3府県連続リンチ殺人:匿名か実名か、判断分かれた理由−−死刑が確定した元少年3人
大阪など3府県で94年、男性4人が殺害された「連続リンチ殺人事件」。最高裁が3月10日、強盗殺人罪などに問われた当時18〜19歳の元少年3人の上告を棄却し、全員に死刑を言い渡した2審判決が同30日に確定した。新聞・テレビの大半は、それまでの匿名を実名報道に切り替えた。毎日新聞は匿名を継続したが少数派だ。報道各社にアンケートして匿名・実名報道の理由を聞くとともに、専門家に話を聞いた。【臺宏士、内藤陽】
今回は新聞5社(朝日、読売、産経、日経、東京)▽通信2社(共同、時事)▽放送6社(NHK、日本テレビ、TBS、フジテレビ、テレビ朝日、テレビ東京)の計13社に対し、判決を受け(1)実名、匿名のどちらで報じたか(2)その判断理由(3)読者・視聴者への説明方法−−を尋ねた。その結果、これまでと同様、匿名報道を維持したのは、毎日、東京新聞とテレビ朝日の3社だけだった。名古屋のローカル局はキー局の判断に合わせた。
少年法は未成年者の犯罪について実名報道を禁じているため、これまでは一部週刊誌を除き、マスコミ各社は匿名報道を続けてきた。最高裁の上告棄却を受けた今回、判断が分かれたのは、死刑判決が確定することで同法が目的とする更生(社会復帰)の機会が失われたかどうかの認識で違いが出たからとみられる。
匿名報道を継続した毎日新聞は3月11日朝刊で、「元少年らには今後も更生に向けて事件を起こしたことを悔い、被害者・遺族に心から謝罪する姿勢が求められる。死刑確定後も再審や恩赦が認められて社会復帰する可能性が全くないとは言い切れない」などとの見解を掲載した。東京新聞は「少年法に配慮する必要性は消えていない」、また、テレビ朝日は「判決が確定していない段階では少年法の精神を尊重した」としたが、「確定した段階で実名に切り替える」との立場で、4月1日ネットニュースで実名報道した。
これに対して、実名報道に切り替えた社は「生命を奪われる刑の対象者は明らかにすべきだと判断した」(朝日新聞)や「凶悪で重大な犯罪で社会の関心が高い」(NHK)などとした。元少年3人の少年時の顔写真を放送したフジテレビは「死刑執行は重要な国家権力の行使である」と回答した。また、テレビ朝日を除き、各社は記事や番組内で理由を説明した。
日弁連(宇都宮健児会長)は3月10日、報道各社の大半が実名報道に踏み切ったことについて「極めて遺憾」とする会長声明を発表。「再審や恩赦制度があることから少年が社会復帰する可能性は残っている」とした。また、江田五月法相は同11日の閣議後会見で各社の対応について「それぞれの報道機関の判断だ。私どもがどうこう言うことではない」と述べた。一方、元少年の代理人弁護士の一人は判決前、報道各社に実名で報じないことを求める要望書を出していた。
◆報道各社の実名・匿名対応とその理由◆
(毎日新聞の対応は文中。●は実名、○は匿名、△は判決時は匿名で、確定時実名。アンケートは判決言い渡し直後に実施)
朝日新聞 ● 生命を奪われる刑の対象者は明らかにすべきだと判断した。本社は04年、事件当時は少年でも、死刑が確定した場合は原則として実名で報道する方針を決めている
読売新聞 ● 更生(社会復帰)の機会はなくなる。国家が人の命を奪う死刑の対象が誰なのかは重大な社会的関心事となる
日経新聞 ● 死刑判決が下された重大性に加え、被告の更生の機会がなくなることを考慮した
東京新聞 ○ 被告との面会や書簡のやりとりから内心の変化もうかがえる。死刑執行時まで罪に向き合う日々が残されている。現時点では、少年法が求める配慮の必要性はなお消えていない
産経新聞 ● 死刑が確定する可能性が極めて高い。社会復帰などを前提とした更生の機会は失われる。事件の重大性も考慮した
共同通信 ● 更生、社会復帰に配慮する必要がない。上告審判決への訂正申し立てで、量刑が覆った例がない。4人死亡の事実関係に争いはなく、再審が認められる可能性は事実上ない
時事通信 ● 社会復帰を前提とする更生の機会がなくなることに加え、事件の重大性、悪質性などを総合的に判断した
NHK ● 4人が次々に殺害されるという凶悪で重大な犯罪で社会の関心が高い。社会復帰して更生する可能性が事実上なくなった
TBS ● 更生と社会復帰の可能性への配慮が必要なくなる。4人もの生命が奪われ、被告の生命が奪われることになるという事件の重大性なども考慮した
日本テレビ ● 事実上死刑が確定した。更生の可能性が基本的になくなった。事件が社会に与えた影響を踏まえた
テレビ朝日 △ 判決が確定していない段階では、少年法の精神を尊重し、匿名としている。死刑判決が確定した段階で、実名に切り替えた
フジテレビ ● 更生の可能性がなくなった。死刑執行は重要な国家権力の行使である。事件の重大性などを総合的に判断した
テレビ東京 ● 更生や社会復帰に配慮をする必要性が失われたと考えられる。事案の重要性にかんがみて。少年事件での最高裁の死刑判決は重く、これまでに申し立てで量刑が覆ったことがない
毎日新聞 2011年5月7日 東京朝刊
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