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「ミドルメディア」で日本の言論界が変わる 茂木健一郎×上杉 隆  『Voice』2012年5月号

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「ミドルメディア」で日本の言論界が変わる
《 『Voice』2012年5月号より》2012年04月18日 公開
茂木健一郎(脳科学者)、上杉 隆(自由報道協会代表)
 “卑怯な”原発事故報道検証
  茂木 上杉さんが3月に出した『新聞・テレビはなぜ平気で「ウソ」をつくのか』(PHP新書) を読んで驚きました。よくここまでメディアの内実を書いたね。
  上杉 かなり気合を入れた本です。3・11以降マスメディアは、真実を追求するという本来の機能とは真逆の機能を果たしてしまった。今回はなぜそうなったのかという原因やメディア界の腐敗構造を明らかにしたつもりです。
  茂木 原発事故に際して、上杉さんはツイッターを中心に情報を流し続けたわけだけれど、いま振り返ってみれば、その情報はほとんど正しかった。でも世間に「上杉隆はウソつきだ」という意見が多いでしょう? これはどうして?
  上杉 もちろん私にも間違いはあります。でも、それよりも根本的な間違いを犯した人びと、つまりマスメディアが、「自分たちが間違っていた」と決していわないからでしょう。原発事故における政府や東京電力の対応の不備が、年末年始あたりから続々と明らかにされていますよね。たとえば、昨年12月に行なわれた国会事故調査委員会で文部科学省の担当者が、事故直後にSPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)のデータを米軍に提供していたことを明かしました。国内でSPEEDIの情報がすべて公開されたのは、事故から2カ月後ですよ。政府による情報隠蔽があったということが証明されたのです。アメリカ政府が3月17日に自国民に対して80?圏外への避難勧告を出したのは、この情報に基づいてのことだった。今年2月に出されたNRC(米国原子力規制委員会)による報告書で、それは明らかにされています。しかし、こうした事実が公になっても、政府やメディアからの訂正はありません。
  一方で、私は事故当時、ラジオやインターネット、あるいは記者会見などで「アメリカ政府は80?の避難勧告を出した」「放射性物質は拡散している」「メルトダウンの可能性がある」などと発信したのですが、それに対して「デマをいうな!」といわれたまま。いま考えればこれらの点は正しかったわけですが、その「デマ」というレッテルが独り歩きして、いまだにそう呼ばれているということです。
  茂木 海外には「上杉隆」みたいなジャーナリストはゴマンといるよね。でも日本だと、政府に楯突くジャーナリストは上杉さんくらいで、目立つから攻撃されるんじゃない? ある意味、日本の空気を読んでいない人物ということだ。(笑)
  上杉 最近になって新聞やテレビでは、原発事故問題についての検証をさまざまに始めていますね。僕は1年前にインターネット動画の生放送で「いまメディアは政府発表を信じてそのまま報じていますが、時が経てば自らのことは棚に上げて、政府を攻撃し始める」といいましたが、まさにそのとおりになっています。
  日本のメディアの検証は、海外メディアのそれとはまったく違うんです。海外では、仮にテレビの報道が間違いで、フリージャーナリストの情報が正しかったとわかると、その人物を番組に呼び、「当時、あなたはなぜ正しい報道ができたのですか」と探るわけです。そうして、そのジャーナリストの名誉も回復される。一方、日本では、原発報道についてはフリーランス記者たちによる情報が正しかったにもかかわらず、メディアは彼らについていっさい触れません。そして、自分たちが間違った報道をしたことも、なかったことにしている。しきりに「政府が隠していた」といっているでしょう?
  茂木 卑怯だよね。
  上杉 政治もそうですが、報道も結果責任です。マスメディアは結果として間違えたのだから、訂正の一つや第三者か他者を招いての検証、あるいは誰か処分される人間が一人くらいいてもいい。しかし、いませんね。全員がウソをつけば、そのウソが真実としてまかり通るのです。そして時に、本当のことをいう人間が現われれば無視、排除、あるいは「あいつのほうがウソつきだ」といって抑え込む。
  茂木 卑怯な手法を使うほうが、世間では生き残るようになっているんだね。でも俺は上杉隆を支持するよ。
  上杉 ありがとうございます。茂木さんも日本の空気を読まないですね(笑)。これは私の造語で、ずっといってきたことですが、日本には霞が関と記者クラブによる「官報複合体」が存在しています。その詳細は、ぜひ『新聞・テレビはなぜ平気で「ウソ」をつくのか』をお読みいただきたいのですが、こういったシステムが日本の言論界を不健全にしているのです。
  茂木 記者クラブなんていうシステムはやめてしまえばいいのに。なぜやめられないの?
