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「安易な臨時再稼働を唱えた橋下発言の罪深さとは」町田徹 /青森・東通--原発は最果ての貧しい村を潤した

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「東通」と「大飯」はまったくの別物だ! 安易な臨時再稼働を唱えた橋下発言の罪深さとは
現代ビジネス「ニュースの深層」2012年05月29日(火)町田 徹
「夏の電力需要のピークをしのぐためだけの臨時の動かし方もあるのではないか」
 関西電力大飯原子力発電所3、4号機の再稼働問題を巡って、5月20日開催の関西広域連合委員会で、橋下徹大阪市長が発したひと言が波紋を呼んでいる。
 「原発臨時稼働」論自体は、筆者が早くから主張しているものだ。4月3日付のコラム「明暗! 最悪事故の『福島』と避難所『女川』 復興に不可欠な『東通』のルーツを現地取材」をはじめ、本サイトでも繰り返し述べてきた。
 しかし、短慮としか言いようのない橋下氏の発言が筆者の主張と同じ趣旨と受け止められるとすれば、これほど残念なことはない。
 というのは、関電「大飯」と東北電力「東通」では状況がまったく異なっているからだ。東通が臨時稼働に必要な厳しい条件を満たしており、再稼働すべき原発なのに対して、大飯はそうした状態にないからだ。
 このため、橋下発言を、現実的な問題の解決策とする見方には反対だ。東京電力の「福島第一」の悲劇を繰り返さないためにも、大飯の再稼働問題には慎重に対応すべきである
■大震災を無傷で切り抜けた東通原発
 未明に、下北半島が震度5強の地震に襲われた先週24日を挟んだ3日間。筆者はその地を視察に訪れていた。青森は福井と並ぶ原子力基地であり、原子力施設とそれらを取り巻く現地の環境を自分の目と耳で確認しておきたかったのだ。
 今回の視察では、東京・羽田空港を23日朝に出発。厳しいヤマセ(偏西風)に吹かれて、冬物の背広が手放せない三沢空港で、まずレンタカーを借りた。冷たい雨が降りしきる中、荒涼とした原野を海岸沿いに2時間ほど北上し、険しい岩壁の上に灯台が立つ物見崎を経て、ようやく辿り着いたのが東北電力の東通原発だった。
 イワナ、ヤマメ釣りでも知られる老部川(おいっぺがわ)にかかる橋を渡った途端、道が大きく左にう回して、道路が広く立派になり、原発に近付いたことが推察された。
 あらかじめ下調べをしていたものの、本州最北端の下北半島に位置する東通村は年間の平均気温が10度に満たない。稲作などの農業が育たない土地柄であることを、この日のヤマセの襲来に改めて実感した。
 古くから基幹産業と言えば、漁業ぐらいしか存在せず、集落は点在する程度。東通村は明治22年(1889年)に村として発足したものの、当時は財政的にも貧しかったのだろう。役場の庁舎を隣接する田名部町(現むつ市)に置くような状況だった。現在の立派な庁舎に移転できたのは、100年を経た昭和63年(1988年)のことだった。
 今年4月末現在の村の人口は7,204人。2年前の統計になるが、就業者は3,599人だ。東通原発では、東北電力の社員が275人、協力会社の従業員が540人、合計で815人が働いているという。村全体の雇用の4分の1を東通原発が占めている計算だ。
 ここで触れておきたいのは、昨年の東日本大震災で、東北電力の原発の頑丈さが目立ったことだ。
 あの震災では、東北、関東地方にある3社(東北電力、東京電力、日本原子力発電)の5つの原発(東通、女川、福島第一、福島第二、東海第二)が被災し、東電の福島第一が未曾有の大事故を起こした。同じく東電の福島第二、日本原電の東海第二の2つも、そろって非常用電源が津波に呑まれ、事故対応に苦戦。ひと安心できる冷温停止の確立までに、3日の時間を要した。
 これらの原発と対象的に、東北電では、女川が3基揃って半日以内に冷温停止を達成、定期点検中だった東通はボヤひとつ起こさず無傷で切り抜けた。にもかかわらず、大飯と違って、原子炉が福島第一と同じタイプ(BWR型)であるとの理由で、原子力安全・保安院に再開手続きを拒否され、再稼働のめどがまったく立っていない。
■日本最大の原子力基地
 今回の視察では、ゲートでの厳しいセキュリティ検査を手始めに、約3時間をかけて、事務棟、原子炉建屋、タービン建屋、屋外の高台に設置された非常用電源、緊急用の電源車、それらの接続ポイントなど隅々まで見ることができた。
