【激突討論!】「国防軍」は日米同盟を変えるのか(1) 論者:孫崎享/潮匡人/富坂聰 司会:飯田泰之
VOICE 2013年2月号 2013年1月22日(火)配信
新政権に求められる安全保障政策について、話題の論客が、駒澤大学准教授・飯田泰之氏の司会の下、徹底討論を繰り広げました。
参加していただいたのは、作家で元防衛大学校教授の孫崎享氏、評論家で拓殖大学客員教授の潮匡人氏、ジャーナリストの富坂聰氏です。
■「領空侵犯」が意味するもの
飯田 昨年12月16日に行なわれた衆議院選挙で、自民党が政権を奪還しました。選挙戦がまさに佳境に入った12月13日、中国国家海洋局所属の航空機が尖閣諸島領空を侵犯しましたね。中国による領空侵犯は初めてで、日本中に衝撃が走った。国防と外交が新政権の大きな課題となるわけですが、まずはこの事件をどのようにご覧になりましたか。
潮 これまで中国は「漁政」「海監」といった公船をたびたび日本の接続海域や領海に侵入させてきました。しかし海の国際法では、「無害通航(他国に危害を与えない通航)」であれば他国の領海を通ることは広く認められています。一方、空の国際法では、領空侵犯を行なった軍用機が警告をしても出て行かない場合は、撃墜してもよいことになっている。つまり中国は、これまでの領海侵犯とは次元の違う行動に打って出たといえます。
富坂 中国が、尖閣諸島に対する行動のステージを一段階上げてきたということでしょう。12月半ばに行なわれた、共産党の外交部を中心とする「外交情勢分析会議(務虚会)」では、「安倍氏の選挙戦での発言をみると、日本は強硬姿勢を強めるのではないか」「それなら、わが国も日本に対する圧力を強めなくてはならない」という結論が出されました。その最初のメッセージが今回の領空侵犯であり、中国の圧力はこれからますます強まっていくと思います。
潮 そうなると日本も国内法に基づき、航空自衛隊が対処せざるをえません。これも領海侵犯の管轄が海上保安庁であることと比較すると、レベルが一ランク上がった話になります。
飯田 一方、今回の領空侵犯について、中国は「自国の領土である尖閣諸島の上空を通過した巡視行動だ」と主張していますね。
孫崎 中国が領有権を主張する背景には、尖閣諸島が日本領とされる根拠が曖昧だ、という事実があるんです。たとえば戦後の日本の領土を定めたポツダム宣言をみると、第8項に「日本国ノ主権ハ本州、北海道、九州、四国及吾等ノ決定スル諸小島ニ局限セラルベシ」とある。つまり、どの島々が日本の領土であるかは連合国が決定することであり、尖閣諸島を「日本固有の領土」であるとは必ずしもいえないということです。
潮 しかし「尖閣諸島は日本固有の領土である」ということは、日本国政府の一貫した主張であり、政権が交代してもこの点は変わりませんでした。もし孫崎さんのような意見が公のものになると、それは国論が分裂することを意味します。近著『「反米論」は百害あって一利なし』(PHP研究所)でも孫崎さんの議論を批判しましたが、結果的にこうした態度は尖閣諸島の領有権を主張する中国やそのほかの国を利することになる。
孫崎 そうかもしれません。ただ、拙著のタイトルではありますが、実際にはさらに「不愉快な現実」があるんです。先ほど言及した第8項には「カイロ宣言ノ条項ハ履行セラルベク」という文言があります。「カイロ宣言」は1943年にチャーチル(イギリス)、ルーズベルト(アメリカ)、蒋介石(中華民国)によって出された宣言で、第一次世界大戦で日本が獲得した満州、台湾、澎湖諸島などの領土を返還させることを盛り込んでいます。
ここで「尖閣諸島がいつから日本領なのか」ということが問題になってきます。日本は「どの国にも属していない土地(無主の地)は最初に領有を宣言した国の領土になる」という原則に基づき、「1985年、尖閣諸島が無主の地であることを確認し、領有を宣言した」としている。ただ、この原則は植民地時代の国際法であって、1945年以降はほとんど使われていない。だから、日本が根拠としている法理に少なからず疑問があることは考えなければなりません。
富坂 ただ、カイロ宣言もポツダム宣言も中国国民党が参加したものです。いまの中国共産党は国民党政府を認めていないので、当時の約束はすべてなかったことになる。いまの中国政府が認めていないものを論拠にしても意味がない。事実、日本は共産党の中国と国交正常化をし直している。また、日本が尖閣諸島の領有を宣言した当時には、大陸中国が台湾のことを「化外の地」と呼んだように、「島々は中華文明の外」という感覚だった。国家の概念がそもそも違うのだから、尖閣が無主の地だったか否かという話はそこまで重要ではないでしょう。
実効支配をいかに続けるか
