30分でできる「3兆円の緊急経済対策」
NEWSWEEKJAPAN エコノMIX正論異論 池田信夫 2014年01月14日(火)15時48分
年明けから株式市場が変調だ。14日の日経平均株価は終値で490円下がり、昨年末の高値から900円以上も下がった。1990年の年明けから始まったバブル崩壊を思わせる不気味な展開だ。
警戒が必要なのは、アメリカの雇用統計や金融緩和などの一時的要因ではなく、きょう発表された貿易統計だ。昨年11月の経常収支(貿易収支+所得収支)は5928億円の赤字になり、これは2ヶ月連続で過去最大である。貿易収支は1兆2929億円の赤字で、すでに17ヶ月連続の赤字だ。
甘利経済再生相は「貿易立国の原点がゆらいでいる」とコメントしたが、日本はすでに貿易立国ではない。このままでは貿易赤字はさらに拡大し、経常収支の赤字も続くおそれが強い。経常収支が赤字になること自体はいいことでも悪いことでもないが、このままでは財政赤字が維持できなくなるおそれが強い。
もう一つの問題は、今まで国内の需要不足を補っていた外需(輸出)がマイナスになると、成長率がさらに下がることだ。輸出企業の収益はドル高で嵩上げされているが、輸出数量は減っている。電機製品は輸入超過になってしまった。これ以上ドルが上がることは、原料やエネルギーのコストが上がって国内産業の収益を悪化させる。
貿易赤字の根本原因は日本企業の国際競争力の低下だが、短期的に最大の要因は原発停止による化石燃料の輸入増である。経済産業省によれば、2013年度に電力9社が払う燃料費は、10年度と比べて3兆6000億円増える見通しだ。これは税金と同じで、その負担は消費税の1.5%に相当し、GDP(国内総生産)を0.5%以上さげる。
この問題を解決する簡単な方法がある。原発を再稼動するのだ。といっても、法律も閣議決定も必要ない。安倍首相が記者会見して「定期検査の終わった原発は法令に従って運転してください」といえばいい。2011年5月に菅首相(当時)が記者会見で原発を違法に止めたのと逆のことをするだけだ。違法行為を撤回するのに法律は必要ない。
首相は「安全審査が終わってから再稼動を検討する」と慎重だが、安全審査と再稼動は無関係だ。原子力規制委員会は新たに設置される設備を審査しているだけで、運転の認可をするわけではない。審査対象はフィルター付ベントなどの周辺部分なので、審査は運転と並行して行えばいいのだ。
逆にいうと、安全審査で運転が認可されるわけではない。規制委の田中委員長は「原発の運転を許可するのは政府の判断だ」と言っている。フィルター付ベントは事故後に排気を濾過する設備なので、事故を防ぐことはできない。福島第一原発事故で問題になった津波対策や電源喪失などの対策はすでに終わっており、ほとんどの原発は「ストレステスト」にも合格している。
要するに、安全審査が終わっても実質的な安全性は変わらないのだ。安全審査は「政府も努力している」というアリバイづくりなので、今できないことは審査後もできないし、審査後にできることは今でもできる。「安全審査に合格しないと運転できない」という前例をつくると、これから安全基準を変更するたびに全国の原発を止めなければならない。
原子力のリスクはゼロではないし、ゼロにする必要もない。中国のPM2.5汚染をみてもわかるように、石炭の大気汚染や採掘事故で死んでいる人は、全世界で年間1万人以上いると推定される。地球温暖化も考えると、原発のリスクは火力より小さいというのが、IEA(国際エネルギー機関)やOECD(経済協力開発機構)などの見解である。
安全審査には9ヶ月ぐらいかかるといわれているので、今のままでは再稼動は早くても4月だろう。それも四国電力や九州電力で、最大の焦点である東電の柏崎刈羽原発は夏までに運転できるかどうか不透明だ。新潟県の泉田知事が法的根拠のない「地元の同意」を条件にしているので、政府が決断しないと再稼動はずるずると遅れるおそれが強い。
安倍首相はリスクのともなう政治判断を先送りしてきたが、再稼動の政治的リスクは先送りしても同じだ。再稼動は首相の記者会見だけでいいので、30分もあればできる。これで年間3兆円の負担がなくなり、日本経済が再生する。それがコストゼロで即効性のある「緊急経済対策」だ。
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◇ 法の支配とその敵(=新潟県の泉田知事) [池田信夫blog] 2013-09-27 | 政治/原発(核兵器)
法の支配とその敵
2013年09月26日23:24 池田信夫blog
上の写真(BLOGOSより転載)を見て、あなたはどう思うだろうか。東電の広瀬社長が深く頭を下げているのだから、新潟県の泉田知事も下げるのが日本人の普通の礼儀だが、彼はまったく頭を下げなかったという。まるで殿様のようだが、実は彼には何の権限もない。原子力規制委員会の安全審査は国の業務だからである。
だからこのあと泉田氏の出した「審査を承認する」というコメントにも、何の意味もない。このように政治家が法を無視して裁量権を振り回すのは先進国に共通の問題で、ファーガソンは泉田氏のような人物を法の支配の敵と呼んでいる。
近代社会のコアは民主主義でも資本主義でもなく、(立憲君主制を含む広義の)共和主義であり、その根幹は法の支配である。選挙で選ばれれば「偉い人」になり、法律に違反することもすべて彼の裁量で決める、というのは僭主である。何も決められない日本がここまで無事にやってこられたのは泉田氏のような僭主を阻止したからだが、菅首相が法を破壊し、「超法規的」な行政指導が続いている。
泉田氏が岐阜県庁に出向していたときの裏金問題について、県庁から「彼も裏金問題に関与したので105万円を返還せよ」との通知が出ているのに、彼だけが拒否し続け、「勝手に個人情報を公開するな」と開き直り、こういうときだけは「法的な行政処分ではないから返さない」と抵抗している。
近代国家が行政ではなく立法を最高機関としていることには意味がある。行政には裁量が入り込むので、法で裁量の余地を縛ることが重要なのだ。「原発を動かすのは適法だが、何となく世間がいやがるから認めない」とか「安全審査に新潟県は何の権限もないが、いやだと言い続ければ東電も頭を下げてくるだろう」といった裁量を許していると、本物の危機になったとき、民主党政権のような大混乱が起こる。
安倍政権は、泉田知事のような法の支配の敵を排除し、法に従って安全審査と並行して原発の再稼働に向けての手続きを開始すべきだ。経産省は電気料金の値上げを原発を動かしたことにして抑制しているが、このような裁量権の濫用も許されない。原発の停止による9兆円以上の損害をただちに電気料金に転嫁し、そのコストを明らかにすべきだ。
*上記事の著作権は[池田信夫blog]に帰属します
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◇ 泉田新潟県知事はなぜ原発の安全審査に反対するのか 2013-08-06 | 政治/原発(核兵器)
◇ 「柏崎刈羽」こそ急がれる〈産経新聞〉 / 泉田新潟県知事に再稼働申請の拒否権はない〈池田信夫ブログ〉 2013-07-06 | 政治/原発(核兵器)
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