違憲総選挙の結末
田中良紹の「国会探検」2012年12月18日 01:06
私が大政局の中盤と位置付けた総選挙は自公の圧勝となった。自公の議席数は7年前の郵政選挙に匹敵し、自民294、公明31と合わせて衆議院の3分の2を超えた。国民が自民党に過半数を超える議席を与えたことで消費増税、原発再稼働、憲法改正は容認された事になる。
与党は衆議院のすべての常任委員会で過半数を占め、すべての法案を可決する事が出来る。参議院で否決されても衆議院で再議決できるので国会運営はオールマイティになる。それが選挙無効になるかもしれない憲法違反の総選挙の結末である。その事の意味を国民は重くかみしめるべきである。
違憲状態を承知の上で解散に踏み切った野田総理の責任は重い。「ねじれ」によって政策の遂行が困難な時、これまでの総理は自らの首を差し出して政策を実現させた。内閣総辞職をする代わりに政策を遂行させてもらったのである。これに対して解散は、政策遂行の行き詰まりを打開するため議員全員の首を切り、国民に政策の是非を問う事である。
今回の例で言えば、民主党マニフェストに消費増税を行う前に国民の信を問うとあるので、野党は解散・総選挙を求めていた。従って解散で国民に問わなければならなかったのは何よりも消費増税である。ただ民自公3党が消費増税法案の成立に協力したことから、3党間ではそれが争点にならない。
自民党はデフレからの脱却と外交・安全保障問題を前面に打ち出して民主党との対立点を作り、公明党は民主党の政権運営の拙さを攻撃した。そのため3党間の選挙争点は消費増税より民主党政権のこれまでの実績を問うものになった。そこにTPPや原発問題が加わって本来の争点である消費増税がみえにくくなった。
民主党が大敗する事は誰もが予想していた。野田総理一人が首を差し出して切り抜けられる道を取らず、大勢の仲間を犠牲にする道を選んだことが私には理解できなかった。結果として党勢を4分の1に減らしたのだから、違憲選挙を仕組んだ野田総理には二重三重の責任がある。
一方で民自公3党体制に不満な国民は「第三極」に期待をかけた。しかし私は「第三極」が民自の2大政党に対抗する「第三極」ならば政治を大きく動かすことにはならないと考えていた。民自公3党はこれからしばらく社会保障と消費税の問題で一体とならざるを得ない。従って「第三極」が政治の軸になるためには民自公に匹敵する勢力を結集して対抗しなければならない。「第三極」のままでは公明党のような補完勢力になるだけだ。
「第三極」は総結集を図り「第二極」になるべきだと思っていたが、大阪市の橋下徹市長が石原慎太郎氏と組み、その石原氏が総理を目指さないと言った事で「第二極」の夢は消えた。「第三極」から総理を出すためには小沢氏らも含めて総結集を図らなければならなかったからである。「日本維新の会」が自民党の補完勢力になるしかない事が分かったところで自公圧勝は見えていた。
さて問題なのは選挙直前に結成された「日本未来の党」である。公示前の62議席を9議席に減らした。民主党が4分の1ならこちらは7分の1の激減である。この選挙に5年前の参議院選挙で安倍自民党を大敗させ、3年前の総選挙で政権交代を成し遂げた小沢一郎氏の片鱗が全く感じられない。
想定外の解散と準備不足のせいかもしれないが、それにしても小沢氏の姿がこれほど見えない選挙も珍しい。11月12日に東京高裁で無罪判決を受け、これからいよいよ表舞台に出てくるのかと思ったら全く逆になった。意識的に表に出ないようにしているように見える。何があるのだろうか。
そもそも小沢氏は「寄らば大樹の陰」というタイプではない。93年に自民党を離党して36人で新生党を結成し、97年に新進党が分裂した後には衆議院42、参議院12名で自由党を結成した。いずれも小政党ではあるがしかし政局を動かす力は持っていた。そして本人が先頭に立った自由党時代の選挙では比例代表で毎回10%程度の得票率を得ていた。2000年の総選挙では660万票を獲得している。
それが今回の選挙で「日本未来の党」が比例で得た得票率は5.7%、340万票に過ぎない。また原発問題を争点にしようとしたが、国民の関心は景気や経済対策にあり、原発は大きな争点にならなかった。最も関心が高いはずの東北でさえあまり票を得られず、「小沢王国」と呼ばれた岩手県も本人だけの当選である。
