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ニュースの未来 マスメディア以前の時代への回帰

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ニュースの未来 マスメディア以前の時代への回帰
JBpress2011.07.11(Mon)The Economist (英エコノミスト誌 2011年7月9日号)
 ニュース業界はインターネットに導かれ、マスメディア誕生以前の会話の文化の時代へと戻りつつある。
 今から300年前、ニュースは口頭や手紙で伝えられ、酒場やコーヒーハウスでパンフレット、ニュースレター、チラシといった形で広まった。「特にコーヒーハウスは、自由な会話を楽しむために、そして多種多様なニュース印刷物を気安く読むために、非常に適した場所だ」と当時の人が書いている。
 すべてが変わったのは1833年のことだ。この時、最初の大衆向け新聞であるニューヨークの「サン」紙が、広告を利用してニュースのコストを下げる方法を開拓した。これで、広告主は広範な読者に宣伝ができるようになった。
 当初、米国で最も売れている新聞の発行部数は1日4500部だったが、サン紙は蒸気機関で稼働する印刷機の導入で、まもなく1日の発行部数が1万5000部に達した。
 こうした大衆向けの「1ペニー新聞」は、後発のラジオ、テレビとともに、ニュースを双方向の会話から一方向の大量伝達に変え、比較的少数の企業がメディアを支配する状況を生んだ。
 だが今、本誌(英エコノミスト)の特集記事が解説するように、ニュース業界はコーヒーハウスに近いものに回帰しつつある。インターネットによってニュースはこれまでよりも直接参加型で、社会的で、多様かつ党派的なものに変容し、マスメディア登場前の談話的な気風が復活している。このことは、社会と政治に深い影響を与えるはずだ。
 
開拓時代
 世界の大半の地域ではマスメディアが繁栄している。世界の新聞の総発行部数は、2005年から2009年までに6%増加した。これは、毎日1億1000万部が売られるインドのような国の特に強い需要に支えられたものだ。
 だが、そうした世界全体の数字の陰で、先進諸国の読者数は急減している。
 過去10年間で、西側諸国全体で新聞離れ、テレビニュース離れが進み、人々は根本的に異なる方法でニュースを知るようになってきた。とりわけ際立つのが、一般の人々がニュースの集積、共有、選別、議論、配布にかかわるようになった点だ。
 ツイッターのおかげで、利用者はどこにいても自分が見ているものをリポートできるようになった。無数の機密文書がオンラインで公開されている。
 携帯電話で撮影されたアラブの民衆蜂起や米国の竜巻の動画がソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)サイトに投稿され、それがテレビのニュース番組で流される。
 日本で地震が起きている最中に撮影された素人ビデオは、ユーチューブ上で1500万回も閲覧された。
 「クラウドソーシング(crowdsourcing)」のプロジェクトで集まった読者とジャーナリストが協力し、英国の政治家の費用請求書からサラ・ペイリン氏の電子メールまで、様々な文書を精査している。SNSサイトは、人々がニュースを見つけ、友人と論じ、共有するのに役立っている。
 メディア界のエリートに挑戦しているのは読者だけではない。グーグル、フェイスブック、ツイッターなどのハイテク企業も、ニュースの伝達経路として重要な存在になってきた(重要になりすぎたと警戒する声もある)。
 米国のバラク・オバマ大統領やベネズエラのウゴ・チャベス大統領をはじめ、各国の指導者や有名人たちもSNSを通じて近況を直接公表している。多くの国が「開かれた政府」の取り組みを通じて生のデータを公開している。
 インターネットにより、世界中の新聞やテレビ番組を読んだり見たりできる。英国紙ガーディアンのオンライン読者は今や、英国内よりも国外の方が数が多い。ウェブのおかげで、個人のブロガーからハフィントン・ポストのようなサイトまで、ニュースの新しい送り手がごく短い期間で名を知られるようになった。
 ウェブはまた、ウィキリークスが実践しているように、内部告発者に匿名で文書を公表する方法を提供するなど、ジャーナリズムの全く新しいアプローチを可能にした。ニュースで取り上げるトピックスは、もはや、少数の大手報道機関とBBCのような国営メディアによって管理されるものではなくなった。
 原則としては、すべての自由主義者はこうした状況を祝福してしかるべきだろう。目覚ましい多様性と広範なニュースソースに裏づけられた直接参加型で社会的なニュース環境は、素晴らしいものだ。
 
偏った報道を乗り越える個人
 かつて世界を解釈するのにヒューストン・クロニクル紙に頼るしかなかったテキサス人は、今や無数のソースから情報を収集できるようになった。