 東通は、女川と比べても優秀と言ってよいだろう。作業員の被ばく線量で2005年から2007年にかけて世界一の低さを記録し、経済協力開発機構原子力機関(OECD/NEA)から最高賞を受賞したこともある。
 とはいえ、やはり筆者の目を引いたのは、福島第一の事故を踏まえた津波対策だ。海水の浸入を防ぐため、建屋の扉にゴム製のシールドを貼るとか、戦国時代の城門のように鋼鉄製のかんぬきを4本も取り付けるといった緊急対策と、扉そのものを潜水艦のハッチのような圧力扉に取り換えるなどの抜本策が混在し、できることから真摯に進めている様子がみてとれた。
 また、必要な3台に加えて予備を1台配備した非常用高圧電源車は当初、電柱から繋ぎ込んで電気を送り込む体制だったが、この日はすでに、いざという時の作業時間を短縮するため特注の巨大なコンセントが取り付けてあった。そのコンセントは平時に見れば、の巨大さがどことなくユーモラスだった。
 執行役員でもある津幡俊所長は、海抜13mの敷地(東日本大震災で到達した津波の高さは3m弱)を守る防潮堤の基礎工事現場で、「雪解け待ちだったが、ようやく3月に着工できた」と安堵の表情を浮かべていた。
 徹底した安全への拘りは、原子力産業の基本になくてはならない姿勢だ。安全という前提条件なしには、地域振興も語れない。
 ここで思い出していただきたいのが、東通村を含む下北半島が、日本最大の原子力基地であることだ。
 この地には、東北電の東通の北隣りに、東電も原発を建設中だ。マグロ漁で有名な大間では、Jパワーが再処理済みの核燃料を燃やせるユニークな原発の建設がほぼ完成して稼働待ちの状態だ。
 原発関連のユニークな施設もある。電力9社と日本原子力発電が出資する日本原燃の六ヶ所村の使用済み核燃料再処理施設、東電と日本原電が出資するむつ市の中間貯蔵施設の2つである。
 このうち、中間貯蔵施設は、使用済み燃料を再処理して原発の燃料としてリサイクルできるようにするまでの間(最長で50年間)、暖かい空気が屋根から外部に放出されて冷たい空気を側面から獲り込む構造の特殊な貯蔵庫で、燃料を使わず、安全かつ安定的に保存する施設だ。筆者は今回の視察旅行の2日目に建設現場を取材した。
 商用ベースの再処理施設、中間貯蔵施設は全国でみても、ここ下北半島にしかない。つまり、日本の原子力政策・事業に必要不可欠な様々な機能が集中しているのが、青森県の下北半島と言える。
■事故発生時のリスクは一律ではない
 自らハンドルを握り現地を回る中で、環境面からも、経済面からも、この地に占める原発の重要性が確認できた。
 むつ市の中心街には、原発反対の立て看板があり、反対派も存在した。
 しかし、筆者が、昼食をとった食堂の経営者や宿泊した旅館の女将らが異口同音に訴えたのは、原発の稼働停止によって東電・東通やJパワー・大間が工事規模を縮小した結果、地域が陥った経済の低迷だった。夕食をいただいた、むつ市の寿司屋のご亭主は「ウチだけでなく、ウチに魚を納めている漁師まで含めて、不況に苦しんでいる」と話していた。
 今年3月の女川原発視察の際に立ち寄った宮城県仙台市が復興特需に沸いていたのとは、対象的だった。
 多くの原子力関連施設が下北半島に立地を求めた理由は、他に人々の生活を支える経済・産業基盤が乏しく、受け入れられ易かったからというだけではない。
 周辺に大きな都市がないことも重要な要素だった。東通原発から100km圏内の都市と言えば、青森市と函館市ぐらいなのである。
 この点こそ、関電が美浜、大飯、高浜の3つ、日本原電が敦賀の合計4つの原発が立地する福井県と比べて、下北半島の事情が大きく異なっているポイントだ。
 というのは、福井県の場合、大飯を基準に見ると、ほぼ100kmの圏内に大津、京都、奈良、大阪、堺、神戸など関西圏の大都市がすっぽりとおさまっているからである。
 もし福島第一原発のような事故が起きたら、福井の原発は、青森の原発と違い、いや福島第一の例すら大きく上回る未曾有の被害をもたらすリスクは否定できない。
 加えて、万一の際の事故対応にも疑問が残る。
 政府はこれまで、福島原発事故の経済的な被害の全容を明らかにしようとせず、東電を国有化すれば、賠償、除染、廃炉などの事故の後始末が容易にできるかのように装っている。
 しかし、経済的被害を埋めるためには、国の年間の一般会計予算(100兆円)に匹敵するか、それを上回るような財源が必要になってもおかしくない。
 下北と違い、必要な財源の規模が桁違いになるため、福井の原発を再開するなら、いざという時の備えをあらかじめ十分に講じておく必要がある。後回しになっている津波対策の防潮堤の建設などを完了させるだけでなく、補償のための保険制度の再構築(保険料は膨大なものになる)なども避けて通れない。