  上杉 できるかできないかではなく、やるかやらないかです。ところが、やらない。メディアの人間は、記者クラブというぬるま湯にずっと浸かってきたので、このシステムなくしてはやっていけないんです。
  茂木 先日、アメリカに行ったのだけれど、日本のメディアは全然ダメだと再認識しました。アメリカの人たちは、震災後の日本人の行動に対しては賞賛を惜しまない。あれほどの大津波に襲われたにもかかわらず、強靭さを保っているのはすごい、と涙して言うんです。しかし、日本のメディアを褒める人は誰一人いませんね。
 「いままで記者はツイッター禁止だったの?」
  茂木 日本のメディアがダメなところは、「個が立っていない」ところです。大手メディアでジャーナリストとして活動している人間は、「これは○○新聞の方針です」と、社の後ろに隠れて自分の意見をいわない。取材しているのは個々の記者であり、そこに必ず記者の判断があるわけでしょう。僕にいわせれば、個人としてどう考えるかをいわないで、なんの意味があるのか。日本のメディアは、自分の責任において報じるという構造になっていないんですよ。
  上杉 海外では、ジャーナリストが自分の意見を自由に述べます。これは、社会は多様な価値観をもった人間で構成されており、報道が多様になるのも当然だ、という考え方がベースにあるからです。しかし日本のマスメディアは、正しい情報は一つしかないと思っている。それを「客観報道」「公正中立」といっているんです。
  茂木 「客観報道」なんてあるわけないじゃないか。
  アメリカから帰国する機内でNHK「ニュースウオッチ9」をみていたのだけれど、「野田首相と自民党の谷垣総裁が密かに会談した」というニュースのときに、大越健介キャスターが「僕は彼らが会ってもいいと思いますよ」とNHKの番組にしては珍しく、個人の意見を述べたんです。NHKのほかのニュースは、文部科学省の検定済み教科書みたいでつまらないよ。それまで、僕はアメリカで大統領選挙に向けた共和党の候補者争いのニュースをさんざみてきたし、キャスターや記者が自分の意見をいうことは当たり前だと思います。ツイッターに関しても、『朝日新聞』が積極的に活用する方針に転換したね。
  上杉 先日、ある海外特派員に会ったとき、その話題になりました。朝日新聞社が記者14人について実名利用でのツイッターを解禁した、と『朝日』自身がニュースにしたんです。彼らはそれをみて、「いままでツイッターは禁止だったのか?」と笑っていましたよ。記者はツイッターをしてはいけないという言論封殺を、天下の『朝日新聞』ですらしていたのです。
  茂木 仮に、ある会社の方針としてツイッターが禁止になるようなことがあったとしたら、それに黙って従うなんて、ジャーナリストとはいえないよ。
  上杉 私は、「日本のメディア記者はジャーナリストではない」といっています。今年1月、フランス人ジャーナリストが福島原発から20km圏内の警戒区域に入って逮捕されたのですが、日本のメディアは批判的に報じていましたね。
  茂木 なんで!? ジャーナリストだったら、逆に逮捕した側を批判するはずでしょ?
  上杉 原発事故が起こったときも、フリーランス記者や海外メディアはみな取材のためにと避難・警戒区域に入りました。しかし日本のメディアには、放射能事故が起きたときに「この圏内には入ってはいけない」という内規があります。朝日新聞や民放各局は50km、NHKは40kmといった具合に。記者たちは、「会社の規則だから仕方がない」と従いました。しかし、ジャーナリストが「仕方がない」という台詞を吐くべきではない。クビを覚悟で現地に入ってしかるべきです。避難するなら、少なくとも「私はジャーナリストをやめます」といわなくてはいけない。でも、誰もそれをしません。
  茂木 メディアの実態を知ると、どんなロジックを使っても、このシステムは正当化できないと思えてくる。僕は大手新聞の人と付き合いがあるから話す機会もあるのだけれど、記者クラブの存在意義について聞くと、みんなゴニョゴニョと口を濁しますね。これだけ多くの記者がいれば、「社は記者クラブに所属しているけれど、個人的にはおかしいと思う」という意見を表明する人が、一人くらいは出てきてもおかしくないでしょう?
