指導部の台本から逸れる薄熙来の「トラ」裁判 革命の子供たち、体制存続のために互いを攻撃
JBpress 2013.08.26(月) Financial Times
(2013年8月23日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
中国の新国家主席の習近平氏は今年初めに汚職の取り締まりを宣言した時、中国を支配する共産党は官僚組織の下っ端の「ハエ」のみならず、大物の「トラ」も追い詰めると説明した。
共産党は22日、薄熙来氏の裁判の初公判をもって、これまでで最大の獲物をお披露目した。薄氏は中国で裁判にかけられる実力者としては、毛沢東夫人をはじめとする四人組が30年以上前に証言台に立って以来、最も地位が高かった人物だ。
かつての独裁者の恐ろしい妻のように、薄氏もけんか腰で、ある証人を「狂犬」「完全に堕落した詐欺師」などとけなした。英国人を殺害した罪で執行猶予付きの死刑判決を受けて服役している薄氏の妻も、証人として薄氏に不利な証言をする予定になっている。
■逮捕から1年半経った今、裁判が行われる理由
だが、この裁判の根本的な意義は何なのか。習主席はなぜ、薄氏が逮捕され、すべての役職を解かれてから18カ月も経った今になって裁判を開くことにしたのだろうか。
「習と新政権は、経済が減速し、すべての人に批判されているため、ひどく心配している」というのが、元中国軍高官の息子で薄氏と一緒に育った人物が本紙(英フィナンシャル・タイムズ)に語った説だ。「薄はもう死んだトラなのに、なぜ今、裁判にかけるのか。指導部は大衆からの支持を高めるために、トラの皮を見せる必要があるからだ」
インターネットを使い事実上リアルタイムで裁判の進行記録を公開するという驚くべき決断は、プロセスの正当性を示そうとする試みだが、初公判での薄氏の爆発はその努力をふいにする結果になるかもしれない。
収賄と横領の自白を強要されたとする薄氏の主張は、あらかじめ定められた判決に伴う刑罰を和らげる助けにはならないが、不公平なことで悪名高い中国の司法制度の面目を失わせることになる。
政府は明らかに景気減速について懸念しており、今、規則に従わない薄氏を片づけることで、昔ながらの見せしめ裁判で一般大衆の気を逸らそうと思っている可能性は十分ある。
■習近平主席と薄熙来氏、驚くほどよく似た政策
皮肉なことに、習氏の政策目標は、薄氏が第2の故郷である重慶――オーストリア並みの広さとカナダ並みの人口を擁する直轄市――で大人気を博すことになった政策と驚くほどよく似ている。
習氏は今年3月に国家主席に正式就任してから、中国の政治で言うところの「左」に舵を切った。その後相次ぎ出した通達は、重慶で大きな支持を得た、共産主義のノスタルジーに訴える「赤い復興主義」運動とよく似た響きを持つ。
習氏は「大衆路線」教育キャンペーンを掲げたほか、国際情勢に対してきついアプローチを取り、マルクス主義のイデオロギーを強調する一方、民主主義や人権、憲法政治、言論の自由といった「西側」の概念はすべて禁句であり、議論してはならないと宣言した。
習政権はまた、市民は中国での市民社会構築を助け、公共問題にもっと関与すべきだということを平和的に唱えたとして少なくとも25人を逮捕している。
こうした策はどれも、薄氏の指揮下の重慶市でも場違いではなかったろうし、習氏の汚職撲滅キャンペーンでさえ、薄氏が重慶市で実施した汚職撲滅運動を彷彿させる。
もしかしたら、この2人が概ね同じ政策目標に行き着いたのは、意外ではないのかもしれない。
■出自を考えれば無理もない?