 ところが、民主党政権はそうした問題の存在すら明かそうとせず、再稼働ありきの姿勢を強める一方だ。
 クリアされなければならない問題が山積する中で、橋下市長の主張するような再稼働は、例え、それが臨時の措置であっても、事故が起きた時のリスクを考慮すれば決して許容できるものではない。
 そもそも福島第一原発事故が起きた以上、全国の17ヵ所に50基ある原発は、その立地から存続が許されるかどうかの検討が行われるべきだったのだ。
 政府は、単純に、すべての原発をその設計寿命の40年間稼働させて、寿命が来たら廃炉にし、原発の自然削減を目指す方向を固めつつある。
 だが、17ヵ所50基にはそれぞれ固有の構造や環境がある。それほど単純に一律の再稼働を決めてよいはずがないのだ。
■企業努力を怠った関西電力の責任
 最後に、もうひとつ不可解な問題に言及しておこう。それは、関電が、今夏の電力見通しで、15%前後もの需給ギャップがあると主張している問題だ。東日本大震災以来1年半近くもの時間があり、十分な準備ができたはずなのに、関電はその間いったい何をしていたのだろうか。
 関電が冒頭で紹介した関西広域連合の会合に提出した資料によると、同社は、昨年夏の実績で2,947万kwだった供給能力が、現在までに2,542万kwと405万kwも低下したとしている。
 この中で首を傾げざるを得ないのが、火力発電の供給力が57万kwしか増えていないという点である。
 関電は原発依存度が52%と全国一高かったことを理由にしているが、この理屈は、火力増強の遅さの説明にはならない。
 というのは、対象的な例が実在するからだ。東北電力は、東日本大震災と新潟・福島集中豪雨の2つの天災の直撃を受けて、原発の再稼働を止められただけでなく、火力、水力の発電所も軒並みダウンし、一時は電源全体の7割を失った。
 ところが、今春まで懸命に復旧努力をした。30万kw級の大型ガスタービン発電機を3基増設して、新たに90万kwの電源を火力で確保した。
 余裕があると言える水準にはほど遠く、綱渡りに変わりはないものの、なんとか今夏の需給ギャップをプラス3%まで引き上げる企業努力をみせたのだ。
 遥かに企業規模の小さい東北電にできたことが、東電に次ぐ規模を誇る大手の関電にはなぜできなかったのだろうか。
 こうした比較をすると、関電の電力不足という主張が、原発を再稼働したいがゆえの単なる脅しにしか映らない。
 本当に15%前後もの供給力不足が解消できなかったのだとすれば、関電には、原発再稼働どころか、安定供給が最大の使命である電力事業を任せることはできない。
 原発再稼働論議の前に、八木誠社長ら幹部は経営責任を、枝野幸男経済産業大臣ら経産省幹部は監督責任を、それぞれ取って即刻引責辞任をすべきだろう。頭を冷やして、よく考えてみていただきたい。
・町田徹「ニュースの深層」
(まちだ・てつ) 経済ジャーナリスト。1960年大阪府生まれ。日本経済新聞社に入社後、独立。2007年3月、月刊現代 2006年2月号「日興コーディアル証券『封印されたスキャンダル』」で「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」大賞を受賞した。現在、甲南大学経済学部非常勤講師も務める。
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新日本原発紀行 青森・東通--原発は最果ての貧しい村を潤した/88年以降、総額234億円の交付金 2011-07-23 | 地震/原発/政治 

            

新日本原発紀行 青森・東通/都会の論理 再考のとき
2011年7月23日Sat.中日新聞
 本州の北端、下北半島に東北電力東通(ひがしどおり)原発1号機(青森県東通村)はある。その北隣でことし一月末、東京電力の1号機が着工した。ここから約七百キロ離れた首都圏まで電力を送る計画だ。福島と同じように危険な原発を遠い過疎地に造り、電力の供給を享受する大都会の論理を、見直す考えはないのか。 (小国智宏)
東北電力の1号機は、大震災の発生時に定期検査中だった。現在も運転を再開できないでいる。
 その北側で、東京電力の1号機が建設中だったが、工事は中断。造成は終えたものの、建物はこれからで姿形もない。東京電力東通原子力建設所は「福島第1原発の事故の収束に全力を挙げている。工事再開のめどは立っていない」と話す。
*最果てに光
