中国が世界最大の経済大国になる日
JBpress2011.06.08(Wed)Financial Times
中国が世界最大の経済大国になった時、一体どんな感じがするのだろうか。我々は遠からず、それを知ることになるかもしれない。国際通貨基金(IMF)は数週間前、中国が今後5年以内に世界一になるという報告書を発表した。
*2010年代には首位逆転
中国経済の規模が2016年までに米国経済を上回るという予測は、両国通貨の国内購買力を調整したものだ。IMFのデータの解釈は、中国経済の規模を人為的に膨らませる怪しい動きだと見る向きもある。
だが、実際の為替レートを使っても、米国が首位の座を奪われる日が大幅に先送りされるわけではない。昨年のクリスマス直前に出された英エコノミスト誌の試算は、中国が2019年に世界一の経済大国になると予想していた。
中国の首位浮上は、超大国であることが何を意味するのかという概念を変える。世界は米国の世紀を通じて、世界最大の経済大国は明らかに世界一豊かな国でもあるという考えに慣れた。世界最大の経済大国には世界一裕福な人々が暮らしていた。
中国が経済的な超大国として台頭するに従い、国家の豊かさと個人の豊かさの関連性が絶たれつつある。
中国は西側世界より豊かであると同時に貧しくもある。中国は3兆ドル相当の外貨準備を持っている。それなのに現在の為替レートで測った場合、平均的な米国人は平均的な中国人と比べ、ざっと10倍裕福なのだ。
*中国が世界一の経済国になっても米国の政治的優位は当分続く
米国社会の相対的な豊かさは、中国が世界最大の経済大国になったその日に世界最強国になるわけではない理由の1つだ。世界が米国のことを「唯一の超大国」と見なす癖からも、米国の政治的優位は経済的優位より長続きする可能性が高い。
米国は様々な国際機関で確立した地位を得ている。国連、IMF、世界銀行がすべて米国に本部を置いており、また、北大西洋条約機構(NATO)が米国を中心に構築されていることは重要だ。
米軍は世界的な勢力と技術の高度化において中国が到底及ばない優位性を誇る。米国はソフトパワーの面でも先を行っている。中国には今のところ、米国のハリウッドやシリコンバレー、あるいは「アメリカンドリーム」に相当するものが存在しない。
一方で、経済的な力と政治的な力は同一ではないとはいえ、2つはやはり密接に関係している。中国が豊かになるにつれ、その影響力が高まっていくからだ。
*豊かになるに従い高まる影響力
筆者は最近サンパウロを訪れた際、ブラジルの上級外交官がにべもなく、遠く離れた中国は最大の貿易相手国として、今やブラジルにとって米国よりも重要な存在だと話すのを耳にした。ブラジルのジルマ・ルセフ新大統領の就任後初の本格的な外遊先は、ワシントンではなく北京だった。
また、中国の貿易と投資はアフリカおよび中東全土における同国の影響力も大幅に増大させた。
中国の経済力が引き起こす政治的な問題は、中国の近隣諸国で最も痛烈に感じられるだろう。
日本、韓国、オーストラリアは現在、自国の経済的利益と戦略的利益が別々の方向を指している状況に置かれている。これら3カ国はすべて、最も重要な経済関係が対中関係である一方、最も重要な軍事関係は米国と結んでいるのだ。
もし中国が(過去1年間にその兆候を示してきたように)過度に影響力を振るおうとしたら、米国と同盟関係にあるアジア諸国は当面、対米関係を一層密にするかもしれない。だが時間とともに、高まる中国の経済力はどんどん重みを増していく。
*民主主義と経済的成功の関係が試される
台頭する漢字文化圏にどう適応していくかという議論がアジア全域で活発になされている。シンガポールの外務省事務次官を務めたキショール・マブバニ氏は、アジア人は「1000年後に中国がまだアジアにいることを知っているが、100年後に米国がまだここにいるかどうかは分からない」と語っている。
中国の力は、米国や欧州連合(EU)、日本で積み上がる恐ろしい公的債務に対する懸念と相まって、民主主義と経済的成功の関係に関する西側の概念に疑問を投げかける。
19世紀の終わりにかけて米国が世界最大の経済大国になって以来、世界で最も力のある経済大国は常に民主主義国だった。だが、もし中国が今後10年間、一党支配国家であり続けたら、それも変わる。権威主義が流行すれば、「自由は功を奏する」という自信に満ちた西側のスローガンは再び試されることになる。
しかし、ある段階で中国自身が危機に見舞われる可能性が高い。中国の経済と政治体制はこの先、大変な変遷を迎える。
中国経済は永遠に年間8〜10%のペースで成長し続けることはできない。中国は恐ろしい人口問題、環境問題にも直面する。中国の権威主義も、現代社会では次第に特異に見えるようになった。中国共産党がアラブの民衆蜂起に対してパニックめいた反応を見せたのは、その証拠だ。
だが、中国における民主制度の出現は、詰まるところ国家の統一を脅かす。チベットやウイグルで民族主義運動が高まるからだ。
*中国は奇妙な超大国になる
中国が実際に経済的、政治的な危機に陥った時には、中国に対する西側の見解は突然変わるだろう。過去30年間の「中国の奇跡」は幻想だったと主張する人も出てくるだろう。だが、そうした見方も間違っている。
中国の将来を巡る議論は、無意味に二極化される危険がある。一方の陣営は、中国は世界の台頭する超大国だと主張する。もう一方の陣営は、中国は本質的に不安定な国であり、経済危機、政治危機に陥る恐れがあると主張する。
実はどちらの考え方も正しい。中国は奇妙な超大国になるのだ。
By Gideon Rachman
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