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最大の難敵、財政難に直面する米軍/『帝国の終焉』(「スーパーパワー」でなくなった同盟国・アメリカ)

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【アメリカを読む】最大の難敵、財政難に直面する米軍
産経新聞2013.1.13 18:00
 急激な緊縮財政で景気の悪化を招きかねない「財政の崖」を一時的に回避する法案が1日、米上下両院で可決された。歳出削減の一環として盛り込まれた国防費の追加削減は少なくとも約2カ月間、先送りされることが決まり、ひとまずの安堵(あんど)感が国防関係者に広がった。それでなくとも国防総省は、今後10年で4870億ドル(約41兆6580億円)の歳出削減が義務づけられている。財政難という最大の難敵に直面する米軍は、どのような未来像を描き出し、何に立ち向かおうとしているのだろうか−。
■白紙小切手時代の終焉
 「21世紀の米軍を新しい形に変えることに目標がある」
 レオン・パネッタ国防長官(74)はワシントン市内で先月18日に行った講演で、昨年1月に発表した「アジア重視」を強調する新国防戦略を改めて解きほぐした。
 ワシントン在駐のメディアが加盟する「ナショナル・プレス・クラブ」が主催したクリスマス休暇前の講演。顔見知りも多く、リラックスした雰囲気ではあったが、パネッタ長官は発言の節々で、財政難を前に新たな安全保障の脅威に立ち向かう米国の本音をのぞかせた。
 2011年8月成立の連邦債務上限引き上げ法に基づき、国防総省は今後10年で4870億ドルの歳出削減を突きつけられている。国防総省高官も予算削減は「米軍の縮小」を意味すると断言してはばからない。米国が民主国家の旗手として「白紙の小切手を切る国防支出の時代は終わった」(パネッタ長官)。
■「非対称戦」が喫緊の課題
 支出を抑え、戦力を維持するために目指しているのが、米軍の少数精鋭化。パネッタ長官も「細身、敏捷、柔軟で、最先端の技術を駆使する統合部隊」への変貌に自信を示している。
 中でも特殊部隊と無人機の拡充は、国防総省が最重視する戦力の再配置策だ。ハイテク兵器を駆使した精鋭部隊や無人機を隠密裏に敵陣深く潜り込む戦略は、国民に厭戦(えんせん)ムードが広がる中、米軍の被害を最小限に抑え、最大限の効果を引き出せる計算もある。
 物量の投入で敵を圧倒する従来の戦略の見直しを可能にしているのは、米国に取って代わる覇権国家の浮上が、短期的には見込まれないためでもある。
 中央情報局(CIA)などの政府情報機関で構成する国家情報会議(NIC)は先月10日に発表した2030年の世界情勢を予測する報告書(GT2030)で、米国の影響力が相対的に低下し、20年代に中国が世界最大の経済大国になるとしながらも、「いかなる国も覇権国家にはならない」との予測を示した。
 新国防戦略策定で中心的な役割を担ったミシェル・フロノイ前国防次官(52)も、米国が将来、戦力の伯仲した「旧来型の敵と戦うことになるかは疑わしい」と指摘。中国が進めるミサイルや空母を使った「接近拒否・領域拒否」などの「非対称戦」が喫緊の課題となっており、米軍は「新たな作戦構想を真剣に検討する必要に迫られている」と語っている。
■日本にも負担を要求
 近未来の米国に訪れかねない最悪のシナリオについて、GT2030を執筆・監修したNICのマシュー・バロウズ顧問は「中東の紛争に対処している間にパキスタン情勢が弾け飛び、東アジアでも緊張拡大が同時並行で訪れることだ」と指摘する。
 新国防戦略は2つの大規模紛争に同時に対処する「二正面作戦」の放棄も明確にしている。財政難に直面し、戦費が賄えないのが実質的な理由だ。
