破壊された町の復興に関心が集まっているが、一段落つけば、これから原発とどう付き合うか、真剣に議論しなければならなくなる。
 その議論を行う前に、世界の原発事情についてよく知っておくべきだ。フランスが原発大国であることを知っている人は多いと思うが、その他の国の事情については、よく知られていないと思う。
 筆者の専門はシステム分析だが、システム分析ではデータを揃えて広い視野から先入観を持たずに現実を直視することが第一歩となる。そこで本稿ではIEA(国際エネルギー機関)のデータを基に、世界の原発事情について考えてみたい。そこからは原発の意外な一面が見えてくる。
*原発を所有する国の意外な顔ぶれ
 原発は最先端の科学技術を利用したものであるから、先進国にあると思っている人が多いと思う。しかし、調べて見るとどうもそうとは言い切れない。
 現在、31カ国が原発を所有している。原発による発電量が最も多い国は米国であり、その発電量は石油換算(TOE)で年に2億1800万トンにもなる(2008年)。
 それにフランスの1億1500万トン、日本の6730万トン、ロシアの4280万トン、韓国の3930万トン、ドイツの3870万トン、カナダの2450万トンが続く。日本は世界第3位だが、韓国も第5位につけており、ドイツを上回っている。
 その他を見ると、意外にも旧共産圏に多い。チェルノブイリを抱えるウクライナは今でも原発保有国だ。石油換算で2340万トンもの発電を行っている。その他でも、チェコが694万トン、スロバキアが440万トン、ブルガリが413万トン、ハンガリーが388万トン、ルーマニアが293万トン、リトアニアが262万トン、スロベニアが164万トン、アルメニアが64万トンとなっている。
 旧共産圏以外では、中国が1780万トン、台湾が1060万トン、インドが383万トン、ブラジルが364万トン、南アフリカが339万トン、メキシコが256万トン、アルゼンチンが191万トン、パキスタンが42万トンである。
 その他では、環境問題に関心が深いとされるスウェーデンが意外にも1670万トンと原発大国になっている。また、スペインが1540万トン、イギリスが1370万トン、ベルギーが1190万トン、スイスが725万トン、フィンランドが598万トン、オランダが109万トンとなっている。
 原発を保有している国はここに示したものが全てであり、先進国でもオーストリア、オーストラリア、デンマーク、アイルランド、イタリア、ノルウェー、ニュージーランド、ポルトガルは原発を所有していない。
 ここまで見てくると、一概に原発は先進国の持ち物と言うことができないことが分かろう。
*多くの国は本音で核兵器を持ちたがっている
 東欧諸国は旧共産圏時代に建設し、今でもそれを保有している。しかし、台湾やインド、ブラジル、南アフリカ、パキスタンになぜ原発があるのだろうか。韓国の発電量がなぜドイツよりも多いのであろうか。また、G7の一員でありながら、なぜイタリアには原発がないのか。
 原発の有無は、その国の科学技術力や経済力だけでは決められない。
 ある国が原発を所有する理由を明確に知ることは難しい。その国の人に聞いても、明確な答えは返ってこないと思う。しかし、原発を持っている国名を列記すると、その理由がおぼろげながら見えてくる。原発は国家の安全保障政策に関係している。
 原子力による発電は原子力の平和利用であるが、ウランを燃焼させることにより生じるプルトニウムは原子爆弾の原料になる。また、原発を製造しそれを維持する技術は、原爆を製造する技術につながる。原発を持っている国は、何かの際に短時間で原爆を作ることができるのである。
 北朝鮮が原爆の所有にこだわり、それを手にした結果、米国に対して強い立場で交渉できる。この事実は広く知られている。そのために、イランも原爆を欲しがっている。
 米国が主導する世界では、世界の警察官である国連の常任理事国以外は核兵器を所有してはいけないことになっている。それ以外の国が原爆を持つことは、警察官以外が拳銃を持つようなものであり、厳しく制限されている。
