Quantcast
Channel: 午後のアダージォ
Viewing all articles
Browse latest Browse all 10101

名張毒ぶどう酒事件 名古屋高裁決定要旨/疑わしきは罰するなのか/司法もメディア裁かれている

$
0
0

【名張毒ぶどう酒 名古屋高裁決定要旨】
中日新聞2012年5月25日
 名張毒ぶどう酒事件の第7次再審請求差し戻し審で、名古屋高裁刑事二部が25日、奥西死刑囚の再審を開始しないと決定した要旨は次の通り。

 最高裁決定の趣旨に従い、事件当時の製法を基に製造された液体(新ニッカリンT)を使ったペーパークロマトグラフ試験による再現鑑定を検討したが、鑑定人が見つからず実施できなかった。そのため今回の差し戻し審では同液体及び保管されていたニッカリンT(旧ニッカリンT)の成分分析などを別の試験方法で鑑定し鑑定人の尋問を実施した。
 鑑定人の学識、経験、鑑定の経過などに照らし、今回の鑑定には十分な信用性を認めることができ、分析で得られた結果の信頼性は高い。
 弁護団が提出した新証拠の根拠とされた鑑定には、今回の鑑定によって得られた結果の信頼性を揺るがすほどの証拠価値があるとはいえない。
 今回の鑑定の結果、エーテル抽出前の検体にニッカリンT副生成物のトリエチルピロホスフェートが含まれているかどうかと、エーテル抽出後の検体から同物質が検出されるかどうかとが、ただちに結び付くものではなく、現場にあった飲み残しのぶどう酒について実施したペーパークロマトグラフ試験の結果、同物質が検出されなかったことが、エーテル抽出前の事件検体に同物質が含まれていないことを意味するものではないことが明らかになった。
 確定判決の証拠となった三重県衛生研究所の試験ではニッカリンTを混ぜた検体の(飲み残しでない)ぶどう酒から検出された成分が未解明だった。新証拠ではこの成分がトリエチルピロホスフェートであることを明らかにしたが、事件で使われた毒物がニッカリンTではない、と証明するほどの証拠価値はない。
 三重県衛生研究所の試験で検出されたトリエチルピロホスフェートが飲み残しのぶどう酒から検出されないことについては、今回の鑑定で以下のように推論できる。
 今回の鑑定で、実際のペーパークロマトグラフ試験では加水分解反応が起こる可能性が高いことが指摘されており、同研究所の試験過程で生じる加水分解反応を考慮する必要がある。トリエチルピロホスフェートが別の成分(ペンタエチルトリホスフェート)の加水分解反応により生成することからすると、同研究所の試験でトリエチルピロホスフェートが検出されたことは、検体にペンタエチルトリホスフェートが含まれていたためと考えられる。本件鑑定の結果、新ニッカリンTを重水に溶かした直後の溶液中には少ないながらもペンタエチルトリホスフェートが含まれているから、それがエーテル抽出され加水分解したことによりトリエチルピロホスフェートが生成されたとみられる。
 一方、飲み残しのぶどう酒は少なくとも事件翌日の1961年3月29日に同研究所に持ち込まれ、同日夜から翌日にかけて試験されたものだから、本件毒物がニッカリンTであってペンタエチルトリホスフェートを含有していた場合でも、試験段階では加水分解でほとんど残っていなかったことなどにより、試験でトリエチルピロホスフェートが検出されなかったとみる余地がある。
 このことからすると、本件毒物がニッカリンTであることと、同研究所の試験の結果、検体からトリエチルピロホスフェートが検出され、飲み残しからは検出されなかったことが矛盾するとは言えない。
 従って、奥西死刑囚が農薬ニッカリンTを所持していた事実が状況証拠としての価値を失ったとも、死刑囚の捜査段階の自白が客観的事実と矛盾するともいえない。
 これまでの証拠に新証拠を総合して検討しても、死刑囚以外にぶどう酒に農薬を混入し得た者はいないとの判断はいささかも動かず、逮捕前から具体性をもっていた死刑囚の自白が十分信用できることも、異議審決定(再審開始を取り消した06年の名古屋高裁決定)が詳細に示す通りであり、死刑囚が犯人だとした確定判決の事実認定に合理的疑いを生じる余地はない。無罪を言い渡すべき明らかな新証拠があるとして、再審を開始し刑の執行を停止した判断は失当であり、再審を開始する理由は認められない。
=========================================
名張毒ぶどう酒事件再審認めず “疑わしきは罰する”なのか
中日新聞 社説 2012年5月26日
 名張毒ぶどう酒事件の再審を認めなかった決定には、深い疑問が残る。証拠を並べてなお分からないのなら、推定無罪の原則に従うべきではないか。
 奥西勝死刑囚を最初に裁いたのは津地裁だった。
 裁判員になって法廷にのぞんだつもりで証拠を見てみると、こんなふうになる。
■裁判員の目で見れば
 ▽ぶどう酒の王冠に付いた歯形は、鑑定では誰のものかはっきり分からない。
 ▽その王冠自体、事件当時のものとは違うらしい。
 ▽農薬を混入する機会は、奥西死刑囚以外の人にもあった。
 ▽「自白」はある。動機は妻と愛人の三角関係を清算するためという(その後、全面否認)。
 ▽自白にあった、農薬を入れてきた竹筒は見つかっていない。
 証拠をこうしてずらりと並べてみると、裁判員はその中身の乏しさ、あいまいさに、もちろん気づくだろう。
 いくら、捜査段階の詳細な「自白」があろうとも、有罪にはできまい。
 合理性をもって、彼以外に真犯人はありえないとは言えない。ましてや、死刑事件でもある。一審の津地裁は、当然ながら無罪判決を下した。
 捜査が甘かったのである。当時は、まだ自白が「証拠の女王」などと呼ばれていた。自白は極めて重視されていた。
