死刑執行進まぬ議論 未執行囚最多の120人
日本経済新聞2011/8/13
死刑が1年以上執行されず、未執行のまま拘置中の死刑囚が過去最多の120人に達した。江田五月法相が「当面の執行停止」を表明するなか、法務省内に設置した死刑制度の勉強会の議論も進んでいない。裁判員裁判で既に8件の死刑判決が言い渡されている。法律に従い重い決断を下した国民の心情が置き去りにされているともいえる。
「悩ましい状況に悩みながら勉強をしている最中。悩んでいるときに執行とはならない」。江田法相が現職大臣として異例の「死刑執行停止」を宣言したのは7月29日の記者会見。「『死刑の在り方についての勉強会』の議論を見極めたい」と理由を説明した。
勉強会は、昨年7月に2人の死刑を執行した千葉景子法相(当時)が「国民の議論を深めたい」として翌8月設置。この1年、死刑制度に賛成する犯罪被害者や死刑廃止団体など計10人からヒアリングした。
ただ勉強会は「結論を導くのではなく、国民的議論の契機とするための場」(法務省刑事局)との位置付けで、報告書をまとめる予定はない。民主党政権下で江田氏まで4人の法相が交代したこともあり、国民的議論は深まっていない。
「意見をまとめる目的がないなら意味がない。早く解散すべきだ」。勉強会に出席した全国犯罪被害者の会顧問、岡村勲弁護士は内閣府の世論調査で、回答者の約86%が死刑を支持しているなどとして「国民の結論は出ており、死刑執行を遅らせる時間稼ぎでしかない」と指摘する。
死刑反対派の菊田幸一・明治大学名誉教授(犯罪学)は「法相が慎重姿勢をとり続ける現状は結果的に歓迎する」としながらも、勉強会については「死刑存置派と反対派が繰り返してきた議論を蒸し返しているだけ」と不満を示す。
昨年7月の最後の執行以降、16人の死刑が確定し、死刑囚は120人に膨らんだ。2011年の執行ゼロが続けば、暦年ベースでは19年ぶりだ。
市民が量刑に関与した裁判員裁判の死刑判決8件中、2件は被告が控訴を取り下げ確定した。議論が進まぬ現状を、菊田名誉教授は「死刑の決断は市民に押しつけられたままだ」と批判している。
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〈来栖の独白〉
菊田さんのおっしゃるように、「死刑存置派と反対派が繰り返してきた議論を蒸し返しているだけ」。
「国民の議論を深めたい」も「結論を導くのではなく、国民的議論の契機とするための場」も、聞き飽きた。何事であれ(起きた事故や事件・天災・人災)すべてのことの「後回し」になるのが、死刑の問題だ。
国民的合意によるのではなく、フランスのように、傑出した人物に断行してもらう、そういう課題ではないのか。人の命を国民大衆の賛成反対(きわめて気分的なポピュリズム)に委ねるというのも、愚かではないだろうか。
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◆法務大臣には死刑執行の法的義務は存在しない=安田好弘/死刑執行1年、千葉景子元法相決断の背景2011-07-29 | 死刑/重刑/生命犯 問題
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死刑 進まぬ議論「死刑存置派と反対派が繰り返してきた議論を蒸し返しているだけ」
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