【正論】「原発即ゼロ」なんて幻影です 評論家・木元教子
産経ニュース2013.12.13 03:31
≪「平気で生活」は火力頼み≫
話の発端は少しさかのぼり、9月24日に東京・六本木で行われた小泉純一郎元首相の講演にある。小泉氏の肩書は国際公共政策研究センター顧問。講演のテーマは「日本の歩むべき道」である。
週刊朝日の記事によると、満員の会場に響くエレキギターとドラムの音に迎えられて、壇上に現れた小泉さんは、「ライオンヘア」と呼ばれた豊かな白髪、ストライプのシャツに明るい色のジャケット姿だ。
記事の前文には「長い沈黙を経て、久々にあの男が『旋風』を巻き起こすのか−」。そして「原発政策を巡り、新たな“闘争”が始まろうとしている」とある。
見出しは、「小泉純一郎元首相 脱原発宣言60分」、ほかにも「原発のカネを自然エネルギーへ」「政府はできるだけ早く原発ゼロを提示せよ」「今は『原発ゼロ』で平気で生活している」などなど。
メディアの中には、「小泉純一郎の脱原発で、政界再編か。細川護煕元首相までも、共闘のラブコールを送っている」なんて気が早過ぎるところもある。だが、「反原発」「脱原発」を叫ぶ野党を見渡してみると、小泉発言には一応の評価をして、「原発ゼロの一点で、どんな立場の方とも協力を図りたい」というようなコメントを出しつつも、それぞれに思惑があって、民主党、共産党、みんなの党、生活の党も「原発ゼロ」を軸とする政界再編や、共闘などは微塵(みじん)も考えてはいない。
一言でいえば、「原発ゼロ」は「この指止まれ」の錦の御旗にはなり得ないのである。
そもそも、小泉さんは、「今は『原発ゼロ』で平気で生活している」と言うが、「平気で生活している」とは停電もなく、何不自由なく潤沢に電気を使っている、ということだろう。問題は、「なぜ平気で生活できるのか」について何の説明もないことだ。
確かに、現在、国内の原子力発電は一切稼働していない。ゼロである。だが、代わりに、国民生活や経済に支障を来さぬよう、火力発電がフル稼働していることは周知の事実ではないか。
≪「トイレ」作りへ国前面に≫
わが家に遊びに来る中学生たちでも、その点はもちろんのこと、その結果、原子力発電を抱える電力会社が石油、石炭、天然ガスの追加輸入を余儀なくされて、これらの社の燃料費が嵩(かさ)んでいることも知っている。
そして、そのため年間3・6兆円ほどの国富が国外に流出していることに、「えーっ、もったいねぇーなー」「それ、すげえ貿易赤字じゃん」「そのくらいカネあるなら、校舎建て替えてくれないかなー」と言ったりしている。
主婦仲間でも最近は、電気料金値上げや消費税増税を受け、「このことは原発が停止していることと無関係ではないわね」と悩ましげに話している。
それでも、「原発ゼロで平気で生活している」と、あっさり言ってのけられるのだろうか。
首相時代の小泉さんは原発推進を主張していた。宗旨替えしたのは、フィンランドで使用済み燃料の最終処分場となるオンカロを視察してからだとされ、小泉さんは「原発ゼロは無責任だという人もいるが、トイレも作れないで何が無責任だ」と言われた。
その高レベル放射性廃棄物処分地の選定については、「国が前面に出てプロセスを見直す」と、茂木敏充経済産業相が言明したように、処分場を適地に作るべく今、政府が先頭に立とうとしていることを小泉さんはご存じなのか。
「トイレ」に関しては、総論賛成、各論反対で建設話が浮かんでは消えしてきた。だが、いずれ処分場が決まった暁には小泉さんは原発賛成に転じるのだろうか。
≪エネ計画はゼロ政策の転換≫
ドイツのように大陸にあれば隣国に電力を融通してもらえるが、日本は島国で周りは海だ。資源もない。核燃料サイクルを確立することで、原子力は日本の準国産エネルギーとなる。安全確保に最大の力を注ぎつつ安定供給を図り、地球温暖化の元凶とされる二酸化炭素(CO2)を減容し発電コストも優位な原子力で、豊かな暮らしを支えたい。
6日に経産省が提示した「エネルギー基本計画」素案でも、原発はエネルギーの安定供給や発電コスト、温暖化対策などの観点から『重要なベース電源』と位置づけられた。素案には、「原子力規制委員会によって安全性が確認された原発について再稼働を進める」とも明記された。「原発ゼロ」政策からの明確な転換である。
原子力発電所の新増設や更新については、原子力全体の位置づけが議論の中心になるとして、盛り込まれないようだが、総発電電力量に占める電源構成比率は原発の再稼働状況を見極めて速やかに示す、とされている。
「エネルギー基本計画」は政府の中長期的政策指針である。民主党政権が高々と掲げていた「原発ゼロ」政策は、改めて幻影と化しつつある。(きもと のりこ)
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