福島第一原発出口のない闘い 心身ともに疲労困憊、現場は危険な状況にある
現代ビジネス 2011年04月27日(水)週刊現代
総理からの電話
福島第一原発の現場でいまもっとも懸念されているのは、新たな水素爆発である。
12日の記者会見で、代谷誠治・原子力安全委員会委員は本誌記者の質問にこう答えている。
「大規模な水素爆発が起こったとすると、(炉の)なかのもの(放射性物質)が全部出るわけですから、これは大変なことになります。いまでも、そういう本当に最悪のシナリオといいますか、いま考えられる最悪のシナリオを考えますと、やはり原発から20~30km圏内(の住民に)は『どうぞお帰りください』と言える状況にはない。
ただし、私たちとしては、水素爆発の危険はかなり少なくなってきていると思っているところです」
2号機では、タービン建屋に溜まった高濃度汚染水の排水が進み、炉心冷却装置の復旧に取り掛かることを目指しているが、放射線量の測定など作業は山積みだ。
小康状態と思われていた4号機では、使用済み燃料プールの温度が90度まで上がり、慌てて注水が行われた。本誌先週号でアメリカのエンジニア、アーノルド・ガンダーセン氏が語っていた「4号機の燃料が一部露出している」という危惧が、的中する形になった。
3つの原子炉、4つの使用済み燃料プールの「7頭の怪物」のうち、ひとつを抑えると別のひとつが頭をもたげる、いたちごっこのような状態に陥っている。今後の手順について、東京電力幹部は、
「なんとか今月中に炉心冷却装置の復旧をやりたい。遅くともGW明けを目指したい。同時に、冷却装置の復旧ができなかったときのために、外付けの冷却装置を準備している。必要な部品は、すでに揃えた」
と話すが、いまだ楽観ムードはない。
実はこの「外付け冷却装置」のアイデアを出したのは、佐賀大学元学長で福島第一原発の復水器の設計者でもある上原春男氏である。上原氏自身が語る。
「外付けの熱交換器による冷却システムを提案したのは3月19日で、話した相手は玄葉光一郎国家戦略担当相です。
海水を利用したもので、いま炉から出ている崩壊熱を取り除けるだけの能力はある。私は原子炉の図面を見ていないので、どこに取り付けるかは東京電力の判断。4月4日に、枝野幸男官房長官から『上原先生の考え方(システム)を採用いたします』という連絡がありました。細野豪志首相補佐官からも、同様の連絡がありました。ところが、いまだに計画が動き出している気配がない。もし部品が揃っているなら、組み立ては1~2日あれば完了するはずです」
上原氏が考案したのは、パイプを通じて圧力容器のなかに水を流し込み、排出口から出して循環させるという冷却システム。配管が一部壊れていても、いくつもの配管系統のうちどれかを使えば冷却は可能だという。
「3月20日ごろには、菅直人総理からも連絡がありました。『ご提案いただきありがとうございます』というお礼の電話でした。それなのに、なぜいまだに実現しないのか。私としては、残念というのを通り越してイライラしています」(上原氏)
この外付け冷却装置のアイデアについて、北海道大学大学院医学研究科の石川正純教授の見解はこうだ。
「外付けの循環型冷却装置は、事態収束に向けて必須です。しかし、核燃料が1000度を超えて炉の中が空焚きになっている状態で水を入れると、水蒸気爆発を起こす可能性がある。圧力容器がどこまで耐えられるか心配です。その場合にはベント(弁を開く)をする必要がある。ただ、多量の放射性物質を放出するわけですから、どこまで近づけるかという問題がある」
安全かスピードか
石川教授が指摘するように、1号機の炉内の温度は不安定で、一気に高温になることもある。外付け冷却装置の取り付け、ベントなどまたも「決死隊」が必要な局面がつづく。
菅首相や、枝野官房長官ら官邸側は、「出口」を求めて安易に指示を出すが、身体を張ってそれを実行するのは現場である。
つい先日まで、福島第一原発の第一線で働いていた40代の作業員・A氏は、こう話す。
