原子力予算、10年で4・5兆円 地元対策に4割、巨額税金で後押し
2011年8月14日Sun.中日新聞 朝刊1面
経済産業省や文部科学省など政府の原子力関係予算が、2002年度から11年度までの過去10年間で4兆5千億円に上り、4割の1兆8千億円が「立地対策費」として、原発が立地する自治体の地域振興などに充てられていたことが中日新聞の調査で分かった。国策である原発建設を促すための「アメ」として、巨額の税金が使われてきたことになる。
原子力予算に詳しい専門家によると、日本の立地対策費は世界でもまれな制度という。財源は、主に各電力会社が販売電力量に応じて支払う電源開発促進税。同税は電気料金に上乗せされ、消費者が負担している。
予算上は国のエネルギー対策特別会計から支出されている。特別会計は一般会計に比べ、資金の出入りが複雑なため透明性に欠け、むだの温床といわれる。「脱原発」の世論が強まる中、見直し論議が進みそうだ。
本紙が入手した財務省の作成資料によると、立地対策費はここ10年、1800億円前後で推移し、11年度は1826億円。6割以上の1100億円余りが、自治体の裁量で比較的自由に使える交付金だ。発電実績などに応じ、原発などが立地する自治体に支給されている。
交付金は、学校や体育館など公共施設の建設に使途が限られていたが、国は03年度に医療、福祉などソフト事業にも使えるよう法改正した。
本紙の調べで、経産省などは04年度以降も、法改正を必要としない規則の改正で交付範囲を拡大。06年度からは運転開始30年超の古い原発が立地する福井、福島両県などを対象に、新たな交付金の支給も始めた。
自治体側の要望に沿って交付範囲を拡大したが、原発の新増設が伸び悩む中、交付金を手厚くすることで経産省の予算を維持でき、省益の温存につながっている。
原発支える埋蔵金 エネルギー特別会計
2011年8月14日Sun.中日新聞 朝刊〈核心〉
福島第1原発事故を機に、見直しが急浮上したエネルギー対策特別会計(エネ特会)。国策として進める原発立地の資金源として長年、多額の税金が地域振興を名目にした立地対策などに流れていた。電気を使えば使うほど「原発マネー」の資金源が膨らむエネ特会の「カラクリ」を検証した。(原発事故取材班)
*田中政権が始まり
エネ特会は2007年度、電源開発促進対策特別会計(電源特会)と、石油及びエネルギー需給構造高度化対策特別会計が統合されて生まれた。
前身の電源特会は1974年、田中角栄政権下で設けられた。発電用施設周辺地域整備法など「電源三法」が成立し、原発を造ると特別会計から地元に交付金が落ちる現在の仕組みが始まった。
財源は電源開発促進税。販売電力に応じて各電力会社に課税される。その分は電気料金に上乗せされ、消費者が負担するお金だ。税率は千キロワット時当たり375円。1世帯当たり平均で月約110円に相当する。
「住民の皆さんに非常に迷惑をかけているので、ある程度福祉を還元しなければバランスが取れない」
74年当時に通商産業相だった中曽根康弘元首相は国会でこう答弁し、電源三法の意義を説明している。
*剰余金「移し替え」
促進税からの税収は11年度、一般会計を通じて2千9百70億円が見込まれている。しかし、電力需要が伸びれば原発立地に金が回り、さらに原発新設が促されるというエネ特会のサイクルは、86年の旧ソ連チェルノブイリ事故など国内外の相次ぐ原発事故で行き詰まった。
事故の影響で新規立地が難航。国内の原発着工ペースは7、80年代の20基前後から90〜00年代は1ケタに落ち込んだ。このため計画していた交付金を支給できず、88年度以降、立地対策関係だけで毎年の剰余金の残高が1千億円を超える状態が続いた。01年度には会計検査院が問題視し、剰余金を圧縮するよう経産省に求めた。
経産省は批判をかわすため、将来の原発建設に必要な交付金の準備として剰余金の1部を積み立てる「周辺地域整備資金」を03年度にエネ特会の中に新設した。
支出の一方で、一定額を確保するため毎年積み立てをしており、毎年度の資金残高は千2百億円前後で推移。剰余金自体は減少傾向だが、既得権益を温存する同省の姿勢は「剰余金を別のプールに移しただけ」と国会でも追及された。「原発埋蔵金」との指摘もある。
