PC遠隔操作事件 東京地検が処分保留で容疑者を釈放していた!(山口一臣)
news-log 2013年3月4日
パソコン遠隔操作事件で警視庁など4警察の合同捜査本部に逮捕されていたIT関連会社勤務のK容疑者が、こんどはハイジャック防止法違反で再逮捕された。3月3日、ひな祭り日の出来事だ。報道に接した人の多くは「あのオタクの猫マニア、そんなひどいことまでやってたのか」と思ったかもしれない。もしそうだとしたら、警察による情報操作がまんまと成功したと言ってもいい。当初の逮捕容疑である威力業務妨害は3年以下の懲役または50万円以下の罰金という罪だが、ハイジャック防止法違反は1年以上10年以下の懲役という非常に重いものだからだ。
だが、このニュースで注目すべきはそのことではない。
本当に重要なのは、この日勾留期限を迎えた当初の逮捕容疑について、東京地検が「処分保留で釈放した」という部分だ。つまり、あれだけ大騒ぎした江の島の猫の首にウイルスのソースコードが入った記憶媒体を取り付けたという一件は、証拠がなくて起訴できなかったというわけだ。再逮捕直後の容疑者への接見を終えた弁護人の佐藤博史弁護士を直撃すると、「やはり、我々が当初から指摘していたとおり、決定的な証拠(容疑者が猫の首にメモリーをつけている映像)はなかったということです。第一ラウンドは、我々の完全勝利」と自信のほどを見せていた。K容疑者は再逮捕の容疑についても「身に覚えがない」と否認しているという。
佐藤弁護士も当初は、あれだけ誤認逮捕を繰り返した警察が同じミスを犯すわけがないと思っていた。そこで、取調官に「決定的な証拠映像があるなら、早めに示して欲しい。むやみに否認を貫かせるつもりはない。本当に彼が真犯人なら弁護士として(罪を認めるように)説得もしたい」と話したが、担当検事は沈黙のまま、警察側は、「あれ(映像があるというの)はマスコミが言ってるだけ」などと言い出す始末だったという。
K容疑者は江の島へ行ったことはもちろん、問題の猫に触ったこと、写真を撮ったことも認めている。それどころか、真犯人がマスコミなどに送ったメールに写真添付されていた雲取山に登ったことも、(写真に写っている)アニメキャラの人形をネット通販で購入したことも認めている。いずれも警察にとっては有利な状況証拠だ。だが、それと「犯行」を結びつける証拠が決定的に欠けているようなのだ。
一見すると容疑者の「余罪」が次々と明らかになり、事件が拡大しているかのように思えるが、事態は真逆だ。警察はかなり、追い込まれている。現状では容疑者を有罪にできるだけの証拠がないため、なんとか時間稼ぎをしようというのが再逮捕の真相で、メディアは本来、そのことを大きく(先に)報じるべきなのだ。しかし、実際は再逮捕されたことばかりがクローズアップされている。それどころか、東京地検の処分保留は書いていても、「釈放」の事実を書いていない記事も少なくなかった。正しくは、検察によって一度は釈放された人物を警察が再び逮捕したという話だ。これをきちんと書けば、世間の受け止め方もだいぶ違っていたはずだ。
前回の逮捕の時も「猫カフェ」で遊ぶ容疑者が盗撮されたり、逮捕直前の未明にメディアが容疑者の自宅前に集合していたりと警察によるリークが目に余った。今回も逮捕の2日も前から「再逮捕へ」という観測記事が垂れ流された。通常、捜査当局は逮捕もしていない段階で「逮捕の方針を固めた」などという“前打ち”報道を極端に嫌うものだが、各社一斉にまるで発表があったかのような報道ぶりだ。「3月3日までに自白しないとさらに重い罪で逮捕するぞ」という容疑者に対する警察のメッセージをメディアが代弁しているかのようだった。
もうひとつ、今回の事件でメディアはほとんど報じていないが、弁護団に足利事件で菅家利和さんの冤罪を晴らしたことで知られる佐藤弁護士とともに元判事の木谷明弁護士が加わったことがある。木谷弁護士は東京高裁の裁判官として東電OL殺人事件のゴビンダ裁判に関わった。一審で無罪となったゴビンダさんに対して検察側は逃亡の恐れがあるとして勾留請求をしたが、当時東京高裁の裁判官だった木谷氏が検察側の主張を退け、勾留を認めなかった。木谷氏はこの決定後に東京高裁を依願退職して弁護士になる。検察側は諦めずに何度も再請求を繰り返し、最終的に勾留が認められた。だが周知のとおり、その後、ゴビンダさんの無罪が明らかとなり、木谷裁判官による決定は法曹界から高い評価を受けている。
