『月刊日本』編集部ブログ 小沢一郎と習近平
2012-11-16 22:29:44
中国共産党は15日、新たな総書記に習近平国家副主席を選出しました。習近平はまた、胡錦濤が留任すると言われていた党中央軍事委員会主席にも選出されたため、党と軍の双方を握ることになりました。
朝日新聞の報道によれば、胡錦濤は自らが完全引退することと引き換えに、(1)いかなる党高官も引退後は政治に関与をしない(2)今後、軍事委主席も含めて引退期限を巡る人事での例外を認めない、との2点を内部規定として了承させました。胡錦濤はこれにより、江沢民ら引退した党高官が政治力を行使することを防ごうとしたようです(朝日新聞11月14日付)。
もっとも、7人からなる新たな政治局常務委員は、江沢民に近い勢力によって占められたとも言われているため、本当に江沢民たちの力を排除できたのかどうかは定かではありません。
習近平と言えば、2009年12月に行われた天皇陛下との会見を思い出す人も多いと思います。この会見は、当時民主党の幹事長だった小沢一郎氏が「30日ルール」(外国要人が天皇陛下と会見する場合には30日前までに文書で申請するというルール)を破って無理矢理セッティングしたものだとして、多くの議論を巻き起こしました。
とりわけ、宮内庁の羽毛田信吾長官が記者会見を開き、陛下の健康を案じて習近平との会見を止めようとした旨の発言を行ったことにより、「小沢一郎は天皇を政治利用した」として小沢氏を非難する声が強くなりました。
弊誌はこれに対して、羽毛田長官こそ天皇を政治利用していると批判してきました。詳しくは、弊誌2010年2月号に掲載された、佐藤優氏と山崎行太郎氏の対談「羽毛田宮内庁長官に物申す――国家の主人は誰だ」をご覧ください。
天皇陛下と習近平の会見の日程調整が難航したのは、習近平の訪日日程がなかなか決まらなかったからだと言われています。事前におおよその日程さえわかっていれば、「30日ルール」を守ることもできたはずです。
これに関しては、習近平と天皇陛下を会見させないようにするために、胡錦濤一派がわざと習近平の訪日日程の決定を遅らせたという説も流れています。
中国の(次期)国家主席にとって、天皇陛下と会見することには極めて重要な意味があります。それゆえ、天皇陛下と面会できないということになれば、習近平の権威が大きく傷つくことは避けられません。胡錦濤一派の狙いもそこにあったと思われます。
ところが、小沢氏の「剛腕」により、本来であればとん挫するはずだった会見が実現することになりました。そのため、習近平は小沢氏に恩を感じていると考えられます。弊誌11月号において、地政学者の白馬崇峰氏はこう述べています。
…日本政府が(尖閣諸島の)領土問題を認めずに、日中関係を振り出しに戻す起死回生の一手が残されている。それこそは、小沢一郎の特使派遣だ。小沢一郎は習近平の恩人である。習近平にとって今上陛下と謁見した意味は、権力を掌握する上で極めて大きかった。小沢一郎に頼まれれば、習近平は必ず国内を鎮静化させる。むしろ習近平は小沢一郎の出番、花道を用意しているのではないか。
次の総選挙により誕生するのは、恐らく自民党・安倍政権です。安倍政権が小沢氏を特使として中国に派遣するとは思えませんが、安倍政権の尖閣問題への対応の仕方如何によって、今後の日中関係が大きく左右されることは間違いありません。
白馬氏のインタビュー記事「尖閣敗戦――小国日本の悲劇」は、次期政権の中国政策を評価する上でも示唆に富むものです。ご一読ください。(YN)
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どこまで進む?「天皇の官吏」化 『小沢革命政権で日本を救え』日本文芸社刊
対談:副島隆彦×佐藤優
■今の宮内庁の官僚は「天皇機関説」論者に匹敵する