潮 さらにいえば、日本がアメリカの施政下から独立して以降、半世紀以上にわたって尖閣諸島の実効支配を続けているという事実がある。まずはこれに立脚すべきでしょう。
孫崎 私の意見はしばしば誤解されますが、実効支配に関してはみなさんと同じことがいいたいのです。1972年の日中国交正常化の際、日本の田中角栄首相と中国の周恩来首相のあいだで「尖閣の問題は棚上げする」という取り決めがなされ、78年にはトウ小平副首相がそれを踏襲する姿勢を示しました。この棚上げ論というのは、じつは日本にとってきわめて有利なことなんです。尖閣を実効支配しているのは日本だから、中国は間接的に日本の領有権を認めていることになる。
もし中国がこれをひっくり返そうとしたら、軍事力を発動させるしかありません。この状況が日本にとって好ましくないのはいうまでもない。だからちゃぶ台返しを起こさせないために、実効支配をいかに長く続けるかというところに知恵を絞るべきでしょう。
富坂 実効支配を続けていくためには、その海域で経済活動を行なうことも重要になります。ただ、日本の漁船が尖閣近海に漁に出ても、燃油の費用や人件費を考えると、採算が合わない。一方で人件費の安い中国の漁船は採算が合うため、現実には、あの海域が中国の船だらけになってしまっている。この点についても日本は乗り越えていかなくてはなりません。
飯田 昨年11月に発足した中国の習近平政権は、日本に対して比較的、強硬な態度に出てくるのではないかといわれています。両国の緊張関係が高まっても、もう一度尖閣問題を棚上げするということは可能なのでしょうか。
孫崎 いきなり棚上げをしろといっても、いまの雰囲気では中国は首を縦に振らないと思います。ただ、棚上げ論を唱えたのは周恩来、?小平というすぐれた英知をもった政治家です。だから「いまこそ周首相や?副首相に学ぶべきだ」という言い方をすれば、中国人も全面的には否定できないはずです。
富坂 仮に日中両国がガチンコでぶつかったら、日本以上に中国経済のほうがより大きな痛手を負います。中長期的にみたら、中国側にとって日本と対立するメリットは何もないんです。日中激突のシミュレーションを行なった『日中もし戦わば』(共著/文春新書)でも述べましたが、中国は日本との関係改善を、本心では望んでいることは間違いないでしょう。
ただし、中国共産党にとっては国民によって権力から引きずり降ろされるリスクも依然として高い。それを考えると、日本に対して譲歩をみせるわけにはいかないのです。昨年10月には反日デモが激化しましたが、当局が「日中関係が損なわれれば、中国が経済的に損をする」とデモ隊に訴えようとしても、そもそも彼らは日中貿易の受益者じゃないため、聞く耳をもたない。冷静に考えれば関係改善がベストであるにもかかわらず、冷静に考えられない環境が生まれているのです。逆に日本にとっても彼らを刺激するやり方は、やはり得策ではありません。
潮 私は昨年11月に、東海大学の山田吉彦教授と『尖閣激突』(扶桑社)という共著を出しました。山田先生が今回、調査目的で尖閣に上陸しようとしたところ、政府から許可が下りなかったそうです。もし今後、自然調査のための上陸に中国が反発するとしても、そのような圧力に日本は屈するべきではありません。日本の毅然とした態度が実効支配を着実に一歩ずつ固めていくことにつながるわけですから。
【激突討論!】「国防軍」は日米同盟を変えるのか(2)
■有事発生、どう出るアメリカ
飯田 尖閣諸島付近の海底に原油や天然ガス資源が存在する可能性も指摘されています。もしそれがほんとうになれば、中国船がいま以上に大挙して押し寄せることも起こりうる。そのような状況で有事が発生した場合、日本の安全保障の軸である日米安保は有効に機能するのか。アメリカは日本をほんとうに守ってくれるのかという不安の声があります。
潮 私は、その問いの立て方自体が少し危険なのではないかと思います。この問題は、アメリカの対日防衛義務を定めた日米安全保障条約第5条の解釈が焦点になります。
ポイントは2つ。1つは、「尖閣諸島が日本の施政下に含まれているか」ということ。これについていえば、2012年8月15日に香港の活動家が不法上陸し、海上保安庁が逮捕したという事件がありましたが、日本の法律を適用して対処したので、日本の施政下にあることに疑う余地はありません。アメリカ政府にも疑義を挟む人間は一人もいないと思います。
富坂 この点に関して議論の余地はないということですね。
潮 ええ。そしてもう1つのポイントは、「その領域に対する事象が、国際法上の武力攻撃というものに相当するのかどうか」ということ。中国の行動が武力攻撃でないと判断されれば、国連憲章の自衛権発動の根拠も失いますし、自衛隊法をはじめとする日本の法令上の武力攻撃事態の認定にも結びつきません。自衛隊も出動できないケースでは、アメリカが出てこないのも当たり前ということになります。