 権威主義に頼ってきた世界中の支配者たちは恐怖を募らせている。それを思えば、ジャーナリストのキャリアが不安定になったとしても、それがどうしたというのだ、と言う人は多いだろう。しかしそれでも、懸念すべき大きな問題が2つある。
 最初の懸念は、権力を有する者の責任を追及する「アカウンタビリティ・ジャーナリズム」の喪失だ。印刷メディアでは、収益の縮小に伴い、調査報道や地方政治記事の量と質が落ちている。
 しかし、古いスタイルのジャーナリズムも、決してジャーナリストが自負したがるほど道徳的に高潔というわけではなかった。実際、個人の携帯電話に不正アクセスしていた事実が発覚した英紙ニューズ・オブ・ザ・ワールドはまさに伝統的なゴシップ紙だった。
 その一方で、インターネットは新しい形の説明責任を生み出している。プロパブリカ、サンライト・ファウンデーション、ウィキリークスのような非営利団体が成長し、監視メディアの衰退によってできたすき間を埋めるのに貢献している。
 これはまだ進行中の取り組みだが、現段階の行動と実験のレベルから、楽観的な見通しを持つことができる。
 第2の懸念は、党派心と関係がある。マスメディアの時代には、地域を独占する媒体は、読者と広告主に対する魅力を最大化するために、往々にして比較的中立を保つ必要があった。だが、競争が激化する世界においては、人々の偏見を増幅させる場を作るところにカネが生まれるように思われる。
 実際、保守系の米有線ニュースチャンネル「フォックス・ニュース」が生み出す利益は、比較的穏健なライバルであるCNNとMSNBCを合わせた利益を上回っている。
 党派的に偏ったニュースが入手しやすくなるというのは、一面では歓迎されるべきことだ。これまで、自身の見解を反映した番組を全く観られなかった人も多い。特に右派の米国人は、米国のテレビ局の大半は左寄りだったため、そのような手段を持たなかった。
 しかし、ニュースの独断的傾向が強まるにつれ、政治と事実の両面で弊害が生じている。米国の保守派の一部がオバマ大統領が米国外で出生したと主張したり、増税が不可欠だと認めることを拒んだりするのを見れば分かる。
 打つべき手が何かあるだろうか? 社会的なレベルでは、それほど多くはない。ニュースビジネスの変容は止められないし、逆戻りさせようと試みても必ず失敗する。だが個人のレベルでは、いくつかの手段でこれらの懸念を和らげることができる。
 新しいジャーナリズムの作り手として、個人は事実にきちんと向き合い、情報源を明確にすることができるだろう。またニュースの消費者として、嗜好を幅広く保ち、高い基準を求めることができる。
 ニュースビジネスの変容には確かに懸念すべき面はあるが、雑音と多様性と騒々しさと論争とあくどいほどの活力に満ちたインターネット時代のニュースビジネス環境には、祝福すべき多くの要素がある。古き良きコーヒーハウスが帰ってきた。存分に楽しもうではないか。

上杉隆のTwitter(ツイッター)で世界を変える2011-02-21 | 社会
上杉隆のTwitter(ツイッター)で世界を変える  
 本連載では、上杉隆氏が豊富な知見を基に、Twitter(ツイッター)が社会に何をもたらしているのか、その現象を読み解きます。第1回は、2008年の米国大統領選挙におけるツイッターの台頭。選挙戦の取材当時の様子を交え、ツイッターがマスメディアに与えた衝撃とその後の世界への伝播を、現場での実感と共に振り返ります。
第1回 Twitter(ツイッター)の衝撃  
マスメディアを襲った激震
 ツイッターなどのマイクロメディアの登場によって最も激震を受けたのは既存のマスメディアであった。
 これまで自身のメディアを持たなかった政治家などの情報源と、受け手である市民・国民が直接結ばれてしまったのだ。
 それは長い間、「媒体」(メディア)として、情報を独占し続けてきたマスコミの存在そのものを脅かすものとなった。
 このツールの有効性に気づいた政治家たちの反応は速かった。いつも自分たちを批判ばかりしている既存のマスメディアを無視して、フェイスブックやツイッターなど直接的に有権者と結ばれるメディアを選択し、実際に使い始めたのだ。
 一方で、マスメディアはいつも奇麗ごとばかりで何も真実を伝えていない、という不満を抱いていた多くの国民も進んでこのマイクロメディアを活用し始めた。テレビや新聞などで加工された情報よりも、情報源の直接の声を知ろうと、ツイッターなどに集中したのだ。
 こうやって人類史上類を見ない徹底的な情報の「中抜き」が広がると、既存メディアはすぐに白旗を掲げた。そして、手を差し伸べ、ともに歩む道を模索し始めたのである――。
 これは未来の物語ではない。2年前の米国で実際に起きていた現象だ。
 2008年、筆者が米国大統領選挙を取材する中で何より驚いたのは、こうしたツイッターなどのマイクロメディアの台頭であった。
