池田信夫blog 2014年01月15日00:33
細川護煕氏のスケープゴート
細川元首相の出馬会見は、合理的に理解しようとすると頭が混乱する。彼の主張は「脱原発」ではなく、すべての原発を再稼動しないで廃炉にすることだ。その目的が不合理な上に、それを実現するために都知事選に出馬するという手段が不合理だから、常識で理解することは不可能だ。
昨夜の言論アリーナでも議論したのだが、「発送電分離」を急ぐ国のエネルギー政策も不合理な点では同じだ。。いまエネルギー政策で緊急に必要なのは、原発を運転して燃料費の浪費を止めることだが、経産省は電力会社を標的にして自分を「善玉」の側に置こうとしている。これは東電を盾にして「支援機構」をつくったときから一貫する霞ヶ関の戦術だ。
これらを合理的に理解しようとすると、共通点は原発=電力会社というスケープゴートを仕立てて「正義」を演じようという欲望だろう。これは心理的メカニズムとしてはよくわかっていて、人種差別や反ユダヤ主義などのスケープゴーティングは、集団内の紛争を解決する手段である。この感情は、共通の敵に対して団結する集団淘汰によって(少なくとも部分的には)遺伝的にそなわったものと思われる。
エネルギー問題に関心も知識もない一般大衆を論理で説得することは困難だが、こういう勧善懲悪の感情は誰もがもっているので、それを刺激するのが効果的だ。これはヒトラーから大江健三郎氏に至るまで、ありふれた政治的レトリックである。ヒトラーはユダヤ人をスケープゴートにしたが、反原発運動はそれを「原子力村」や「御用学者」に入れ替えただけだ。
これはカルトによくある手法で、結論は最初から決まっているので、論理は必要ない。スケープゴートは再帰的な記号なので誰でもよいが、それに使いやすい特性がある。
1.外見で他から区別できる
2.誰の目にも悪そうに見える
3.攻撃されても抵抗できない
4.遺伝的・民族的な特性をもつ
5.金持ちで恵まれている
これがすべて備わっているとは限らず、ユダヤ人や在日は1を必ずしも満たさないし、黒人は多くの場合、5を満たさない。東電の場合は、不幸なことに4を除いてすべて満たしている。これはユダヤ人や華僑に対する差別とほとんど同じ心理的メカニズムで、ここには「あいつが金持ちなのは悪いことをしてもうけたからだ」という嫉妬がからむので、黒人や在日より激しく執拗に攻撃が行なわれる。
泡沫候補の細川氏がこれほど注目されるのは、小泉元首相のダミーとみられているからだろう。小泉氏の「最終処理場が見つからないから原発ゼロ」などという話はすべて単純な錯覚で、論理的には成り立たない。今回の「東京が原発なしでやるという姿を見せれば、必ず日本を変えることができる」という彼の話は、もはや論理ではない。
こんな無意味な論議をしている間に、貿易赤字は史上最大になった。その3割以上は原発を止めたことが原因だ。そして株価は、年明けから下がり始めた。ここで暴落でもすれば、愚かな政治家も目が覚めるのだろうか。
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◇ 30分でできる「3兆円の緊急経済対策」貿易赤字の短期的最大要因は原発停止による化石燃料の輸入増 2014-01-14 | 政治(経済/社会保障/TPP)
30分でできる「3兆円の緊急経済対策」
NEWSWEEKJAPAN エコノMIX正論異論 池田信夫 2014年01月14日(火)15時48分
年明けから株式市場が変調だ。14日の日経平均株価は終値で490円下がり、昨年末の高値から900円以上も下がった。1990年の年明けから始まったバブル崩壊を思わせる不気味な展開だ。
警戒が必要なのは、アメリカの雇用統計や金融緩和などの一時的要因ではなく、きょう発表された貿易統計だ。昨年11月の経常収支(貿易収支+所得収支)は5928億円の赤字になり、これは2ヶ月連続で過去最大である。貿易収支は1兆2929億円の赤字で、すでに17ヶ月連続の赤字だ。
甘利経済再生相は「貿易立国の原点がゆらいでいる」とコメントしたが、日本はすでに貿易立国ではない。このままでは貿易赤字はさらに拡大し、経常収支の赤字も続くおそれが強い。経常収支が赤字になること自体はいいことでも悪いことでもないが、このままでは財政赤字が維持できなくなるおそれが強い。
もう一つの問題は、今まで国内の需要不足を補っていた外需(輸出)がマイナスになると、成長率がさらに下がることだ。輸出企業の収益はドル高で嵩上げされているが、輸出数量は減っている。電機製品は輸入超過になってしまった。これ以上ドルが上がることは、原料やエネルギーのコストが上がって国内産業の収益を悪化させる。
貿易赤字の根本原因は日本企業の国際競争力の低下だが、短期的に最大の要因は原発停止による化石燃料の輸入増である。経済産業省によれば、2013年度に電力9社が払う燃料費は、10年度と比べて3兆6000億円増える見通しだ。これは税金と同じで、その負担は消費税の1.5%に相当し、GDP(国内総生産)を0.5%以上さげる。
この問題を解決する簡単な方法がある。原発を再稼動するのだ。といっても、法律も閣議決定も必要ない。安倍首相が記者会見して「定期検査の終わった原発は法令に従って運転してください」といえばいい。2011年5月に菅首相(当時)が記者会見で原発を違法に止めたのと逆のことをするだけだ。違法行為を撤回するのに法律は必要ない。
首相は「安全審査が終わってから再稼動を検討する」と慎重だが、安全審査と再稼動は無関係だ。原子力規制委員会は新たに設置される設備を審査しているだけで、運転の認可をするわけではない。審査対象はフィルター付ベントなどの周辺部分なので、審査は運転と並行して行えばいいのだ。
逆にいうと、安全審査で運転が認可されるわけではない。規制委の田中委員長は「原発の運転を許可するのは政府の判断だ」と言っている。フィルター付ベントは事故後に排気を濾過する設備なので、事故を防ぐことはできない。福島第一原発事故で問題になった津波対策や電源喪失などの対策はすでに終わっており、ほとんどの原発は「ストレステスト」にも合格している。
要するに、安全審査が終わっても実質的な安全性は変わらないのだ。安全審査は「政府も努力している」というアリバイづくりなので、今できないことは審査後もできないし、審査後にできることは今でもできる。「安全審査に合格しないと運転できない」という前例をつくると、これから安全基準を変更するたびに全国の原発を止めなければならない。
原子力のリスクはゼロではないし、ゼロにする必要もない。中国のPM2.5汚染をみてもわかるように、石炭の大気汚染や採掘事故で死んでいる人は、全世界で年間1万人以上いると推定される。地球温暖化も考えると、原発のリスクは火力より小さいというのが、IEA(国際エネルギー機関)やOECD(経済協力開発機構)などの見解である。
安全審査には9ヶ月ぐらいかかるといわれているので、今のままでは再稼動は早くても4月だろう。それも四国電力や九州電力で、最大の焦点である東電の柏崎刈羽原発は夏までに運転できるかどうか不透明だ。新潟県の泉田知事が法的根拠のない「地元の同意」を条件にしているので、政府が決断しないと再稼動はずるずると遅れるおそれが強い。
安倍首相はリスクのともなう政治判断を先送りしてきたが、再稼動の政治的リスクは先送りしても同じだ。再稼動は首相の記者会見だけでいいので、30分もあればできる。これで年間3兆円の負担がなくなり、日本経済が再生する。それがコストゼロで即効性のある「緊急経済対策」だ。
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