どちらも革命を担った共産党幹部の元に生まれ、指導部のエリートが住む北京の邸宅で育てられた。父親はどちらも1960年代に党からパージされた。
2人は究極の特権階級から社会の底辺へと追いやられ、文化大革命で重労働を強いられた後、名誉を回復され、政治的キャリアを築くために地方に送られた。習氏も薄氏も国家主義を標榜しているにもかかわらず、中国の教育制度よりも米国の教育制度を信頼しているようで、どちらの子供たちもハーバード大学で学んだ。
どうやら今、革命の子供たちは自分たちを生んでくれた体制の存続を確実にするために、互いを食い合うことを余儀なくされているようだ。 By Jamil Anderlini in Jinan
*上記事の著作権は[JBpress]に帰属します
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薄熙来被告、妻の証言に「正気とは思えない」と反発
REUTERS 2013年 08月 23日 21:22 JST
[済南(中国) 23日 ロイター] - 収賄と横領、職権乱用の罪で起訴された重慶市の元トップ、薄熙来被告の初公判で、薄氏は23日、実業家で友人の徐明氏から賄賂を受け取ったとされる疑惑について妻の谷開来受刑者が自身に不利な証言をしたことに対し、谷氏を正気とは思えないと批判した。
谷氏は、薄氏の主張に反する証言を、録画画像と書面を通じて行った。谷氏と息子の薄瓜瓜氏が徐氏から賄賂を受け取ったことについて、「薄氏は全て知っていたはずだ」と口述した。証言は裁判が行われている山東省済南市の中級人民法院(地裁)が公表したミニブログに掲載された。
ミニブログによると、薄氏は「(谷氏は)変わった。彼女は正気ではなく、よくうそをつく。彼女は精神疾患の状態にあったため、調査官はわたしの罪をあばくように多大な圧力を彼女にかけた」と述べた。
「彼女の証言は、わたしが考える限り、心理的圧力のもとで(行われ)、刑罰軽減(への望み)に導かれている」と述べた。
谷氏は、英国人実業家ニール・ヘイウッド氏を殺害した罪で有罪判決を受けている。徐氏もまた、前日に薄氏に不利な証言をしている。
先週、二人の関係筋はロイターに対し、谷氏は当局との間で息子を守るための取引が成立した場合にのみ、薄氏に不利な証言をするだろうと述べている。
谷氏は書面での証言で、徐氏が支払いを行ったフランスのニースにある別荘のデザインについてグラフィックとスライドショーを薄氏に見せたと述べた。「つまり、彼は私が徐氏に対してこのフランスの別荘の支払いをするように求めたことを知っていた」と指摘した。
谷氏は、ヘイウッド氏殺害に関しては薄氏と関連づけなかったが、息子にとってヘイウッド氏が脅威だと考えていることは薄氏は承知していたと述べた。
裁判所によると、審理は翌24日も行われる見通し。 *内容を追加して再送します。
*上記事の著作権は[REUTERS]に帰属します
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◆ 薄熙来・元重慶市書記が心臓病で入院 2012-09-17 | 国際/中国/アジア
◆ 薄熙来夫妻に極刑も 政治改革は凍結 「時限爆弾」抱える中国共産党 2012-05-01 | 国際/中国 アジア
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◆ 「毛沢東」になれなかった薄熙来の悲劇/現在の共産党自身が法制を踏みにじっているではないか 2012-04-23 | 国際/中国 アジア
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◆ 早くも躓く「中国次期皇帝」習近平/ 失脚した幼なじみ 薄熙来 2012-04-18 | 国際/中国 アジア
◆ 薄熙来事件 中国指導部の改革意欲後退させる恐れ / 谷開来女史=殺人で死刑の見通し 2012-04-15 | 国際/中国 アジア
◆ 文革の再来 警鐘「温家宝首相」/ 一枚岩とはほど遠い中国共産党 薄熙来氏の解任劇で露呈した権力闘争 2012-03-22 | 国際/中国 アジア
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◆ 中国国盗り物語〜9つの椅子の行方/呉儀「裸退するので、その代わりに薄熙来を私の後釜にしてはならない」 2012-03-21 | 国際/中国/アジア
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◇ 薄煕来氏夫人への判決の直前、尖閣騒動で中共幹部が隠したこと=「裸官」 中国現代史研究家・鳥居 民 2012-09-04 | 国際/中国/アジア
尖閣上陸は「裸官」への目眩まし 尖閣騒動で中共幹部が隠したこと
