第127回】 2011年6月20日 週刊ダイヤモンド編集部
ホリエモン収監前“最後の授業”──2011年6月9日 慶応義塾大学
123452011年4月に証券取引法違反で実刑が確定し、6月20日に東京高検に出頭、収監される予定の元ライブドア社長堀江貴文氏。その堀江氏は2011年6月9日、中村伊知哉・慶応大学の教授の招きにより、慶應大学学生の前で収監前としては“最後の授業”を行った。
中村 慶応義塾大学大学院メディアデザイン研究科(KMD)というのは、メディアのイノベーターを育てることを看板の一つにしています。
つまり、メディアを刷新していく人。堀江さんがその一人のモデルであることは間違いない。
ところが今回、KMDの授業に堀江さんをお招きしようとしたところ、大学側が「呼んではいけない」と言ってきた。刑が確定しているからという理由で、理事会の決定だそうです。
そんなこと言われても、呼びます。もし僕が政治学の教授だったとしたら、田中角栄を呼べないのか。ネルソン・マンデラを呼べないのか。
僕は、辞表を書くことになるかもしれませんが、堀江さんが近いうちに、こっちからあっち(刑務所)にいってしまうので、今日は堀江さん“オン・ザ・エッヂ”、まさしくギリギリのタイミングでお話をお伺いすることができました。
*テレビ局と政界だけは変えることができなかった
中村 今日のテーマは大きくわけて三つ。最初は「堀江さんのこれまで」、次が「堀江さんのこれから」、三つ目が「僕たちがこれからどうするか」です。まず一つ目。堀江さんのこれまでについてお聞きします。堀江さんが今まで取り組んだなかで一番でかいディール、大変だった仕事って何ですか?
堀江 金額的に一番大きかったのは、ニッポン放送買収ですかね。1200〜1300億円くらい。
一番儲かったのは弥生という会計ソフトの会社。230億円で買って、僕がいなくなったあと、730億円で売れた。500億円儲かった。
中村 堀江さんのアドバンテージっていうのは、企業を目利きして、買ったり売ったりするところ?
堀江 いや、それは、僕のやっていることのごく一部。
ライブドア時代に「あいつは守銭奴だ」とマスメディアの人達からすごく言われたんですけど、僕は上場企業の経営者として株主に最大限のリターンを最短期間で返そうとして、頑張っていただけ。でも、世の中一般の人は、会社と個人の区別がついていない。ライブドアが儲けていたら、僕が儲けていると思っている。
つまり、僕自身が儲けたいがために、あんなに一生懸命、合理的思考をしたりとか、時間を削って仕事のことばっかり考えたりとか、血も涙もない人間だというふうに、思っちゃったみたいなんですよね。僕はライブドアに投資をしている株主に最大限にリターンを返せるかだけをただ考えていた。
中村 自分のなかで最大の失敗、後悔は?
堀江 全部、後悔しています。ただ、後悔もしつつも、自分に関しては失敗だけれども、結果的に目標が達成できたから大きく考えれば成功というものはあります。
どういうことかというと、例えば、プロ野球買収は僕自身としては失敗ではあります。でも、これも、よくよく考えてみたら、その後、大きなミッションとしては成功しているな、と。
ソフトバンクや楽天が新規参入して、パ・リーグが盛り上がって、地域密着型ビジネスモデルも成功しています。つまり、自分が種をまいて、他人が成功したということです。自分の考えていたミッションを他人が実現してくれた。
中村 パ・リーグ、おもしろいですよね。
堀江 面白いです。僕が予想した通りになりました。パ・リーグでだめなのはオリックスくらいですよね。
自分が種をまいて、その後、他の人も変えられなかったという意味では、政治とテレビ局。その二つの分野だけは未だに何も変わっていない。だから、その二つは大きな意味でも失敗だった。
中村 これまで、この人だけは超えられないな、っていう人はいましたか?
堀江 超えられない…か…。ボクはそこまでえげつなくできないよね、という人はいますよね。
中村 誰? 日枝(久・フジテレビ会長)さん?
堀江 (笑)日枝さんは、またちょっとえげつなさが違う。
例えば、日枝さんがやってきたライバルを全部蹴落として、院政を敷くということが、ボクは、やりたくないからできない。できるかもしれないけど。
中村 僕は日本の大学をどうしたらいいか、いつも悩んでいるんです。
例えば、グーグルもヤフーもスタンフォード大学から出て来て、フェイスブックはハーバード。じゃあ、日本の大学はどうよ、と思っているんですが…。
堀江 日本の大学は金がないですからね。
中村 東大も?
堀江 東大はお金ないです。
中村 大学が何かやることは、日本の場合、難しいですか?