選挙戦略に強いはずの小沢氏が「崖っぷち」に立たされていると見えるのである。メディアは毎度おなじみで「小沢神話は終わった」と繰り返すだろう。しかし現下の政局はこれで終わったわけではない。来年夏の参議院選挙をにらんでこれからが大政局の始まりである。
安倍氏のインフレ政策は円安、株高を招くが、同時に国民生活は物価高の直撃を受ける。そこに消費増税が加わればどうなるか。小泉政権の時と同じように国民は悲鳴を上げる事になるはずだ。その消費増税を国民が「リコール」できる最後のチャンスが来年夏の選挙である。
今回の1度目のチャンスを国民は「目くらまし」に遭ってふいにした。来年こそは自分の生活にとって何が争点なのかを見極めなければならない。私の言う大政局の終盤は小沢氏にとっても政治生活をかけた大勝負の時になるはずである。そうでなければこれまでの行動が意味をなさなくなる。
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〈来栖の独白2012/12/18 Tue.〉
今般、[日本未来の党]は121人を擁立し僅か9人しか当選しなかったことは、選挙から2日経った今も私には悪夢であり、心が虚ろになり、沈んでならない。こうして書いている今も・・・。小沢一郎という政治家の選挙に、こんな無残な数字は諒解できない。相応しくない。どう考えても理解できない。
私には国会解散前、『国民の生活が第一』が公認を出す頃からの懸念があった。それは、青森など原発を誘致している県の[生活]立候補者の戦い難さだった。福島原発の事故(人災)であれほどの苦難を目にしても、原発立地の住民には原発賛成者が多い。最果てに暮らす住民には、原発(交付金)か自衛隊くらいしか生活の糧がないからである。そんな地で「未来」(脱原発)を語る、演説することは、どんなにか難しかろう、と懸念した。
小沢氏はドイツに自然エネルギーの視察にも行き、嘉田氏と連携して卒原発を選挙の公約とした。脱原発は古くからの氏の理念でもあったし、毎週金曜日には官邸前で反原発のデモも行われていたから、民意もそこにあると容易に考えたのだろう。が、果たして民意はそこにあっただろうか。
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◆ 「国民の生活が第一」脱原発で厳しい立場=横山北斗・中野渡詔子・平山幸司議員/国民の多数意見 第一 2012-07-12 | 政治/検察/裁判/小沢一郎/メディア
小沢新党「脱原発」で厳しい立場…中野渡氏
2012年7月12日 読売新聞 青森
民主党を除籍(除名)された小沢一郎元代表は11日の新党「国民の生活が第一」の結党大会で、脱原発を新党の旗印にする方針を明らかにした。原発に加え核燃サイクル施設も立地する本県から新党に参加した横山北斗、中野渡詔子両衆院議員と平山幸司参院議員は難しい対応を迫られそうだ。
小沢氏は大会後の記者会見で、「高レベル廃棄物がどんどんたまるので、原発を推進するのは不可能。できるだけ早く新エネルギーへの転換をしていくのが大事」と明言。ただ、原発所在地への対策は必要とした。
最も厳しい立場となるのが、原子力施設が集中する下北半島を選挙区とする中野渡氏。この日、都内の議員会館で開いた会見で「小沢先生に直談判し、原子力を止めるのは現実的に難しいという話はした。(新党の)政策担当から、100%応えられるかは別として小沢先生も考えてくれているということだった」と苦しい胸の内を明かした。
横山氏も議員会館で会見を開き、原発がゼロとなる時期を明示して、それまでは必要な原発を維持する考えを示した。原発がなくても再生可能エネルギーを普及させることで「県経済を活性化できる」と訴えた。
平山氏は大会後、「新エネルギー政策を発信し、創造していく必要がある。『計画的脱原発依存』という考え方を進めていきたい」と小沢氏に賛同した。
新党で横山氏は政策担当、中野渡、平山両氏は広報担当となることが決まった。県連組織については党の方針が固まってから検討するという。
