石川知裕:最後に特捜部にエールを送って、この事件を終わりにしたい
《THE JOURNAL》編集部 日時: 2011年7月 7日 12:06
東京地裁は6月30日、陸山会事件で検察から証拠請求されていた調書を大量に不採用にした。調書が不採用となったことで検察側の立証が困難になるのは必至で、判決にも大きな影響を与えることは確実だ。調書の不採用を受け、被告人の一人である石川知裕議員に話を聞いた。
※インタビューの最後に、7月7日に発売された石川知裕議員の新著『悪党 ── 小沢一郎に仕えて』の紹介コメントも掲載しています。
──東京地裁は6月30日に陸山会裁判で石川議員ら3人の被告の調書を却下しました
裁判官は公正中立な立場で判断をされるわけですが、決定を聞いてうれしかったです。
──調書はどの程度の数が不採用になったのでしょうか
大久保、池田、石川の3人で38通の調書があり、私の調書については15通のうち10通が完全に不採用、残り5通が一部不採用となりました。
やはり大きかったのは、聴取を録音をしていたことによって水掛け論にならなかったとです。この点に関しては、録音をすすめていただいた佐藤優さんに非常に感謝しています。また、取り調べの可視化にも一つの前進になり、特捜部の手法そのものも今後問われてくるのではないかと思います。
──被告の主張によって、これほど大量の調書が不採用になったのは異例ですね
東京地検特捜部が証拠請求をした調書が、これだけの数で不採用になるのは例がないと聞いています。いままでは検面調書の特信性が絶対的な信頼を裁判所に与えていたわけですけが、近年の特捜部の手法が裁判所に不信感を与えたのではないでしょうか。
私は、検事ひとりひとりが不正を行っているわけではないし、立派な方々だと思います。正義感に燃えて、国家にのために巨悪をのさばらせないために働いているのだと思う。私自身も、検察官個人に対して恨みはありません。しかし、組織体として動くと、特捜部長をはじめ配属された検事が、特捜部に在籍している約2年間で「何か成果を出さなければ」となる体質に問題がある。佐藤優さんはこれを「集合的無意識」と話していましたが、全体の意思として動いてきたことを変えなければいけない。そのきっかけとなる調書不採用だったのではないでしょうか。
──裁判を振り返ると、検察側の主張は、経理作業も含めて「完全無欠の小沢秘書軍団」をアピールして、一方で3人の元秘書が法廷で語る小沢議員の秘書の実務の実態がかなりかけ離れていたように感じました
そのとおりですね。私の発言でも、当時の経理作業について「合理的に説明できない」という言葉が広がっていましたが、あの発言は、「その時その時に処理しようとしてきたことを、後から一本の線で理屈につけて説明するのは難しい」という意味で、やった行動のすべてが不合理だという意味ではないんですよ。秘書時代は、3月31日に政治資金収支報告書を提出する前にバタバタとやらないといけないぐらい経理以外の仕事が忙しかったですし、それが当たり前だと思っていました。
だから、問題はこの後です。名ばかり会計責任者をどうするのか。大久保さんは何も知らなくて、私や池田がハンコを借りて、会計責任者として押印していた。では、私や池田が特殊な事例かというと、少なからぬ事務所ではそういったことが行われていたはずで、それは改めるべきだと思います。ですので、いまの私の事務所では、ちゃんと公認会計士を入れて、監査をやるようにしました。将来的には、監査法人のチェックを受けるように法制化する必要があるかもしれません。
一方で、私自身の調書が大量に不採用になったことで、これからまた特捜部の闘いになるのではないかと感じています。これは心の根の部分にあります。
──特捜部との闘いになるとはどういうことでしょうか
特捜部としては名誉を傷つけられたわけです。「石川が政治家をやり続けるかぎりはやってやる」という、そこはかとない恐怖があります。
──判決で仮に有罪となった場合、公民権停止で失職となる可能性もありますが
政治家にとって、やはりそれは気になるところです。ただ、まだ若いですし、これまでが順調な人生だったのかもしれませんし、頑張るしかないと思います。それも運命です。しかし、調書がこれほど不採用になるということは、この裁判が時代の真ん中にある裁判だったことは確かだと思います。
──メディアについてはどのように感じていますか
私は、今回の調書不採用によって、記者の情報の取り方について一石を投じたと思います。リークというのはスクープなんですが、これは最高裁でも認められている権利です。ただ、検事と私しか知らないはずの調書が、次の日に新聞に載っている。それでは公務員の守秘義務はどうなってるのかと。こういうリークが報道されることによって、あたかも事実であるかのように定着してしまう。これは大手マスコミが考えないといけないひとつのきっかけになると思います。
──これからの検察のあり方についてどう考えていますか
土地の取得時期を翌年にずらしたということで、収支報告書の記載について疑われるところがあったことは確かです。ただ、特捜部がこれだけの人員を使って、これだけの長期間の捜査をする事件だったのかはよく考えてもらいたい。もし、判決で我々が無罪ということになれば、おそらく検察は控訴してくるでしょう。しかし、特捜部には落ち着いて考えてもらいたい。我々もそこまでの事件だったのかと思いますし、特捜部にも「お互い冷静になって考えましょう」ということを言いたい。
私は、特捜部に対しては「本当の巨悪を捕まえてくれ」というエールを送って、この裁判を終わりにしたいと思っています。(構成:《THE JOURNAL》編集部 西岡千史)
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■石川知裕氏 新刊『悪党 ── 小沢一郎に仕えて』
(石川議員からのコメント)
小沢一郎さんに関連する本は国会図書館で調べると100冊ぐらいありますが、きわめて肉声が少ないんです。この本では、小沢さんの肉声と行動原理を書きましたので、他の小沢本にはない特徴があると思います。
5月30日に小沢さんと行った対談も収録してますので、内閣不信任案のことについても触れています。新聞にも出てますけど、民主党は経験を積まずに偉くなった人ばかりだと語っていて、こういう危機のときにはどういう判断をとらなければいけないのかという話をしています。
そのほか、小沢さんのものぐさなところや、もう少しいろんな人に電話をかけたりすればクリアできた問題もあったのではという思いを、内側の目線から書いています。
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◆「陸山会事件」東京地裁 検察のデッチ上げ調書を証拠採用せず/小沢強制起訴の根幹崩れる2011-07-06 | 政治/検察/メディア/小沢一郎