産経ニュース2012.9.4 03:17[正論]
中国が尖閣諸島でごたごたを起こした。この騒ぎによって、過去のことになってしまった出来事がある。それは、中国共産党首脳部が自国民に一時(いっとき)でもいいから忘れてもらいたい問題である。
≪薄煕来氏夫人への判決の直前≫
尖閣諸島に香港在住の活動家の一隊が上陸したのは8月15日だった。続いてどのようなことが日本で起き、さらに中国で起きるのかは、2004年3月にその島に上陸した「七勇士」、さらには10年9月に巡視船に体当たりした中国漁船の先例があることから、その時、北戴河に集まっていた中国共産党の最高幹部たちは、はっきり読み取ることができた。
さて、渤海湾深部のこの避暑地にいた彼らが国民の関心をそらしたかったのは何からであろう。
実は、尖閣諸島上陸の騒ぎが起きた直後、薄煕来氏の夫人に対する判決公判があった。初公判は8月9日に開かれ、「いかなる判決も受け入れる」と彼女は言って即日、結審し、10日ほど後の8月20日に判決が言い渡される素早さだった。単純な殺人事件として片付けられて、彼女は死刑を宣告された。後で有期刑に減刑されて、7年後には病気治療という名目で出所となるかもしれない。
今年1月に戻る。広東省の党の公式会議で、「配偶者や子女が海外に居住している党幹部は原則として、党組織のトップ、重要なポストに就任できない」と決めた。
党、政府の高い地位にいて家族を海外に送っている者を、「裸官」と呼ぶ。中国国内での流行語であり、家族とともに財産を海外に移している権貴階級に対する批判の言葉である。
≪年収の数万倍もの在外資産≫
この秋には、政治局常務委員になると予測されている広東省の汪洋党委書記が「裸官」を許さないと大見えを切ったのは、今にして思えば、汪氏の政敵、重慶の薄煕来党委書記に向けた先制攻撃だったのであろう。そして薄氏が3月に失脚してしまった後の4月になったら、薄夫妻の蓄財や資産の海外移転、米国に留学している息子や前妻の息子たちの行状までが連日のようにネットに載り、民営紙に報じられるようになった。
薄氏の年間の正規の所得は20万元ほどだった。米ドルに換算すればわずか2万8千ドルにすぎない。ところが、薄夫妻は数十億ドルの資産を海外に持ち、夫人は他の姉妹とともに香港、そして、英領バージン諸島に1億2千万ドルの資産を持つというのだ。夫人はシンガポール国籍を持っていることまでが明らかにされている。
薄夫妻がしてきたことの暴露が続く同じ4月のこと、今秋には最高指導者になると決まっている習近平氏が党の上級幹部を集めた会議で演説し、子女を海外に移住させ、二重国籍を持たせている「裸官」を批判し、中国は「亡党亡国」の危機にあると警告した。
党首脳陣の本音はといえば、痛し痒(かゆ)しであったに違いない。実のところは、夫人の殺人事件だけを取り上げたかった。だが、そんなことをしたら、これは政治陰謀だ、党中央は経済格差の問題に真剣に取り組んできた薄党委書記が目障りなのだ、そこで荒唐無稽な殺人事件をでっち上げたのだ、と党首脳たちに対する非難、攻撃が続くのは必定だからだ。
こうして、薄夫妻が行ってきたことを明らかにしたうえで、汪洋氏や習近平氏は「裸官」批判もしたのである。
だが、最初に書いた通り、裁判は夫人の殺人事件だけで終わった。当然だった。殺人事件の犯人はともかく、「裸官」は薄氏だけではないからだ。汪洋氏の広東省では、「裸官」を重要ポストに就かせないと決めたと前述したが、そんなことは実際にはできるわけがない。
≪中央委員9割の親族が海外に≫
中国共産党の中央委員を見れば分かる。この秋の党大会でメンバーは入れ替わることになろうが、中央委員は現在、204人を数える。国と地方の党・政府機関、国有企業、軍の幹部たちである。彼らは選出されたという形を取っているが、党大会の代表が選んだのではない。政治局常務委員、政治局員が選抜したのだ。
香港で刊行されている月刊誌、「動向」の5月号が明らかにした政府関係機関の調査によれば、この204人の中央委員のうち実に92%、187人の直系親族、総計629人が米国、カナダ、オーストラリア、欧州に居住し、中にはその国の国籍を取得している者もいるのだという。ニューヨークや米東海岸の諸州、そしてロンドンで高級住宅を扱う不動産業者の最大の顧客はここ数年、圧倒的に中国人であり、現金一括払いの最上得意となっている。党の最高幹部たちが自国民の目を一時でも眩(くら)ましたいのは、こうした事実からである。だからこそ、夫人の判決公判に先立って、尖閣上陸は必要不可欠となったのである。
ところで、中国の権貴階級の人々がどうして海外に資産を移し、親族を米英両国に移住させるのかは、別に取り上げなければならない問題である。(とりい たみ)
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