  上杉 逆に「記者クラブは正しい」と思う人がいてもいいんですよ。それをきちんと表明すればいい。ですが、記者クラブ批判をやってきた12年のあいだ、それを表明したのは、僕の知るかぎりたった一人ですね。昨年亡くなられたのですが、『産経新聞』論説副委員長を務められた花岡信昭さんです。彼は1998年に記者クラブの新綱領をつくったので、この仕組みをもっともよく知っていました。花岡さんとは対談もしたし、教えてもらうことが多くありましたよ。花岡さん以外はみなウラで悪口を言い続けているだけ。はっきりいって卑怯者ですね。
  メディアの人間より政治家のほうがよっぽどフェアですよ。先日、枝野大臣と食事をしました。僕は、昨年3月に政府が80km圏外まで避難勧告を出さなかったということで、枝野さんを「犯罪者」とまでいった。先方も僕を批判しています。でも、言論の場での争いと人間関係は別の次元の話です。メディアの人間ほど、一つ論を批判しただけですぐ「あいつは敵だ!」となりますね。
  茂木 幼稚だよね。そもそも反論もしないでしょう。意見すると目立ってしまうので、「黙っているのがいちばん得だ」と思っている。こういった日本の特徴をみるにつけても、海外メディアの「オプ=エド(正反対の論説を述べること)」というシステムは面白いね。
  上杉 オプ=エドはたしか『ワシントン・ポスト』が最初に始めたのですが、いまでは新聞のみならず、『アルジャジーラ』などの放送でもやっていますよ。先進国の主たるメディアでやっていないのは日本くらいではないでしょうか。
  たとえば『NYタイムズ』であれば、『NYタイムズ』に批判的な意見をもつ人間を雇って、『NYタイムズ』批判を書かせるんです。「先週の〇〇記者の記事は、ここがおかしい」という具合に。さらに、「〇〇記者の記事に異論があったけれど、私はそれに反論する」という、オプ=エドに対するオプ=エドも掲載します。すると、『NYタイムズ』を読むだけで読者は、「一つの問題でも見方はいろいろある」ことを理解します。毎日、新聞1ページくらいは、オプ=エド欄がありますよ。
  茂木 ちなみに、上杉さんが『NYタイムズ』を例に挙げることが多いのは、やっぱりかつて『NYタイムズ』にいた経験があって、よく知っているから?
  上杉 ええ。本当はもっと多くのメディアとの比較を行ないたいのですが、働いたこともなく、無責任になる可能性があります。しかし『NYタイムズ』であれば、いざというときは当時のボスや知人の記者に確認できますから。また、アメリカのジャーナリズムの原則は『NYタイムズ』のルールに基づいていることが多いんです。ピュリツァー賞を運営しているコロンビアのジャーナリズム大学院も、その他の新聞社も、『NYタイムズ』のルールを参考にしている。ただし、これが正しいというわけではなく、あくまで比較するときの基準です。『NYタイムズ』よりも健全なメディアはたくさんあると思いますよ。
  茂木 上杉さんは、メディアに都合の悪いことを発言していろいろな番組を降ろされてきたらしいけど(笑)、自社に批判的な発言をする人は登場させないというのは、オプ=エドの精神とは逆だよね。
  上杉 それは独裁国家のメディアがやることです。日本のメディアが海外で相手にされないのは、こういった性質のためですね。
海外では自由報道協会のほうが評価されている
  茂木 このままだと日本のメディアは衰退する一方だよ。いま世界ではウィキリークスなり、最近でいうと匿名のハッカー集団「アノニマス」なり、それらが新しい流れになっているわけでしょう?