 こうした状況に米国は、どう対応していくのか。パネッタ長官は「安全保障の脅威に効果的に対処する方法は、同盟国の能力構築を手助けすることだ」と“自己改革”を促している。
 アジア重視戦略も「同盟のネットワーク、安全保障のパートナーシップの近代化、新たな安保関係の発展」が核心にあると指摘しており、日本にも相応の負担を求めていく方針を明確にしている。(犬塚陽介 ワシントン支局)
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米軍、今春から訓練 支援任務主体に移行 戦闘任務はアフガン主導へ 首脳会談で合意
産経新聞013.1.12 10:12
 【ワシントン=犬塚陽介】オバマ米大統領とアフガニスタンのカルザイ大統領は11日、首脳会談終了後の記者会見で、米軍主体の国際治安支援部隊(ISAF)の主要任務を今春から、アフガン治安部隊の訓練・支援に切り替えることで合意したことを明らかにした。アフガン部隊の能力向上が順調なことから、今夏の予定だった移行を前倒しする。戦闘任務はアフガン部隊が主導し、米軍などは必要があれば共同作戦に参加するという。
 オバマ大統領は会見で、アフガンでの戦争が「責任ある終結」に向かっていると指摘。2014年末までの戦闘任務の終了とアフガン側への治安権限移譲について、「道筋は明確であり、われわれは前進している」と強調した。
 今春の主要任務の移行は約6万6千人の駐留部隊の「さらなる削減を可能にする」とも指摘。数週間のうちに米軍高官から撤退規模などに関する助言を受け、現地の治安情勢を見極めながら、今後数カ月で撤退規模を確定させるという。
 首脳会談では14年以降の米軍の駐留態勢も協議。オバマ大統領は米軍の駐留が、アフガン治安部隊の訓練・支援と、国際テロ組織アルカーイダを標的とする対テロ作戦に限定されるとしたが、具体的な駐留規模には言及しなかった。
 また、米兵に訴追免除特権が与えられなければ、「米軍の駐留は不可能だ」と強調。カルザイ大統領も米国側の見解に理解を示し、アフガンの主権を侵さない形での合意を模索する考えを示した。
 両首脳はイスラム原理主義勢力タリバンとの和解を促進するため、カタールの首都ドーハにタリバンが開設する事務所を承認し、カルザイ政権が交渉を始めることでも合意した。
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『帝国の終焉』(「スーパーパワー」でなくなった同盟国・アメリカ)日高義樹著 2012年2月13日第1版第1刷発行 PHP研究所

     

第1章 アメリカのアジア極東戦略が破綻した
p12〜
第1部 原子力空母「ジョージ・ワシントン」が横須賀からいなくなる
 2008年秋、アメリカの原子力空母「ジョージ・ワシントン」が第7艦隊の主力艦艇として母港横須賀にやってくることになった。
p13〜
 「ジョージ・ワシントン」はニミッツ型原子力空母の1隻として1991年に建造された。アメリカの原子力艦艇は普通50年で引退するが、半分の25年目に原子燃料棒を新しいものに取り替えなくてはならない。2016年が「ジョージ・ワシントン」にとってその25年目になるが、2011年につくられたアメリカ国防費の5年計画によると、2016年の予算には「ジョージ・ワシントン」の燃料棒を入れ替える費用が含まれていない。
 「燃料棒を入れ替えなければ、当然のことながらエネルギー源がなくなり、動かなくなってしまう。退役して、これまでの古い空母と同じように、埠頭に係留されることになる」
 アメリカ海軍当局はこう発表しているが、3年前にアメリカの新しいアジア戦略の中核として横須賀を母港とすることになった「ジョージ・ワシントン」は、予算削減のため艦暦半分で退役させられてしまうのである。
p15〜