その佐藤&木谷の強力タッグがK容疑者を「真犯人でない」と主張する最大の根拠が、「彼にはウイルスをつくる能力がない」というものだ。一連の事件に使われた遠隔操作ウイルスはC#というプログラミング言語で書かれているが、K容疑者はこの言語が使えないと言っている。無論、罪を逃れるために嘘をついている可能性もある。そこで弁護団が勤務先の社長や同僚に当たったところ、異口同音に「彼にはC#でウイルスをつくるような能力はない」と話したという。勤務先の社長はすでに警察にも同じことを伝えているようだ。
さらに、佐藤弁護士によると、K容疑者のパソコンにはC#でのプログラム作成に必要なソフトをインストールした形跡がなくK容疑者自身「使ったこともない」と話しているとも。もし、本当にウイルスをつくる能力がないとすると決定的だ。真犯人は別にいることになる。再逮捕の容疑とされる「遠隔操作ウイルスを使って他人のパソコンから日本航空に飛行機爆発予告のメールを送りつけた」という話も、彼がC#言語やウイルスを自在に使いこなせなければ成り立たないのではないか。
もちろん、K容疑者が人前では使えないふりをしていた可能性も否定できないし、前述のとおり警察にとって有利な状況証拠もある。だが、裁判になれば検察は、勤務先の社長や同僚の証言を覆し、彼に「能力」があることを立証しなければならない。ハードルはかなり高い。警察のリーク情報に依存して報じるメディアのニュースを見ていると、捜査は順調に進んでいるかのような印象だが、実は再逮捕でさらにドロ沼にハマっているのである。
【NLオリジナル】
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〈来栖の独白〉
rice_showerさんよりご案内戴いた。
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ニュース・コメンタリー (2013年03月02日)http://www.videonews.com/
「片山さんは犯人ではない」遠隔操作ウィルス事件・佐藤博史弁護士に聞く
ゲスト:佐藤博史氏(弁護士)
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「最初の容疑では処分保留」に驚き 遠隔操作事件、証拠収集が進んでいない?
J-CASTニュース2013/3/ 4 20:01
遠隔操作ウイルス事件で再逮捕された片山祐輔容疑者(30)が、最初の容疑では処分保留で起訴されず、ネット上で驚きが広がっている。警察や検察は、有罪に足る証拠を得られていないのか。
警視庁などは2013年3月3日、誤認逮捕した事件について、初めて強制捜査に乗り出した。
■検察「一層の慎重な捜査が必要と考えた」
ハイジャック防止法違反などの疑いで片山祐輔容疑者を再逮捕したのがそれだ。この事件では、日本航空に爆破予告メールを送ったりするなどしたとしている。
その証拠は何なのか、はっきりしない部分が多い。ただ、米FBIの捜査で、片山容疑者の会社のパソコンからウイルスの痕跡が見つかったなどと報じられている。
一方で、東京地検はこの日、愛知県の会社のパソコンから殺人予告があった事件では、片山容疑者を処分保留とした。報道によると、その理由については、「一連の事件の特殊性に鑑み、なお一層の慎重な捜査が必要と考えた」と説明している。
江の島の猫にマイクロSDカードを付けた首輪を着けたかについては、その場面の防犯カメラ映像があるかは分かっていない。NHKなどの報道では、片山容疑者がバイクで江の島に行ったときが首輪を着けた時間と同じなどの状況証拠が上がっているだけだ。
弁護人を務める佐藤博史弁護士は、こうした観点から、片山容疑者のえん罪を確信している様子だ。処分保留を受けて、記者団に「現時点では起訴できる証拠はない、ということ。検察は正しい判断に一歩近づいた」と明かした。
このタイミングに合わせたかのように、ネット上では、「真犯人」を名乗る書き込みがあり、波紋を呼んでいる。
■大澤孝征弁護士「まとめて起訴するはず」
片山祐輔容疑者が使っていたと報じられた匿名化ソフト「Tor」をうたう掲示板スレッドで2013年3月3日、片山容疑者が誤認逮捕の5人目となる狙い通りだと告白したのだ。スレ上でその信憑性に疑問が上がると、証拠をアップロードしたという書き込みがあった。
ただ、そのファイルは「釣り」だったとの報告もある。犯人になりすました便乗犯の疑いが指摘されており、真相は不明だ。