 東通村は最果ての貧しい村だった。夏は太平洋から「ヤマセ」と呼ばれる偏東風が吹き、比較的冷涼で濃霧に包まれることも多い。冬は風雪が吹きすさぶ。漁業は盛んだが、周辺海域は海の難所として知られてきた。
 1889(明治22)年に村制が敷かれたが、村役場は隣のむつ市に置かれた。広い村内に29の集落が点在し、役場は町中にあったほうが便利だったからだ。
 村会議が地域振興の名の下に原発誘致を決議したのは1965年。その後、実際に原発計画が動き出したのは、当時の竹内俊吉知事が70年に「原発20基を誘致する」とぶち上げたのがきっかけだった。
 このころ、六ケ所村を中心とした巨大国家プロジェクトの臨海工業開発「むつ小川原開発」が始動。高度経済成長期、首都圏でも電力需要の大幅増が見込まれていた。県は、用地買収や住民交渉も引き受けた。
 だが漁業関係者を中心に大きな反対運動が起きる。住民説明会では怒号が飛び交う状態で、漁業補償額などをめぐって知事があっせんに乗りだしたが、まとまらない。漁協内で賛成、反対派がいがみ合い、不穏な空気が流れたこともあった。
 電力会社の社員が1軒1軒説得して回り、反対派が切り崩されていったという。白糠漁協の強硬な反対派だった東田貢さんは「結局、国のやること。反対しきれるものではないべ」。補償金と引き換えに、次々と賛成に転じた。東北電力、東京電力と関係6漁協との補償交渉が決着したのは95年。交渉開始から10年以上がたっていた。
 東通原発には、東北電力が2基、東京電力が2基の計4基を計画。東北電力1号機が営業運転を始めたのは2005年。村会議の誘致決議から、ちょうど40年だった。
 原発は確かに東通村を潤した。88年、村内に悲願の村役場庁舎が完成。周囲には真新しい「箱モノ」が立ち並ぶ。豪華な小中学校、体育館、医療福祉施設・・・。建設費の大半を電源立地交付金で賄う。人口約7千3百人の村には同年以降、総額234億円の交付金が支出された。
 社会保険労務士の男性は「電力さんがあるから成り立っている商売も多い。地元では反対している人なんていないよ」と投げやりに話した。
*再稼働 不透明に
 「事故が起きたら、どうやって逃げるのか」「国や県は事業者寄りではないか」
 12日、むつ市で開かれた原子力関連施設に関する県民説明会。参加した住民から安全性に対する不安の声が相次いだ。(略)
 東北電力の1号機は、3月21日の大震災の停電で外部電源を断たれたが、非常用ディーゼル発電の稼働で切り抜けた。
 ところが、4月7日の大規模な余震による2度目の停電では一時、全電源を失いかねなかった。
 運転を停止しても、使用済み核燃料プールは冷却し続ける必要がある。余震時は、下北半島に送電する東北電力上北変電所も被害を受けた。同1号機の非常用発電機は3台あるが、2台は分解点検中で、残り1台だけが稼働。この1台も翌8日午後にはトラブルで停止s他。幸いそれまでに外部電源が復旧したため難を逃れたが、まさに綱渡りだった。(略)
 下北半島には電源開発の大間原発も建設中。核燃料サイクル施設も集積するなど、県民には国の原子力政策に協力してきたという思いがある。
 原子力関連施設の受け入れを進めてきた三村申吾知事は、6月の知事選で安全性を高めることを強調し、3選を果たした。県独自に安全性を検証する専門家による第3者委員会を設置した。
*戸惑う地元
 第3者委員会や県民説明会について、反原発派などから「再稼働ありきでは」といった疑念の声が上がり、県民の不安感も高まっている。加えて菅政権が定期検査中の原発のストレステスト実施を表明。東北電力の1号機は8月にも再稼働とみられたが、先行きは不透明になった。
 東通村の越善靖村長は「地元は混乱している。政府の政策に一貫性がない」と批判。三村知事は菅政権に強い不満を示しながらも「住民説明会などの意見を踏まえ、総合的に判断する」と繰り返すばかりだ。
 東通村の酒類販売業の男性(82)は「なんで賛成したんかな。今になってみると、原発は怖い」。白糠漁協で反対運動をしてきた東田さんも「原発も人間が動かす機械である限り、いつかは事故が起きる」と心配する。
 核燃料サイクルに反対する「核燃料サイクル阻止1万人訴訟原告団>代表の浅石紘爾弁護士は「住民説明会では明らかに不安を訴える人が増えている。これで知事は性急な結論は出せなくなったはずだ」と指摘。 そして工事が中断している東京電力の1号機について訴える。「原発の新設、増設を地元をはじめ国民は認めないだろう。東京電力はまだ着工したばかりなのだから、このまま中止するのが当然だ」
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