〈来栖の独白 2013/5/7 Tue 〉
あらためて、松井秀喜氏の人柄の良さを感じさせる一日だった。ほんとうに、善い人だ。胸が痛くなるほど、善い人だ。政権が、松井の国民栄誉賞を画策した。過去にイチローは気強く辞退したが、松井は気を遣って受けた。イチローほどには自己主張せず、自分を無にする、人の善い松井だ。心廣く、常に周囲に気配りする。
今回の栄誉賞授賞でつくづく感じたことは、メディアが味方に付くか敵に回るかで、こんなにも人生は違ってくるということだ。長嶋氏は一貫してメディアの寵児だった。立教からメディアの最大手「讀賣」に入り、スターとして生涯を走った。「讀賣」でなかったなら、長嶋さんの人生は全く違ったものになっていたに違いない。
昨日、谷繁元信捕手の2000本安打が達成された。谷繁でだけなく、長嶋さんを超える「記録」を有する選手は、多い。しかし、「讀賣」でなくては栄誉は難しいだろう。「中日」では難しい。あり得ない。それを感じさせる松井の受賞挨拶だった。(・・・が、いつまでもメディアの時代ではないだろう。)
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プラチナチケットになった「国民栄誉ショー」 松井の巨人監督就任への「みそぎ」は済んだか?
J-CASTニュース 2013/5/ 7 11:57
長嶋茂雄、松井秀喜両氏の国民栄誉賞の授与が2013年5月5日、東京ドームで行われたのだが、両者を称える一方、政治とビジネスに利用されたと見た国民も多かったのではないか。「国民栄誉ショー」になってしまった感じである。
*チケットは10万円にまで高騰
打者に長嶋、投手に松井と主役が立ち、捕手となったのは原辰徳巨人監督。そして主審を務めたのは安倍晋三首相だった。松井の投球は内角高めのボール球となり、長嶋がそれを空振り。長嶋が本気で打ちにいったとあって原は大慌てで逃げながら捕球した。
試合を控えた原を除く3人はいずれもユニホームの上着を着た。背番号付きである。長嶋の3、松井の55は現役選手時代のもの。安倍首相は96。「96代首相だから」と首相は説明したが、いま賛否の論議を呼んでいる憲法改正にまつわる96条の改正をPRしたのではないか、との憶測も出たほど意味深な番号だった。
この日、4万6千人を超えるファンがスタンドを埋めた。超満員だった。授与式の前には松井の引退式が行われており、まさに巨人のためのイベントと見えた。
かつて国民栄誉賞の打診を受けて断った元プロ野球選手はこう言っている。「野球の国民栄誉賞は、なぜかセ・リーグの選手で、しかも巨人選手が3人もいる。パ・リーグでプレーした選手の中にはすごい人がいるのに」と。確かに最初の受賞者・王貞治氏と長嶋、松井はいずれも巨人OB。もう一人の衣笠祥雄氏はセの広島だ。
入場券はプラチナチケットとなった。チケットショップでは、通常ペア2万円ほどが10万円にはね上がったという。年間指定席券が格安ショップに持ち込まれ、ちょっとした小遣い稼ぎとなった。「師弟受賞」はビジネスとしても上々の成果を上げたようだ。
*松井の受賞は巨人からの「復縁」プロポーズ
長嶋はともかく、松井の受賞にはさまざまな声が上がった。「早すぎる」から「なぜ、松井なの?」まで。松井には何の責任もないのだが、松井はかなり神経を使っていた、と聞く。
それは彼の受賞挨拶に表れていた。
「受賞に恐縮している」と前置きし「私は王さんや衣笠さんのように世界記録を達成していません。また長嶋さんのように全国の野球ファンを熱狂させた選手でもありませんでした」
聞いていて気の毒に思った。自分の球界での存在価値をわざわざ示したのである。誠実で善良な人間なのだな、と改めて感じた。まだ体が不自由な長嶋を気遣いう姿に感動を覚えた関係者は多かったことだろう。
松井はその後「日本とアメリカの名門チーム(巨人とヤンキース)でプレーしたことを誇りに思う」と付け加え「野球を通じて知り合った人々に感謝したい」と締めくくった。松井らしい気配りに満ちた名スピーチだった。
昨年暮れ、現役を引退した松井に対し、巨人のボス渡辺恒雄氏は「監督に迎えたい」と明言した。それに応えるように、松井は「巨人を辞めてヤンキースに行ったとき、二度とここへ戻れるとは思っていなかった」と、退路を断っての大リーグ行きだったことを振り返り「巨人のことを忘れたことはなかった」と語った。
巨人にとって松井が去ったときのショックは非常に大きなものだった。4番打者を失ったのだから当然だろう。背番号55は若い選手が付け、縁は切れたことを暗に示した。
それだけに、引退式と国民栄誉賞の授与式で、手打ちとなったようである。松井の巨人監督就任は真実みを帯びてきた。少なくとも他球団は松井に手出しはできなくなった。
(敬称略 スポーツジャーナリスト・菅谷 齊)
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