 民主党のオバマ候補(当時)は、自身のツイッターなどで遊説日程を公表し、副大統領候補を発表し、政治献金をかき集めていた。それをニューヨーク・タイムズやCNNなどの既存メディアが後追いし、マイクロメディア発のニュースを伝えた。また、結果としてオバマ大統領もどの候補よりも多額の献金を集めた。
 筆者もその衝撃を実感したジャーナリストの一人だった。ビクトリースピーチの行われる会場がシカゴのグラントパークであることをいち早く知り、広場前のホテルを予約できたのもツイッターのおかげである。また副大統領候補にバイデン上院議員を指名したのを知ったのもオバマ氏のブログだ。それらはともにCNNの報道よりも速かった。
 オバマ支持者も積極的にマイクロメディアを活用した。投票日には「イエス・ウィー・キャン」の合言葉の下、必ず投票に行くようにフェイスブックやツイッターユーザーに呼びかけたのだ。
 こうした「中抜き」の伝播力は既存のメディアの影響力を超えていたのかもしれない。その変化を察知した既存メディアの動きも速かった。
 CNNはユーチューブなどと連携して合同の大統領討論会を開催し、ニューヨーク・タイムズもウェブ版の記事にツイッターやフェイスブックをリンクさせ、記者一人ひとりにアカウントを取得させた。
 こうやって米国ではいち早く、新聞・テレビなどのマスメディアとユーチューブやツイッターなどのマイクロメディアが融合する広大なメディアの世界が広がったのだ。
世界に伝播する衝撃
 こうした動きはすぐに世界に広がった。
イランの民主蜂起、モルドバの反政府デモ、タイの反政府暴動も、ツイッター上の呼びかけに応じて、市民が勝手に連帯し、自然発生したものである。
 イギリスの総選挙でもキャメロン首相とその夫人がツイッターを多用し、チベットのダライ・ラマやロシアのメドベージェフ大統領もツイッターで頻繁につぶやき、自らの正当性を訴えることに成功している。
 こうしたマイクロメディアの台頭によって、いまや世界は大きく変化している。
 ところが、日本だけはこの変化に完全に乗り遅れてしまった。それは、日本政府の無理解と既存マスメディアの自己保身によるものである。
 政治家の多くはいつものように新しい変化についていけなかった。官僚は既得権益を守るため、海外の変化を直視しようとしていない。そして本来はこうした情報を伝えるべき肝心のマスメディアは自らの存在が脅かされると勘違いして、ツイッターなどのマイクロメディアを排除、事実上、黙殺してしまったのである。
 ツイッターは権力と国民を直接結ぶのみならず、その関係をフラット化してしまう前代未聞のメディアツールである。
 たとえば、フォロワー60万人超の元首相とフォロワー10人の一般市民のつぶやきが、RT(リツイート)機能によって同等の影響力を持つこともある。
 これはメディア革命であると同時に、日本の情報鎖国状態を変える社会革命である。
 次回以降は、現在進行中のこの「社会革命」のドキュメントを詳細に報告する。
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第2回 メディアを変えるTwitter(ツイッター)の可能性  
 本連載では、上杉隆氏が豊富な知見を基に、Twitter(ツイッター)が社会に何をもたらしているのか、その現象を読み解きます。ツイッターはその台頭とともに、世界中に衝撃を与えながら、瞬く間に広がりました。そして今や、新たなメディアツールとして、既存メディアを飛び越えようとしている――。第2回では、日本のメディア業界においてマイクロメディアが起こしてきた変革の流れと、ツイッターが持つ可能性に迫ります。
押し寄せるメディア革命の波
 過去様々なマイクロメディアが登場し、その都度、日本の既存メディアは肝を冷やしてきた。
 記者クラブ制度を中核とした日本のメディア業界は、世界に類を見ない特殊なシステムを構築している。
 端的にいえば、過去半世紀、一つの新規参入も認めず、一つの倒産も出さないというまれな「カルテル」を形成して、自らの既得権益を守り続けているのだ。
 だが、当然ながら、そうした「談合組織」の強固な壁にも、穴を開けようとする挑戦者が登場した。それは時代の趨勢であり、またそのほとんどが、通信分野からのチャレンジであった。
 1998年、ソフトバンクの孫正義氏とルパート・マードック氏の連合軍はテレビ朝日と朝日新聞を脅かした。2005年には、ライブドアの堀江貴文氏がニッポン放送とフジテレビに手を差し伸べた。
 通信メディアの先駆者によるこうした動きのほかにも、何度も記者クラブの「カルテル」は揺さぶられている。
 最初は、西村博之氏の「2ちゃんねる」だった。情報が流出するとして、保守的な霞が関の官僚と一体となって取り締まりを強化し始めたのだ。
 その次は「ユーチューブ」であった。通信動画という圧倒的な情報を持つメディアが既存メディア、とりわけテレビの存在理由を脅かしたのだ。
 マイクロメディアの誕生によるこうした動きは止まらなかった。世界中で勃興するメディア革命の波に日本も飲み込まれようとしている。
