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中国の「核心的利益」

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中国の「核心的利益」
日本の論点PLUS  文芸春秋編 2012.05.17
 中国政府が「国益上譲れない」という強い意思を表明するときに使う外交用語。2011年9月に公表された中国政府の白書「中国の平和的発展」によれば、この「核心的利益」は、(1)国家主権、(2)国家の安全、(3)領土保全、(4)国家の統一、(5)国家の政治制度と経済社会の大局の安定、(6)経済、社会の持続的発展への基本的な保障、の6つに定義されている。
 1980年1月、米国のカーター大統領が「年頭教書」で「湾岸地域における紛争を米国の死活的利益に対する脅威と見なし、武力を含むあらゆる方法で介入する」(「カーター・ドクトリン」)と述べた。その後、米国は中東への関与を強めてゆき、1991年1月には湾岸戦争に突入することになったが、同様に、中国も「核心的利益」を守るためには武力行使も辞さないという意思を表明しているといってよい。
 これまで、中国政府は、「核心的利益」という言葉を、台湾やチベット、新疆ウイグル自治区など、中国からの分離・独立問題が起きている地域に限定して用いていた。ところが2010年ころから、中国の政府系メディアが、石油・天然ガスなどの埋蔵資源や漁業資源が豊富な南シナ海の南・西沙諸島地域について使い始め、2012年1月には、尖閣諸島に言及する際にも人民日報が使用した。その背景には、中国の急速な海軍力の増強と海洋権益の追求がある。
 「核心的利益」の言葉が意味する範囲が広くなったのは、2010年の3月、中国を訪問したスタインバーグ米国務副長官に対して、中国政府の外交を統括する載秉国・国務院が、「南シナ海は中国の核心的利益」と語ったという噂が流れたのがきっかけだった。その2カ月後、中国がベトナムと領有権を争っている南シナ海の海域で、中国船がベトナム探査船の敷設したワイヤーを切断するという事件が起きた。「中国は強硬路線に転換した」という「中国脅威論」がベトナム、フィリピン、マレーシアなどASEAN諸国の間に急速に台頭した背景には、こうした一連の流れがある。
 この年の7月、ベトナムで開かれたASEAN地域フォーラム(ARF)では、ASEAN諸国の「中国脅威論」の台頭を意識して、米国のヒラリー・クリントン国務長官諸国は、南シナ海における中国の海洋進出を、自由通行権が阻まれるとして厳しく批判、「南シナ海の安全保障は、多国間協議を通じて解決すべきだ」と主張した。さらに、中国が南シナ海を含む第一列島線の内側を自国の領海にしてしまう事態に懸念を抱いていたクリントン国務長官は、「南沙諸島の領有権問題の解決することが『域内の安定と米国の国益の要』である」と米国のプレゼンスを強調した。
 アジアにおける「中国脅威論」の高まりを受けて、2010年12月、載秉国・国務員は、2万字に及ぶ論文を書き、「核心的利益」について、次のように定義した。 1、中国の国体、政治体制、政治の安定、すなわち共産党の指導、社会主義制度、中国の特色ある社会主義。 2、中国の主権の安全、領土保全、国家統一。 3、中国の経済社会の持続可能な発展という基本的保障 (PHP総研国際戦略研究センター、前田宏子・主任研究員、「中国の『核心的利益』をどう解釈するか」Voiceプラス2011年6月17日より)。
 この定義が、前述の白書「中国の平和的発展」の下地になっているのは間違いなく、以前のように台湾とチベット、ウイグルに限定していた「核心的利益」を、より柔軟に幅広く使えるよう、解釈し直した点が注目された。
 この5月13日〜14日、北京で開かれた日中韓首脳会談を伝える北京中央テレビは、13日夜の野田佳彦首相と温家宝首相の日中会談について、「温首相は分離独立運動が続く新疆ウイグル自治区の問題と尖閣諸島の問題を並べ、『中国の核心的利益』と、重大な懸案事項を尊重するよう日本側に求めた」と報道した。温首相が、尖閣諸島を「核心的利益」に含めると言及した、ととれる内容である。もしそのとおりなら、中国首脳が、尖閣諸島を「いかなる代償(武力行使)を支払っても守るべき中国の核心的利益」として初めて位置づけたことになる。
 温首相の発言の背景には、東京都の石原慎太郎知事が尖閣諸島の買取りを提唱したことや、東京で「世界ウイグル会議」第4回代表会議の開催(5月14日)を許可した日本政府への抗議の意図があったといわれる。当初予定されていた野田首相と胡錦涛主席との首脳会談を突然キャンセルしたのは、「核心的利益とは何か」を日本政府に伝えるための中国の強気のメッセージだったといってよい。
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「世界ウイグル会議」東京/温首相、ウイグル会議と尖閣諸島問題に関し要求「中国側の核心的利益・・・」 2012-05-14 | 国際/中国 
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中国 東京都の尖閣購入計画に態度硬化させ軍艦等派遣も検討/「日本は20年後には地上から消えていく国」 2012-05-18 | 政治〈領土/防衛/安全保障〉


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