飯田 現在、尖閣には構造物がなく、常駐している軍隊や警察もいないので、たとえば中国の漁船が大挙してやってきて、そのまま居ついてしまったら、これは「武力行使」としては認められないですね。
潮 現に、日本の接続水域に1カ月以上にわたって毎日中国の船が通航し、時折、領海にまで入ってくるという状態が続いていました。そして、さらに領空侵犯まで行なったということは、中国側が着実に一歩一歩、尖閣獲得への駒を進めているということだと思います。日本としては、侵犯が繰り返されないよう、何らかの措置をとる必要があるでしょう。
孫崎 アメリカの出方に関しては、「条約上、アメリカは日本を守る義務があるのか」ということ、「それがアメリカの国益に資するか」という2つのポイントを考えるべきだと思います。まずは後者についていえば、いまのアメリカにとって日米同盟は非常に重要な意味をもつ。尖閣問題に対して何も行動をとらなければ、日米同盟を崩すことになります。そのためアメリカは国益を考えて「出る」という判断を下すでしょう。
問題は前者のほうです。じつは安保条約には、義務を逃れる道が巧妙に用意されている。アメリカは「日本が尖閣を実効支配している」ことは認めていますが、「領有権については日中どちらの側にもつかず、米軍は安保条約によって介入を強制されるものではない」という見解を示しています。つまり、日米関係や米中関係を総合的に判断した結果、出ないという選択肢を残しているのです。
富坂 アメリカはおそらく、「この事案に5条が適用されるのか、否か」という問いを突き付けられること自体を嫌うと思いますね。たとえばアメリカの国内法には「台湾関係法」(事実上の米台軍事同盟)という法律が制定されています。2006年に陳水扁総統(当時)が国際連合に「台湾」名義で加盟を申請することに言及し、中国を刺激したときには、台湾に行動を抑えるように声明を出しました。尖閣諸島での緊張が高まった場合、日本にも同様の対応をする可能性があります。
残念ながら、議会を含めてほとんどのアメリカ人は、日本のことをあまり理解していない。知日派として知られる元国務副長官のR・アーミテージ氏のような人はごく少数です。日米同盟や憲法9条があるとはいえ、尖閣諸島のためにアメリカの兵士が血を流すということに対して、アメリカの世論が納得するかというと、それは少し難しいと思います。
飯田 ただ、アメリカの国際的なプレゼンスを考えると、同盟国が武力行使をされても何もしなかったら、アメリカ自身の外交力に大きな影を落とすと思いますが。
潮 もちろん、原則としてはそうですね。とくにオバマ政権は安保政策について「アジア・太平洋に軸足を移す」と表明し、日米同盟を重視するというスタンスをとっている。だから安保条約が発動されるべき事態にもかかわらず、米軍が実際に出動しないことが起こりうるとすれば、それは「日本の自衛隊がその事態に対して何のリスクも背負おうとしていない」ということを意味します。アーミテージ氏もたびたび発言しているように、「日本の島なのに、どうしてアメリカ軍が血を流して守らなければならないんだ。先に日本が行くのが当たり前だろう」という気持ちが、アメリカには強い。
だからこそ、「ほんとうにアメリカは守ってくれるのか」という問いの立て方をするのではなく、自衛隊がまず対処すべきなのです。そしてアメリカもそのことに疑問をもたない、という信頼関係があって、初めて日米関係は有効に機能すると思います。
飯田 アメリカとの信頼関係ということについては、集団的自衛権の問題を避けては通れません。米軍や米国民が攻撃を受けたときに日本の自衛隊に出動義務があるのか否かの問題です。
孫崎 集団的自衛権が仮に解禁されれば、イラクやアフガニスタン、リビアのような「大義なき戦争」に自衛隊が駆り出されることになるのではないか、と懸念を抱いています。このような活動に自衛隊が参加するのは、日本の国益にマイナスに働くと思います。
潮 ただ現実として、日本とアメリカは同盟関係にあり、日本に対する武力攻撃を自国に対する武力攻撃とみなし、日本を防衛する義務を負っている国は、世界でアメリカ合衆国だけです。この事実から離れて議論すべきではない。もちろん、日本はただ守られてばかりでよいはずはなく、対中抑止力を高めるため、アメリカは中国の「A2AD(接近阻止・領域拒否)」戦略に日米両国で対処していく体制を期待しています。その点でも、日米同盟強化のためには、集団的自衛権の行使は避けられないでしょう。
■北の脅威にはこう対処せよ
飯田 日本を取り巻くもう1つの脅威は北朝鮮です。昨年12月12日には「人工衛星」と称する長距離弾道ミサイルが発射され、一部がフィリピン沖に落下しました(北朝鮮は「打ち上げ成功」と発表)。もし今後、北朝鮮が日本列島を狙ってミサイルを撃ってきた場合、どのような対処が考えられるのでしょうか。