 しかし、各国の利害が複雑にぶつかり合う世界では、金正日が米国に強気に出ることができるように、核兵器を持っていることは外交上で有利に働くと考えられている。
 多くの国は、本音の部分では核兵器を持ちたいと思っているようであり、原発保有国のリストと発電量を見ていると、その思いの強さが伝わってくる。
*フランスが原発大国でイギリスの原発が小規模な理由
 日本では、フランスが原発大国であることはよく報じられるが、その理由が語られることはない。フランスが原発に舵を切ったのは、地球環境問題がやかましく言われるようになった1990年代以前のことである。フランスはCO2を排出しない発電方法として原発を選んだわけではないのである。
 それには、西側にいながら米国と一線を画したいと考えるドゴール以来の外交方針が関連していると考えるべきであろう。同様の思いは、国防に関心が深いスウェーデンやスイスにも共通する。また、フィンランドは常にソ連の脅威にさらされてきた。
 そう考えると、西側の中でもイギリスの原発発電量がスウェーデンよりも少なく、フランスの約1割に過ぎないことがよく理解できよう。イギリスの外交方針が米国と大きく異なることは多くない。原子力の力を誇示して、ことさらに米国と一線を画す必要はないのである。
 韓国に原発が多いことも理解できる。米国が作り出す安全保障体制の中で原爆を持つことは許されないが、北朝鮮が持っている以上、何かの際に原爆を作りたいと考えている。
 その思いは台湾も同じである。旧共産圏に属する小国が、多少のリスクに目をつぶって原発を保持し続ける理由もそこにある。東西の谷間に埋もれるなかで、少しでもその存在感を誇示したいと思っているのだ。
*「絶対安全」とは言えない原発の所有を国民にどう説明するか
 このような力の外交の一助として原発を位置づけるという考え方は、多くの国で国民にそれなりの理解を得ているようだ。だから、フランスや韓国や台湾、ましてパキスタンで反原発のデモが繰り返されることはない。
 しかし、日本、ドイツ、イタリアではそのような考え方は国民のコンセンサスとはなり難い。言うまでもなく、この3国は第2次世界大戦の敗戦国であり、多くの国民は力による外交を毛嫌いしている。そのために、原発の所持を安全保障の観点から国民に説明することが難しくなっている。
 この3国では原発所持の理由を、経済性や絶対安全であるとする観点から説明することになる。しかし、それだけでは、使用済み燃料の最終処理に多額の費用を要し、また、福島の事故で明らかになったように、絶対安全とは言えない原発の所有を国民に説明することはできない。
 イタリアはチェルノブイリ原発事故の後に国民投票を行い、原発を廃止した。また、ドイツも緑の党などが強く反対するために、福島の事故を受けて、原発の保有が大きな岐路に立たされている。
 ここに述べたことを文書などで裏付けることは難しい。しかし、原発の保有国リストや発電量を見ていると、自然な形で、ここに述べたようなことが見えてくる。世界から見れば、日本の原子力政策も潜在核保有力の誇示に見えていることであろう。
 これまで、日本における原発に関する議論は、意識的かどうかは分からないが、本稿に述べた視点を無視してきた。
 しかし、原発の経済性と安全性の議論だけでは、なぜ、原発を持たなければならないのかを十分に議論することはできない。福島の事故を受けて、今後のエネルギー政策を考える際には、ぜひ、タブーを取り除いて議論すべきであろう。
 戦後66年が経過しようとしている。少子高齢化も進行している。そろそろ、老成した議論を始めてもよいのではないであろうか。(背景の着色は来栖)
〈筆者プロフィール〉
川島 博之 Hiroyuki Kawashima
 東京大学大学院農学生命科学研究科准教授。1953年生まれ。77年東京水産大学卒業、83年東京大学大学院工学系研究科博士課程単位取得のうえ退学(工学博士)。東京大学生産技術研究所助手、農林水産省農業環境技術研究所主任研究官、ロンドン大学客員研究員などを経て、現職。主な著書に『農民国家 中国の限界』『「食糧危機」をあおってはいけない』『「食糧自給率」の罠』など