 だが、既存メディアはそうした現実を直視しなかった。マイクロメディアが発生する度に、「果たして今度のメディアは自分たちの潜在的な脅威になり得るかどうか」を判断し、決まりきった対応をするのであった。
 「Eメール」「ミクシィ」「ブログ」などは安全パイだとされた。自分たちの存在を脅かすに当たらないという評価を受ける。よって、記者クラブメディアは積極的に取り込むか、共存しようとした。
 ところが、「2ちゃんねる」「ユーチューブ」は違った。それらが自らの脅威になる可能性があることを察すると、いつものように黙殺という手段で排除し始めたのだ。
 それは98年と05年の教訓を学んでいないことの証明になった。
 先ほど筆者はあえて「ホリエモンから手を差し伸べた」と書いた。その理由は、台頭してきたマイクロメディア(通信メディア)が放送業界と融合することで、結果としてメディア全体の「救いの手」となることを知っていたからである。
 既に世界中でそうした融合が起こり、巨大なメディア空間が誕生し始めていた。
 だが、記者クラブメディアが、「2ちゃんねる」を巨大掲示板と呼び、「ユーチューブ」を「動画投稿サイト」と称したことでその可能性は消えた。既存メディアはまたしても、自ら滅亡の道を選択したのだ。
新種のメディアツール「ツイッター」
そうした時に現れたのが「ツイッター」であった。当初、「ツイッター」は「簡易ブログ」あるいはまた「ミニブログのようなもの」と呼ばれた。固有名詞を使わないことで、愚かな抵抗を試みたのである。
 ところがそうした欺瞞は、ツイッターの威力の前にひとたまりもなかった。
 オープンリソースによって誰もがアクセスし、システム付加のできる状況にあり、しかも無料だということで広がったのだ。
 さらにビッグネームがつぶやきだしたことで、「簡易ブログ」などという匿名にする意味もなくなってしまったのだ。
 また、利用者が知らぬ間に、記者クラブメディアの守ってきた既得権益に食い込むといった現象も発生した。
 例えば、ビッグネームである孫正義氏に、iPhoneの一ユーザーが環境不備をツイッターでつぶやいた途端、ソフトバンクが対応したというようなことが起こる。
 フォロワー10万を超える原口一博総務大臣(当時)が、記者会見の前に政務三役会議の完全公開をツイッターで告知し、そこにフリーランスの記者たちが参加する。
 こうしたことは他のマイクロメディアでも不可能なことだった。それはツイッターが双方向性以上の共時性、さらには即時性と拡散力を伴った新種のメディアツールだからだと思う。
 もちろんツイッターといえども万能ではない。とりわけ、それ単体で利用する場合には決して強力なメディアとはいえない。ところが、他のメディアと融合することで状況が変わってくる。驚異的な触媒作用が発揮されて、既存メディアの存在を無視するほどの役割を果たすようになるのだ。
 ツイッターは日本で「つぶやき」といわれることから、アウトプットツールに見られがちだ。だが、むしろインプットメディアとして有効である。
 既存メディアでも映像メディアでも、他のメディアと融合(リンク)させることで、広大な世界が広がるように設定されている。
 インプットメディアとしてのツイッターの有効性を知れば、その魅力に気づくはずだ。次回はその秘密に迫る。
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第3回Twitter(ツイッター)の正しい「使用法」
 本連載では、上杉隆氏が豊富な知見を基に、Twitter(ツイッター)が社会に何をもたらしているのか、その現象を読み解きます。日本でも大きな広がりを見せ、メディアにも影響を与えるツイッターですが、ユーザーの誰もが十分に活用できているでしょうか? 第3回では、「インプットツール」としてのツイッターならではの使い方とその魅力に迫ります。
情報のインプットツールとして使う
 日本でもユーザー数1000万人を超えたツイッターは伝統的な記者クラブメディアにとって最大の脅威になりつつある。
 それは「尖閣ビデオ」におけるツイッターの果たした役割を振り返れば、すぐさま合点がいくだろう。
 実は、一人の海上保安官のリークによってユーチューブ上にアップされた「尖閣ビデオ」は、ユーチューブによって広がったのではない。そもそもユーチューブを日常的に眺めている人々は少数であるし、ユーチューブ自体にそれほどの伝播力はない。
 実はその夜、ユーチューブにアップされた「尖閣ビデオ」は、ツイッターという経路を触媒としてインターネット中をたどり、結果、日本中に伝播していったのだ。
 日本ではかつて、そうした役割を「ブログ」「ミクシィ」、あるいは「2ちゃんねる」などのネットメディアが担っていた。だが、今やツイッター独りでそれらすべてのマイクロメディアを凌駕するかのような影響力を持っている。
 もちろんツイッター単体での発信力は強くない。今回でいえば「ユーチューブ」と融合することで、圧倒的な拡散力と、驚異的な伝播力を発揮したのだ。
