<新日本 原発 紀行> 青森・大間
2011年6月11日中日新聞【特報】
5日投開票の青森県知事選では、原子力施設の建設を進めてきた現職の三村伸吾氏が3選を果たした。本州最北端の大間町では電源開発(Jパワー、東京)が大間原発を建設中だが、東日本大震災以来、中断している。津軽海峡を挟んだ対岸には北海道函館市などがある。安全性は大丈夫なのか。海峡を越えた住民たちも、不安なまなざしで見詰めている。(篠ケ瀬祐司)
*対岸に不安飛び火
3月11日夜、「あさこはうす」にいた小笠原厚子さん(56)は、ラジオニュースで福島第1原発の異常を知った。
「これは恐ろしいことになると直感した。原発は事故を起こしたら最悪までいってしまうと言い続けてきたがきたが、とうとう来てしまった」。鳥肌が立つ思いだった。
「あさこはうす」は大間原発の敷地内にあるログハウス。用地買収に応じなかった母親の故熊谷あさ子さんと一緒に、2005年に建てた。炉心予定地から300?ほどしか離れていない。あさ子さんが所有していた土地の広さは約1?ある。小笠原さんは月の半分を函館市に隣接する北斗市の自宅で過ごし、残りはここに来て、畑を耕す。
*岡田氏 工事再開 前のめり
08年に始まった大間原発の建設工事は、東日本大震災後に電源や資機材確保が難しくなったことや、安全強化対策づくりなどを理由に中断中。Jパワーは「本体工事の再開時期は未定」(広報室)という。
ところが、民主党の岡田克也幹事長は工事再開に前のめりだ。
岡田氏は先月12日の会見で「あと2年くらいで動かす想定でかなり出来上がっている。ほぼ完成に近づいたものをいきなり全部止めてしまうのは適切ではない」と言及。
直後に大間原発を視察した際も「既にある原発を利用しないと日本の電力を賄えないのは厳然たる事実だ」と強調した。
Jパワーが公表する工事の進捗率は37・6?。冬でも作業ができるようにもうけられたほろの中で、格納容器や建屋を造っている最中だ。原子炉や核燃料はまだ運び込まれていない。
「福島原発のひどい状況を見た上で、なお原発を造る気なんでしょうか。信じられない。『ほぼ完成』どころか半分もできていない。核施設ではなく、“カラ施設”なのに」
小笠原さんは、原発ありきのエネルギー政策から抜けられない岡田氏への失望を隠さない。
「視察するなら『あさこはうす』や大間町を見てほしかった。経済的な問題もあるのだろうけれど、大間原発近くに人の命があることを直接見てもらいたい」
エネルギー政策を転換できないのは岡田氏だけではない。
青森県知事選でも、自民、公明推薦の三村知事と、民主、国民新推薦の新人山内崇元県議の2候補は原発の安全確保は訴えても、「脱原発」には踏み込まなかった。唯一、唱えたのが共産党の公認候補だった。
「完全な安全なんてない。原発依存から抜けるのは最初はしんどくても、やろうという気持ちがあれば何とかなるんじゃないでしょうか」。小笠原さんは為政者へのいら立ちを募らせた。
*函館で差し止め訴訟 市民団体
過疎の自治体が巨額な交付金で原発を誘致し、やがて原発マネー抜きには立ちゆかなくなる。「原発誘致の方程式」は大間町でも同じだ。
同町によると、昨年度までに使った原発関連の電源三法交付金は約67億円。原発の運転開始後は、5年間で72億円を見込む。
運転開始は14年11月の予定。町に入る固定資産税は、15年度から16年間で440億円に上る。同町は大間港と北海道函館港を結ぶフェリーの後継船を、約27億円かけて建造する。建設費の返済財源は、この固定資産税をあてにしている。
だが、運転開始は計画から2年数か月ずれ、固定資産税などの税収も遅れる。このため町と町議会は先月、Jパワーに財政支援を求めた。
そのフェリーに乗って函館港に向かった。「今日は眼科さ行ぐ日だ」など、乗客は函館市内の病院の話で盛り上がる。運行時間1時間40分。函館が大間の生活圏であることを実感する。
函館市内では今月3日、市民団体「大間原発訴訟の会」の竹田とし子代表(62)を講師にした研修会が開かれた。同会は10年、原発をめぐりJパワーと国に工事差し止めと損害賠償を求める訴えを函館地裁に起こした。
函館は大間原発から約30?圏。研修会を主催した渡島地域男女平等参画推進協議会は「大間と函館を隔てる津軽海峡は真っ平ら。大間で事故が起これば、函館市民も影響を受ける」(高橋松恵会長)と、大間原発をテーマに選んだ。
*「MOX燃料 安全に疑問」
大間原発は、使用済み核燃料を加工したプルトニウム・ウラン混合酸化物(MOX)燃料のみでの運転を目指している。
Jパワー側はMOX燃料について「海外で30年以上前から使用され、国内でも『ふげん発電所』(廃炉中)で772体の使用実績がある」(広報室)と説明するが、竹田さんは「すべてMOX燃料というのは世界でどこもやったことがない」などと安全性に疑問を投げかけた。
質疑は事故発生時の道南地域への影響が中心。漁師の女性が「大間原発でつくる電力は函館市民に必要なのか。海水温が一度上がってもバフンウニは死ぬし、コンブもだめになる。何かあれば地元が大変な思いをする」と訴えると、会場から拍手がわいた。
「訴訟の会」は今、第2次原告団を募集している。これまで約50人の応募のうち、約40人は道南地域の住民。ここの住民にとって、大間原発は他人事ではない。
福島の事故を目の当たりにし、県境を越えた「地元」意識が広がっている。富山県の石井隆一知事は先月の会見で、運転停止中の北陸電力志賀原発について、石川県に近い富山県の自治体や住民の理解が得られなければ、運転再開は難しいとの考えを明らかにした。〈来栖 注. 北陸電力(株)志賀原子力発電所=石川県羽咋郡志賀町赤住1〉
大間原発建設差し止め訴訟の原告代理人、森越清彦弁護士=函館市=は「行政手続き上、他の自治体が原発建設にかかわるのは難しい。2回目のヒアリングには函館市民も参加できたが、(建設の方針が)変わったわけではない」と、もどかしさを感じている。それでも「函館市を中心に30数万人が暮らす地域から30?ほどに原発を造るのは異例。原発のあり方については地域自治体全体で判断すべきだ」と、今後も付近に活断層が存在する可能性や、フルMOX運転の問題点などを訴え続けていく考えだ。
*強調(太字等)は来栖
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