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【島が危ない】第1部 再び対馬を行く(4)温暖化、燃油高騰…苦しむ漁民

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【島が危ない】第1部 再び対馬を行く(4)温暖化、燃油高騰…苦しむ漁民
 産経ニュース 2014.1.22 10:30
 「毎日、一万円札を拾いに行くようなものでした」
 厳原(いづはら)町漁業協同組合(長崎県対馬市厳原町)の二宮昌彦組合長(55)は誇らしげに昔を懐かしむ。
 二宮さんは20歳の頃から42歳まで潜り専門の海士として、ウニやアワビ、サザエなどを取って生計を立てていた。
 「漁に出るのは4月から9月まで。でも、6月は休むし、しける日は出ないから、年間の出漁日数は、よくいって80日。それでも、960万円とか980万円の水揚げがあったとですよ。笑いが止まらんくらいもうかったとですよ。29歳の時、キャッシュで、2800万円ぐらいの家を建てたとですが、嫁と『これやったら家何軒建つかなあ』って話していた」
*海底が砂漠化
 厳原町漁協は採貝藻だけで年間5億円前後の水揚げを記録した時期もあったが、今は4千万円から5千万円。一番よく取る人で200万、悪い人は100万ぐらいだという。水揚げが目減りするに従って、400人程度はいた海士も50人足らずに減ってしまった。
 水揚げが落ち込んだ一番の理由は磯焼けだ。二宮さんは嘆く。「気候の変化で、平成21年頃から、海底が砂漠化してしまって、アワビやサザエの餌になるアラメ、こちらではカジメちゅう海藻が全く生えん磯焼け状態になってしまった。それに、海水温が上昇するにつれて、南の方から温度に適した魚が来て、莫大(ばくだい)な量を食べていくとですよ」
 厳原町漁協では、採貝藻だけでなく、イカやブリ、ヒラマサなどの一本釣りと定置網漁も盛んだった。ピーク時の水揚げは年間33億〜34億円。近年も21年ごろまで年間18億円から20億円で推移していたが、同年7月から坂を転げ落ちるように落ち込んだ。今は12億円程度。一時は千数百人いた組合員も640人前後に激減してしまった。
 衰退の大きな原因は燃油の高騰だ。「油代は9年、10年ごろはリッター(1リットル)42円だった。採算ラインは60円から62円なのに、今は104円。漁に出たら赤字になるので、釣れるところしか行けんわけよ」。二宮さんは顔をしかめる。
 「永田町におる大臣の先生方に細かいデータを持って陳情しても、『そういう状況だったとですか』という反応で終わり。細かい状況は分かっておらんです」
 豊玉町漁業協同組合(対馬市豊玉町)の築城哲則さん(63)は18歳から45年間、イカ釣りを生業にしてきた。
 45年前は、年間250日から280日は漁に出ていた。漁協全体で年間29億円を水揚げした時期もあったという。「平均すると1隻で年間4千万円から5千万円の水揚げ。経費や乗組員の給料などで半分はかかったが、それでも5千万円の水揚げがあれば、船長の手元には2千万円以上は残っていた」
 当時、油の値段は1リットル30円から40円で推移していたから、どこにでも足を延ばせた。今は1カ月に10日、漁に出るかどうかという状況だという。
*鯨被害も増加
 自然は残酷である。追い打ちをかけるようにイルカや鯨による被害も増えてきたという。マグロの養殖を手がける対馬市美津島町今里の吉村元嗣さん(63)によると、7、8年前から極端に増えたらしい。
 「鯨は2年か3年に1回見るかどうかだったが、今は月に何回も見る。イルカは何千頭という群れで来る。年がら年中、どっかにおりますよ。以前は、多いなと思ったら、漁師が太鼓たたいて、追うて処理しよったですよ。それをせんようになってからだんだん多くなってきた。鯨はイワシとかアミとか小魚を食べる。イルカは口に入れば何でも食べる。アワビやサザエ、ナマコも食べとるらしいですよ」
 磯焼けに燃油の高騰、イルカや鯨による被害…と、二重苦三重苦に苦しむ対馬の漁民。高齢化が進み、後継者がいないことも悩みの種だ。厳原町漁協では、20代は10人、30代は30人、40代は57人、50代が137人、60歳以上が400人ぐらい。豊玉町漁協も平均年齢は50歳ぐらいで80歳を超える組合員もいるという。(宮本雅史)
 ◎上記事の著作権は[産経新聞]に帰属します 
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