*族議員巻き返しも
福島第1原発事故を受け、国会では与野党双方から推進の資金源であるエネ特会に厳しい目が向けられ「すぐに廃止して福島の賠償金に回すべきだ」(民主党の谷岡郁子参院議員)と解体を求める声も。だが、国が多額の立地対策費を負担するエネ特会の仕組みは、経産省と2人3脚で原発を推進してきた電力会社にとってもありがたい存在だ。
昨年、政府がエネ特会を事業仕分けで取り上げた際に「電気事業連合会が削減に反対して猛烈なロビー活動行っていた」(民主党議員)。予算編成に携わった経産省の職員は「風力など新エネルギーの予算を手厚くしようとしたら、東京電力の幹部に『原発の方にもっと回せ』と抵抗された」と打ち明ける。
電力業界では、電力会社の役員らが自民党に個人献金。電力総連などの政治団体も、民主党議連のパーティー券を購入するなどしてきた。見直し論議では、巨額な資金を背景に、族議員の巻き返しも予想される。
原発マネー 生活浸透 不妊治療助成・出生祝い金・霊きゅう車購入
2011年8月14日Sun.中日新聞 朝刊36面
毎年1千億円を超える税金が自治体へ流れ込む原発の立地対策費。使い道は子供の出生祝いや不妊治療の助成、霊きゅう車の購入などにも広がる。知らず知らずのうちに市民生活に深く入り込んだ原発マネー。地元からは、原発に「発言できなくなる」と不安の声も上がる。(桐山純平)
高速増殖原型炉「もんじゅ」を含め、原発3基が立地する福井県敦賀市では、市立敦賀病院の患者に診察順を伝える電光掲示板42台のレンタル費、年間1200万円余りの大半が、立地対策費で賄われている。
案内板の右下に、資金の出所を知らせる告知があるが、気付く人は多くない。診察待ちの主婦(64)は「まさか原発のお金でできたとは知らなかった」と話した。
国の事業報告には「長い待ち時間によるイライラ感が解消され、名前の呼び込みの声による騒音からの解消および患者のプライバシー保護が図られた」と“成果”が書かれてある。
原発がある自治体では、立地対策費で建てられた豪華な市民ホールや学校などハコものばかりに目を奪われがち。だが最近は、福祉や医療サービスなどソフト面での活用が目立つ。敦賀市は、障碍者や小学校就学前の乳幼児への医療助成、地域バスの運行などにも対策費を充てている。
昨年度の対策費36億円のうち、3割近くが図書館や保育園、公立病院などで働く200人を超える職員の給与に使われている。
ハコものを造っても、維持、管理などで経費がかさむ。国は自治体側の「使い勝手が悪い」という要望を丸呑みし、2003年度の法改正をきっかけに立地対策費の使い道を広げてきた。
福井県の不妊治療助成に始まり、同県高浜町の第3子以降の子を対象とした出生祝い金(20万円)、敦賀市に隣接する滋賀県高島市では公立中の英語授業を指導する外国人の給与までも、立地対策費に負う。
経産省の担当者は「今や、自治体の借金返済や、役場の職員給与以外は対象になる」と話す。
ただ、対策費の広がりに地元では戸惑いの声も。敦賀市の今大地晴美市議(無所属)は「医療や福祉は市民生活に直結するだけに、いったん頼れば、なかなかやめられない」と指摘。「これでは原発に対してものが言えない」と話している。
*自治体には“麻薬” 五十嵐敬喜法政大教授(公共事業論)の話
原発の交付金は、特別会計から支出されているため国会のチェックもほとんど受けず、隠れ蓑のように続いてきた。官僚の天下り団体を通じて金が流れるなど利権の構図もある。福祉などソフト事業にも使えるようになったが、「ハコもの」批判を受けた目くらましに過ぎない。自治体にとっては麻薬みたいなものだ。福島の事故を受けて、在り方が大きな議論になるだろう。
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◆「原子力」天下り 結ぶ 「原子力村」霞が関一帯に密集2011-07-16 | 地震/原発
「原子力」天下り 結ぶ
中日新聞 特報 2011/05/18 Wed.