 アメリカ海軍当局によると、海軍で最も古い空母「エンタープライズ」が、予定を3年ほど早めて2012年には退役することになっている。2015年の実戦配備をめざして建造中の「ジェラルド・フォード」は工事が遅れ気味だといわれる「エンタープライズ」と「ジョージ・ワシントン」が退役すれば、空母は8隻になってしまう。数の上では横須賀に常時、空母を配備しておくことが不可能になる。

第2章 アメリカは中東から追い出される
p93〜
第5部 どの国も民主主義になるわけではない
 人類の歴史を見れば明らかなように、確かに長い目で見れば、野蛮な時代から封建主義の時代に代わり、そして絶対主義の時代を経過し、民主主義が開花した。ヨーロッパの多くの国々はこういった過程を経て豊かになり、人々の暮らしが楽になるとともに、民主主義、人道主義へ移行していった。鍵になったのは「経済が良くなり、暮らしが楽になる」ということである。
 中国の場合は、明らかにヨーロッパの国々とは異なっている。そして日本とも全く違っている。中国は二十数年にわたって経済を拡大し続け、国家として見れば豊かになった。だが、すでに見てきたように貧富の差が激しくなるばかりで、国民は幸福にはなっていない。こう決めつけてしまうと親中国派の人々から指弾を受けるかもしれないが、中国国内の政治的な状況を見ると、依然として非人道的な政治が続いている。民主主義は全く育っていない。
 中国はもともと共産主義的資本主義と称して、共産党が資本主義国家と同じようなビジネスを行なってきた。中国という国家が資本主義のシステムを使ってビジネスを行ない、国営や公営の企業が世界中から稼ぎまくった。この結果、中国国家は経済的に繁栄したものの、中国人一人ひとりは幸福になっているようには見えない。
p95〜
 「中国人は食べられさえすれば文句は言わない」
 中国の友人がよくこう言うが、中国人はそれ以上のことを望まないのかもしれない。つまり中国の人は「食べられる」以上のこと、つまり形而上学的な問題には関心がないのかもしれない。
 「民主主義、人道主義、国際主義といったものは我々には関係ない」
 こう言った中国の知人がいるが、中国だけではなく、ロシアの現状を見ても、封建主義から民主主義に至る政治的な変化を人類の向上とは考えない人々が大勢いるようだ。
p97〜
 第2次大戦以来、人道主義と民主主義、そして平和主義を主張してきたアメリカのやり方が、アメリカ主義でありアメリカの勝手主義であると非難された。「アメリカ嫌い」という言葉が国際的に定着したのは、その結果であった。そうしたアメリカのやり方を、1つの考え方であり、1つの価値観に基づくものであると切り捨てているのが、ロシアの指導者であり、中国の指導者である。
p98〜
 ヒットラーはドイツの誇りを掲げ、ユダヤ人を圧迫するとともに、反政府勢力を弾圧して経済の拡大を図った。中国もその通りのことをやっている。しかも、冷戦に敗れたロシアのプーチン前大統領が主張しているように、価値観の違った、そしてやり方の違った経済の競争が可能であるとうそぶいている。
 だが彼らの言う価値観の相違というのは、民主主義を無視し、人道主義を拒否し、国際主義に反対することである。中国やロシアについては、冷戦に敗れた国や第2次大戦に脇役しか与えられなかった国が自分たちのやり方で歴史の勝利者になろうとしているように見える。
p99〜
 共産主義は冷戦の結果、民主主義とそれに伴う人道主義に敗北したはずである。ところが中国は、冷戦と同じ体制を維持しながら、経済の戦争には勝てるとばかり傲慢になっている。
 ヨーロッパの人々は中国の台頭をヒットラーの台頭になぞらえている。これに対して日本のジャーナリストや学者たちは驚きを隠さないようである。彼らは、ユダヤ人を抹殺しようとしたヒットラーと中国は異なっていると考えている。だが、共産党が絶対で、反対の意見を持つ者は犯罪者として牢獄に送り、言論の自由を認めていないという点では、中国はヒットラーと同じである。