  上杉 オンラインメディアでいえば、ニュースサイト「ハフィントン・ポスト」、調査報道専門のNPOメディア「プロパブリカ」、政治専門のネットメディア「ポリティコ」などが登場していますよね。
  茂木 でも日本のメディアは、世界でまったく通用しない。日本の新聞社が出している英字紙は、どれもクオリティがものすごく低いんだよ。日本の新聞社に勤めているネイティブのスタッフは、日本人記者による低レベルの記事を翻訳させられているから、ものすごくフラストレーションが溜まっているらしい。海外メディアの記事は、主語があって、こういうスタンスで、こう考察をして、このような意見をもつに至った、というストーリーがわかります。日本の新聞記事は、まず主語がはっきりしていないし、役所が発表する文章みたい。
  上杉 日本の新聞記者は、海外でいうワイヤーサービス(通信社)の仕事をやっているだけなんですよ。だから「日本の新聞記者は新聞記者ではない」。
  茂木 なぜ上杉さんが非難されるんだろうね。当たり前のことを言っているだけに思えるけど。
  上杉 僕も当たり前のことを言っていると思っているんですけどね。(笑)
  茂木 海外に行けば、日本のメディアの惨状がはっきりわかるよ。いまアメリカでは、ロシアのテレビ局「RT」やカタールの「アルジャジーラ」の英語版が存在感を増しています。これに比べて「NHKワールド」は思わず目を覆ってしまう。なんとかしたいよ……!
  上杉 NHKを変えようとしても無駄でしょう。国内メディアでみれば相対的にいいと思いますが、世界のメディアと比べるとダメですね。
  茂木 日本のメディアはどうしたらいいんだよ。このままじゃまずいよ!
  上杉 誰かが道を示し誘導するしかありません。政治家や官僚もそうですが、日本のメディア界のいわゆる「エリート」たちは、試験でいい点は取れても、新しいことができない人たちばかりです。事実、私が12年間ずっと言い続けてきたのに、彼らは変えることはできなかった。
  茂木 そうか。こちらが道を示せばいいんだ。
  上杉 自由報道協会の登場もその一つといえます。これまで日本では、記者クラブに基づいた単一的な言論空間によって支配されていた。だから、せめてカウンターとなる情報チャネルをつくらなければと思って。じつは先日、欧州委員会が開催した福島原発事故以降の課題を話し合う会議に招聘されたんです。政治家でも学者でもマスメディアの幹部でもない私が、なぜ呼ばれたのか。欧州の人びとは3・11以降、日本の原発情報を収集するのはインターネットになったそうです。日本の新聞やテレビはほぼ国内向けにしか発信していませんから。そして彼らがたどり着いたのが、自由報道協会の提供するニュースサイト「ザ・ニュース」だったりした。その情報が相対的に正確だったということで、協会代表の私が招かれたんです。
  茂木 国際的にみれば、日本のマスメディアより自由報道協会のほうが、評価されているということだね。
  上杉 日本のメディアは誰も評価しませんが。(笑)
 「日本人はもう二流以下の仕事しかできない」
  上杉 会議では、議論の仕方が日本とは決定的に違うと感じました。欧州中から参加者がいて、原発賛成派が6割ほど、反対派が4割ほどいるなかで、互いの意見を表出し、また共通項を探るという作業が行なわれたのです。結果、「放射能は危険」「子供は放射能に対して耐性が弱いので、避難をさせたほうがいい」「除染は基本的にできないこともある」という3点が共通事項だとわかりました。日本では、こういった議論さえできない。「原発反対=放射能は危険という人間」、「原発推進=放射能は危険ではないという人間」と決めつけられる。原発問題と放射能の問題は別なのに、一緒くたにされてしまうんです。言論界のトップにいる人間ほど、そのような単純なものの見方しかできません。ちなみに僕は、原発容認派で放射能は危険という立場ですね。
  茂木 日本の言論自体、国際的な影響力がないよね。だから本当に悲しいよ、この国の将来を思うと。というのは、モノづくりが世界最高の付加価値をつくる時代はすでに終わっていて、いまは情報や思想といったものが付加価値を生む時代になってしまっている。ツイッターやフェイスブックも、一つの思想の塊です。もう日本全体が、国際競争力をなくしているんだよね。経営コンサルタントの波頭亮さんは、この状況を「日本人は二流以下の仕事しかやることがなくなっている」と表現しています。こうなった戦犯は、はっきりいって日本の文部科学省でありマスメディアだと思うよ。