潮 この点については、昨年4月に「テポドン2号」とみられるミサイルが発射され、失敗に終わった事例が参考になります。当時、日本では、「エムネット」「Jアラート」といった警報システムで混乱が起きました。テポドンが発射されたときに、アメリカからの早期警戒衛星の情報はすぐに入った一方、海上自衛隊が展開させていたイージス艦のレーダーには映らなかったのです。このような可能性がある以上、日本としては黄海に入るぐらい朝鮮半島に近づき、レーダー情報をきちんと察知できるようにすべきでしょう。こうした態勢を敷くことで、いざミサイルを迎撃するときにも有利な状況がつくれます。
孫崎 ミサイル防衛は多くの人が思っているほど簡単ではありません。自分たちがICBM(大陸間弾道ミサイル)を保有していて、それを攻撃しようとする相手のミサイルを撃ち落とす、というのは可能です。かつての冷戦のとき、ソ連がそのような戦略をとろうとしていたため、アメリカのシステムはミサイル基地を守るという目的で開発されています。
しかし北朝鮮は200〜300発の準中距離弾道ミサイル「ノドン」を保有しているといわれています。それらが五月雨のように国会議事堂や銀座といった街に向かって飛んでくる場合、速度は秒速2kmから7kmといわれている。落下するときに迎撃しなければなりませんが、これほど速いスピードで、なおかつ東京全域に落ちてくるミサイルすべてに対処するのが難しいことは、小学生にもわかるでしょう。
潮 それでは私も、小学生にもわかるように申し上げます(笑)。まず日本の迎撃システムは、その速度を前提に開発されています。事実として日本もアメリカも、何度も迎撃実験に成功している。たとえばイージス艦から発射される迎撃ミサイルの「SM3」は、相手のミサイルが落ちてくる前に、軌道を予測して大気圏外で破壊するというものです。さらに、万が一失敗するリスクに備え、SM3とは別に「PAC3」(地対空誘導弾パトリオットミサイル)も複数台、発動させる二段構えになっている。つまり、仮にSM3の成功確率が80%だったとしても、残りの20%に対して、何段にも構えるかたちになっていますから、それらが全部外れる確率はきわめて低い。
飯田 今回のミサイル発射に対しては各国から非難が殺到しています。日本ももちろん、北朝鮮に対して制裁をとる姿勢を示すと思いますが、有効な制裁方法は何でしょう。
潮 北朝鮮への制裁については、国連安全保障理事会でも度重なる決議が出ています。4月の発射のときにも議長声明にとどまったとはいえ、再びミサイルを撃てばさらなる措置を講ずるということが国際社会の総意として示されました。だから国際社会の一員として当然そのような方向に進むべきであり、もし中国が拒否権を発動するなどして有効な手を打てない場合、日本だけでも独自の制裁をすべきでしょう。
孫崎 ただ、じつは北朝鮮に対して、日本がとれる有効な制裁措置はあまりないのが現状です。代表的な方法の1つに、米ブッシュ政権時代の2005年にC・ヒル国務次官補が採用した「対北宥和政策」があります。「貿易を行なうなど、ある時期に北朝鮮に積極的に関与をすることによって、それを外したら北朝鮮が困るような関係をつくる」というやり方ですね。ただ、いまの日本は北朝鮮とほとんど貿易を行なっていないため、制裁のしようがない。
潮 そんなことはないと思いますよ。たとえば朝鮮総連の関係者の出入国に関して制限をかける、というだけでも北朝鮮にとってはそうとうのダメージです。
富坂 ただ、中国が国境を封鎖しないかぎり、北朝鮮に対する経済制裁に実効力をもたせるのは難しい。現に平壌に取材に行ったときには、中国経由で流れてきたであろう日本製品が豊富にあるのを目にしました。もちろん、北朝鮮に出入航する船舶の臨検(強制的な立ち入り検査)を徹底して行なうといった強硬的な策に打って出ることもできますが、そうなるといつ戦争になってもおかしくないところまで北朝鮮を追い詰めることになる。これが、はたして正解なのか。中国は核武装を着々と進める北朝鮮を脅威に感じているのは間違いないので、日本は北朝鮮を取り込んで中国の動きを牽制する、というようにうまく使っていく方向性も考えなければならないと思いますね。
■まずは日本人の意識改革から
飯田 総選挙で圧勝し、政権を奪還した自民党は「自衛隊を『国防軍』と位置づける」といった公約を打ち出しています。新政権になって、日本の安全保障政策も大きく変わっていくと思いますが。