 中国は明らかに人道主義を否定しているだけでなく、民主主義を理解しようとしていない。国際主義も分かろうとしない。
p100〜
 ヨーロッパの人々は、歴史的な経験から中国が危険であるとして、ヒットラーと同じであると指摘しているが、歴史にナイーブな日本の人々は全くそのことに気がついていない。
 ヨーロッパの人々はヒットラーと戦い勝利を得たが、そのためにアメリカと同盟し手を携えて戦った。中国がヒットラーだという考えに驚くべきではない。新しいヒットラーである中国の共産主義の専制体制に対して世界の人々は、手を携えて戦わなくてはならなくなっている。「アメリカ嫌い」という言葉で中国の脅威から目を逸らす時代は終わったのである。

第4章 日本は核抑止力を持つべきか
p146〜
第1部 日本列島周辺が世界でいま最も危険である
 ワシントンの軍事消息筋によると、2012年から13年にかけて起きると懸念される最も危険な戦いは、中国による台湾攻撃である。(略)
 中国軍はここ数年、莫大な費用を注ぎ込んで近代化に力を入れ、2011年にはJ20と呼ばれるステルス戦闘機の開発に成功しただけでなく、アメリカの多くの専門家の予想に反して、ソビエトから買い受けた空母の実戦航海も開始している。台湾海峡を越えて攻撃できるミサイルを大量に配備し、在日米軍基地を攻撃できるミサイルや、アメリカ本土を攻撃できる長距離ミサイルも実戦配備を終えている。
 中国軍は2010年に第11次5か年計画を完了して、実戦態勢を完全に配備し終わっている。(略)
 中国が大方の予想を裏切って、2011年、早々と空母の実戦航海を始めたのは、アメリカ海軍に対する対抗措置を早期につくりあげるためであるといわれるが、これと並行して、小型艦艇にミサイルを搭載してアメリカ艦艇を攻撃する態勢を急速に充実させている。アメリカの艦艇を近寄らせず、中国の周辺を安全にしておく態勢とミサイル態勢を完備した以上、中国は必要とあらば、いつでも台湾を軍事的に占領できると考えている。
 中国政府はむろん、その考えをオクビにも出していない。アメリカ政府の首脳も、中国が台湾周辺で危険な行動を始めれば、世界中から非難され資源の輸入に支障が出ると見ている。
p148〜
 したがって、中国は台湾を攻撃することはないと思っている。だが考えてみると必要があるのは、これから中国の指導者が代わり、国内の政治情勢も大きく変化すると予想されることである。
 「中国が軍事的な圧力を強化し、台湾を戦わずして占領するか、あるいは短い時間内で軍事的に制圧すれば、日本はもとより東南アジア諸国、そしてアメリカも中国の軍事力の前にひれ伏して、南シナ海も、東シナ海、尖閣諸島も中国の影響下におさまる」
 中国がこう考えてもおかしくはない。中国側が最も懸念しているのは、戦闘が長引き、西太平洋から極東にかけての海上輸送に支障が出た場合、中国経済に重大な危険が及ぶだけでなく、世界中から批判されて輸出に大きな支障が出ることである。中国の台湾制圧が成功するかどうかは、短期間にやれるかどうかにかかっているが、中国はいま述べた第1次軍事力整備計画の完成によって自信を強めているはずだ。
 中国が、南シナ海から東シナ海、そして日本周辺での軍事力を強化していることは、冷戦が終わった現在、世界で最も危険な地域が日本周辺であることをはっきりと示している。中国が大量に配備しているクルージングミサイルや中距離弾道ミサイルは、日本を簡単に攻撃できる。ミサイルの多くは、在日米軍基地を標的にしている。
p149〜
 (略)
 日本では、アメリカの軍事力が中国を封じ込めているので日本は安全だと信じられてきたが、情勢は逆転しつつある。中国国内の政治が不安定になれば、中国の新しい戦略が発動されて、日本を脅かす危険は十分にある。しかも中国だけでなく、北朝鮮も軍事力を強化している。ワシントンの軍事消息筋は、北朝鮮がすでに数十発の核弾頭を保有し、地対地ミサイルや小型艦艇に装備したミサイルで日本を攻撃する能力を持ったと見ている。