 だが、二審の名古屋高裁は一転、有罪とした。王冠について新たな鑑定をしたが決定的な知見はなく、一審とほぼ同じ証拠を見て、有罪とした。
 迷走の始まりである。
 死刑囚は判決の前の日、前祝いの赤飯を食べた。家庭で最後に口にした母親の手料理となった。
 死刑囚はひとりぼっちで再審の請求を繰り返した。途中からは弁護団もでき、七度目に名古屋高裁は再審の開始を認めた。
 毒物について、自供したニッカリンTではなかった疑いがあるとした。何と、凶器が違っていたかもしれない、ということだ。
 裁判を見直す大きなチャンスだった。しかし、扉はまた閉じられた。同じ高裁の別の部が、同じ証拠を見て検察の異議を認めた。
■冤罪生む自白の偏重
 事件から四十六年もたって、裁判は最高裁にもちこまれた。だが自ら判断せず、農薬について「科学的な検討をしたとはいえない」と言って、高裁にさし戻した。
 そして、再審を開始しないという昨日の決定となる。「毒物はニッカリンTでなかったとまでは言えない」とし、検察の主張を支持した。
 死刑判決以降の裁判を振り返ると、検察側の物証を弁護側が何度崩そうとしても、裁判所は結局、有罪としてきた。頼りにしたのは、いつも「自白」である。
 だが、自白の偏重が数々の冤罪(えんざい)を生んできたのは、苦い歴史の教えるところだ。
 刑事裁判では、検察が有罪を証明できないかぎり、無罪となる。裁く立場からみれば、「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判の鉄則である。
 昨日の高裁の決定は、弁護側が出した証拠では検察の主張を崩せないという論法である。検察が主張していないことまで裁判官が推論し、有罪とする根拠を補強している。
 これでは、まるで「疑わしきは罰する」になってはいないか。
 最高裁は再審でも「疑わしきは被告人の利益に」の原則があてはまると言っている(白鳥決定)。それなのに、反対の考え方で再審の扉を閉ざしたように映る。
 裁判員裁判の時代である。取り調べの可視化や、全面的な証拠の開示の必要性が叫ばれている。それは、これまでの誤った裁判の反省から出ているものである。
 今回の決定は、そうした時代の要請に逆行している。毒ぶどう酒事件から半世紀余。「自白」の偏重は一体いつまで続くのか。今の基準で考え直せないか。
 弁護団は特別抗告する。最高裁は今度こそ自判すべきである。
 死刑囚は八十六歳。冤罪が強く疑われた帝銀事件の平沢貞通画伯のように、獄中死させることがあってはならない。
■司法も裁かれている
 私たちメディアも反省すべきことがある。自白偏重の捜査取材に寄りかかった当時の犯罪報道だ。犯人視しない報道への努力は、不断に続けているが、奥西死刑囚を犯人視して報じたという事実は消せない。
 奥西死刑囚の獄中生活は、確定囚で二番目に長い。もしも死刑判決が冤罪であったのなら、それは国家の犯罪というほかはない。奥西死刑囚だけでなく、司法もまた裁かれていると考える。
---------------------------------
中日春秋
2012年5月26日
 走り出てきた男性弁護士は、歯をかみしめ、顔を強(こわ)ばらせている。報道陣に差し出す「不当決定」の幕を持つ手が震えているように見えた▼半世紀以上も前の一九六一年、三重県名張市で女性五人が死亡した名張毒ぶどう酒事件。名古屋高裁は昨日、奥西勝死刑囚の再審開始を認めないとの決定を下した▼怒りと落胆、疲労感がないまぜになったような弁護団や支援者の反応を見て、思い浮かべたのは、ギリシャ神話の故事、<シシュフォスの石>。大石をやっと山頂まで運んだかと思うと、その石はまた転がり落ちてしまう…▼地裁で無罪、高裁では死刑、最高裁の上告棄却で死刑確定後、七三年に始まった再審請求だ。七次にわたる請求で、高裁は二〇〇五年に再審開始を決定したが、翌年、同じ高裁が取り消し。だが、次には高裁の取り消し決定を、最高裁が差し戻した。その結果が昨日の決定▼「強要された」として起訴前段階で自白を翻して以後の無実の訴えは、司法判断の揺らぎに翻弄(ほんろう)され続けてきた。さればこそ、本人にも支援者らにも「今度こそ」の思いは一入(ひとしお)だったはず。だが、石は、また転がり落ちた▼使われた毒物をめぐる今回の認定は、検察側に有罪証明を、というより、被告側に無罪証明を求めているようで違和感が強い。奥西死刑囚、既に八十六歳。運ぶべき大石は、むごいほどに重さを増した。
==============================================
名張毒ぶどう酒事件 奥西死刑囚の再審認めず/「自供後は豹変したように穏やかに」鑑識係古川秀夫氏 2012-05-26 | 死刑/重刑/生命犯 問題 
========================================
名張毒ぶどう酒事件の人々
名張毒ぶどう酒事件 扉は開くか
===========================
半世紀の証言:名張毒ぶどう酒事件 2011-06-17 | 死刑/重刑/生命犯 問題
========================================
名張毒ぶどう酒事件 「今さら真犯人を…」住民から不安や怒り2010-04-07 | 死刑/重刑/生命犯 問題
名張毒ブドウ酒事件 辛い地元住民「無罪ならやっていない証拠を示して」 
=======================================
名張毒ぶどう酒事件異議審決定 唯一目をひいた記事 2006-12-27 | 死刑/重刑/生命犯 問題


Viewing all articles
Browse latest Browse all 10101

Trending Articles