 そうしたメディアを経由して、既にネット上では「尖閣ビデオ」の詳細が広く認知された朝5時、初めてフジテレビが<速報>として伝えたのであった。
 もはや、既存メディアは太刀打ちできない状況に追い込まれている。換言すれば、既存メディアで速報ニュースを知る日本人の習慣は、時代遅れになってしまっているのである。
 これほどまでに有効なツールであるツイッターだが、もちろん否定的な声がないわけではない。
 「ツイッターに飽きてしまった」
 「つぶやきの面白さが分からない」
 「フォロワー数の多い人のメディアだろ」
 こうした声を耳にすることは少なくない。
 だが、こうしたことを述べる人々は、きっとツイッターの「取扱書」を読み間違えているか、あるいは「使用法」を誤っているかのどちらかである。
 ツイッターはそもそもアウトプットではなく、インプットメディアである。
 ごく一部の超ビッグネーム、例えばオバマ米大統領やメドベージェフ露大統領などだけが、政治的なメッセージを伝達するためにアウトプットツールとして使っているにすぎない。
 だが、それはごく一部の例外であり、世界中のほとんどのユーザーが、意識的に、あるいは無意識のうちに情報インプットの道具としてツイッターを使用しているのである。
 そして、それこそがツイッターの正しい「使用法」であり、楽しみ方である。
誰もが歴史の目撃者になる
 例えば、最近のニュースから例を挙げてみよう。
 米国務省の外交公電を暴露したウィキリークスの情報を得るのに、テレビ・新聞を見たり読んだりした人は、残念ながら世界の情報を得る波に完全に乗り遅れたことになったはずだ。
 なぜなら、日本ではこのニュースの真の中身はほとんど伝えられておらず、その間、一人の歌舞伎役者の狼藉事件のニュースを繰り返し流していたからだ。
 一方でツイッター上では違った。創設者ジュリアン・アサンジ氏自身のつぶやき、彼の逮捕後はウィキリークスのツイートが直接、今起きている事件を知らせてくれる。しかも日本語に翻訳してくれるアカウントも登場している。
 また、アサンジ氏を目の敵にする米政府では、クリントン国務長官が「断固たる措置を取る」とツイッターで宣言したり、ギブズ大統領報道官がウィキリークスに発した「警告」を直接読むことができる。
 さらに、ラッド豪外相(元首相)がツイッター上でアサンジ氏支持を表明したり、メドベージェフ露大統領が「アサンジにノーベル平和賞を!」とつぶやいたりするニュースも目にすることができる。
 そして、マスターカードやビザカードが、ウィキリークスの決済を停止した途端、「謎のハッカー集団」からの攻撃を受け、同じくアサンジ氏を起訴したスウェーデンの検察のサイトが停止に追い込まれたりしているのも確認できる。
 特筆すべきは、そうしたニュースの瞬間(!)を、ツイッター上で誰でも目撃することができるということである。
 つまり、こうしたニュースソースのツイッター上のアカウントをフォローさえしておけば、「史上初のサイバー世界大戦」を、自分のタイムライン上に表し、歴史の目撃者になることもできるのである。
 現在、起こっている「戦争」を直接、目撃することができる。これ以上、刺激的なことがいったいどこにあるというのだろうか。
 ツイッターが面白くないという人は、それをアウトプットメディアとして使おうとしているのだろう。ツイッターを楽しむためには、「使用法」の勘違いを解くしかない。
 つまり、「つぶやき」という発想を逆転させて、それをインプットツールとして使うか、あるいはまた、オバマ米大統領並みの知名度と権力を獲得するか、そのどちらかである。
 どちらがより合理的な選択かは、言わずもがなであろう。
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第4回 Twitter(ツイッター)が「新聞」になる
本連載では、上杉隆氏が豊富な知見を基に、Twitter(ツイッター)が社会に何をもたらしているのか、その現象を読み解きます。情報を得るための「インプットツール」としての使い方にこそ、大きな魅力があるツイッター。第4回では、ツイッターの可能性と特徴を踏まえ、質の高い情報を得るための具体的な使い方を紹介します。
ユーザーの一人ひとりが編集長
 ツイッターの最大の特徴は、情報インプットの道具としての秀逸さにある。
 各人の設定によってパソコンや携帯の画面に現れる「タイムライン」は、個人が自由に編集できる「新聞」である。
 自分の趣味に、あるいは仕事に、関心のあるアカウントをフォローしさえすれば、簡単に手に入る24時間更新可能な「新聞」なのである。
 あなたは編集長だ。気に食わないつぶやきがあれば、クリック一つでフォローを解除すればいい。何かの都合で相互フォローしており、相手との関係を損ねたくなければ、アカウントの脇にあるリターンマークを押せばいい。相手に気づかれずに自分のタイムライン上から消すことができるだろう。