p150〜
 (略)
  北朝鮮はすでに述べたように、世界各国にノドン、テポドンといったミサイルを売り、核爆弾の材料である濃縮ウランの製造にも協力をしている。北朝鮮は、軍事技術の輸出国として莫大な資金を稼ぎ始めているが、その北朝鮮の仮想敵国はまぎれもなく日本である。北朝鮮は中国の政治的な支援を背景に、日本を攻撃できる能力を着実に高めている。
 中国と北朝鮮だけではない。いったんは崩壊したと見られるロシアが再びプーチン大統領のもとで軍事力を増強し、極東の軍事体制を強化している。
p151〜
 ソビエトは共和国を手放し、ロシアと名を変えたが、冷戦が終わって資源争奪戦の時代に入るや、国内に大量に保有している石油や地下資源を売って経済力を手にし、それによって軍事力を強化し始めている。(略)
 ロシアは現在、石油や地下資源で稼いだ資金をもとに、新しい潜水艦やミサイルの開発に力を入れ、ヨーロッパではNATO軍に対抗する姿勢を取り始めている。2009年と10年には、日本海で新しい潜水艦の試験航海を行ったのをはじめ、偵察機や爆撃機を日本周辺に飛ばしている。
 ロシアもまた、極東における新たな軍事的脅威になりつつある。ロシアの究極の敵は国境をはさんだ中国といわれているが、海軍力では中国に勝るロシアが、日本列島を越えて中国と海軍力で対立を深めていくのは当然のことと思われる。
p152〜
 中国はアメリカに対抗するため、大陸間弾道弾や核兵器の開発に力を入れている。すでに55発から65発の大陸間弾道弾による態勢を確立している。この大陸間弾道弾のなかには、固形燃料で地上での移動が可能な長距離ミサイルや、液体燃料を使う中距離ミサイルなどがある。
 中国は潜水艦から発射するミサイルの開発も終わっている。これは中国の核戦略の対象がアメリカであることを示しているが、日本を攻撃できる射程3,000キロのミサイルの開発にも力を入れている。日本が中国の核ミサイルの照準になっていることに、十分注意する必要がある。
 中国がアメリカに対抗できる核戦略を持ち、アメリカの核抑止力が日本を守るために発動されるかどうか分からなくなっている以上、日本も核兵器を持つ必要がある。「日本が平和主義でいれば核の恫喝を受けない」という考えは、世界の現実を知らない者の世迷い言に過ぎない。
 すでに述べたように、中国は、民主主義や自由主義、国際主義といった西欧の考え方を受け入れることを拒み、独自の論理とアメリカに対抗する軍事力によって世界を相手にしようとしている。第2次大戦以降続いてきた平和主義の構想がいまや役に立たないことは明らかである。日本を取り巻く情勢が世界で最も危険で過酷なものになっているのは、中国が全く新しい論理と軍事力に基づく体制をつくって、世界の秩序を変えようとしているからである。
p153〜
第2部 アメリカはなぜ日本を守ってきたか
 外務省をはじめ日本の外交関係者や政治家たちは、冷戦が終わったあともこれまで通り「古いアメリカ」としか付き合っていない。アメリカが大きく変わり、日本に対する安全保障政策も変化したために、アメリカの旧日本担当者と話しても意味がないことに気づいていないようである。
p156〜
 話を元に戻すと、ワシントンの情勢が大きく変わり、アメリカの政治が中国やヨーロッパを向いている時に、日本の指導者や専門家は依然として、昔から日本を取り巻いてきたワシントンの二流どころの下級官僚に取り込まれている。
