「裁判員制度と同じように、民間人から選出?」“死刑執行員制度”の恐怖
日刊サイゾー 2013.07.12 金
法務省のOBも名を連ねる市民団体から、「死刑執行員制度」の提案が出されている。近く専門の組織を新たに立ち上げ、来春にも有識者でその仕組みの骨子をまとめる予定だという。
「死刑に反対するわけではなく、拘置所の職員にそれを任せているのはおかしいというのが我々の趣旨。近く、それを訴える組織を立ち上げようという話になっている」と話すのは、元法務局職員のS氏。
現状の死刑執行は、法務省の刑事局から命令書を受け取った拘置所が、通常5名の執行刑務官を選出。後日、検事ら含めた15名ほどが立ち会って刑場へ出向く。刑務官が死刑囚の両腕を抱えて踏み板に立たせ、執行刑務官が5つのボタンをそれぞれ押す。これについてS氏は「刑務官の任務としては重すぎる」と反対姿勢をとる。
「過去にボタンを押した刑務官が何人も、精神的ストレスから退職しているんです。裁判については裁判員制度が始まって、民間人も死刑判決を下すことに参加しているわけです。それなら死刑執行についても、民間人参加の形に変える必要があるのではないでしょうか。当初はある弁護士から、“死刑判決を下した裁判官がボタンを押すべき”という意見が出ていたんです。裁判官の身分は強固に保障がされていて、誤判、冤罪があっても処罰されることはないですし、もっと責任を持たせるべきだという話でした」(同)
ただ、この案は「そうなると、死刑判決を避けたい裁判官が出てくる危惧がある」と反対意見も多く、「そこで法務省関係者から“裁判員制度と同じように、国民からランダムで選んで行ってもらうのはどうか”という提案が出た」とS氏。
その具体的な中身については今後、議論を重ねてまとめる予定とのことだが、市民団体のメンバーからは「希望すれば、被害者の親族もボタンを押せる選択肢もあるべき」との意見が出ており「これは実際に凶悪犯罪で家族を失い、犯人に死刑判決が下った遺族からも出ていた話」だという。
ただ、現状の仕組みを変えるには法改正が必要で、そこまでたどり着くには相当な道のりがあり、また世間の否定的な反応も予想できる。それでもS氏は「ボタンを押す担当者を選ぶというのは、裁判員制度に比べれば難しくない。海外では多くの国々が死刑制度への反対をしている中、日本では賛成が多数なのですから、国民がそれを断るというのもおかしい」とする。
死刑の是非とはまた別のところにある死刑執行員制度、本格的な提案に発展するのであれば、大きな議論を巻き起こすことになりそうだ。 (文=鈴木雅久)
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◇ 死刑とは何か〜刑場の周縁から 来栖宥子(2009/03/12Thu.)
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● 論壇時評【「神的暴力」とは何か 死刑存置国で問うぎりぎり孤独な闘い】
(抜粋)
日本は、「先進国」の中で死刑制度を存置しているごく少数の国家の一つである。井上達夫は、「『死刑』を直視し、国民的欺瞞を克服せよ」(『論座』)で、鳩山邦夫法相の昨年の「ベルトコンベヤー」発言へのバッシングを取り上げ、そこで、死刑という過酷な暴力への責任は、執行命令に署名する大臣にではなく、この制度を選んだ立法府に、それゆえ最終的には主権者たる国民にこそある、という当然の事実が忘却されている、と批判する。井上は、国民に責任を再自覚させるために、「自ら手を汚す」機会を与える制度も、つまり国民の中からランダムに選ばれた者が執行命令に署名するという制度も構想可能と示唆する。この延長上には、くじ引きで選ばれた者が刑そのものを執行する、という制度すら構想可能だ。死刑に賛成であるとすれば、汚れ役を誰かに(法相や刑務官に)押し付けるのではなく、自らも引き受ける、このような制度を拒否してはなるまい。
(大澤真幸 京都大学大学院教授)
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