 さらにファイリング機能を使えば、より効率的な「業界紙」に変えることも可能だ。
 つまり、ツイッターとは、ユーザーの数だけ、この世の中に「新聞」が存在することになった、人類史上初のメディアなのである。
 前回までは、専らツールとしての効用について解説した。今回からは事例を挙げるなどして、より具体的にツイッターの世界に皆さんを誘おう。
「ハブ」となるアカウントをフォローする
 『フォロワーの多いアカウントはハブ化する傾向にある』
 まずは、水道橋博士(@s_hakase)の提唱したツイッター上のこの特徴を頭に入れるといいだろう。フォローするアカウントを決定する上での一助になるはずだ。
 例えば、ICTビジネスに興味があれば、孫正義氏(@masason)、堀江貴文氏(@takapon_jp)、三木谷浩史氏(@hmikitani)などの業界のカリスマ的存在をフォローすることをお勧めする。
 彼らのつぶやきが高度な一次情報であるのは言わずもがな、彼らがRT(リツイート)することで拡散し、知り得る他者のつぶやきも貴重な情報になるのだ。
 ただし、彼らのようなビッグネームは、たぶんに自らの宣伝に走る傾向がある。
 そうした意味では、より客観的でICT情報のハブとなっている津田大介氏(@tsuda)、佐々木俊尚氏(@sasakitoshinao)、小林弘人氏(@kobahen)、林信行氏(@nobi)などのジャーナリストたちのツイッターをフォローした方がいいかもしれない。
 つまり、ビッグネームであれば必ずしも優良なハブになるわけではなく、故に必ずしも重要な情報を提供してくれるというわけでもないのだ。それがまたツイッターの面白いところでもある。
 例えば、ICT業界以外では無名の林信行氏は、前述の3人のフォロワー数よりも圧倒的に多いことなどが象徴的な例だ。
 鳩山由紀夫前首相(@hatoyamayukio)のように、単にフォロワー数が多いということだけでは意味がない。ある程度の発信力があり、RT機能を多用し、情報を拡散する意思のあるツイッターの方が、情報の交差点(ハブ)的な役割を担うアカウントになる可能性が高いのだ。
 あなたがツイッターをインプットメディアとして利用したいのならば、まずはそうしたアカウントをフォローすることをお勧めする。そして、ハブ化されたアカウントを上手に組み合わせることで、優秀な「編集長」にもなれるのである。
 例えば堀江貴文氏もこう言う。
 「分野ごとにハブとなる優秀なアカウントを、一つずつフォローしていれば、全部それで済んじゃうんですよ。その優秀なアカウントを追っていれば、必要な情報はそこを経由して全て入ってくる。仮にそのアカウントが触れない情報ならば、それは大した情報ではないということです。つまり、優秀なアカウントをフォローすれば、クズ情報も自然に選別してくれるということです」
 最近では、利用者のフォローすべきアカウントを教えてくれるお勧めユーザー機能も付加された。こうして原稿を書いている間にも、便利な機能が次々と誕生している。こうして機能が更新されるのも、ツイッターの利点の一つでもある。
 利用者1200万人を超える日本では、今日も新たなアカウントが生まれている。もはやツイッターは「部数」の上でも新聞以上の強力なメディアになろうとしている。ユーザーにしてみれば、使い方によっては既存のメディアを上回る、圧倒的に高い質と大量の情報を、容易に手にすることができるツールになってきているのだ。
 ツイッターを使いこなすためには、ある程度の知識が必要である。次回は、自らの情報リテラシーを高め、立派な「編集長」となる上での必須のツイッターアカウントを紹介する。
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第5回 自分だけの「Twitter(ツイッター)新聞」を作る
 本連載では、上杉隆氏が豊富な知見を基に、Twitter(ツイッター)が社会に何をもたらしているのか、その現象を読み解きます。ツイッターを情報のインプットツールとして使いこなせば、まるで自分だけの新聞のように活用できます。そこではユーザーの一人ひとりがまさに編集長に。第5回では前回に続いて、優秀な編集長になるために欠かせない、情報を得るための具体的な使い方を紹介します。
まずは有名なアカウントをフォローする
 フェイスブックのユーザーが6億人に迫る勢いだ。世界的なソーシャルメディアとしてはツイッターと比肩するフェイスブックだが、日本ではまだまだ爆発的な広がりというわけにはいかないようだ。
 なぜか。それはなんといっても緩やかな匿名性の担保されているツイッターの方が、日本人の国民性に合っていると指摘するほかないだろう。
 ツイッターは比較的、自己防衛のしやすいメディアである。タイムラインの設定次第で、事実上「炎上(集中的な非難)」を消すこともできる。
 そうした機能に安心感を見出し、日本の人口の10分の1にも当たる約1200万人ものユーザーが、ツイッターを楽しむということになっているのではないか。