佐藤 だから2009年12月の羽毛田長官の不当な会見に対しても、どこに自分の視座を置くかによって、全然異なる事件に見えるはずです。天皇を政治利用しているのは小沢幹事長か、羽毛田長官のどちらかといえば、これは明らかに羽毛田宮内庁長官の側だったのです。ところがそのように見えない人たちが少なからずいる。
副島 そうですね。あの習近平国家副主席を天皇と会見させよと要請したのは誰だったのか。このことをはっきりさせなければならない。中国人を無理やり天皇に会見させたとして、右翼たちが騒ぎました。小沢一郎の世田谷の家の周辺に押しかけ、警備の機動隊と騒乱を起こしました。それほどまでに中国寄りの小沢に対する蔑視が激しかった。事実、小沢一郎は140人の民主党新人議員たちを引き連れて中国を訪問して帰ってきたばかりでした。
小沢一郎幹事長は記者会見で、「そんな(1ヵ月)ルールなんて官僚が勝手につくったルールである」とはっきり言っていました。
つまりこの「天皇に会いたければ1ヵ月前までに宮内庁に申請を出せ」というのは法律ではないということです。(国民の)代表である国会で決議された法律ではない。官僚が勝手につくったルールである。そんなルールに内閣官房長官までが従わなければならないと、羽毛田は当然のこととして言い放ったのです。
事実はどうやら、まず、羽毛田長官のほうが平野博文官房長官に対して、天皇会見の要請を拒絶した。そのあと、再び、今度はアメリカ国務省が日本外務省に「習近平を天皇に会わせろ」と要求してきた。それを外務省は鳩山首相に直接連絡したところ、平野官房長官が再度羽毛田に「なんとかならないか」とお願いした。それでも羽毛田が首を縦に振らなかった。
そうしたら、なんと今度はヘンリー・キッシンジャー(ニクソン政権およびフォード政権期の国家安全保障問題担当大統領補佐官)を通して、子分の中曾根康弘・元首相に直接電話が行き、「習近平を天皇に会わせろ」となった。
そこで中曾根は平野官房長官に電話して「習近平を天皇に会わせろ」と圧力をかけた。困った平野官房長官が再再度、羽毛田に会見を要請したら羽毛田が怒りだして、それで12日の宮内庁長官としての暴走会見をしました。
そうしたら小沢一郎が怒りだして、「内閣の1部局にすぎない宮内庁が内閣の指図にあれこれ反対するのは、許されないことだ。もう一度反対するのなら辞表を持ってすべきだ」という趣旨のことを言ったのです。佐藤さんの言う「羽毛田長官に、天皇をお守りする尊皇のまことの心はありや」と同じ態度です。
さらに皆が驚いたのは、小沢一郎が「私が中国要人を天皇に会見させよと言ったことはない。自分はこの件に関係していない」と発言したことです。だから、本当は、圧力をかけたのは中曾根元首相だったのです。
それなのに、右翼やマスゴミや親米保守言論人(代表、中西輝政(なかにし てるまさ)京都大学教授)たちは、事実関係も調べずに、猪突猛進で、「小沢憎し」の一念で大騒ぎをしました。
小沢一郎が、天皇の生活日程に何か干渉したり、失礼なことをしたことは一切ない。ただ「天皇は喜んでお会いになるでしょう」と言っただけです。
キッシンジャーこそは、世界基準では中国寄りの政治家であり、日本のことなど本当はちっとも大事にしていない人です。
中曾根が圧力をかけた張本人だったのです。この情報はワシントンからの報道ですぐに露見しました。記者たちが、この件を中曾根に問い詰めたら、「ノーコメント」と答えた記事が証拠として残っています。
■特例会見は「ルールの枠内」中曾根元首相
中曾根康弘元首相は(12月)24日、都内の事務所で記者団と懇談し、天皇陛下と中国の習近平国家副主席との会見を実現させた政府の対応について
「慎重に処理してきたと思う。あの程度の時間的ズレは(30日ルールの)原則の枠内のことなので、認めていい」
と述べた。
自らが首相官邸サイドに会見の実現を要請した点については「ノーコメント」とした。 (産経新聞 2009年12月25日付)
副島 日本の旧来保守の人たちの「中国嫌い、小沢嫌い」は病膏肓に達していますから手に負えません。今でも居直って、私のこの事実解明を無視するでしょう。
