成長戦略 第3弾 「給与増」連想狙う? 耳慣れぬ指標 GNI 首相 池田内閣の成功 念頭か
中日新聞 《核心》 2013年6月6日(木)
安倍晋三首相は五日に発表した成長戦略素案で、一人当たりの国民総所得(GNI)を年3%伸ばし、十年後にはいまの三百八十四万円の水準から百五十万円以上増やす方針を掲げた。高度経済成長期の「所得倍増」スローガンを思い起こさせるが、はたして実現可能なのか。そもそも、なぜGNIという耳慣れない指標を持ち出したのか。(東京経済部・須藤恵里・石川智規)
■国民総所得とは
国の豊かさを測る目印の一つで、かつてよく使われた国民総生産(GNP)に近い。「国民や日本企業が一年間に国内外で得た所得の合計」を指す。
現在、よく耳にするのは国内総生産(GDP)の方だろう。こちらは「国内で生産されたモノやサービスの価値の合計」だ。
この違いを簡単に違いを言えば、GDPは「国内」の経済の動きで生まれた富に着目し、GNIは国内外を問わず「国民」の稼ぎを測る指標といえる。企業の海外進出が進み、海外での稼ぎが増えている現状では、GNIの方が日本の経済活動の実態がわかりやすいという指摘もある。
さらに、日本はGNIがGDPよりも大きい傾向が続いてきたので、政府としてはGNIを使った方が経済規模を大きく見せられる。社会保障の議論では国民自身の所得水準を表すGNIが重視される。世界保健機関(WHO)が各国比較をする際は、GNIを用いている。
■実現性は
では、どうやって十年後に一人当たりGNIを百五十万円増やそうと考えているのか。
政府は、これまで安倍首相は三度にわたり発表した成長戦略を実行することで「十分可能な数字だ」(内閣官房)と説明する。政府が描く戦略は、女性を成長の柱と位置付けて働く人材を増やす。▽今後三年間で企業の設備投資を六十三兆円から七十兆円に拡大▽農地を集約して農家の所得を今後十年で倍増など。これら施策を実現すれば、GNIの数字を達成できるという。
だが、内閣府の事務担当者に根拠を聞いても、「特に詳細な試算はしていない」(経済社会システム担当)という。百五十万円増の根拠を明示できていないのが現状だ。首相は成長戦略の目的を「家計が潤うこと」と訴えるが、その実現性にも疑問符がつく。
■なぜ今?
安倍首相がGNIを持ち出した理由は何か。
ニッセイ基礎研究所の斎藤太郎経済調査室長の分析は明快だ。「GNIにある『所得』という言葉に反応し、国民の所得を増やすという点を強調したいのだろう」と推測する。
過去にも、池田勇人内閣が一九六〇年に決めた「国民所得倍増計画」といった政策があった。「その成功体験が頭にあるのでは」(斎藤氏)
安倍首相は就任以来、労働者の賃金上昇を重視する姿勢を見せてきた。今春闘では経済団体を官邸に呼び、賃上げ要請をしたのも記憶に新しい。政府関係者は「総理の頭の中には、賃金であるとか、国民所得、一人一人の稼ぎといったことを強調したい思いがある」と明かす。
とはいえ、仮にGNIで「十年で百五十万円増」を達成したとしても、国民一人当たりの年収がそのまま百五十万円上がるわけではない。
一般市民の年収と、企業や法人も「国民」とみなして、その所得合計を人口で割った1人あたりGNIは、まったく別の指標だからだ。
賃金問題に詳しい北見式賃金研究所の北見昌朗所長は「企業が雇用をつくり、賃金を増やさなければ、国民の生活は変わらない」と指摘する。
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◆ 成長戦略は主軸の政策抜け落ち、所得・投資増加目標に具体策欠く 2013-06-05 | 政治(経済/社会保障/TPP)
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