  上杉 波頭さんは、1980年代からすでに警鐘を鳴らしていましたよね。その波頭さんが、言論界の中心にいないわけですから、この国は。
  茂木 上杉さんは昔、NHKにいたんだよね。ツイッター上で「上杉隆はNHKの記者ではなかった」とかいっている人がいるけれど、こういった批判をみると「ああ日本人的だな」と思ってしまう。日本人は、アルバイトや契約社員をバカにするメンタリティーがあるんだよ。なぜ正社員と区別するのか、僕には理解できない。
  上杉 僕は、正確にいえば記者内定、辞めたあとですが当時の上司とも相談して「記者」とは決して言わず、ずっと「NHK報道局勤務」と言うようにしています。
  茂木 報道に関わったという事実があれば十分でしょう。何をしたかが重要なのに、日本人は肩書で判断する。雇用に関していえば、そもそも新卒一括採用というシステム自体が、日本の国際競争力を削いでいる原因の一つだよ。
  上杉 そんなくだらない制度はやめたほうがいい。メディアに関していえば、海外では「契約」が普通です。むしろフリーのほうが、自分の実力でやっていけるということで敬われる。でも日本人は権威に弱く、またすぐにレッテルを貼る。メンタリティーが弱いのです。要するに、新しい考え方に恐怖を感じて攻撃するんですよ。
  茂木 日本のなかで「俺たちは偉い」と威張っているエリートは、日本というタコツボのなかで威張っているだけ。いまや東京大学もそう。彼らエリートは、対立的な構造のなかで鍛えられていないから、国際競争力がまったくない。海外へ出たら小さく縮こまっている。
  上杉 日本が外交下手というのもそうですよね。むしろ、これまで国内で軽んじられてきたアニメや漫画のほうが、国際競争力がある。
  茂木 そう! アメリカから帰りの機内で『エヴァンゲリオン』の最新作をみたんだけど、感動して泣いちゃった。アニメは国際的にみて本当に輝いている。
   日本は新しい道を開拓するしかない。いまのエリートに可愛がられても意味がないことを認識しなければいけないね。日本が再生するには、これまでの成功の方程式から外れるしかない。
  上杉 日本で成功するということは、世界で失敗するということ。逆に日本で失敗すると、世界で成功するかもしれない。
  茂木 そのとおり!
 体たらくなメディア界を改革するには……
  上杉 自由報道協会では、記者クラブに対するアプローチを二つ採っています。一つは協会が独自に記者会見を行なうことで、情報空間を多元化しようとすること。もう一つは、フリー記者などが記者クラブ主催の会見に出席できるよう、政府に申し入れをしていることです。自由報道協会は公益法人の申請中で、現在は非営利の社団法人になっています。自由報道協会は既存メディアと違って、1円たりとも稼いでいないし、また会計も含めてすべての情報をオープンにしています。こんな公益性の高い団体を排除する理由は見当たらないはずです。
  茂木 僕は本筋しかみていない。要するに、上杉隆や自由報道協会が、日本のメディア界のなかで何をやろうとしているかということ。いまの体たらくなメディアを改革しようとしているのだから、断固応援するよ。上杉隆を批判する人たちは、どうでもいい細かい齟齬を突いて、重箱の隅をつつくように文句をいうよね。それは結果として、現状維持に加担していることにしかならないことに、なぜ気づかないのか!(怒)
  上杉 そういう人間は、時間があれば別ですが、基本的には放っておいて構わないと思います。次の僕の目標は、メディアをつくって、より日本の言論空間を多様化させるための作業を行なうことです。メディアを含め日本を変えるには、この作業を地道にやっていくしか道はないと思います。
  茂木 上杉さんと同じようなことをしようとしているのは、メディア・アクティビストの津田大介さんだね。彼も新しいメディアをつくろうとしている。
  上杉 いわゆる「ミドルメディア」ですね。マスメディアと、ブログやツイッターといったパーソナルメディアの中間にあるメディアです。じつは、先駆者は堀江貴文さんです。津田さんや僕は、そのずっと後継に当たります。いま日本の言論界は、記者クラブ制度があるために、放送と通信が完全に分かれていますが、世界はとっくに融合が終わっていますよ。この二つが融合するためには、いったんミドルメディア的なものが出現するほかないのでしょう。
  茂木 いま影響力があるミドルメディアは、ドワンゴが運営する「ニコニコ動画」ですね。これは日本の希望だよ。視聴者がコメントを投稿できて、それが画面に流れるのは、日本発の素晴らしいイノベーションです。