一方、民主党県連代表の田名部匡代衆院議員は新党結成に関し、「他の党がどうかではなく、私たちの党をしっかりまとめ上げるということだし、政策を一つ一つ実現すること以外に特にない」と記者団に話した。
(2012年7月12日 読売新聞)
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【国民の多数意見 第一】小沢新党 結成 選挙へ「反増税」「脱原発」
中日新聞 核心 2012/07/12
小沢一郎元民主党代表が、また新しい政党「国民の生活が第一」をつくった。かつては新自由主義の雄と呼ばれた小沢新代表は、今は「バラマキ」と批判されながら、民主党時代に掲げた「国民の生活が第一」を守った。ただ、視点を変えれば、その政治姿勢は一貫して有権者の多数意見を汲み上げ、選挙を有利に戦おうとしてきたともいえる。その小沢代表が新党で「脱原発」「反消費税増税」を標ぼうしたのは必然でもある。(政治部・清水俊介)
■20回
小沢代表は十一日、結党大会での七分間のあいさつで、二十回も「国民」を口にした。民主党時代に自らが仕切り、圧勝した二〇〇七年参院選、〇九年衆院選の成功体験から、有権者との近さを意識したのは明らかだ。
党の政策発表は見送ったが、小沢代表は国民に反対論が強い消費税増税と、世論が支持する脱原発に触れることも忘れなかった。
消費税増税法案の撤回を求める方針では「参院の議論次第では、どんな賛否になるかは分からない」と指摘。原発に関しては「ずっと過渡的なエネルギーだと言い続けている」と主張した。党幹部は、国民に慎重論が少なくない環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の参加にも反対を打ち出す方向で議論を進めている。
■変遷
小沢代表の政策が世間の注目を集めたのは自民党時代の一九九三年、著書「日本改造計画」を発表した時だ。
同書では、経済力に見合った国際貢献をするなど「普通の国」を説き、規制緩和や「小さな政府」を唱えた。新自由主義的な考え方は今の小沢代表とは似ても似つかないが、まだ右肩上がりの意識が残っていた日本では一定の支持層があった。消費税10%も他の大減税とセットで掲げ、ただ負担増を求めるものではなかった。
所属していた自民党竹下派が政治とカネのスキャンダルで分裂すると小沢代表は「政治改革」を訴えた。派閥の権力闘争による分裂劇だったが、選挙制度を中心とした政治改革の論争に置き換えて有権者の支持を得た。
新生党を結党し非自民連立政権を実現させたが、翌九四年に下野、消費税率を3%〜5%に引き上げる税制関連法案に反対した。次につくった新進党では十八兆円の大減税を掲げ「露骨なバラマキ」と批判された。
自由党では、与党にいる時に衆院議員定数削減を主導し「身を切る改革」を先導。民主党に合流し〇六年四月に民主党代表に就任すると、消費税率5%を維持すると訴える一方で子ども手当などの現金を給付する政策を目玉に据えた。
■生煮え
小沢代表が訴え続けた政策は、前後を比較すると整合性がとれないものが少なくない。だが大部分は、その時の重大テーマについて、国民が支持する方向を打ち出したものが多い。「選挙目当ての大衆迎合」という指摘がついて回るが、国民の関心に常に敏感だったという面もあった。
小沢代表は日頃から「消費税に賛成して選挙なんてできない。自殺行為だ」と明言。首相官邸前で毎週金曜日に行われている脱原発デモにも強い関心を寄せている。小沢代表の結党のあいさつを聞けば「反増税」「脱原発」が党政策の旗印になるのは確実だ。
ただ、消費税増税を行わずにどうやって財政を立て直すか、原発はどのような道筋でゼロを目指すのか。国民の素朴な疑問に具体的に答えられなければ、今回の新党も「選挙目当て」と受け止められかねない。それが新党に期待する国民が二割にも満たない現状につながっている。
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来夏の参議院選挙 小沢氏の政治生活をかけた大勝負 そうでなければこれまでの行動が意味をなさなくなる
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