連休の谷間に当たる今月2日、経済産業省は幹部OBの電力会社への再就職状況を公表した。過去50年に68人。これはこれで驚くべき数字だが、調べてみると、電力会社のほかにも、原子力関連の公益法人や独立行政法人への「天下り」の実態が分かった。電力会社に中央省庁、そして関連の公的な法人。一覧にすると、都心に根付いた「原子力村」の存在が浮かび上がってくる。(篠ケ瀬祐司)
関係17団体に36人 経産・文科省出身者目立つ
本紙が、原子力行政に携わる経産省と文部科学省が受け持つ公益法人を中心に、原子力や放射線に関連する29の公益法人や独立行政法人をピックアップし、これらの団体の監事以上の役員について経歴を調べたところ、官僚のOBは17団体に36人(うち非常勤15人)いた。
目立つのは、両省の出身者。東京電力福島第1原発の事故以来、有名になった原子力安全・保安院の元幹部や、原子力安全委員会の事務局を経験した人もいる。
こうした団体の業務内容をチェックした。財団法人「日本立地センター」(東京)は原発や核燃料サイクル施設などの建設のため、地域住民らに広報する団体。同じく「原子力安全技術センター」(同)は、試算結果の公表遅れが問題となった放射性物質の拡散予測システム「SPEEDI」を運用する。
いつものことだが、こうした法人に再就職した官僚OBはどの程度の報酬を手にしているのか。
発展途上国の原子力導入に関する技術協力を行う社団法人「海外電力調査会」(東京)の専務理事の報酬年額は、上限で約2千90万円まで認められている。
この団体の2009年度の事業収入約14億4千万円の8割ほどは、東京電力など全国の電力10社と、電源開発、日本原子力発電の会費・分担金が占めている。
*高給の原資に電気料や税金
電力会社を支えているのは市民らの電気料金。その1部が官僚OBの高給の原資にも使われていることになる。
原子力施設での核燃料物質の分析などを担う財団法人「核物質管理センター」(東京)の専務理事の報酬年額は約千5百万円。09年度事業収入のうち、9割以上は国からの事業だ。官僚OB役員の報酬を市民の税金が支える仕組みだ。
原子力施設の検査や原発設計などの安全性を評価するという独立行政法人「原子力安全基盤機構」(東京)。公開されている09年度の理事長の報酬は年額で約千9百万円。原発など発電施設のある地域の振興を事業内容とする財団法人「電源地域振興センター」(同)の理事長報酬も年額千9百万円(上限)だ。
こうした実態に対し、政界からも厳しい目が向けられている。
衆院で経産省OBの電力会社への再就職を追及した塩川鉄也衆院議員(共産)は「電力業界本位の原発政策推進の見返りに、経産省官僚が電力会社に天下っている。この構造は電力会社を頂点に広範な関係団体への天下りで成り立っている。関係団体への天下りも禁止し、産官の癒着構造を断ち切るべきだ」と指摘する。
ナトリウム漏れ事故などトラブル続きで休止中の高速増殖原型炉もんじゅ(福井県敦賀市)を設置した独立行政法人「日本原子力研究開発機構」(茨城県東海村)では、3人の官僚OBが役員を務める。機構側は「3人はいずれも専門家としての知見を期待され、公募で選ばれた」と説明する。
同機構にはもう1人、文科省から現役出向中の役員がいる。こうした現役出向や公募をどう考えるか。
公務員制度改革を掲げるみんなの党の山内康一衆院議員は「若手官僚の現役出向は現場経験を積ませる意義があるが、50代以降の官僚では事実上の勧奨退職(肩たたき)による天下りだ。公募でも、募集要件が官僚出身に有利になったり、募集側、応募者双方が行政を介して知り合いなら“原子力村”的ななれ合いが生じたりする可能性がある」と語る。
「こうした『偽装現役出向』や『やらせ公募』がないか、チェックする必要がある」
霞が関一帯に密集
「原子力村」とは、産・官・学が一体となって原子力行政を推進してきた体制を指すが、官僚OBの再就職を調べる過程で、中央省庁がある東京・霞が関近くに原子力関連団体が多く集まっていることに気付いた。
原発事故での避難区域同様、経産省総合庁舎を中心に半径5百?の円を描いてみた。すると、官僚OBの役員がいない団体を含め、原子力関連の財団法人など3か所、電力会社の東京支社2か所がこの範囲に収まった。同省別館にある原子力安全・保安院はもちろん、文科省、原子力安全委員会もこの圏内だ。
半径1?まで拡大すると、さらに3つの財団法人などがエリア内に入る。東京電力本店や、電力2社の東京支社、首相官邸や国会議事堂もこの「1?圏内」だ。
中央省庁と関係団体の距離について、前述の山内氏は「原子力に携わってきた人たちは出身校が同じだったり、長年仕事での付き合いがあったりして、気心が知れていることが多い。そうした人たちが物理的に近接した『原子力村』にいると、癒着を生みやすい」と警鐘を鳴らす。
*物理的近さも癒着の一因に
官僚OBが役員を務める場合は、特に注意が必要だとみる。山内氏は「“スープの冷めない距離”に事務所を置くと、簡単に現役官僚を呼び付けることができるし、自分も役所に乗り込みやすい。現役時代と同じ地域に勤め、同じようなメンバーと慣れ親しんだ店で飲食する。原子力村のやすらぎを覚える分、まだ権限があると錯覚しやすい」と、市民との距離を案じた。
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