「真犯人」のメールを受け取っていた落合洋司弁護士は4日、またメールが来たかどうかをツイッター上で聞かれ、「まったく来てないです」と答えている。
一方で、片山容疑者の処分保留については、「今のところ決め手の証拠には欠けるから」ではないかとの見方を示した。3日のブログでは、その理由を詳しく説明している。
それによると、別件で再逮捕して双方の証拠を総合して起訴に持ち込むことは時々あるとしながらも、遠隔操作事件では、複数の事件の証拠関係はかなり重複しており、再逮捕しても新たなものが出てくる可能性は低い。落合弁護士は、こうしたことから、「証拠収集が遅々として進んでいない、ということにはなる」とし、既存の証拠をいかに評価して起訴に踏み切れるかが、今後の焦点になると言っている。
検事出身の大澤孝征弁護士は、取材に対し、処分保留のまま捜査を続けることはおかしなことではないとして、こう解説する。
「起訴してから再逮捕するのが普通と考えるかもしれません。しかし、この事件は、誤認逮捕した経緯があり、容疑者本人が否認して取り調べにも応じていません。ですから、検察も恥の上塗りになってはいけないと慎重になっているわけです。状況証拠で起訴するには不十分であり、FBIの捜査情報など、ほかの証拠を見極めたうえで、総合的な判断からまとめて起訴しようと考えているはずですよ」
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遠隔操作2件で片山容疑者を再逮捕 否認の供述
日本経済新聞2013/3/4 1:52
パソコンの遠隔操作事件で、警視庁などの合同捜査本部は3日、大阪府の男性のパソコンを遠隔操作して2件の犯罪予告をしたとして、IT関連会社社員、片山祐輔容疑者(30)=威力業務妨害容疑で逮捕=を偽計業務妨害とハイジャック防止法違反(航空機の運航阻害)の疑いで再逮捕した。捜査本部によると、「身に覚えがない」と容疑を否認している。
再逮捕容疑は昨年7月29日、ウイルスに感染した大阪府吹田市の男性(43)のパソコンを遠隔操作し、大阪市のサイトに大量殺人予告メールを送ったほか、同8月1日、日本航空に成田空港発の航空機の爆破予告メールを送り、同機を成田に引き返させた疑い。
吹田市の男性は大量殺人予告メール事件で誤認逮捕、起訴され、その後起訴が取り消された。
捜査関係者によると、遠隔操作ウイルスの保管先だった米国のサーバーには、事件で使われた複数のバージョンのウイルスが見つかり、吹田市の男性のパソコンから復元されたウイルスも確認された。これらのウイルスには片山容疑者が派遣先で使っていたパソコンで作られたことを示す情報が残っていた。
片山容疑者は逮捕後、一貫して否認。録音・録画を求めて取り調べを拒否している。
◇
東京地検は3日、愛知県の会社のパソコンを遠隔操作して大量殺人予告を掲示板に書き込んだ威力業務妨害容疑について、処分保留とした。同地検は「一連の事件の特殊性に鑑み、なお一層の慎重な捜査が必要と考えた」としている。
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PC遠隔操作事件:「可視化して捜査を」、聴取ストップに弁護側/東京高裁
カナロコ 神奈川新聞2013年2月26日
パソコン(PC)遠隔操作事件で、威力業務妨害の疑いで逮捕されたIT関連会社社員片山祐輔容疑者(30)は26日、東京地裁(岩田澄江裁判官)であった勾留理由開示の法廷で意見陳述し「事件とは一切関係ありません」と無実を主張した。
法廷での意見陳述で、自らの潔白を主張した片山容疑者。一方、取り調べが止まっている現状について、弁護人の佐藤博史弁護士は閉廷後、「片山容疑者は、録音・録画されれば応じると言っている。可視化を基にした捜査で、徹底的に調べてもらいたい」と主張した。
弁護側によると、逮捕から1週間後の17日、同容疑者は取り調べの録音・録画を担当検察官に求めたが拒否され、その後は応じていないという。ただ、佐藤弁護士は「黙秘権の行使は考えていない」と話す。
数日前に接見した際、同容疑者は「取り調べがなくなり、嫌疑を晴らす機会が与えられていない。この状況で起訴されてしまうことがあるのか」と不安を口にしたという。
佐藤弁護士は「容疑者の供述には、客観的証拠からは分からないことも含まれる。録画をしないことを理由に尋問をせず、結論を出すような愚かなことはしないでほしい」と訴えた。
