〈来栖の独白 2012/7/1 Sun. 〉
HP『勝田清孝と来栖宥子の世界』や弊ブログで、何度か当該事件裁判を取り上げた。昨日の東海テレビの作品 【約束〜名張毒ぶどう酒事件 死刑囚の生涯〜】(東海テレビ6月30日(土)14:00〜)も、視聴した。ドキュメンタリーとドラマとによる構成で、東海テレビさんの力の入れようが伝わってきた。
心に残った部分から、少しだけ書き留めておく。
25年間裁判官を務め、50歳の時辞めた秋山賢三さんの話。「(裁判所は)冤罪闘争している人間の再審は、開始しないですね」「(裁判所内の)エレベーターに乗るにも裁判長から、という具合で(序列がある)」
秋山裁判官は、徳島ラジオ商事件(1953年 懲役13年)で富士茂子さん(死後)に再審の扉を開いた人。その後は民事の裁判ばかり。「新潟地裁高田支部へ。豪雪地帯で」。秋山さんはメガネの向こうで目を潤ませて途切れがちに言う、「(裁判に)裏切られた人が、裁判所を最後まで信じようとする。それしかないからですよ」と。
名古屋高裁(刑事1部)小出じゅん一裁判長によって、一旦は再審決定された名張毒ぶどう酒裁判。
その決定を取り消し再審請求棄却したのは、門野博裁判長(名古屋高裁刑事2部)。小出裁判長の認めた新証拠をすべて否定。「死刑が予想される事件で自ら嘘の自白をするとは考えられない」と、自白重視の判断。翌年、東京高裁へ、栄転となった。片や、再審決定した小出裁判長は、辞めている。
これらの風景から見えてくるのは、裁判所の縦の構図だろう。頂点に最高裁があり、その下に高裁があり、地裁があって、旭川地裁稚内支部から那覇地裁石垣支部まである。秋山賢三さんが飛ばされた高田支部の豪雪の様子をカメラは映しだした。
「(裁判に)裏切られた人が、裁判所を最後まで信じようとする」が、再審の扉を開くことは、裁判官にとって出世を諦めることだ。名張毒ぶどう酒事件裁判のように、何次にも亘って再審請求を繰り返しているなら、その請求を受け入れるということは、前任裁判官たち(の決定)を全否定すること。裁判所を否定することだ。そんな者が、上級の裁判所に居させてもらえるわけはない。官僚社会である。
かくて、奥西勝さんには、再審の扉は開かれないだろう。歳月が重なり、多くの司法関係者の判断、関与を経れば経るほど、再審の道は細く狭く遠くなるだろう。
=================================
◆【約束〜名張毒ぶどう酒事件 死刑囚の生涯〜】東海テレビ6月30日(土)14:00〜 2012-06-30 | 死刑/重刑/生命犯 問題
=======================================================
◆『司法官僚』新藤宗幸著--裁判とは社会で周縁においやられた人々の、尊厳回復の最後の機会である2009-09-28 | 読書
『司法官僚』〔裁判所の権力者たち〕新藤宗幸著(岩波新書・819円)
---評者・梓澤和幸=弁護士(中日新聞読書欄2009/9/13Sun.)---
秩序維持へ判決に影響力
最高裁の建物の中には裁判を担当せずに司法行政に専念する裁判官が23名、その予備軍である事務総局付判事補が20余名いる。現場の裁判官も、どこか上(人事)を気にしながら仕事をしている。その空気をつくっている司法官僚の真実に迫った。実証的でしかも知的好奇心を誘う文体である。
最高裁長官、事務総長、人事局長などの人々は(法律の建前とは別に)結局申し送りという官僚システムで選ばれていく。現場と事務総局を往来するこのコースに乗るか否かは、司法試験合格後1年半の司法修習の間に決まる。頭がよく、素直で、上司に従順な人が選ばれる傾向だという。