堀江 う〜ん、できないことはないでしょうけど、僕だったら自分で研究所を作る。
中村 作りましょう。
堀江 作ります。科学技術系の研究開発はお金がかかる。だから、企業化してお金が戻ってくる仕組みにする。例えば、グーグルに出資していたスタンフォード大学は、キャピタルゲインが相当なものになった。
中村 うん、スタンフォード大学のジョン・ヘネシー学長はグーグルの取締役で入っていますからね。
*研究開発だけで運営できる研究所が必要
堀江 まさにそういうところはしっかりやらなければいけない。
僕は「どうやってお金を運用しているんですか」ってよく聞かれるんですけど、「ベンチャー投資」って答える。ITに関しては、目利きができますからこれだっていう技術の芽に投資するのが一番儲かるんですよ。グリーの田中君が楽天時代に会社を作ったときに、出資させろと言ったら断られましたけど(笑)。
まあ、それはどうでもいいでんすけど、つまり研究所が有望な研究の芽に投資して思う存分研究してもらう。それで社会に還元して、キャピタルゲインも得て再投資をしていく。研究開発投資だけでぐるぐる回って行くような、そういう研究所です。
中村 今、日本にそんなのないですよね?
堀江 でも、戦前の理化学研究所はそんな感じでしたね。ビタミンを発見したのでビタミン製剤をつくって売ったりして。リケンビタミンってそこから来ているんですよ。リコーも理化学研究所のスピンアウトなんです。
当時、理化学研究所から派生した企業群の理研コンツェルンっていうのがあったんですよ。今の時代なら、リコーみたいなスピンアウトが成功すれば、その株を5〜10%もっているだけで、何兆円と返ってくるわけですから。
有望な技術の種っていうのはいっぱいある。でも、東大とかは、それを積極的に事業化することもできていないし、お金を生み出すこともできない。
僕は本当は研究者になりたかったんです。それで学生時代、東大の教養学部基礎科学科の先輩がいて手伝いにいったことがあったんですよ。そしたら、そこに置いてあったコンピューターがApple2のぱちもん(偽物)だったんです。「天下の東大がぱちもんか」と愕然としてしまったんですよね。単年度会計で金がないもんだから、裏金つくって、一年中、科研費、科研費って言っている。
中村 堀江さんの研究所の構想は今聞いた限りだと、かなり、頭の中ではできあがっている?
堀江 そうですね、シードマネーがどこから出るのかという話はあるんですけど、これは是非、やらなければいけない。東大にはできないかもしれないし。
中村 その研究所構想っていうのは(刑務所から)出てから実現するの?
堀江 出てから実現するつもりです。このあいだ、茂木健一郎さんと飲んでいたときに茂木さんもやろうとおっしゃってくれたので、ファウンダーに入っていただいて。お金を何十億かあつめて…。まあ、それじゃあ足りないかもしれないけど。
中村 足りないでしょうね。
堀江 でも、そういう研究所を作れば、頭がいい奴はもう東大とか入んないと思うんですよ。研究所入るのに年齢制限もなくて、「お前いいから、うちこい」と。「好きなだけ研究しろ。金もいくらでもだす」と言えば。
やっぱり、日本の大学はおかしいですよ。iPS細胞の研究で有名な山中伸弥教授のような人まで、試験監督をやっていて、採点までやっている。ぎょっとしますよね。
中村 私もぎょっとされますよ。和服で試験監督やっていますから。
堀江さんの研究所、楽しみですねえ。アメリカはソ連との核戦争に備えて、インターネットを開発した。地震大国日本がこれからどういう技術を開発していくべきかという時に、そういうお金の話がぜんぜんできていないですもんね。
*刑務所の中でもやることがたくさんある
中村 ロケットの開発の途中で刑務所入っちゃっていいんですか?
堀江 いや、ロケット開発で僕の役割っていうのは、メンバーを急かすことだけなんで、中からでもできます。
中村 刑務所の中から外への連絡手段は?
堀江 手紙とかですね。
中村 どんなところに入ってどんな暮らしになるのか、もうわかっているんですか?
堀江 ざっくりは。
中村 大部屋?それとも独房なんですか?
堀江 おそらく独房だと言われていますけど、ちょっとわからないですね。
中村 中で何をするって決めているんですか?
堀江 とりあえず、刑務作業がある日は刑務作業。自由時間はメールマガジン書いたりとか、小説とか原稿書けとか依頼があったり、ミッションがけっこうあるんです。あとは漫画読んだり、本読んだりですかね。
いろいろ刑務所の先輩たちが教えてくれるんですよ。中での生活について。
中村 先輩って、OB会とかあるんですか?
堀江 いや、OB会とかはないんですけど(笑)、経験のある人はゴルフの教え魔みたいに教えてくれる。昨日も鈴木宗男さんの秘書と…。
中村 作戦会議?
堀江 作戦会議ですね。3〜4年前に明治以来の監獄法ってのが受刑者処遇法という非常にマイルドな法律に変わったんですよ。かなり自由度が高くなった。だから、刑務所関連の法令集は持って行ったほうがいいと言われましたね。できることは最大限やったほうがいいからと。
あと、意外と、コネってきくらしいんですよ。
中村 は?
堀江 コネ。
中村 どんな!?
堀江 昨日は、アルカイダの友人の友人の方の秘書もいたんですけど。やっぱり、法務大臣やっていると入る前の人から陳情があるらしくて。そういう陳情は一応聞くらしいですよ。
中村 え? 何してくれるんですか?おかずが一品増えるとか?