潮 いまの自衛隊は、憲法9条や政府解釈の縛りから、活動に制約が設けられてきました。たとえばシリアの近くにあるゴラン高原や、南スーダンで国連PKOに派遣されている部隊にとっても、現地で他国軍隊との連携がとれないという支障が生まれている。しかし国防軍にするということは、「軍」を名乗るという点で必然的に憲法9条を変えるということを意味し、9条によってもたらされたさまざまな制約が取り払われる。だから、自衛隊は名実ともに国防軍にすべきだと思いますね。
孫崎 私はその点についても意見が異なります。2003年にイラク戦争が起きたとき、アメリカの同盟国であるカナダやフランス、ドイツは軍隊を送り込みませんでした。もし日本の政治家が国益を考え、アメリカに対して「ノー」といえるのなら、憲法改正も意味があると思います。
しかしいまの政治家は、アメリカの言うことをすべて受け入れることを安全保障の基本としている。このような状況では、憲法9条がイラク戦争のような意味のないものに自衛隊が連れて行かれることに対する、一種の歯止めとして機能している面もある。そういう意味では、9条をもっと有効活用するという視点も必要でしょう。
富坂 いずれにせよ、日本は自国が実質的に得をする道を突き進んでいけばいいのではないでしょうか。憲法を改正して「国威発揚」を行ない、相手を挑発するのではなく、たとえば武器輸出に関して静かにあっさり門戸を開くといったように、実利を取っていけばいい。
飯田 自衛隊を自衛隊という名前のままで、解釈を変えたり、または追加的な法律を通すことによって、よりスムーズに運用することはできないのでしょうか。
富坂 それも可能だと思いますよ。私からみたら、いまの枠組みのままでもそこまで不都合は生じていない。2007年、防衛大臣直轄の組織として陸上自衛隊のなかに「中央即応集団」が創設されました。これによって、実質的に海外にも出て行けるようになったし、事実上の“軍隊”としての活動が可能になっています。
飯田 自衛隊は英語で「ジャパン・セルフ・ディフェンス・フォース」といいますが、世界でいちばん攻撃的な軍隊の1つイスラエル軍も「イスラエル・ディフェンス・フォース」という英語名です。だから、「自衛隊は軍隊ではない」という日本の論理は通用しにくい面がありますね。
富坂 ただし、どんな法律をもったとしても、最終的には日本国がどのように覚悟を決めるかということにかかっているんです。これは装備面でも同じです。尖閣を守ると決めたとして、敵国の戦艦をほんとうに撃沈できるのか。「どこまでの事態が起きたら、やるか」という共通認識すらいまの日本には存在しない。そのような状態でどうやって相手と向かい合うのか。法律や武器といったハードのことはあとからついてきます。まずは意識というソフト面を改革していくことが不可欠です。
孫崎 「国防についてどうあるべきか」ということを日本人が自分の頭で考えるようになった。これ自体は非常によい傾向です。いまこそ日本人にとって「ほんとうに賢い選択は何か」、考え直すときがきているともいえるでしょう。
潮 これからの安全保障を考えるにあたっては、大前提として「日本人でできることは、日本人でする」という意識をもつべきだと思います。その流れのなかで「国防軍」の議論も憲法改正の議論も行なっていけばいい。こうした姿勢こそが真に強固な日米同盟をつくるものと信じています。
<論者・司会者紹介>
・孫崎享(まごさき・うける)作家/元防衛大学校教授
1943年生まれ。66年、東京大学法学部を中退し、外務省入省。国際情報局長、駐イラン大使などを歴任。2002年から2009年まで、防衛大学校教授を務める。著書に、『不愉快な現実』(講談社現代新書)、『日本の「情報と外交」』(PHP新書)ほか多数。
・潮匡人(うしお・まさと)評論家/拓殖大学客員教授
1960年生まれ。早稲田大学法学研究科博士前期課程修了。旧防衛庁航空自衛隊勤務(元三等空佐)、防衛庁広報誌編集長、帝京大学准教授などを歴任。現在、拓殖大学日本文化研究所客員教授。著書に、『「反米論」は百害あって一利なし』(PHP研究所)ほか多数。
・富坂聰(とみさか・さとし)ジャーナリスト
1964年生まれ。北京大学中文系に留学したのち、週刊誌記者を経てフリーに。94年、『龍の伝人たち』(小学館)で21世紀国際ノンフィクション大賞(現・小学館ノンフィクション大賞)優秀賞を受賞。著書に、『中国人民解放軍の内幕』(文春新書)などがある。
・飯田泰之(いいだ・やすゆき)駒澤大学准教授
1975年生まれ。東京大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科博士課程単位取得中退。財務省財務総合政策研究所客員研究員。専門は経済政策、マクロ経済学。著書に、『経済学思考の技術』(ダイヤモンド社)、『思考の「型」を身につけよう』(朝日新書)などがある。
