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大統領として非常に危険な局面に入りつつあるオバマ氏  シリア問題で大きな賭けに打って出ている

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シリア危機:オバマ大統領の危険な賭け
 JBpress 2013.09.03(火) Financial Times
(2013年9月2日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
 藪から棒とはまさにこのことだ。米国のバラク・オバマ大統領は8月31日、シリアへの攻撃について連邦議会の承認を求めることにした。この決断は大統領のこれまでの在任期間で最も予想外のものであり、最もリスクの高いものの1つでもある。
 大統領の当面の運命は、敵対的な関係にある2者、すなわちシリアのアサド政権と連邦議会の共和党に握られた。両者は強い影響力を手に入れた格好だが、これを予想通りに行使してくれるあてはない。
 オバマ氏は大統領として非常に危険な局面に――それもある程度自発的に――入りつつあると見てほぼ間違いない。
■外交的な解決策を追求する時間は稼げたが・・・
 まず、この決断のプラス面から見ていこう。連邦議会での審議は来週、すなわち9日以降にならなければ始まらないため、オバマ氏はこの承認要請により外交的な解決策を追求する時間を買ったことになる。
 今週火曜日には、20カ国・地域(G20)首脳会議が開催されるロシアのサンクトペテルブルクに向かう。この首脳会議後に2国間で会談しようというウラジーミル・プーチン大統領からの招待は先月辞退しているが、シリア攻撃を少なくとも10日間延期したことにより、オバマ氏はプーチン氏や中国政府、アラブ連盟、その他主要なアクター(行動主体)と対話をする窓口を開いた。
 うまくいけば、軍事行動の可能性をちらつかせた外交が機能することを立証できるだろうし、実際にそうなれば1つの勝利と言える。
 しかし、議会の承認をまだ得ていないオバマ氏の威嚇をプーチン氏やその他の指導者たちが真剣に受け止めると考えるのは楽観的だろう。また、議会が攻撃を承認するまでは、オバマ氏は首都ワシントン以外の場所で長い時間を費やすことができない。議会での証言を求められるジョン・ケリー国務長官とチャック・ヘーゲル国防長官も同様だ。
 ジョージ・W・ブッシュ氏のイラク戦争が2002年に承認された時や、その父親であるジョージ・H・W・ブッシュ氏による最初のイラク戦争(湾岸戦争)が1990年に――上院での得票数の差は2002年の時よりもかなり小さかったが――承認された時のように、シリア攻撃は上下両院で認められるとオバマ氏は自信を見せている。
 確かに、1973年に戦争権限法が制定されて以降、攻撃開始の提案を拒まれた大統領はいない。もっとも、わざわざ審議を求めた大統領はほとんどいなかったが。
 もし連邦議会の承認を来週、あるいは再来週に得ることになれば、オバマ氏の立場は国内外の両方で強くなるだろう。まず米国内では、シリアで何が起ころうとこれは連邦議会と共同で取り組んだことだと主張できるようになる。国民の大多数が軍事行動に懐疑的である今、オバマ氏はこれを超党派の行動にしたいと考えている。正常な政治的本能の現れだと言えよう。
 米国外でもオバマ氏の信用は高まるだろう。連邦議会の承認は、いわゆる米国例外主義を最大限に発揮するものとなるだろう。外国の罪のない子供たちが何百人も毒ガス攻撃を受けたことに対応するために、政治的な立場の違いを乗り越えるのだ。
■台本通りに事が進むか?
 以上がオバマ氏の計画だ。しかし、英国議会が先週、シリアに関する英国政府の提案を否決してからは、台本通りに事が進むと確信することは難しくなっている。民主党も共和党もこの件については流動的であるため、明らかな過半数を得て承認されると予想することはできない(そうなる可能性が最も高いはずではあるが)。
 ジョン・マケイン氏をはじめとする共和党タカ派の多くと、マックス・ボーカス氏などあてにできる民主党中道派の議員たちはオバマ氏の提案に賛成するだろう。ナンシー・ペロシ下院院内総務などリベラルのタカ派の一部も賛成に加わるだろう。
 しかし、孤立主義を標榜するティーパーティー(茶会)系の共和党議員は以前、法案の成立阻止のために民主党のリベラル派と手を組んだことがある。今回も同じやり方を使うことが考えられないわけではない。もし連邦議会でシリア攻撃が否決されれば、オバマ氏は大変な打撃を受けることになる。
 そして、議会の意思を踏みにじるか、それとも国際舞台でレイムダックになるかという選択を迫られることになるだろう。
 この件については、ホワイトハウスは英国のデビッド・キャメロン首相よりも票読みができると想定しなければならない。もしそうでなければ恐ろしいことになる。いずれにしてもワシントンはこれから、世界における米国の役割とオバマ政権の今後についての議論で持ちきりになるだろう。
■シリアで起きることについて責任を負うリスク
 英国の首相ほど無能力ではないと想定するなら、オバマ氏はこれよりもはるかに高いハードルに中東の地で直面することになろう。コリン・パウエル元国務長官はかつてイラクについて、「自分が壊したものは、自分で引き取ることになる」と述べた。
 オバマ大統領が連邦議会の承認を得たら、米国はその瞬間から、シリアで起きることについて責任を負うことになるのだ。これがオバマ氏の真のギャンブルだ。
 いささか突飛な話だが、一部で言われているように、大統領は潜在意識では議会がノーと言うことを願っているのだろうか? それとも予想外の出来事がいろいろ起き、特に英国議会が攻撃を否決したために、オバマ氏がシリア攻撃を渋る気持ちが以前より弱まったのだろうか?
 何のせいで開戦の決意が強まったかはともかく、オバマ氏はシリア攻撃の承認を米国に求めている。マケイン氏は8月30日、多くの人々の気持ちを代弁する形で、英国議会がシリアに関する政府提出議案を否決したことを「英国が世界の強国の座を降りた1つの象徴」と切り捨てた。
■ベトナム戦争の記憶
 確かにその通りかもしれない。ただ、英国が米国の戦争に加わらないのはベトナム戦争以来のことである。ベトナム戦争は、2人の大統領を沈めるのに手を貸し、その後継者たちのほとんどを悩ましてきた泥沼だった。米国戦史上もっともコストの大きな失敗だった。
 オバマ氏が限定的な攻撃の承認を求めているのは、明らかに、シリアへの介入がベトナム式の終わりの見えない展開になるのを避けるためだ。あくまで化学兵器の使用を罰するのが目的だとしており、政権交代には一切言及していない。
 しかしマケイン氏らは、バシャル・アル・アサド大統領の排除を求めるより強硬な決議を望んでいる。また当のアサド氏は間違いなく、米国が簡単には手を引けなくなるような方法で対応してくるだろう。
 かつてリンドン・ジョンソンが、戦闘をエスカレートさせればベトナム戦争から抜け出しやすくなると期待したのと同じように、オバマ大統領は、自分では制御できないゲームに足を踏み入れる危険を冒している。
 もちろん、オバマ氏は連邦議会と手を携えてゲームに加わることになる。良かれと思ってそうするのだろう。恐らくは、そうするよりほかになかった。しかしこのやり方は、予想外の事態に備える保険にはなっていない。良きにつけ悪しきにつけ、オバマ氏はシリア問題で大きな賭けに打って出ている。 By Edward Luce
*上記事の著作権は[JBpress]に帰属します
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