 2011年の秋、日本の若手政治家たちがワシントンへやってきた時、私がメンバーになっているケンウッドゴルフ場でその一人と顔を合わせた。若い政治家は私に挨拶すると「マイケル・グリーンさんに会いに来ました」と言った。マイケル・グリーン氏は、民主党系の若い官僚としてホワイトハウスに入り、ブッシュ政権では日本専門家がいなかったために、民主党員でありながら、そのままホワイトハウスで日本問題を担当した人物だが、わざわざ日本から会いに来るほどワシントンで影響力を持っているわけではない。
 コンドリーザ・ライス前国務長官が、国家安全保障担当補佐官としてホワイトハウスで活躍していた頃、グリーン氏が日本問題を取り扱っていたのは事実である。だがライス補佐官はロシア専門家で日本にほとんど関心がなく、グリーン氏は会議の運営を手伝う端役の仕事しか与えられなかった。それでも日本から見ると、ホワイトハウスにおける最高の日本担当者である。ブッシュ政権下では、このほかにも数人の日本専門家がホワイトハウスにいたが、日本の政治家たちが考えるほどの権力も立場も与えられていたわけではない。こうしたギャップがいまも尾を引いている。(略)
 オバマ政権下のホワイトハウスには、日本専門家はいない。ドニロン国家安全保障担当補佐官の下で中国系のアメリカ人が中国問題と一緒に日本問題を取り扱っているが、彼らにとってはむろん中国問題が最も重要で、日本はそのついでに過ぎない。日本の若い政治家がワシントンへやってきて、日本担当者に会おうと考えても、グリーン氏レベルの人物にしかたどり着けないのは当然である。
 この問題を私が取り上げたのは、グリーン氏クラスの日本専門家は、評論家としては日本問題について意見を持っているとしても、オバマ政権の対日政策とは全く関わりがないことをはっきりさせるためである。現在の緊迫した東シナ海の情勢のもとで、アメリカがどのような戦略を立て、日本との軍事関係をどう構築しようとしているか、彼らには知るすべがない。
p161〜
第3部 誰も日本のことなど気にしない
 アメリカは莫大な財政赤字を抱えて、日本を守ることができなくなった。もちろんアメリカ政府が正式にそう発言しているわけではない。だが2009年にオバマ政権が成立し、アメリカの財政がうまく立て直せないと分かり始めた頃から、アメリカの指導者が私に「日本が核兵器を持っても構わない」と言い始めた。
 これまで「日本に核兵器を持たせない」というのが、アメリカの日米安全保障政策の基本だった。「日本はアメリカが守る。だから核兵器を持つ必要がない」とアメリカは言い続けてきた。だがアメリカは日本を守ることができなくなり、守るつもりもなくなった。
p162〜
 2010年、私の新年のテレビ番組のために行った恒例のインタビューでキッシンジャー博士はこう言った。
「日本のような経済的大国が核兵器を持たないのは異例なことだ。歴史的に見れば経済大国は自らを自らの力で守る。日本が核兵器を持っても決しておかしくはない」
p166〜
 日本では左翼の学者や政治家たちが、核をことさら特別なものとして扱い、核兵器を投下された場所で祈ることが戦争をなくすことにつながる、と主張している。私は、こういった考え方を持つ進歩派の政治家の発言に驚いたことがある。
 福島原発の事故の担当になった民主党政権の若い政治家が、「これからどのような対策をとるのか」という私の質問に、「原子力は神の火で、軽々しくは取り扱えない」と答えた。「神の火」とは恐れ入った表現である。核エネルギーは石油や石炭と同じエネルギーの1つである。核爆弾も破壊兵器の1つに過ぎない。
 日本に関するかぎり、核爆弾を特殊扱いする政治的な狙いは的を射た。日本人の多くが、核を「神の火」であると恐れおののき、手を触れてはならないものと思い込み、決して核兵器を持ってはならないという考えにとりつかれている。この状況が続く限り、日本人は核を持たないであろうとアメリカの政治家は考え、日本の指導者に圧力を加え続けてきた。だがその状況は大きく変わり、シュレジンジャー博士のように「持つも持たないも日本の勝手」ということになりつつある。
