【メディア回顧】扇動的キャンペーン目立った「秘密保護法」報道、ネットで見えた冷静な議論、池田信夫氏
産経ニュース2013.12.24 14:11
■埋もれた本質的な論議・問題点
今年のメディア界は、今月13日に公布された特定秘密保護法の是非をめぐって大きく揺れた。メディアが一翼を担う「知る権利」と関わる同法は、これをどのように扱うかという点でメディアのあり方を試すものでもあった。浮き彫りになったメディア側の課題を、経済学者でインターネットの言論サイト「アゴラ」を運営するアゴラ研究所所長、池田信夫氏(60)と振り返る。
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−−特定秘密保護法をめぐる新聞報道をどう見たか
池田 新聞が時事問題などに賛成、反対といったキャンペーンを張ること自体は自然なことだ。だが今回は、特に朝日新聞が顕著だったが、特定秘密保護法を戦前の治安維持法やナチス・ドイツの全権委任法と無理に結びつけた報道や、一般国民が偶然手に入れた特定秘密をブログに書き込んだら逮捕される−など、およそあり得ない内容の記事まであった。条文の重箱の隅をつつくような扇動的な報道によって、本質的な問題や議論が埋もれてしまった。
●情報的に孤立
−−法律の本質的なポイントは
池田 米国や中国をはじめ、国同士の秘密情報の奪い合いが高度化、激化するなか、日本は情報的に孤立したままでいいのか、という問題が前提にある。日本が情報の取り扱いに対して丸裸だからこそ、米国から信用されず、大した情報も渡してもらえない。安倍晋三首相が取材に答えているように、特定秘密の大半が衛星写真や暗号、自衛隊装備情報などだ。これらの点を踏まえた上で、スパイウェアやウイルスといったテクノロジーを起因とした情報漏洩(ろうえい)などにどう対応するかといった課題を報じるべきではなかったか。
●結論ありき…
−−なぜ一部大手メディアは過剰反応したと思うか
池田 一部メディアに限らず、新聞やテレビははじめから「結論ありき」で取材や報道を行う傾向が強い。「仮説」を唱えて警鐘を鳴らすことは理解できるが、事態が進行するなかで自社の主張の確かさを見直し、修正する仕組みが機能していなかったのではないか。
−−一方、インターネットでは扇動的な新聞報道に対する批判も見られた
池田 統計的な根拠はないが、例えば朝日新聞報道に疑義を呈した記事に対する支持も多く、ネット全体が「反対一色」に染まったような風潮ではなかった。東京電力福島第1原発事故後、ネットには科学的根拠のない言論を展開し不安をあおる騒ぎ屋のような人々もいた。その後、それらがデマだと分かり、信用できる人とできない人の選別が進んだ。また、原発事故と違って「ネタ」が抽象的な法律論だったことも、冷静な議論の要因だと考えられる。ネット世論は徐々に成熟しつつあるといえるのではないか。
●偏った取材先
−−大手メディアへの教訓はあるか
池田 今月、各社の世論調査で安倍内閣の支持率が10ポイント近く低下したことには、特定秘密保護法をめぐる新聞やテレビの報道が大きく影響していると考えられる。いまだ大手メディアの影響力は強いといえる。
一方、取材・報道の自由への悪影響を懸念した報道も多かったが、これまでも国家公務員法などで公務員が職務上知り得た秘密を漏らすことは禁じられている。それが事実上黙認されてきたのは、報じられる「秘密」が暗号情報などに比べて価値の低い「秘密」だから。それから、情報源を秘匿するというジャーナリズムの側の大原則があるからだ。確かに法施行で取材対象者が必要以上に身構えることは予想されるが、法律があってもなくても役所が本当に嫌がる情報は簡単には出てこない。役所や政治家から情報をもらう取材を重視しすぎている現在の報道のあり方自体を見直すべきではないか。(聞き手 三品貴志)
【プロフィル】池田信夫
いけだ・のぶお 昭和28年、京都府生まれ。東京大経済学部卒業後、NHK入局。平成5年に退職後、国際大学グローバル・コミュニケーション・センター教授、経済産業研究所上席研究員などを歴任。経済学者、ブロガー。主著に『原発「危険神話」の崩壊』など。
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