  上杉 岩上安身さんの「IWJ」もあります。近年では川上量生さんのドワンゴ、岩上さんのそれが先駆ですね。また津田さんが設立した「ネオローグ」も、私の提唱している「NO BORDER」も同じミドルメディアの流れに当たります。そういったものがたくさんできて、連携なり融合を加速させればいい。じつは津田さんが初めて出演したテレビ生放送は、僕が司会を務める朝日ニュースターの『ニュースの深層』だったんです。浅草キッドの水道橋博士に教えられて彼の本を読み、「この人はすごい」となって依頼したのです。
  茂木 いまツイッターをいちばんうまく使っているのは、津田さんだよね。
  上杉 メディアでの舞台回しが非常にうまい。天才的です。実際、僕が番組を休んだときに、代わってもらったこともあります。僕よりはるかにうまかった。(笑)
  茂木 ライバルの物語があったほうが盛り上がるから、上杉隆と津田大介はライバルだという絵を描こうよ。
  上杉 いま、メールマガジンサイト「まぐまぐ」で、メルマガ配信数の第1位は断トツで堀江貴文さんです。2位と3位は、僕と津田さんが争っている感じ。先日、彼に会ったときに「いまは俺が2位だね」といったら彼は、「僕はもう一つメルマガをやっているので、それを合わせると僕が勝ちです」って。(笑)
  茂木 やっぱりライバル意識があるんだ(笑)。どんどん盛り上がってほしい。こうなってくると、日本のメディアの今後も楽しみだな。

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官房機密費が大新聞記者の"お小遣い"に!〜『新聞・テレビはなぜ平気で「ウソ」をつくのか』(上杉隆著)PHP新書
NET IB NEWS 2012年4月20日13:40 書評・レビュー
 我々は、3.11以降、"新聞・テレビは国民に対して平気で「ウソ」をつく"ということを何となく感じてきた。それが本当かどうか、先ずはこの本を読んで、判断して欲しい。
 著者の上杉隆氏は、元ニューヨーク・タイムズ東京支局の取材記者である。1999年に、日本の「記者クラブ」に象徴される新聞・テレビの在り方を批判、自らオープンな記者会見の場を提供することを目的とした「自由報道協会」を設立、代表になった。
 さらに、2011年12月31日付で、「ジャーナリスト」の無期限休業宣言をしている。日本のジャーナリストが、国民に対して平気で「ウソ」をつき、原発報道においては、悪事に加担したことが明白になったからだ。
 日本の新聞・テレビ報道の実態が、確かなデータをもとに、赤裸々に描かれている。
  かなり"危ない"内容も含んでいる。上杉氏は、本のなかで、「内容が国家の中枢を揺るがす問題であるだけに、自分の身に何らかのことが起きた場合、仮に事件・事故に巻き込まれるようなことがあった時には、その死因・逮捕案件に関わらず、40万枚のメモが世の中に出るようになっている」と語っている。こわい話だ。
 欧米のメディアと日本の新聞・テレビの権力に対する姿勢、覚悟の違いも描かれている。例えば、ヴェトナム戦争当時、キッシンジャー国務長官から機密情報を得た、「ワシントン・ポスト」編集主幹ベンジャミン・ブラッドリーの話が面白い。ブラッドリーは機密情報を得たが、名前を出すことは禁じられたのだ。彼はどのような行動に出たか。
  約束通り、文中ではキッシンジャーの名前は一切出さずに、「政府高官」とし、「政府高官」とキャプションをつけたキッシンジャーの顔写真を掲載した。
 一方、原発報道の時、国民には「半径20km圏外の地域は安全」と報道しながら、日本の新聞・テレビの記者はどのような行動をしたか。内規ということで、時事通信は60km、朝日新聞と民放は50km、NHKは40km以内には近づいていない。一番、「卑怯」なのは、自分の家族だけは、いち早く関西に避難させていたことだ。
 東電が新聞・テレビの経済部記者を接待づけにしていることは、よく知られている話だ。驚いたのは、その記者たちが、政府に情報を売り、小遣い稼ぎをしていることだ。そして、政府が彼らに支払う財源は官房機密費、つまり国民の税金である。とりあえずは、怒りを通り越して、笑うしかない。【三好 老師】
<プロフィール>
 三好老師(みよしろうし)
  ジャーナリスト、コラムニスト。専門は、社会人教育、学校教育問題。日中文化にも造詣が深く、在日中国人のキャリア事情に精通。日中の新聞、雑誌に執筆、講演、座談会などマルチに活動中。

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