堀江 いや、どこの刑務所に入れてほしいとかそういうことらしい。
中村 そういう仕事しているんですね、政治家って…。
裁判官と検事が癒着司法改革をすべし
中村 最後に、僕たちのこれからをどうするか。日本にがっかりしていますか?
堀江 別に…がっかりってことはないですけど。
(会場との質疑応答)
堀江 (会場に向かって)このなかで官僚になろうという人いますか?
国家一種試験に合格しても、法務省入ったら地獄ですからね。絶対に法務省入らないほうがいい。
中村 ほう。
堀江 なぜかというと、普通、国家一種試験に合格して中央省庁に入ると、キャリアになって最初から偉いポストでどんどん出世していくじゃないですか。でも、法務省は出世できないらしいんですよ。なぜなら、重要ポストはみんな検察官だから。局長以上はほとんど検察官らしいです。
他の省庁ならキャリアのトップって事務次官じゃないですか。それが法務省は検事総長ですから。さらに検事総長の下に全国7〜8ヵ所の高等検察庁ってあるんですけど、そこの検事長がくるので、事務次官ていうのはその次なんですよね。序列でいうと10番目くらいなんですよね。
中村 変なこと知っていますね。
堀江 いや、僕、もうマニアになりましたから(笑)。こういうこと言うと刑務所でいやがらせされるのがいやなんですけど、法務省についてはさらに皆さんにお伝えしたいことがあって。
中村 はい。
堀江 検察官って、司法試験に受かって事件を担当する人達じゃないですか。それなのになぜか法務省の幹部ポストの7割が検事なんですよ。
中村 考えてみれば、変な話だと…。
堀江 だって、事件を担当するために司法試験に合格した人が、なぜか法務省の行政をやっているわけですよ。7割も。
じゃあ、少なくともあとの3割が法務省のキャリアなのかと思うじゃないですか。それがまた違うんです。裁判官なんですよ。裁判官が法務省に出向しているんですよ。
中村 そんなことになっているんだ。
堀江 しかも、一方通行だったらいいんですけど、また裁判官に戻るんですよ。
検察官が裁判官になる判検交流っていうのはよく知っていたんです。ところが、その逆に裁判官が検事になる仕組みもあるんですね。そうして裁判官が法務省内の法律を吟味する部署にも行くわけです。法務省内の行政を担当する部署に裁判官がいるんですよ。これはすごいなと。だから、「君ら仲間なの?」みたいな。グルなんですよ。
中村 次の堀江さんの本はそれですか? タイトルは「君ら仲間?」。
堀江 ほんと、すごいなと思いましたよ。内部の癒着具合が。法務大臣にはそこの改革をやってほしいですよ。検察官全員排除してほしい。検察官は事件とかやってくださいと。
中村 堀江さんが総理になったらまずやりたいことはそれ?
堀江 いやいや、他にやりたいこといっぱいあります。そんなのは些末なこと。刑事司法の改革の一環として、法務省改革というのは必要なだけで。
中村 堀江さんが戻ってくるまでに総理大臣は3人くらい替わっているかもしれないですよね。
堀江 そうですね。
中村 毎年恒例の…。
堀江 はい。菅さんも替わること確定しましたからね。
中村 ほかにもいろいろ聞いてみたいことあったんですけど、時間が経過していまいました。ほんとに今日は、あっちとこっちのぎりぎりというところで、僕らにとってもぎりぎりの話をしていただけと思っております。
少なくとも2011年のこの時代の日本を代表するアイコンである堀江さんにきていただいて、同じ空間、同じ時間を共有できたってことは僕らにとって貴重な財産になるかと思います。僕らが堀江さんに対して何を託して、僕ら自身も何を作っていけるのかってことが問われているのかなという気がしました。さっきの研究所の話なんかも僕も関心があってひかれているんです。
今後どういう形があるかわかりませんけども、是非、なにか一緒にできることがあればと思っています。今日は、堀江さんありがとうございました。
堀江 ありがとうございました。
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●堀江貴文 1965年に東京大学在学中にライブドアの前身オン・ザ・エッヂを創業。IT系企業として急成長し、プロ野球球団、ニッポン放送の買収の乗り出し、2005年には衆議院選挙にも立候補した。2006年証券取引法違反で逮捕され、2011年4月には最高裁判所で実刑が確定していた。 慶應大学が堀江氏を正式な授業に招くことを拒否したため、中村教授は個人でキャンパス外の会場を用意し特別授業として開催した。
かつて、ホリエモンと呼ばれるようになった由来は「堀江氏のアイデアはドラえもんの道具のように次から次へとポケットから出て来る」からとも言われている。堀江節は少しも衰えてなかった。 これまでの人生で何が成功したと感じ、何を後悔しているのか。また、刑務所での生活、出所後に取り組む壮大な研究所構想、宇宙開発、さらには、司法制度批判へと話題は及んだ。
●中村伊知哉 京都大学経済学部卒業。1984年、ロックバンド「少年ナイフ」のディレクターを経て郵政省入省。インターネット政策などを担当。MITメディアラボ客員教授、スタンフォード日本センター研究所長などを経て、2006年より慶應大学教授。著書多数。
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