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◆ クリントン米国務長官「日本脅かす、いかなる行為にも反対」/日米首脳会談、2月17日の週に 2013-01-19 | 政治〈領土/防衛/安全保障/憲法〉
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◆ 潮 匡人著 『「反米論」は百害あって一利なし』〜日本を二流国へと転落させる反米リベラル勢力の妄言を糺す 2013-01-08 | 読書
「反米論」は百害あって一利なし PHP Biz Online 2012年12月05日 公開 潮 匡人(評論家、国家基本問題研究所客員研究員)
《 『「反米論」は百害あって一利なし』より》
■「反米」が日本に益することはない
いまや日本は国難の最中にある。平成24年(2012年)11月現在、沖縄県石垣市の尖閣諸島周辺には連日、「海監」や「漁政」など中国政府の公船が押し寄せ、わが国の領海に侵入を繰り返している。
なぜ、こんなことになってしまったのか。結論から言えば、日米同盟が弱体化したからである。3年前、民主党に政権が交代し、自民党政権下で実施されていたインド洋上での給油活動が終了。さらに鳩山由紀夫総理(当時)が、普天間移設問題で「最低でも県外」と公言し、アメリカ大統領にも「トラスト・ミー」と大言壮語した。その結果は、読者ご案内のとおりである。日米同盟に深く刻まれた傷跡は、いまも消えていない。
驚くべきは、その後の展開である。当時、鳩山総理のブレーンと目された知識人が、いまも大手を振ってメディアで活躍する。マスコミの寵児と化す。全国の大型書店では、アメリカ陰謀論を振りまく新刊が平積みされ、ベストセラーとなっている。
そうした反米論者の責任もさることながら、今なお彼らを重用するNHK以下、マスコミの責任も重い。本文で述べるように、普天間基地へのオスプレイ配備を巡る報道をはじめ、連日連夜のごとく、国民の反米感情を煽っている。マスコミ世論には、低俗なアメリカ陰謀論が渦巻く。
日米が離反することで、得をするのは誰か。深く傷ついた日米同盟の惨状を見ながら、ほくそ笑んでいるのは誰か。日本のマスコミ世論を席巻する反米論は、日本の国益を害する。反米を合唱しても、何一つ、日本に益することはない。
(『「反米論」は百害あって一利なし』まえがきより抜粋)
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◆ 「無法」中国との戦い方 古森義久著 小学館101新書 2012年12月8日初版第一刷発行
p3〜
はじめに 中国の「日本叩き」政策は「大成功」を収めつつある
中国での反日デモは「水道の蛇口」と同じ
2012年秋、中国の多数の都市で反日デモが荒れ狂った。日本が尖閣諸島を国有化したことへの中国の国民一般の怒りなのだという。
しかし、共産党の一党独裁で結社の自由や集会の自由が厳しく抑圧される中国では、国民一般からの自由な自然発生のデモというのはありえない。政府当局が黙認、あるいは煽動しない限り、多数の人間が集まること自体が許されないからである。
だから、中国での集会とかデモというのは、当局にとって水道の蛇口の操作に似ている。抗議の動きをどこまで許すかは、水道の蛇口から出す水の量を調節するのと同じなのだ。栓を開ければ開けるほど、水は勢いよく噴出してくる。もうこれで十分となれば、蛇口を閉めればよいのである。
p4〜
共産党支配が続く限り、反日暴動は繰り返される
私自身が目撃した実例は1999年5月の北京での反米デモだ。このデモは米軍機を主力とする北大西洋条約機構(NATO)軍機が当時のユーゴスラビアの首都ベオグラードの中国大使館を爆撃し、内部にいた中国人3人が死亡、20人ほどが重軽傷を負った事件への中国側の抗議だった。米国側は当初から一貫して誤爆だと弁解していた。
事件から数日もすると、北京の米国大使館前には連日、抗議のデモ隊が押しかけるようになった。当時、産経新聞中国総局長として現地に駐在していた私も連日、米国大使館前に出かけ、現状を眺めた。
このデモは完全に当局に管理されていた。デモ行進をして、米国大使館構内に石まで投げ込む当事者たちはみな北京内外の大学の学生たちだったが、全員がバスで動員されていた。大学ごとに現場近くにバスで運ばれてきた男女学生たちは、バスを降りて、隊列を組み、大使館前へと行進していく。その間、道路から石を拾って、大使館にぶつけるのだが、大使館の前には中国人警官が並んで立っていて、普通サイズの石を投げることは黙認するが、そのサイズが一定以上に大きくなると、すぐ停止させるという手の込んだ「管理デモ」だった。なにからなにまで中国当局がシナリオを描いた抗議デモだったのだ。
p5〜
