「スパイ」国が育成 和製ジェームズ・ボンド誕生? 情報収集力強化で
中日新聞 《 特報 》2013/06/06
日本にもジェームズ・ボンドのようなスパイが誕生するのか? 安倍政権が、諜報(ちょうほう)活動(インテリジェンス)に関わる専門家の育成に乗り出そうとしている。「国家安全保障会議」(日本版NSC)の創設に合わせ、対外情報の収集能力を高める狙いがあるという。だが、諜報部門の新設に問題はないのか。(上田千秋、小倉貞俊)
■日本版NSC創設 合わせ
「相手国、相手方の内部情報の収集は極めて大事だと思っている」
菅義偉官房長官は五月二十九日の記者会見で、諜報活動に関わる人材育成の重要性を強調。「専門的、組織的な情報収集の手段や体制のあり方について、研究を深めている」と述べた。
政府高官など特定の地位、立場にいる人物に接触し、自国の利益となる情報を得る諜報活動は、「ヒューミント」と呼ばれる。政府が念頭に置いている諜報活動もこのヒューミントで、一般的なイメージの「スパイ」とは異なり、人とのつながりを重視した合法的なものという。
日本には、米国の中央情報局(CIA)や、英国の秘密情報部(SIS)のような対外的な諜報活動を行う専門組織はない。
国内の情報の収集は、警察や公安調査庁が担う。内閣官房に置かれている内閣情報調査室(内調)は、内閣の施策に関する情報の収集・分析に当たるセクションで、国内、国際、経済の各部門に分かれる。主に扱うのは公開情報が中心で、人員もあまり多くないとされる。検討されているヒューミントの専門部署はこの内調に設置される可能性がある。
ヒューミントの必要性を指摘する意見は、日本版NSCの有識者会議でも出ていたという。
安倍政権は、外交・安全保障政策の司令塔と位置付ける日本版NSCの創設を目指している。首相と関係三閣僚による「四大臣会合」を常設し情報を共有化。事務局として数十人規模の「国家安全保障局」を内閣官房に置きサポートする。近く関連法案を閣議決定し、国会に提出。秋の臨時国会での成立を目指している。
海外での日本の情報収集の弱さは、以前から指摘されてきた。今年一月に起きたアルジェリア人質事件や、二〇〇三年のイラク戦争の際には、日本政府は現地の情報を得られなかった。
日本政府はイラク戦争で、米英両国への支持を同盟国の中で真っ先に表明。大量破壊兵器を隠し持っていることが戦争の大義名分だったが、後に情報は誤りだったことが判明した。
ヒューミントの重要性は、第一次安倍内閣が設置した「情報機能強化検討会議」が二〇〇八年にまとめた報告書の中で言及した。
報告書は「情報収集の対象国や組織は閉鎖的で、内部情報の入手が困難」と課題を指摘。「質の高い情報を収集するため、研修強化や知識、経験の蓄積を通じて対外人的情報収集に携わる専門家の育成」を求める。
■防諜と対外諜報 役割が混在
外交ジャーナリストの手嶋龍一氏は「イラク戦争の誤りは、日本にはヒューミントがないことのツケが回った結果だった」とヒューミントの重要性を強調。「日本では、情報が入ってきたとしてもそれを分析し、国家に役立てるような例はないに等しい。主要国(G8)の中で、正式な対外情報機関を持っていないのは日本だけ。そんな経済大国はない」と専門組織の必要性を指摘した。
日本経済大の菅沢喜男教授(インテリジェンス マネジメント)も「新聞やテレビのニュースなどオープンになっている情報ももちろんあるが、最終的にその情報が正しいかどうかの確証は、人間から得るしかない。外交関係の中でヒューミントは極めて重要」と唱える。
安倍政権の目指すヒューミント部門に問題点はないのか。
インテリジェンスに詳しい元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏は、「ヒューミント部門の位置付けが曖昧で、有効に機能するとは思えない」と話す。
インテリジェンスには二種類ある。一つは、自国内で他国への情報漏洩を防ぐカウンターインテリジェンス(防諜)で公安警察などが担当している。もう一つは、他国が隠している情報を入手するポジティブインテリジェンス(対外諜報)で、主に外交官が担う。
「そもそも、内調の本来の役割は防諜であり、ヒューミントは対外諜報だ。米国のFBIとCIAのように、各国ではどこも防諜と対外諜報は別々の機関が受け持っている。複雑な業務を一緒に内調で担当するのはナンセンスだ」
さらに佐藤氏は専門家の育成にも疑問を投げかける。「一定レベルの語学を習得するには、海外研修も含め数年は掛かる。加えて洞察力や記憶力など、必要不可欠な資質はそう簡単に伸ばせるものではなく、困難」とみる。
東京工科大の落合浩太郎准教授(安全保障・インテリジェンス研究)は「これまで、内調をはじめとする日本のインテリジェンス機関はうまく機能していなかった。そうした検証をしないままに予算やポストを増やしてしまえば、省庁を太らせるだけだ」と危惧する。
落合氏によると、内調の職員約二百人のうち、生え抜きのプロパー職員は半数。他は、外務省や警察庁などからの出向組だ。内調トップの内閣情報官は警察庁から、ナンバー2の次長は外務省などからと、幹部ポストは基本的に出向組で独占している。数年で出身官庁に戻っていくため、専門的な幹部がいない状況にあるという。
警察庁と外務省の縄張り争いも激しいとされる。佐藤氏は「まともな対外インテリジェンス機関をつくりたいなら、縄張り争いに拘らずに全ての官庁を視野に入れ、現時点で最も活躍できる優れた人物を連れてくるべきだ」と話した。
落合氏はこう強調した。「どんなに貴重な情報を入手できたところで、結局は時の政権がその情報を生かせなければ意味がない。『仏作って魂入れず』だ。政権の見識が問われるだろう」
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◆ 「インテリジェンス 闇に消える内調加賀美正人参事官自殺/米国における日本のプレゼンスの低さ」佐藤優 2013-04-17 | 政治
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◆ インテリジェンスレポート 内調・加賀美正人参事官が自殺 日本版CIA「内閣情報調査室」の闇 2013-04-15 | 社会
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◆ [ 加賀美正人氏 インテリジェンスオフィサー自殺の闇〜外務省に問題はないのか ] 佐藤優 2013-04-21 | 政治
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諜報活動(インテリジェンス)に関わる専門家の育成 / 日本の情報収集の弱さは、以前から指摘されてきた
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