 そうしたメディアとしての特性からだろうか、日本におけるツイッターアカウントには、匿名性を維持しながらも、極めて秀逸なものが少なくない。これは世界でも稀な傾向ではないか。
 前回、お知らせしたように、優秀なツイッター新聞の「編集長」になるためには、認知度は低いながらも、有用なその種のツイッターアカウントを発掘する力が欠かせない。
 幸いなことに、有名アカウントをフォローすることはそれほど難しくない。例えば、情報インプットに不可欠なニュースサイトはツイッター上に多数存在している。それらのいくつかをフォローするだけで、相当の情報を得ることができるだろう。
 また、英語が読めて海外のツイッターをフォローできれば、さらに世界は広がるに違いない。
 メジャーなアカウントについては、お勧めユーザー機能のサービスを受けることで、より効果的な「編集」も可能となる。
 そのサービスは少しも難しいことはない。誰もが自らのツイッターアカウントを作成すると同時に、この便利なサービスを自動的に受けられることになるのだ。
 例えば、蓮舫行政刷新担当大臣(@renho_sha)や原口一博前総務大臣(@kharaguchi)をフォローすれば、その後、あなたのPC画面には、日本の政治家の大概のアカウントが表示されることになるだろう。
 また、NHKや朝日新聞などの報道機関のアカウントをフォローしておけば、日常に不可欠な情報のほとんどは手に入れることができるだろう。
 そうしたメディア企業の多くが複数のツイッターアカウントを持っており、多様なニーズに応えようとしている。
 これでは、新聞が要らなくなってしまうのではないか、と心配に思える程、その種のアカウントは日々増えている。また、そのツイート自体も楽しく、そして親切でもある。
 あなたがショービジネスの世界に関心を持つのならば、例えばブリトニー・スピアーズ(@britneyspears)や浜崎あゆみ(@ayu_19980408)をフォローすると良いだろう。その後、同じように、お勧めユーザーリストに世界中のアーティストやタレントのアカウントが現れることになるからだ。
 このように、ビッグネームのツイッターをフォローすることで、同種のアカウントが次々と紹介され、充実したタイムラインを作る仕組みができているのである。
二つとない自分だけのタイムラインを充実させる
もちろん、自分だけの「ツイッター新聞」のある程度の部分は、この方法で作成することができる。だが、タイムラインを充実させ、さらに優秀な「編集長」になるには、まだ足りないことがある。
 それは、無名に近いながらも、秀逸なアカウントをどのように発見し、いかにフォローリストに加えることができるかどうかにかかっている。
 ところが、何のアカウントが重要であり、かつ有効であるかどうかは、おのおののツイッターユーザーの趣向によって違ってくる。
 よって、私がこれからお勧めするアカウントは、私にとっては有効だが、必ずしも万人にとってはそうではない。あらかじめ、そこはお断りしておく。
 私が現在最も興味を抱いている事象は、ジュリアン・アサンジ氏とウィキリークスについてである。だから、それらに関する情報を持つツイッターをフォローすることが結果、私にとっては重要になるのだ。
 具体的に説明しよう。ウィキリークス本体のツイッターアカウント(@wikileaks)やガーディアンのウィキリークス特別版(@GdnCables)をフォローするのは基本中の基本だろう。よって、ここであえて紹介するのは、日本語のウィキリークス関連アカウントである。
 早速、2、3の例を挙げてみよう。「ディープスロート」氏(@gloomynews)は、ウィキリークス情報を丁寧に翻訳してくれるばかりか、新しい動き、誤報までをも的確に選別、分析してくれる。残念ながら、本人の正体は明かせないようだが、日本におけるウィキリークス関連情報ではかなり早い段階から効果的なツイートを繰り返していた。
 アサンジ氏に直接インタビューをしたというジャーナリストの野口修司氏(@esnoguchi)のツイッターも欠かせない。独自の第一次情報をもたらしてくれる貴重なツイッターだ。
 また2008年からウィキリークスをフォローしてきた八田真行氏(@mhatta)のツイッターも価値あるものになっている。アサンジ氏のかつての言動を検証する上ではなおさらである。
 他にもウィキリークスをフォローする上では、ジャーナリストで翻訳家の青木陽子氏(@yokoaoki)や英国在住の小林恭子氏(@ginkokobayashi)のツイッターも欠かせない。
 このように各人にとって重要なアカウントは違ってくるのだ。それゆえ、二つとて同じタイムラインが存在しないというのがツイッターというメディアの特徴にもなっている。
 個人が独自に「編集」できる人類史上初のメディア、ツイッターは情報リテラシーの力量が試されるメディアなのかもしれない。
..............................