p168〜
第4部 日本はどこまで軍事力を増強すべきか
 日本はいま、歴史的な危機に直面している。ごく近くの隣国である中国は、核兵器を中心に強大な軍事体制をつくりあげ、西欧とは違う独自の倫理に基づく国家体制をつくりあげ、世界に広げようとしている。すでに述べたように、中国は人類の進歩が封建主義や専制主義から民主主義へ向かうという流れを信用していない。中央集権的な共産党一党独裁体制を最上とする国家を維持しながら軍事力を増強している。そのような国の隣に位置している日本が、このまま安全でいられるはずがない。
 日本はいまや、同じ民主主義と人道主義、国際主義に基づく資本主義体制を持つアメリカの支援をこれまでのようには、あてにできなくなっている。アメリカは、歴史的な額の財政赤字を抱えて混乱しているだけでなく、アメリカの外のことに全く関心のない大統領が政権に就いている。こうした危機のもとで、日本は第2次大戦に敗れて以来、初めて自らの力で自らを守り、自らの利益を擁護しなければならなくなった。
 第2次大戦が終わって以来、日本人が信奉してきた平和主義は、確かに人類の歴史上に存在する理念である。だが、これほど実現の難しい理念もない。
p170〜
 国家という異質なもの同士が混在する国際社会には、絶対的な管理システムがない。対立は避けられないのである。人間の習性として、争いを避けることはきわめて難しい。大げさに言えば、人類は発生した時から戦っている。突然変異でもないかぎり、その習性はなくならない。
 国連をはじめとする国際機関は、世界平和という理想を掲げているものの、強制力はない。理想と現実の世界のあいだには深く大きなギャップがあることは、あらゆる人が知っていることだ。
 日本はこれまで、アメリカの核の傘のもとに通常兵力を整備することによって安全保障体制を確保していたが、その体制は不安定になりつつある。今後は、普遍的な原則に基づいた軍事力を整備していかなければならない。普遍的な原則というのは、どのような軍事力をどう展開するかということである。(略)
p171〜
 日本は、「自分の利益を守るために、戦わねばならなくなった時にどのような備えをするか」ということにも、「その戦争に勝つためには、どのような兵器がどれだけ必要か」ということにも無縁なまま、半世紀以上を過ごしてきた。アメリカが日本の後ろ盾となって、日本にいるかぎり、日本に対する戦争はアメリカに対する戦争になる。そのような無謀な国はない。したがって戦争を考える必要はなかった。このため日本はいつの間にか、外交や国連やその他の国際機関を通じて交渉することだけが国の利益を守る行為だと思うようになった。
 よく考えてみるまでもなく、アメリカの日本占領はせいぜい数十年である。人類が戦いをくり返してきた数千年の歴史を見れば、瞬きするほどの時間にすぎない。日本人が戦争を考えずに暮らしてこられた年月は、ごく短かったのである。日本人はいま歴史の現実に直面させられている。自らの利益を守るためには戦わねばならない事態が起きることを自覚しなければならなくなっている。
 国家間で対立が起きた時、同じ主義に基づく体制同士であれば、まず外交上の折衝が行われる。駆け引きを行うこともできる。だがいまの国際社会の現状のもとでは、それだけで解決がつかないことのほうが多い。尖閣諸島問題ひとつをとってみても明らかなように、外交交渉では到底カタがつかない。
p172〜
 ハドソン研究所のオドム中将がいつも私に言っていたように、「常にどのような戦いをするかを問い、その戦いに勝つ兵器の配備を考える」ことが基本である。これまでは、アメリカの軍事力が日本を守っていたので、日本の軍事力は、アメリカの沿岸警備隊程度のものでよかった。日本国防論は空想的なもので済んできたのである。
p173〜