今回の反日デモも、当局のそうした管理があることは明白である。ただし中国の国民一般の間では日本や日本人がそもそも大嫌いという向きが多いから、当局にとって「反日」の動きは放置するだけでも、盛り上がる。当局の管理はむしろ、どこで止めるか、である。反日が暴走して、「反中国共産党」「反中国政府」になってはならないのだ。
p39〜
朝日新聞が喧伝する元外交官の「奇説」
こうした膨張を続ける中国に対し、日本側では尖閣の実効支配を明確にする措置に反対する声も聞かれる。たとえば朝日新聞は、東京都の購入提案に反対し、なにもせず、もっぱら「中国との緊張を和らげる」ことを求める。2012年7月11日付の同紙では、孫崎享・元外務省国際情報局長の「尖閣は日本固有の領土ではない」という意見までを喧伝する。この孫崎氏の発言は日本の国益を守るために長年、活動した日本国外交官だった人物のそれとはとても思えないほど奇異だった。とにかく中国の主張を優先させ、ひたすら中国への歩み寄りを説くのである。
孫崎氏は朝日新聞のインタビューで、日本の尖閣領有が100年ほどでは固有の領土とは呼べないとして、中国は14世紀に尖閣周辺まで軍事的影響を及ぼしていたから、「中国のものと主張」することも根拠がないわけではない、と述べた。中国の14世紀といえば、モンゴル帝国の元の統治時代だったが、モンゴルといまの中国の領有権が直結できる、というのだからメチャクチャな理屈である。
p40〜
孫崎氏はまた、中国が尖閣に軍事攻撃をかけても、米国が日本を支援して防衛にあたるると考えるのは甘い、とも断言する。米国政府が公式に日米安保条約の尖閣への適用を宣言しているのに、孫崎氏の言はそれがウソだと断じるのに等しいのだ。そして尖閣問題は「現状が日本に最も有利」と説く一方、「係争地」と認めて中国との協議にのぞむことを勧めるという矛盾を語る。なにしろ尖閣についての「日本の主張は国際的にも認められない」と簡単に自国の権利を切って捨てるのだから、なにをかいわんや、である。なにがそこまで中国に媚びさせるのか。
「中国を刺激するな」的なこの種の主張は、中国側の尖閣奪取への意欲を増長するだけである。この種の宥和は、尖閣が日本領であることを曖昧にするのが主眼だから、それだけ中国の主張に火をつける。そもそも緊張の緩和や融和を求めても、中国側の専横な領有権拡大を招くだけとなる現実は南シナ海の実例で証明済みなのである。
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◆『アメリカに潰された政治家たち』孫崎亨著(小学館刊)2012年9月29日初版第1刷発行
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◆ 石原慎太郎著『新・堕落論』 新潮選書2011/7/20発行
p77〜
特に中国が「軍民統合、平戦結合、以民養軍、軍品優先」なる16文字政策によって1989年から2006年にかけての17年間に軍事予算をなんと8倍に増やし、核に関しても十分な抑止力を超えた装備を備えた今、彼らのいうように「中国の国防は純粋に自衛のためのもの」と信じる者はどこにもいません。今限りで中国がいずれかの国に対して直接武力による侵犯を行う意図はうかがえぬにしても、日本との間にある尖閣諸島周辺の資源開発問題や、あるいは領土権そのものに関しての紛糾の際に、その軍事力はさまざまな交渉の際の恫喝の有効な手立てとなってくるのです。
p79〜
しかしその間中国の潜水艦は沖縄の島々の間の海峡を無断で通過するという侵犯を敢えて行い、日本側はそれに抗議するだけにとどまる不祥事がつづき、日本側は、本来なら警告の爆雷投下ぐらいはすべきだろうに放置してきました。これがもし日本の潜水艦が中国なり北朝鮮、いや韓国の領海にしても無断で押し入ったなら当然撃沈されるされるでしょう。それが「国防」というものだ。国防のためにすべきことを行わない国家にとっては、領土も領海も存在しないに等しい。
この尖閣問題はさらに今後過熱化され、日本、アメリカ、中国三者の関わりを占う鍵となるに違いない。要はアメリカは本気で日米安保を発動してまで協力して尖閣を守るかどうか。守るまい、守れはしまい。
p81〜
尖閣諸島への中国の侵犯に見られる露骨な覇権主義が、チベットやモンゴルと同様、まぎれもなく、この国に及ぼうとしているのに最低限必要な措置としての自衛隊の現地駐留も行わずに、ただアメリカ高官の「尖閣は守ってやる」という言葉だけを信じて無為のままにいるこんな国に、実は日米安保条約は適応されえないということは、安保条約の第5条を読めばわかることなのに。後述するが、アメリカが日米安保にのっとって日本を守る義務は、日本の行政権が及ぶ所に軍事紛争が起こった時に限られているのです。