司法官僚は全国の判決や訴訟指揮の情報を集める。それをもとに行使される人事権は全国3500名の裁判官たちに絶大な影響力をもつ。10年ごとの再任の有無、昇級、転勤を司法官僚が決める。事務総局が召集する「合同」と呼ばれる研究会も下級審の裁判内容を遠隔操作する結果を生む。労働事件や水害事件の事例が指摘される。次の指摘は本書の白眉である。「司法官僚として訓練された調査官が、最高裁判決に大きな影響力をもつとされ、しかも最高裁判事のうちの職業裁判官も司法官僚トップ経験者であるとき、(最高裁の)判決が秩序維持に力点をおくものとなるのも当然といえよう」
裁判とは社会で周縁においやられた人々の、尊厳回復の最後の機会である。必死の訴えをする人々に遭遇したとき、裁判官は全人格的判断をもって救済に当たるべきだ。しかし、人々の目にふれぬところで、裁判官の内面までゆがめ、その存在理由をあやうくしているシステムがあるのだとすれば大問題である。
政権交代とは闇を打破る時代のことであろう。本書の提言にかかる裁判所情報公開法などによって司法の実態にも光が当てられ、真の改革が着手されるべきだ。
===============================
関連:「広島女児殺害事件」司法官僚によって行使される人事権は全国の裁判官たちに絶大な影響力をもつ2010-08-07 | 死刑/重刑/生命犯 問題
〈来栖の独白 2010/08/07〉
憲法76条3項は「すべて裁判官は,その良心に従ひ独立してその職権を行ひ,この憲法及び法律にのみ拘束される。」と裁判官の職権行使の独立を認めている。が、ここ(当該事件裁判)で私が見たものは、司法制度改革へ舵を切った最高裁に逆らうものは出世の道から外される、という「官僚司法」のありようであった。司法制度改革とは、核心司法、拙速裁判である。最高裁は「当事者が立証しようとしていない点まで立証を促す義務はない」とし、本件の精密な審理を望んで地裁へ差し戻した楢崎康英高裁裁判長を家裁へ転任させている。(↓)
.... ... ...
・光市母子殺害事件(差戻し)・広島女児殺害事件控訴審裁判長だった楢崎康英氏が山口家裁所長・・・
〈来栖のつぶやき〉2009/10/14
家裁とは・・・。しかも、広島家裁ではなく、(広島管区)山口とは。何があったのだろう。60歳ということだが、定年は65歳だ。光市事件差し戻し控訴審・広島女児殺害事件控訴審判決では、メディア・世論に評価されたと私は受け止めていたが。
追記 2009/10/16Fri.
本日、広島女児殺害事件上告審判断があった。高裁へ差し戻しということである。
楢崎さんには、相手が悪かった。裁判員参加という不合理な制度を推進する大本山に立てついたような格好になった。楢崎さんは精密司法(1審へ差戻し)に「死刑」を展望していたのかもしれないが、最高裁の拙速志向(核心司法)とは相容れなかった、ということか。核心司法によって本件のように、今後いのちを得ること(死刑回避)になるのならいいけれど。
昨年だったか、東海テレビ「裁判長のお弁当」に登場した元裁判官下澤悦夫さん。若い頃、「青年法律家協会」に所属し、退会・退官勧告に従わなかったので、地方の家裁・簡裁を転々とさせられ、生涯一裁判官で終わった。「そりゃぁ、上に行きたいって気持はありましたよ。だけど・・・」と語っていた。ご自分の信念を曲げてまで・・、ということだろう。清廉な人格でいらっしゃると感服した。
楢崎さんの場合、高裁刑事部で裁判長まで務めた人である。所長ポストであれ、家裁への異動はどうなのか・・・。存分に腕が振るえるとは思えない。簡裁であっても、同様である。
「裁判官の独立」につき憲法は“良心に従い独立してその職権を行い、日本国憲法及び法律にのみ拘束される”と、謳っている。(後段 略)
-----------------------------------------------
◆名張毒ぶどう酒事件の人々
◆名張毒ぶどう酒事件 第7次再審請求差し戻し審 名古屋高裁刑事二部 決定要旨
------------------------------------------------