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「無視された核抑止の効用」古森義久 / 『自立する国家へ!』田母神俊雄×天木直人

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【あめりかノート】無視された核抑止の効用 ワシントン駐在客員特派員・古森義久
産経新聞2013.5.12 03:34
 オバマ大統領の北朝鮮からの核攻撃の威嚇への対応が米国年来の核抑止政策から外れてしまった、という批判が4月末、核軍備管理の長老的な専門家から表明された。政治的にはオバマ支持の立場をとってきた民主党系の元軍備管理軍縮局副長官、バリー・ブレクマン氏の批判だから反響も大きくなった。米国の「核の傘」の下にある日本にとっても、核抑止のあり方は重大な課題である。
 北朝鮮は最近の一連の軍事挑発言辞の中で米国本土への核ミサイル攻撃の脅しを明言した。ワシントンのシンクタンク、スティムソン・センターの創設者でもあるブレクマン氏は小論文でオバマ大統領の反応を鋭く論評した。
 「大統領はアラスカなどのミサイル防衛の強化を命じただけで、核の攻撃や威嚇には核の報復、あるいはその意図の表明で応じて、相手の動きを抑えるという核抑止の構えをまったくみせなかった。いかに好戦的な北朝鮮の独裁支配者でも自国の消滅の可能性こそが最大の抑制となるだろう」
 核抑止とはいうまでもなく、敵の核攻撃には確実に核の反撃を加える能力と意思を保つことで敵の実際の攻撃を抑えるという戦略である。米国歴代政権が保ち、ソ連の攻撃をみごとに抑止したとされる。
 「オバマ大統領は核兵器の効用を否定する核廃絶を唱えたために、核抑止はもう重視しないということなのか。もしそうならばその説明をすべきだ」
 ブレクマン氏はこうも述べながら、オバマ大統領は北朝鮮の金正恩第1書記が核抑止の破壊的な帰結を認めないほど無謀だとみなすのか、とも疑問を呈する。
 もっともオバマ政権では大統領も高官たちも韓国や日本に対しては「拡大核抑止」の「核の傘」を含めての同盟国防衛の誓約は強調した。だが「核の傘」を実際にどう使うのかの説明はない。そして肝心の米国本土への核攻撃威嚇に対する核絡みの反応は確かに皆無であり、逆に話し合いへのオリーブの枝を北朝鮮に差し出しているのだ。
 オバマ政権の核政策に対しては従来、批判があった。国防総省防衛核兵器局長だったロバート・モンロー元海軍中将はこの3月に以下の見解を発表していた。
 「オバマ大統領は歴代大統領が継承してきた核抑止政策を逆転させ、核の効用を無視してきた。その結果、オバマ政権は『核なき世界』という幻想の目標に向かい、既存の核兵器の一方的な削減や縮小、新開発の中止など危険な措置を次々にとり、実際の核抑止の段階的な行使能力をすっかり弱くしてしまった」
 現実の核抑止力は報復や反撃の能力が選別的、段階的に確保されていて初めて実効を発揮するというのだ。
 しかし核戦力の保持の第一線にあった元軍人とは異なり、ブレクマン氏は1970年代から民主党の各政権で国務省、国防総省、大統領直轄の政策諮問委員会などの枢要ポストにあった文民の専門家である。核兵器の管理と軍縮を専門に担当してきた。
 そんな権威からの核抑止についての警告は独特の重みを発揮しそうである。
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『自立する国家へ!』田母神俊雄×天木直人  2013年2月1日初版第1刷発行 KKベストセラーズ 刊

    