つまりあそこでいくら保安庁の船に中国の漁船と称してはいるが、あの衝突の(略)アメリカはそれを軍事衝突とはみないでしょう。ましてその後ろにいるのが中国としたら、アメリカの今後の利害得失を踏まえて本気のコミットメントは控えるに決まっている。
安保条約への誤解
ちなみに現時点ならば、核兵器に関しては別ですが日本が独自に保有する通常兵器での戦力は中国を上回っています。(p81〜)F-152百機による航空集団はアメリカ空軍に次ぐ世界第2の戦闘能力があり、その訓練時間量は中国の寄せ集め機種での実力に勝っているし、制海権に関しても関しても保有する一次に7発のミサイルを発射し得る6隻のイージス艦を旗艦とする6艦隊は中国の現有勢力に十分対抗し得る。予定のイージス艦10隻保有が達成されれば日本独自で制海権を優に獲得し得る。ということを、政府は国民に知らしめた上で尖閣問題に堂々と対処したらいいのです。
もともと尖閣諸島に関する日中間の紛争についてアメリカは極めて冷淡で、中国や台湾がこれら島々の領有権について沖縄返還後横槍を入れてきていたので、日本はハーグの国際司法裁判所に提訴しようとアメリカに協力を申し入れたのに、アメリカは、確かに尖閣を含めて沖縄の行政権を正式に日本に返還したが、沖縄がいずれの国の領土かということに関して我々は責任を持たないと通告してきています。
さらに、かつて香港の活動家と称する、実は一部軍人が政府の意向に沿って民間船を使って尖閣に上陸し中国の国旗を掲げたことがありましたが、一方同時に沖縄本島ではアメリカ海兵隊の黒人兵3人が小学校5年生の女の子を強姦し県民が激怒する事件が重ねて起こりました。
p83〜
その時アメリカの有力紙の記者がモンデール駐日大使に、尖閣の紛争がこれ以上拡大したら、アメリカ軍は安保条約にのっとって出動する可能性があるかと質したら、大使は言下にNOと答えた。
しかし不思議なことに日本のメディアはこれに言及せず、私一人が担当していたコラムに尖閣の紛争に関してアメリカの姿勢がそうしたものなら安保条約の意味はあり得ないと非難し、それがアメリカ議会にも伝わり当時野党だった共和党の政策スタッフがそれを受け、議員たちも動いてモンデール大使は5日後に更迭されました。
丁度その頃、アメリカでは中国本土からの指令で動くチャイナロビイストのクリントン政権への莫大な献金が問題化しスキャンダル化しかかっていたが、それとモンデールの発言との関連性ははたしてあったのかどうか。(略)
p84〜
さて、尖閣諸島の安保による防衛に関してのモンデールの発言ですが、実はこの発言には、というよりも安保条約そのものにはある大切な伏線があるのです。はたして彼がそれを熟知して発言したのかどうかはわからないが。
彼だけではなしに、政治家も含めて日本人の多くは、安保条約なるものの内容をろくに知らずに、アメリカはことが起こればいつでも日本を守ることになっていると思っているが、それはとんでもない思い込み、というよりも危ない勘違いです。
「各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全をあぶなくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続きに従って共通の危険に対処するように行動することを宣言する。
前記の武力攻撃およびその結果として執ったすべての措置は、国際連合憲章第51条の規定に従って直ちに国際連合安全保障理事会に報告しなければならない。その措置は、安全保障理事会が国際の平和及び安全を回復し及び維持するために必要な措置を執ったときは、終止しなければならない」(日米安保条約第5条)
p85〜
ここで規定されている日本領土への侵犯を受けての紛争とは、あくまで軍事による紛争です。尖閣でのもろもろの衝突事件は日米安保の対象になり得ないというアメリカの逃げ口上は条約上成り立ってしまう。
だからヒラリー国務長官がいくらアメリカは日本の尖閣を守ってやると大見得を切っても、その後彼女の子分のクローリー国務次官補が圧力をかけてきて日本の政府にああした措置をとらせてきたのです。
日米安保に関するもう一つの大きな不安要素については、ほとんどの日本人が知らずにいます。
それはアメリカのれっきとした法律、「戦争権限法」だ。これは戦争に関する大統領の権限を強く拘束制限する法律です。大統領はその権限を行使して新しい戦争を始めることは出来るが、それはあくまで剥こう60日限りのことで、その戦争のなりゆき次第で議会は60日を過ぎると行われている戦争に反対しそれを停止させることもできるのです。
しかしこれは彼等白人同士の結束で出来ているNATOが行う戦争には該当され得ない。
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