 ヨーロッパで言えば、領土の境界線は地上の一線によって仕切られている。領土を守ることはすなわち国土を守ることだ。そのため軍隊が境界線を守り、領土を防衛している。だが海に囲まれた日本の境界線は海である。当然のことながら日本は、国際的に領海と認められている海域を全て日本の海上兵力で厳しく監視し、守らなければならない。尖閣諸島に対する中国の無謀な行動に対して菅内閣は、自ら国際法の原則を破るような行動をとり、国家についての認識が全くないことを暴露してしまった。
 日本は海上艦艇を増強し、常に領海を監視し防衛する体制を24時間とる必要がある。(略)竹島のケースなどは明らかに日本政府の国際上の義務違反である。南西諸島に陸上自衛隊が常駐態勢を取り始めたが、当然のこととはいえ、限られた予算の中で国際的な慣例と法令を守ろうとする姿勢を明らかにしたと、世界の軍事専門家から称賛されている。
 冷戦が終わり21世紀に入ってから、世界的に海域や領土をめぐる紛争が増えている。北極ではスウェーデンや、ノルウェーといった国が軍事力を増強し、協力態勢を強化し、紛争の排除に全力を挙げている。
p174〜
 日本の陸上自衛隊の南西諸島駐留も、国際的な動きの1つであると考えられているが、さらに必要なのは、そういった最前線との通信体制や補給体制を確立することである。
 北朝鮮による日本人拉致事件が明るみに出た時、世界の国々は北朝鮮を非難し、拉致された人々に同情したが、日本という国には同情はしなかった。領土と国民の安全を維持できない日本は、国家の義務を果たしていないとみなされた。北朝鮮の秘密工作員がやすやすと入り込み、国民を拉致していったのを見過ごした日本は、まともな国家ではないと思われても当然だった。

第5章 オバマはアメリカをイギリスにする
第2部 アメリカは財政赤字で分裂する
p206〜
 もともとアメリカはキリスト教の国である。だが自由、平等、民主を国是にする国でもある。したがってキリスト教に対立的な回教も、平等の考え方から受け入れている。だがそれにしても、回教徒を軍人に採用して、中東で戦わせたのは、思慮に欠けるやり方だった。第2次世界大戦でアメリカ政府は、日系アメリカ人兵士を太平洋ではなく、ヨーロッパに送ってドイツと戦わせた。
p207〜
 日本にも、アメリカ的な自由、平等といった考え方に共感する人は大勢いる。だがその共感が世界国家主義につながっているケースが多い。国境がなくなり世界が一つになれば、人間はもっと幸福になるという考え方である。だがすでに述べたように、人類のDNAが突然変異を起こさないかぎり、世界国家が実現することはない。
 人と人との対立は人間の自然のあり方なのである。人は己の利益を守ろうとして対立する。思想や宗教で対立する。ハッサム中佐は、アメリカという国に、同じ回教徒である人々に銃を向けろと命令されたことに反発し、悩んだ末に回教徒ではない人々に銃を向け殺傷した。
 アメリカだけではなく、世界のあらゆる場所で人種や宗教からくる対立が起きている。つまりアメリカだけの問題ではない。人間そのものの問題なのである。簡単に言ってしまえば、理念や考え方、宗教が異なる人々が、一緒の行動をとることは非常に難しいということである。だからといって一人ひとりが勝手な行動をとり続ければ、アナーキー、無政府状態の混乱に陥る。人を国に置き換えれば、世界国家というものがいかに現実離れした考えかがよく分かる。
p208〜
 国が真二つに分裂して混乱に陥っているアメリカは、自由、平等という建国の父たちの理想を受け継いでいくことができるのか。(略)
 情報化と国際化が拡大する新しい状況の中で、アメリカは235年前に歴史が始まって以来の危機に陥っている。このアメリカの危機は、ある意味では人類全体の危機でもある。
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