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<関電・東電> 延命優先 ツケは国民に 税投入、リスク置き去り

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延命優先 ツケは国民に 関電・東電
中日新聞 特 報 2012/05/12 Sat.
 政府の需給検証委員会は10日、関西電力の大飯原発再稼働を事実上、後押しする最終報告案をまとめた。だが、関電はそれ以前、再稼働と電力需給は別問題と言明していた。一方、東京電力の総合特別事業計画も政府に認定された。しかし、破綻処理に含みを持たせた国会の付帯決議は無視された。共通するのは両社の延命を第一とし、そのツケを国民の血税、リスクであがなう構図だ。(出田阿生・上田千秋)

「総合事業計画」破綻処理済みの付帯決議は無視
■東電
 発表された総合特別事業計画の八十八ページ以降には、東電の財務基盤強化のため、金融機関に約一兆円の追加支援を要請することなどが記されているが、書き出しの部分は「2011年6月14日付けの閣議決定」から始まっている。これは昨年六月、政府が東電を支援する枠組みを初めて示した閣議決定のことだ。
 この閣議決定の内容は”東電救済”に徹していた。「具体的な支援の枠組み」として、日本航空のように破綻処理をせず、まして銀行の貸し手責任も問わず、「東電を債務超過にさせない」ことを明記。後に設けられた原子力損害賠償支援機構を通じて「上限を設けず、必要があれば何度でも」、「損害賠償、設備投資等のために必要とする金額のすべて」を出す、と書かれていた。
 国民負担で、事故企業を救済する。これは資本主義の原則に反すると、批判が噴出した。このため、支援機構(東電救済)法案の国会審議では、閣議決定で「具体的な支援の枠組み」として示された部分は「その役割を終えたものと認識し、政府はその見直しを行うこと」という付帯決議が付けられた。
 当時、東日本大震災復興特別委員会の委員だった吉泉秀男衆院議員(社民)は「政府支援はあくまで被害者への賠償のため。東電の企業再生のために無尽蔵に税金を投入することは許されない。歯止めとしての付帯決議だった」と振り返る。
 ところが東電は今回、付帯決議など無視するかのように、閣議決定を総合事業計画に引用した。東電担当者は「昨年十一月に出した緊急特別事業計画でも、金融機関への協力要請の項目で同じ閣議決定を引用した。事実として経緯を記しただけのことで、特段の意味はない」と説明する。
 だが、吉泉議員は「総合事業計画を読んでも企業再生のことばかり。賠償は遅々として進まない。事業計画には付帯決議の精神がまったく生かされていない」と憤る。
 付帯決議とはそれほど軽いものなのか。
 山内康一衆院議員(みんなの党)は「官僚は付帯決議を反対派のガス抜きとしか考えていないのでは。付帯決議は本会議でも読み上げられず、法案成立の際に反対があったことの記録のように扱われている」と話す。
 ただ、河野太郎衆院議員(自民)は当時、党内で「東電は段階的に破綻処理する。債務超過にさせないとの閣議決定は取り消す」と聞き、法案賛成に回ったと語る。
 いずれにせよ、事業計画に付帯決議の痕跡はなく、今後の血税投入の歯止めを示すような文言はまったく記されていない。

「大飯再稼動」電力不足 二の次 本音は経営再生
■関電
 一方、十日に開かれた政府の需給検証委員会では、事務局が関西電力大飯原発3、4号機を再稼働した場合、電力不足はほぼ解消されるという試算を示した。政府の再稼働方針を応援する内容だ。
 ところが、先月二十四日の大阪府市エネルギー戦略会議では、当の関西電力が再稼働を望む理由は、今夏の電力不足とは別にあると明言していた。
 委員の一人が「夏の需給対策のために再稼働するわけではないのか」と質したのに対し、関西電力幹部は「安全な原発は稼働させていただきたい。需給の問題とは切り離して考えている」と発言。電力需給は二の次という”本音”を漏らした。
 では、その本音とは何か。それは原発抜きには経営が立ち行かない関西電力独特の事情にある。
 同社の原発による発電比率は全体の約48%(二〇一〇年三月までの十年間の平均)で、他社と比べて圧倒的に高い。さらに大飯、美浜、高浜(いずれも福井県)にある計十一基のうち、七基は運転開始から三十年以上を経過した老朽原発だ。
 老朽原発は減価償却済みなので、低コストで高収益。そこにあぐらをかいた経営を続けてきた。しかし、そのことは原発の稼働が止まってしまえば、一気に窮地に陥ることをも意味している。
 先月二十七日に関西電力発表した十二年三月期連結決算によると、純損益は過去最大の二千四百二十二億円の赤字。火力発電所の燃料費などが膨らんだ結果だった。
 十三年三月期の損益見通しは示さなかったが、政府は再稼働できない状態が続けば、七千二十億円の赤字になるとの試算を明らかにしている。
 加えて、有価証券報告書などによると、同社の純資産約一兆五千三百億円(連結)のうち、原発施設と核燃料だけで約八千九百億円。再稼働できずに廃炉になると、資産は半減。仮に廃炉にならなくても、数年中に債務経過に追い込まれる。数字からは、経営危機が再稼働の最大の動機であることが浮かび上がる。
 その救済に政官とも懸命に見える。東電と同様、関電も政府との関係は深い。民主党の藤原正司参院議員は関西電力労組出身。少なからずの同党議員が、同労組が加盟する「全国電力関連産業労働組合総連合(電力総連)」の支援を受けている。
 経済産業省との縁も深い。同社副社長のうち一人のポストを資源エネルギー庁長官や中小企業庁長官経験者らが占めていた時代が続き、現在も元同省審議官の迎陽一氏が常務取締役を務める
 慶応大の金子勝教授(経済学)は「経営危機は火力発電所などへの設備投資を怠り、原発一本でやってきたツケ。問題は過度な原発依存で収益を上げてきた関西電力の経営体質にある」という。
 同社は夜間の余剰電力で汲み上げた水を昼間に落として発電する揚水発電の出力量も、大飯原発が再稼働しないと増加しないと説明している。
 だが、金子教授は「火力でも揚水発電は十分可能。コストがかかるのを嫌い、原発と揚水を組ませたストーリーを強調している」と反論する。
 事実上、経営破綻している東京電力と、その道を歩む関西電力。血税投入も再稼働も電力不足を補うためにあるのではない。金子教授はこう批判する。
 「エネルギー需給とは別の視点から見る必要がある。動かない原発は”不良債権”であり、問題の根本にあるのは財務体質。経営に失敗した民間企業が、国民に犠牲を転じて延命を図ろうとすることなど許されない」
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  中日新聞2012/05/09 特 報 
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