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◆ 「強すぎる検察の力」木谷明 最終講義/小沢一郎氏への検察の対応は重大な人権侵害〜政治生命を傷つけた 2012-08-12 | 政治/検察/裁判/小沢一郎/メディア
「強すぎる検察」の力とは
【私説・論説室から】東京新聞2012年8月6日
「強すぎる検察(検察官司法)と裁判員制度」と題する冊子を弁護士の木谷明さんから頂戴した。
元刑事裁判官で、法政大学法科大学院教授を今春、退官し、その最終講義をまとめたものだった。
木谷さんは裁判官時代に「無実の人を罰しない」ことに傾注し、無罪判決を数多く出した人として、法曹界で知らぬ者はいない。
冊子の中で、検察官と被告人の関係を「もっている武器がまるで違う」と記し、「大砲と空気銃」と比喩した。国家権力を背景にあらゆる証拠を集める権限が、検察官にはあるのに、被告人にはないからだ。
トランプにもたとえた。「検察官はエースやジョーカー、キング、クイーン」を独り占めにしている。それに対し、被告人側は「普通の札を二、三枚持っているに過ぎない」のだ。
トランプの札とは証拠のことだ。裁判員制度導入に伴って、ある程度、証拠を開示する仕組みはつくられたが、全面的な開示とは程遠いのが現状である。
木谷さんはこう綴(つづ)る。「検察官が弁護人の想像もできないような被告人に有利な証拠を隠し持っていたような場合に、その証拠を出させる方法がない」
冤罪(えんざい)事件が相次いでいる。東電女性社員殺害事件でも、ネパール人男性の再審開始が決定した。無実の人を罰しないためには…。証拠の全面開示、せめてリスト開示制度を採用するしかあるまい。 (桐山桂一)
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特集ワイド:「小沢元代表は推定有罪」の罪
毎日新聞 2012年04月27日 東京夕刊
資金管理団体「陸山会」の土地購入を巡り、政治資金規正法違反(虚偽記載)で検察審査会の議決により強制起訴された民主党の小沢一郎元代表(69)に下された判決は無罪。剛腕、壊し屋などダーティーなイメージがある政界実力者なだけに、検察も、民主党も、そしてメディアも、「推定有罪」で小沢元代表を遇してはこなかったか。【瀬尾忠義】
■検察は
◇制度悪用の疑念ぬぐえず−−木谷明さん(元裁判官)
裁判の過程で、小沢元代表の元秘書の衆院議員、石川知裕被告への再聴取で、田代政弘検事が虚偽の捜査報告書を作成し、検察審査会に提出したことが明らかになっている。つまり検察は自らの手を汚さないで、検察審に元代表を強制起訴させたと見られても仕方がない事案だ。検察審は、検察が提出した捜査報告書をウソだとは思わない。もし、検察審が起訴議決すると検察側が見越していたとするならば悪質で、制度を悪用したと言える。無罪判決は当然のことだろう。
元代表に対する検察の対応は重大な人権侵害だ。検察は自らのストーリーに沿った事実とは違う調書を作成することに抵抗感がなくなっているように感じられる。地検の取り調べや強制起訴で、元代表は首相になるチャンスを失ったのかもしれず、政治生命を傷つけられたと言える。
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◆ 正義のかたち:裁判官の告白/2 木谷明さん、30件超す無罪判決 2008-04-13 | 死刑/重刑/生命犯 問題
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◆ <足利事件・再審確実で釈放>菅家利和さん 2009-06-06 | 社会
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◆ 「村木さんの事件は例外じゃない。鈴木宗男さんも本当なら無罪だ」特捜部という組織、捜査の手法が問題だ 2010-09-29 | 政治/検察/裁判/小沢一郎/メディア
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【PC遠隔操作事件】 佐藤博史&木谷明弁護士が片山祐輔容疑者を「真犯人でない」と主張
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