袴田事件の再審開始に静岡地検が即時抗告
中日新聞 2014年3月31日 21時55分
1966年に起きた袴田事件の第2次再審請求で、静岡地検は31日、死刑判決が確定していた袴田巌さん(78)の再審開始を認めた静岡地裁(村山浩昭裁判長)の決定を不服として東京高裁に即時抗告した。再審をめぐる審理は東京高裁に移る。
弁護団によると、地検は決定の決め手となった犯行時の着衣「5点の衣類」に付いた血痕のDNA鑑定について「弁護側鑑定は一般的に承認されていない独自の抽出方法で、血液由来のDNAだという根拠もない」と主張。試料も劣化し、正しい判定ができていないとして、再現実験を含めた再鑑定の必要があると申し立てた。捜査機関による証拠の捏造(ねつぞう)は「論理の飛躍がある」と訴えた。
地検は会見せず、西谷隆次席検事が「決定はDNA鑑定に関する証拠の評価などに問題がある。各種の証拠について合理的な根拠もないのに、警察によって捏造された疑いがあるとしており、承服できない」と文書でコメントした。
27日の地裁決定は、5点の衣類に付いた血痕のDNA鑑定で、衣類は袴田さんのものでも犯行着衣でもない可能性が高く、捜査機関が捏造した疑いがあると判断。刑と拘置の執行停止も認め、袴田さんは即日釈放された。
地検は拘置停止決定を不服として東京高裁に抗告したが、28日に棄却された。再審開始決定への即時抗告により、袴田さんが拘束されることはない。
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【袴田巌さんの再審請求】 苛烈極めた取り調べ 虚偽自白、生まれる背景
(共同通信)2014/03/29 17:04
静岡県清水市(現静岡市清水区)で起きた一家4人殺害事件で、強盗殺人などの疑いで 袴田巌 (はかまだ・いわお) さん(78)が逮捕されてから12日目の1966年8月29日、静岡市内の県警の保養施設に本部長、刑事部長、捜査1課長、清水署長らが集まり、捜査会議が開かれた。
弁護団が入手した県警の内部報告書によると、議題は容疑を否認し続ける袴田さんの取り調べをどうするか。情理に訴えて自供に追い込むのは困難として、次のような方針が打ち出された。
「捜査員は確固たる信念を持って、犯人は袴田以外にない、犯人は袴田に絶対間違いないということを強く袴田に印象づけることに努める」
取り調べはさらに過酷になった。1日に13時間18分、14時間40分、16時間20分…。袴田さんが後に家族に送った手紙によると、2人一組、ときには3人一組の刑事に 罵詈 (ばり) 雑言を浴びせられ、小突かれた。耳の近くで鼓膜が破れるかと思うぐらいの大声で怒鳴られた。「病気で死んだと報告すれば、それまでだ」と言われ、こん棒で殴られた。刑事は際限なく調書を書き換え、認めるよう迫った。
同年9月6日午前10時10分。「わたしがやりました。お手数かけてすみません」。袴田さんは泣きながら「自白」した。
「心も体も限界だったのだろう」。死刑囚として34年間過ごし、再審無罪となった 免田栄 (めんだ・さかえ) さん(88)が代弁する。
免田さんも調べ室で数人の刑事に囲まれ、暴力を振るわれた。睡眠を許されず、食事も抜かれ、意識が徐々に遠のいていく。「ばかなやつだ。白状すれば、楽になれるんだぞ」。そして、心が折れる瞬間がやってくる。
一家4人が殺された 幸浦 (さちうら) 事件、同じく一家4人が殺された 二俣 (ふたまた) 事件、そして6歳女児が殺害された島田事件…。40〜50年代、静岡県内では 冤罪 (えんざい) 事件 が相次いだ。幸浦事件と二俣事件では一、二審の死刑判決が破棄され、無罪となった。島田事件では、殺人などの疑いで逮捕、起訴された 赤堀政夫 (あかぼり・まさお) さん(84)の死刑が61年に確定。しかし、赤堀さんは一貫して「自白を強要された」と主張し、89年に再審無罪となった。県警の強引な捜査手法がまかり通り、検察、裁判所がチェック機能を果たしていなかった様子がうかがえる。
どうして冤罪 につながる虚偽の自白が生まれるのか。 浜田寿美男・奈良女子大学名誉教授(心理学)は「人は目の前の苦痛から逃れるために、将来予想される大きな不利益から目を背けてしまう」と解説する。
起訴後、ようやく自分を取り戻した袴田さん。66年11月15日に静岡地裁で開かれた初公判で「わたしはやっていません。全然やっておりません」と言い切り、起訴内容を全面否認した。長い法廷闘争が始まった。
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