第6回 Twitter(ツイッター)で一人ひとりに「真実」を  
 Twitter(ツイッター)はその台頭以来、大きな衝撃とともに世界中に広がってきました。そして、新たに展開するソーシャルメディアなどとともに、今では社会現象という程度では済まされないほどの影響力を発揮しています。本連載の最終回となる今回は、ツイッターが社会の中でどのような役割・意味を持つことになるのか、今世界で起こっている現象を踏まえ、上杉隆氏が独自の視点で読み解きます。
計り知れない影響力を持つソーシャルメディア
 ツイッターは革命すらも起こす――。
 そんなバカなと思われるかもしれないが、驚いたことに現実に起きてしまったのだ。
 現代において、ソーシャルメディアの影響力は計り知れない。それらはもはや社会現象というレベルでは済まされない。社会基盤そのものを根本から揺るがし、場合によっては政府を動揺させ、時には政権そのものを転覆させてしまうこともある強力な武器なのだ。
 1月、チュニジアで始まった革命は、アラブ世界のみならず、全世界に波及する勢いだ。その主役はツイッターやフェイスブックなどのマイクロメディアである。
 もちろん、そうしたメディアそのものが革命を起こすわけではない。
 しかし、例えば、23年間も続いてきたチュニジアの独裁政権を倒す原動力となったのは確かだ。
 ツイッター、フェイスブック、あるいは、ユーチューブ、ユーストリームなどのソーシャルメディア、またウィキリークスなど新しい勢力、そして、アルジャジーラ・テレビなどの既存のメディアによって、チュニジアの若者たちは自然に連帯し、独裁政権に立ち向かった。
 当初、大統領はツイッターやフェイスブックの閲覧を禁ずることによってどうにか対抗できると考えた。もちろんそのかい虚しく、波状攻撃のような情報のシャワーを浴びたチュニジア大統領一族はあっという間に追い込まれ、とうとう海外への亡命を余儀なくされてしまったのだった。
 このチュニジア革命を受けて、北アフリカ・中東全土では一斉に民衆による反政府デモが勃発した。
 エジプトではソーシャルメディアの影響を恐れたムバラク大統領が、通信回線を遮断した。だがそれはもちろん逆効果である。
 アルジャジーラ・テレビが援護射撃し、結果、連日5万人を超える民衆が首都カイロに集結し、「大統領退陣」を迫るまでにもなっている。
ツイッターが社会情報インフラになる
ツイッターなどのソーシャルメディアは今やこうして世界をも変えようとしている。使い方によっては「独裁者」も打倒してしまうのだ。
 もちろん、誰もがツイッターをこうした武器に使えるわけではない。だがツイッターは今後の人間社会においても、きっと重要な役割を果たしていくだろう。
 「将来、日本においてツイッターは社会情報インフラになっていくだろう」
 約1年前、拙著『なぜツイッターでつぶやくと日本が変わるか』(晋遊舎)の中で私はそう書いた。
 何人かのツイッターユーザーへのインタビューを繰り返しているうちにそう「確信」するに至ったのであった。
 今やインフラ化が、想像以上のスピードと規模で進んでいる。もはやメディアにおける社会基盤と化している。もはや人類はこの便利な武器を手放すことはできないだろう。
 チュニジア、エジプトなどで発生した民衆革命は、独裁権力への反発からのみではなく、ソーシャルメディアを通じて自らの国の「真実」を知ってしまったことにある。
 実は、昨年のタイ、イラン、モルドバで発生した反政府デモも、ツイッターなどを媒介として「真実」が国民の間に広まったことから始まっている。
 「真実」は政府や国家の持ち物ではない。国民の共有財産であるべきだ。
 ツイッターはそうした特権をもひっぺ返す力を持っているのだ。
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上杉 隆(うえすぎ たかし)
1968年福岡県生まれ。都留文科大学卒業。テレビ局・衆議院議員公設秘書・ニューヨーク・タイムズ東京支局取材記者などを経て、フリージャーナリストに。政治・メディア・ゴルフなどをテーマに活躍。著書に『なぜツイッターでつぶやくと日本が変わるのか』『上杉隆の40字で答えなさい』『小鳥と柴犬と小沢イチローと』など多数。
ツイッターアカウント @uesugitakashi


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