・世界の中の日本 メイド・イン・ジャパンの製品を世界中に売りまくりジャパンバッシング(日本叩き)が沸き起こっていたのは遠い過去の話となった。今では何を求めても反応すらしない国(ジャパンミッシング)として世界から忘れられようとしている世界第2位の経済大国ニッポン。国際社会から孤立しないためには何をすべきなのか。海外に張り巡らされた日本人随一のネットワークを生かして、日本の取るべき針路を考察する。
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国防の観点から脱原発の必要性を論じる/原発の存在自体が日本の国防を脅かす最大の要因になっている2012-01-26 | 政治〈領土/防衛/安全保障〉
 テロに無力の日本はそもそも原発扱う資格ない国と西尾幹二氏
NEWSポストセブン2012.01.26 16:01
福島第一原発の事故直後から、保守の立場にあって強く脱原発を主張してきたのが評論家の西尾幹二氏である。左派の主張にはない国防の観点から脱原発の必要性を論じる。
* * *
原発の存在自体が日本の国防を脅かす最大の要因になっている。
日本の原発は大量の冷却水を確保する必要から全て海に面しているが、海上から高速船で近づくテロ攻撃に対して全く無力である。韓国の原発は海に向けて機関銃座を据えつけているが、日本ではなんと法律上自衛隊による警備すら認められておらず、普段は民間警備会社に任されている。
しかも、今回の原発事故でテロリストに決定的な弱点を晒してしまった。原子炉そのものを直接破壊しなくても、電源設備を稼働不能に陥らせればよいのである。
日本の原発は空からの攻撃に対しても無防備である。外国から見れば、日本全土に核地雷が埋められているようなものだ。1998年8月31日、北朝鮮は弾道ミサイル・テポドン1号を発射し、青森県上空を通過させて太平洋に落下させたが、これは六ヶ所村にミサイルを落とせることを示威したものと解釈できる。
こうしたテロ攻撃、軍事攻撃を受けずとも、今回のような大事故が起これば、核攻撃を受けたに等しい、あるいはそれに準じた被害が発生する。まさに今回の福島第一原発の事故現場は核戦争の最前線に近かったのである。
関係者にその自覚すらなかったことが最大の問題である。その証拠に、例えば、日本の技術は軍事用に作られていない。日本は世界に冠たるロボット先進国であるはずだが、事故現場で役立ったのはアメリカの軍事用歩行ロボットであり、無人偵察機であり、フランスとアメリカのセシウム除去装置だった。
常に最悪の事態を想定し、準備を整えておくのが軍事的知能というものである。戦後の日本にはこれがない。だから、非常事態に国の中枢が機能しなかった。日本はそもそも原発を扱う資格を欠いた国だったのかもしれない。
私は原発事故以来、こうした問題を何度もメディアで取り上げ、昨年末には『平和主義ではない「脱原発」 現代リスク文明論』(文藝春秋刊)にまとめ、とりわけ保守論壇に対して原発の是非を強く問い掛けてきた。だが、問題のポイントを誤解せずに正面から受け止めて答える声はほとんど皆無である。
「平和利用」という美名に飾られた日本の原発は戦後の「一国平和主義」の象徴であり、その矛盾が最悪の形で露呈したのが今回の事故である。もはやアメリカの「核の傘」は幻想にすぎないことは明らかであり、今後アメリカの軍事予算の削減とともにアメリカの核による抑止力は弱まっていく。
ならば日本は独自に核を持つ必要があるが、45トンものプルトニウム、つまり5000発もの原爆は必要ない。(※注:日本のプルトニウム保有量は60トンを超えないよう歯止めを掛けられているのだが、抽出されたプルトニウムは増え続け、溜まりに溜まって現在45トンを超えている。プルトニウムが8キログラムあれば長崎型原爆が1個作れるので、5000発以上の原爆の材料を保有していることになる)
ほんの数十の核ミサイルとそれを搭載する原子力潜水艦があれば、核武装した膨張国家・中国に対する抑止力になる。そして、その抑止力を持つ自由を獲得するためには脱原発が必要なのである。
※SAPIO2012年2月1・8日号
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