民主党の幹部である山岡賢次・国会対策委員長が「官房長官と宮内庁長官が内的に話したことを勝手に公表するということは異例なことである」と、クギを刺しました。
羽毛田長官は、自分が大きな世界政治の中に投げ込まれていることも自覚せずに、「玉体(天皇の体)を取っている自分が偉い」ととんでもない思い違いをしている男です。この男はなんと小泉純一郎・元首相が取り立てた男で、元は厚生労働省の事務次官だったそうです。
佐藤 (部分略)この羽毛田信吾という官僚は、自分が言っていることが極めて政治的な発言であるということを理解していなかった。日本と中国との関係においても、政治的であるばかりか、「大きな国も小さな国も、全部フラットに扱う」と言った。それはアメリカとサダム・フセインのイラクを一緒に扱うということになるわけです。それは、逆に極めて政治的な立場です。
現実の政治というのは、力で働いています。それにもかかわらず、全部を平等に扱うのが原則だと言ったのです。それでは、小さなところに特に梃入れするという立場になってしまいます。また天皇の健康状態について、平場で云々することは、尊皇の情のかけらもない証拠です。だから、彼らは「天皇機関説」論者なのです。
そのことの是非は別において、「なんでも自分たちで構築して、使っていくことができる」、それによって官僚統制を広げていこうという、これは官僚という階級の、あるいは官僚という人種の無自覚な欲望です。
■今、正しい人間と間違っている人間の逆転現象が起こっている
佐藤 このことを裏返して見ると、副島さんが日頃追及していることとつながっていくと思います。官僚階級の側がけっこう追いつめられてきているのではないでしょうか。
副島 そうです。自分たちが勝つと思って、よかれと思って、やったのです。
佐藤 政治資金問題では検察側が勝つと思ってやってきた。この「1ヵ月ルール」の問題で、羽毛田長官も勝ったと思ってやったわけです。ところが彼らはこれで、小沢一郎は自分たちに逆襲できず、青菜に塩みたいな感じで、しゅーんとしてしまうと思ったと思います。ところが小沢さんはデモクラシーの根本のところがよくわかっていますから、これを国家体制の根本に関することだということで、牙を剥いて反撃しました。それで検察も今度は震えているわけです。だらしがないと思います。
副島 そのとおり。日本国内ではメディア(マスゴミ)の力で小沢一郎がすっかり悪者になっています。平清盛や足利尊氏が天皇家、朝廷に対して横暴を働いたみたいな枠組みになっています。それをこれからひっくり返していかなければいけないと思います。
佐藤 これはマスメディアの劣化です。今、本当に正しい人間と間違っている人間が逆になるという、むちゃくちゃな話が横行しています。
副島 今の憲法体制上、天皇は「内閣の助言と承認に基づいて、国事行為を行う」(日本国憲法第三条)わけです。それに対して、宮内庁長官が自分が玉体を取っているという発想自体が、違法であり、憲法違反です。自分たちが実質的には天皇の代理権や、国家の代理意思を持っていると思い込むことです。「天皇の代わりに自分たちが判断する、天皇には判断させない」---きっとそこまで考えているのでしょうね。
佐藤 だからこれは、太平洋戦争中の陸軍の「統帥権の独立」みたいな話です。
副島 天皇の統帥権への政府からの干渉を指して、「統帥権の干犯」と彼ら軍事官僚たちが言ったわけです。官僚は「理論の筋道」を捻じ曲げるのが得意です。天皇本人のご意思はどうなるのかというと、そこはもう語らないことにするわけです。それで国家が暴走して中国侵略を行い、世界を敵に回して無謀な戦いを行い、みじめな敗戦をしました。