(抜粋)
p116〜
■核武装論者が受け入れた「非核三原則」
 最近では私のように公然と日本の核武装を提言する人も増え、「きちんと議論しよう」という人も増えたが、ひと昔前までは、核武装論をタブー化するような風潮があったものである。
 それは日本が被爆国であったからではなく、「非核三原則」なるものが存在していたことが大きい。
 「広島・長崎が被爆し、多くの犠牲者を出したから、戦後の日本人は核アレルギーが強くなった」という人がいるが、それは違う。戦後になって東西冷戦が始まり、米ソの核戦争が過熱し、中国も核実験に成功する流れの中で、1960年代前半頃までの日本国民には核武装を支持する声はかなりあった。
 そんな中、1964年に総理となった佐藤栄作氏は元々、核武装論者であったが、総理になる直前に中国の核実験成功を聞いてその思いをなお強くし、アメリカに「日本も核武装をさせてほしい」と打診したといわれる。
p117〜
 しかし、アメリカはこれに強く抵抗した。結局、佐藤総理は、日本が核武装をしない代わりに「日本がアメリカの核抑止力を必要とする時、アメリカはそれを提供する」ことを約束したことで核武装論を引っ込めた。
 1967年の国会答弁の中で初めて「非核三原則」を口にした佐藤総理は、72年には「核の脅威に対してはアメリカの核抑止力に依存する」として、沖縄を含めた非核三原則を閣議決定してしまったのである。
 核武装論がタブー視されるようになったのはそれ以降のことだ。佐藤総理が非核三原則を口にした当時の日本の世論に、これを良しとする声はさほどなかったが、それ以降の日本では次第に、核武装論を口にする者は危険人物の扱いをされるようになっていった。
 つまり、核武装論者であった佐藤総理自身が、日本の核武装論を封じてしまったようなものだ。
p118〜
 日本では、「専守防衛で核武装もしない平和憲法がある平和主義の日本だから世界で価値を認められている」といった根拠のない論調がいまだにあるが、それはまるで違う。むしろ逆で、核武装国になれば嫌でも存在感が増すのである。
 核兵器を持っている核武装国こそが、戦後の国際世界を牛耳ってきた。「核武装国になれば国際社会での発言力と安全度が増す」ことは、国際社会では常識中の常識である。だからこそ世界の多くの国が、あわよくば核武装国になれないものかと狙っているのだ。
 国連の常任理事国であるアメリカ、イギリス、フランス、ロシア、中国。核武装国でない国は1つもない。他にインド、パキスタン、そしてイスラエル、北朝鮮も核武装国だが、彼らがなぜ核武装国を目指したのかは、逆を考えてみればわかる。つまり、彼らが核武装国でなかったらどうなっていたかと。
p119〜
 どの国も核武装をすることで抑止力を手に入れ、国を潰されないようにしたまでのこと。いま核武装に突き進んでいるイランにしても事情は同じだ。決して気が狂ったわけでも何でもなく、自国の安全のためにもっとも合理的で効果的な方法をとっただけのことである。
 日本では、「核を持たないから平和でいられる」という論調がいまだに幅を利かせているが、世界の常識は180度違う。「核武装すれば国はより安全になる」というのが国際常識なのである。
 なぜなら、核兵器は決して使われることのない兵器で、同じ兵器でも通常兵器とは存在意義が違うものだからだ。(略)
 なぜなら、核戦争には勝者はいないからである。一発の核ミサイルは耐えることのできない被害を及ぼす。
p120〜
 お互いに甚大な被害を覚悟しなければならないから、核武装国同士はお互いに手出しができなくなる。つまり核による抑止力は、パワーバランス(数の均衡)をさほど必要としないのである。核兵器出現以降、核武装国同士の戦争は一度も起きていない。
 核兵器は2度と使われることはない。しかし核兵器を持つか持たないかでは大違い。国際政治を動かしているのは核武装国なのである。このことをよくわかっているからこそ、非核武装国は何とか核武装国になれないものかと考え、逆に、既に核武装国になっている国々は、自分たちの価値を下げないために、これ以上、核武装国を増やしたくないと考えるのである。
p140〜
 核兵器を所有する大国は、話し合いの末の多数決を拒否するカードを持ち、自国が不利と見るや、すぐさまこのカードを切る。オバマ大統領も本気で核兵器を廃絶させるのなら、アメリカが音頭を取って「せーの」で核廃絶を決議すればいいのだが、そんなことを本気で考えてもいないし、重要な話し合いになればなるほど、どこかの国が国が拒否権カードを切るのがわかっているから、議題にも上らないのが現実だ。
p141〜
 ただ、第2次大戦、そして冷戦以後の国際社会がそれまでと変わったのは、腕力の強い者が腕力にものを言わせる、すなわち戦争を仕掛けるのではなく(そういうことも時には起こるが)、大声でものを言い、発言力で相手をねじ伏せるようになったことだろう。それは国連が機能した結果というより、核抑止の効果といえる面が大きい。
 もっとも、ただ大声を出しただけでは、誰も聞いてはくれない。世界の国々の耳を傾かせ、従わせるのに必要なものこそが腕力、すなわち軍事力で、そのために大国は核武装をしているのである。
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