「免震重要棟のなかはかなりピリピリした雰囲気です。事故発生直後には吉田昌郎所長が、東京電力の社員に向かって檄を飛ばしているのを見ました。人の動かし方が悪く、思うように作業が進まないことに苛立っていた。そのあと、所長のいる部屋のドアが閉じられるようになりました。
東京電力の社員も、われわれ下請け、孫請け会社の作業員も、免震重要棟で寝泊まりしていますが、すぐ横で会議をしている人たちもいて、とてもではないがゆっくり休めない。真夜中に出動を命じられることもあるし、作業方針もクルクル変わる。翌日に予定していた作業を、急遽その日の夜にやるように言われたこともあった」
いま現場にいるのは、東京電力の社員が300~400名、A氏のような協力会社の社員が500~600名の1000名弱。率いるのは、吉田所長のほか、1~4号機担当の福良昌敏氏、5・6号機担当の吉澤厚文氏というふたりの「ユニット所長」である。
3月16日には放射線量が非常に高くなり、あまりに危険だということで71名の作業員を残して一時撤退したが、現在は1000名規模を維持し、食事も一日3回、交代で休暇も取れるようになった。
「幹部は12勤2休ですが、移動日も勤務日に含めているので場合によっては3~4日現場を離れることもある。東京の自宅に一時帰宅した幹部もいます。社員は作業の内容によって6勤2休、8勤4休など。休暇のときは、福島第二原発に近いJヴィレッジや小名浜へ行き、近所の旅館で休んだり、シャワーを浴びている。体力的には多くが限界を超えているが、士気は高い」(東京電力社員)
4月6日からは、炉内の温度が上昇した1号機に窒素ガスの注入が始まったが、その手順をめぐって、吉田所長と東京の本店でやり取りがあったという。
「東京では、1号機が再び水素爆発するのを避けるため、窒素ガスを注入するよう指示しました。吉田所長も、基本的にはこの指示に賛成していたんですが、実際の作業には危険が伴う。『早くやれ!』という本店の指示に対して、吉田所長は『とにかく作業員の安全が第一。それが確保されるような手順を、きちんと組んでから作業に取り掛かりたい』と押し返した」(別の東京電力社員)
人が足りない
現場では、すでに何度もの「決死隊」が組織され、原子炉周辺に出動した。ようやく放射線量が安定してきたとはいえ、窒素ガス注入作業中に、水素爆発が起こる可能性もある。
吉田所長は、できる限り作業員の安全を図ったうえで、本店の指示を実行したいと考えている。マスクや、防護服によって熱中症になる作業員が出たときは、
「皆さん、頑張りすぎないでください」
と伝えた。他の幹部も、
「基本に戻って報・連・相をしっかりしよう」
と呼びかけている。
実は4月12日、ネット上の求人サイトに以下のような広告が載った。
〈復興用求人 福島原子力発電所復興業務 とび鍛冶工 福島での寮費、食事代不要 必要な経験:原発作業経験者(原発手帳所持者)〉
基本給は42万円に設定されていた。
この求人をしていた建設会社社長に聞いた。
「ウチは震災前から全国の原発と取引があるんだけど、福島第一からは『本当に人が足りない』と言われている。『10人、20人でも足りない。至急頼みたい』と言われて、12日に募集をかけたんです。日給いくらもらえるか、とか、死んだらどうするのか、とか問い合わせの電話はあるけど、まだ決まった人はいないね。
今回は原発手帳を持っている人を急募しているんだ。持っていない初心者はダメ。基本的に手帳は、一度でも原発で働いたことがあればもらえるよ。仕事内容? ウチは土木だから、基本的には散らかったものの復旧作業ですよ」
この社長が言う「原発手帳」とは、実際には「放射線管理手帳」といい、原発から半径20km圏内にある事業者が申請し、発給され、これまでの被曝歴などが書き込まれる。福島第一の場合、20km圏内の事業者がすでに退避してしまっているので、新たな申請が困難ということのようだ。
ともかく誰でもいいから人が欲しい---そのくらい、現場は人員不足に悩んでいる。終わりの見えない闘いが続く。
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