佐藤 天皇陛下ご自身が本心を語れないことを理由にして、しかも天皇陛下の健康問題まで出したわけです。しかもこの羽毛田長官という人は、2001年3月に起った「松尾克俊・外務省要人外国訪問支援室長の機密費流用事件」で、警察から参考人として事情聴取を受けている人物です。この事件は、機密費を扱っていた外務官僚の松尾氏が、競走馬やマンション購入など、「機密費」の横領容疑を起こし、逮捕された疑獄事件です。
いずれにせよ、官僚が意図的もしくは無意識のうちに「天皇を管理下に置く」という発想をしている問題を徹底的に追及しなければいけません。「官僚とは何か」、「国家は誰のものか?」ということを追及しなければいけません。
「国家は最終的に国民のもの」だと、みんな言います。が、どういうプロセスで国民の意思が国家に体現されるのかについてきちんと考えなくてはならない。
「官僚になるための国家試験は日本国民なら誰だって受けることができる。だから国民のものである。そうすると国民意思の代表は官僚である」、このようなインチキ議論にごまかされてはいけないということです。官僚は国家支配の道具であって国民の意思に制約されずに動く本性があります。これをどうやって押さえるかが政治家の仕事です。
■官僚が暴走して実質的に権力を握ることが、官僚制の最大の弊害
副島 これは「本人・エージェント理論ですね。エージェントとは、普通は悪い意味でスパイのような意味も含みます。
よい言葉で訳せば「代理人」です。誰が誰のエージェントであるか、代理人は本人の意思に背いた行動をとってはいけないのです。
国民の代理人(代表ともいう)は、政治家がつくる政権(政党)です。大臣たちの使用人が官僚(高級公務員)です。
ところが官僚は、「自分たちが国家の代理人」だと思い込んで勝手な動きをする。この代理人が暴走して実質的に権力を握るというのが、官僚制の一番悪い面ですね。
佐藤 そのとおりです。依頼人から通知書を受け取った弁護士が暴走して、依頼人(通知人)の意思と違うことを行っているということと、まったく一緒です。
こういう難しい場面での、「知の力」というか、教養の力、学問の力が必要になってきます。学問の力がないと、昨年末の「羽毛田発言問題」では、小沢一郎のほうがおかしくみえるのです。
学問の力があると、習近平国家副主席に対し、日本側がどのような対処をすべきかの問題だったということがわかります。国家副主席をそこまで厚遇する必要があるのかどうか、確かに一つ議論としては残ります。
結論から言えば、今の日中の力関係を見たら、私は習近平という人物は重要だと思います。だから、内閣のあの判断は間違っていなかったと思います。
そこをブラックボックスに入れるとしても、この羽毛田長官の言動は、次元が食い違うところでのおかしな行動でした。
副島 習近平国家副主席は、2年後には国家主席、および共産党総書記になるのですから、お披露目でした。国際社会におけるお披露目だったのです。
日本はドイツに次いで重要な国だと中国は考えたのです。それ故、国家元首が会わなければならなかった。
中国の次の国家元首になる人物のお披露目だったと考えるべきです。中国側はそれを暗に仄めかせていたのです。まず習近平国家副主席はヨーロッパに行き、メルケル独首相に会いました。
佐藤 確かにそういう挨拶のために日本に来たわけです。挨拶に来る人間が、「挨拶したい」と言うのですから、挨拶を受けるのは当たり前ではないでしょうか。
これが宮中晩餐会を開けと要求したのでしたら話が違います。晩餐会を開くには、準備や通知など、何ヵ月も時間が必要です。
だからあのとき、中国側が要請したことはそれほど乱暴な話ではなかったのです。
つまり手続きを踏んでいないのは、どちらか。また、言ってよいことと悪いことの線を破ったのはどちらかということです。
考えようによっては、あのとき2・26事件のような事態が、血が流れない形で本当に起きたのかもしれません。つまり、羽毛田長官は、高齢ではあっても、発想は青年将校的なのです。
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