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原子力規制委法案が衆院通過 原子力ムラとの決別 人選がカギ

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 原子力規制委法案が衆院通過  ムラ決別 人選がカギ
中日新聞  特 報  2012/06/16
 「原子力規制委員会」設置法案が十五日、衆院で可決され、原子力の安全規制を新たに担う組織にやっと発足のめどがついた。ただ、問題は新組織のありようだ。規制委と、その事務局となる規制庁は信用に足る存在となるのか---。(佐藤圭・中山洋子記者)
 東京・霞が関の合同庁舎の一角にある原子力安全委員会事務局。入り口のドアには「関係者以外立ち入り禁止」の張り紙がある。部屋に入ろうとした職員に取材を申し込むと、「電話してください」とにべもなかった。
 福島原発事故をめぐる安全委の対応は、斑目春樹委員長の名前をもじって「デタラメ」と批判されてきた。政府案の原子力規制庁が四月に発足していれば、三月末に廃止されるはずだったが、国会審議が難航。ようやく十五日、民主、自民、公明三党が共同提出した「原子力規制委員会」設置法案が衆院本会議で可決。参院審議を経て、今国会で成立する見通しとなった。安全委は経済産業省原子力安全・保安院とともに、九月までに解体される。
■寄付受け取り、再就職制限 議員規定に自信
 新たな規制組織は、国家行政組織法三条に基づく独立性の高い専門家五人による規制委を環境省の外局として設置。政府案で規制組織本体となる予定だった規制庁は、規制委の事務局にとどまる。委員は国会の同意を得て、首相が任命する。ここで問題となるのは「原子力ムラ」と決別できるかどうかだ。
 少なくともムラの住人が、あからさまな形で委員になるのは難しそうだ。委員長と委員は原子力事業者からの寄付情報を公開しなければならず、寄付そのものを制限する内部規範の策定も義務付けられる。内部規範には ?在任中には寄付を受けてはならない
?研究を指導していた学生が原子力事業者に就職した場合は事業者名などを公表--などの規定が盛り込まれる。
 福島事故後、斑目氏と代谷誠治委員が就任前の三〜四年間、原子力関連企業や業界団体から三百十万〜四百万円の寄付を受けていたことが明らかになった。斑目氏のようなムラの住人は事実上、規制委の委員の人選からは外されることになる。
 委員は、原子力の専門家である必要はない。当初の案は「原子力に関する専門知識と経験を有する者」だけとなっていたが、三党の修正協議で「高い識見を有する者」が追加された。
 規制庁職員は発足時、原発を推進してきた保安院などから採用されるが、出身官庁には戻れない「ノーリターン・ルール」を設定するとともに、原子力関連企業・団体への再就職を制限される。
 規制委案を主導した自民党の塩崎恭久元官房長官は「委員には原子力と行政の知識を兼ね備えた人がふさわしい。原子力ムラ以外にも人材はいる。国民の信頼を取り戻すことは可能だ」と強調する。
 修正協議の座長を務めた民主党の近藤昭一衆院議員は「原子力ムラを排除する仕組みはできた。政府がしっかりと脱・原発依存を具体化していくことが大事だ」と指摘した。
「無縁の人いるか」「別分野も手」
■識者 悲観と要望
 原発推進の旗振り役である経産省の下に置かれた保安院の結論を安全委が追認するだけだったことが、原子力行政の欠陥だった。新体制でそうした因習は絶つことができるのだろうか。
 「これまで原発推進政策に疑問を持つ研究者が排除され続けてきた。今、ムラと無縁の専門家がどれだけいるのか」
 そう危ぶむのは富士通総研主任研究員で、昨年十月まで内閣官房国家戦略室で民間任用を担当していた梶山恵司氏だ。
 「仮に最良の委員が集まっても、事務局が元の官僚のままでは骨抜きになりかねない」とする梶山氏は、とりわけ事務局の人選に注目する。
 「日本の役人は数年で部署を異動するので、専門家が育ちにくい。専門家ではないから政治の思惑に従って動いてしまう。原子力規制も、現状では電力会社から情報を集めるのが精一杯。これから、きちんと力量のある行政官を育てていくしかない」
 福島第一原発などの基本設計を担当した元東芝技術者の渡辺敦雄氏は、新体制が機能できるかどうかは「すべて人選にかかっている」と強調する。
 米国では福島の事故後、原子力規制委員会(NRC)の委員長を務めていたグレゴリー・ヤツコ氏が、オバマ政権の原発回帰戦略に公然と反対した。最近になってヤツコ氏は辞任したが、渡辺氏は「ヤツコ氏のような硬骨漢をメンバーに選ぶのも、米議会のモラルの高さの表れ。同じように新体制が機能するためには、日本の国会にも高いモラルが求められる」とクギを刺す。
 そのうえで「NRCのメンバーも技術スタッフもみんな学位を持っている。だからこそ、メーカーや電力会社の並みいる博士に対しても技術的な論陣を張ることができる」と指摘する。「日本の官僚は調整型のマネジメント能力が求められてきたが、それでは議論すらできない」
 元東芝の格納容器設計者の後藤政志氏は「原子力規制の現場では、どんどん原則がぶれ、安全から離れていった。活断層のある場所に造らない筈が、なぜ原発の周りは活断層だらけなのか。そんな体質を考えると、簡単にムラの影響を取り除けない気もする」と悲観的だ。
 実際、福島事故への反省がいまだにみえない専門家たちの姿勢は、独立性の高い規制委が暴走した場合の危うさも示唆する。
 京大原子炉実験所の小出裕章助教は「これだけの事故が起きているのに、誰ひとり責任を取ろうとしていない。その人々が組織を作り直したからといって期待などできない」と切り捨てる。
 それでも、最良の「人選」を担保するにはどうすればいいのか。
 前出の梶山氏は「国会に歯止めも期待しにくい。現行の原子力委員会も原子力安全委員会も国会同意人事だが、どちらの委員長も解任されていない」と前置きしながら、「霞が関や永田町にも信頼できる人材はいる。まずは、見識のある専門家や官僚を見つけて組織設計を託すことだ」と話した。
 渡辺氏は、この機に人心の一新を提案する。
 「事故対応で必要な技術のうち、実は原子力工学はほんの一部。機械工学や土木工学などあらゆる分野にまたがっている。新組織のスタッフはこうしたジャンルの博士学位の保持者を集め、既成概念にとらわれない人材を登用すればいい。ある意味、社会システムを変える絶好のチャンスだ」


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